「……ん、……よ~…………き……」
「ん……」
今は……朝だろうか? 閉じている目の向こうがやけに明るいし。
誰かの声が聞こえるけど、なんか寒い。このまま温々と布団の中で微睡んでいたいと思った。
「む~……こら~! 明久君!」
まだ誰かが僕を起こそうとしているけど、生憎と僕は睡眠に敗北してしまったので起き上がる事はできない。
しばらくすると諦めたのか、その誰かは僕に声をかけることはなくなった。睡眠の勝利かと思った時だった。
「たー!」
ドスっ!
「ぶふぉあっ!?」
突然、腹部に何かが落ちたような衝撃が一気に僕の身体を走った。
一体何事かと思って掛け布団から身を乗り出した。
「やっほ~♪ 明久君♪」
犯人はさくらさんだった。
「……何やってるんでしょうか、さくらさん?」
「うにゃ? もちろん、明久君を起こしにきてあげたんだけど?」
「……珍しいですね。いつもなら僕が義之が起こしに行くのに」
「僕だって週に2回くらいは起こしにくるよ」
できれば毎日起こしてほしいと思うのは僕だけだろうか。
「毎日僕が起こしにくるなんてのはないよ」
などと、まるで僕の心を見透かしたかのように言ってきた。
「それは何故でしょうか?」
「だって、誰かに起こしにきてもらうのって幸せな気分なんだ。そのまま楽しい一日が始まって……家族みんなでわいわい騒ぎながら過ごす時間がたまらないんだよね~」
「わいわいじゃなくてもいつも騒ぎまくりなんですけどね」
主に僕や雄二の口喧嘩が毎日だし。
「だから、僕が起こすのはたまになんだよ」
いまいちよくわかんない理屈なんだけど、まあ別に起こしに行くのは構わないんだけどね。
そもそも僕がこの家に住まわせてもらってるわけなんだし、食事は毎日取れてるから睡眠も以前と比べると比較的良好だ。
それに、さくらさんは何気ない感じで言ったのだろうけど……こういうのが一般的な家族の図というものではないだろうかと思う。
「わかりました。起きます、起きますよ」
「うん。それじゃあ、楽しい一日を始めるためにおいしい朝食を作ってね♪」
「了解しました」
もう12月に入って寒い季節だというのにさくらさんは相も変わらず元気いっぱいの子供みたいだった。
「ふぅ……寒いなぁ~」
「ああ、マジさぶいぜ」
「うむ。もう12月じゃし……冬も頂点に達してる頃じゃな」
「まだまださ。一月辺りになればもっと寒くなると思うよ」
「マジかよ……ああ、さむ……」
「こら、みんな揃って背中を丸めない。ちゃんと背筋伸ばして」
「そうは言うが、音姫先輩よ……都会の方なら建物から来る照り返しがあるから以前はまだあったかい状態だったが、こっちはそれが内分余計寒く感じるんだよ」
「確かに……照り返しがない分、寒さも倍に感じるのぉ」
「うむ。流石にここまでの寒さはあまり経験がないから平然としろと言われると、少々辛い」
確かに、Fクラスの教室もボロボロですきま風が寒い時もあったけど、こっちは目立った建物が少ない分余計寒さを感じる。
あまり経験したことのない寒さに僕達が背中を丸めてもそれは仕方のない事だと思う。
「俺も同感。早く学校行って暖房に当たりたい」
「もう、弟くんも情けないよ。あ、でも……寒いっていうならお姉ちゃんが手だけでも温めてあげようか?」
「ぶっ!? な、何言ってんだ音姉!」
「え~? そりゃあ、手袋持ってきてないから私の手も冷たいと思うけど、しばらく繋いでいれば……」
「そういう意味じゃないよ! こんな大勢の目の前で手を繋ぐのがマズイって言ってるんだよ!」
「え? 何で? 私達姉弟じゃない」
「…………」
学校に行く前から義之が疲れきった表情をしていた。
「ほうほう、羨ましいじゃねえか。こんな美人と手を繋げるんだからな」
「桜内は相も変わらず音姫先輩に好かれておるのう」
「うむ、いい姉弟愛じゃないか」
「ちょっと義之が羨ましいよ」
ちなみにこれが僕の姉さんだったら手を繋ぐのを通り越して体をくっつけ合うなんて言いかねない。
……やばい。想像したら眩暈がしてきた。この考えは早々に捨てていこう。
「本当に勘弁してくれ……みんなの視線とかの所為で余計寒く感じる」
確かに音姫さんは良かれと思って温めようとしてるんだろうけど、義之にはかえって逆効果になりかねないよね。
主に、周囲にいる男子生徒からの殺気の篭った視線によって。
「え~? 弟君はお姉ちゃんと手を繋ぐの嫌?」
「うぐ……」
おーっと、音姫さんが泣きそうになって義之が非常に困った顔をしているぞ。
「あ、いや……その……手を繋ぐのが嫌じゃなくて、周囲に人がいるこの状況では──」
「じゃあ、いいよね♪」
義之の弁明は最後まで繋げられず、すっかりご機嫌になった音姫さんが義之と手を繋いだ事により、周囲でこの状況を目撃している男子生徒の殺気が渦巻き始めた。
うわあ、直接こちらに向けられてるわけじゃないのに余計寒くなってきた感じがするよ。
「兄さん……何ヘラヘラしてるのよ」
そしてすぐ後ろでも由夢ちゃんの嫉妬の視線が義之に向けられているのが顔が見えなくてもわかってしまう。
「やれやれ……随分と恵まれてるっていうのに、当の本人は全く知らない顔でいい気なもんだ」
「うむ。あれだけモテモテだというのに、一向にその思いに気づく様子がないのう」
「本当、モテモテだっていうのに鈍感にもほどがあるよね」
「「(いや、お前[お主]が言えたことじゃないからな[の])」」
何やら雄二と秀吉が呆れたような顔でこちらを見ているのだが、何でだろう?
「お~い! おっはよー!」
冬だというのに元気いっぱいに挨拶してくるこの声は。そう認識するや否や、背中にバン、と衝撃が走った。
「おっはよ吉井! あとその他大勢も!」
「俺達はその他大勢かよ」
「一々その場全員の名前言うのもメンドイし」
やはりというか、こんなアグレッシブな挨拶をかます人はまゆきさんしかいない。
「おはようございます、高坂さん」
「うん。おはようさん。音姫は……うん、相変わらずだね」
高坂さんが手を繋いだ状態の義之と音姫さんを見て呆れたように溜息をついた。
「あ、まゆき。おはよう」
「まゆきさん、おはようございます」
「おはよう。音姫は相変わらず弟君にベッタリかぁ」
「うん、姉弟だもん」
「いや。普通姉弟でそこまで密着する奴なんていないから」
ごもっともです。
「そう? 昔からずっとこんな感じだったけど?」
「…………」
「昔から何言ってもこんなですから」
「全く……」
どうやら音姫さんの義之への依存っぷりはかなり昔からだったようだ。
ちょっとより親近感を感じたりするけど、同時に嫉妬したりもする。
音姫さんにくっつかれてるのが羨ましいというのもある。だが、一番は傍にくっついてる人が比較的安全な人だという事だ。
これが姉さんだったら冷かしを受けるどころじゃない。僕の社会的生命が完全に根絶する事間違いなしだろう。
血が繋がってるわけじゃないのに……いや、繋がってないからこそ余計羨ましい。
あらゆる嫉妬、殺意などが渦巻く中、僕らは学校へと歩んだのだった。
「本題に入りますっ!」
そんな声と共に教卓を叩いているのは我が3組の委員長、沢井麻耶さん。
「皆さんもご存知の通り、来週の23日から25日までの三日間、我が校でクリスマスパーティーが開催されます」
クリスマスパーティー。通称クリパとは読んで字の如くクリスマスに行われるパーティーで一年の中でもかなり盛り上がりが期待される祭らしい。
文化祭でもそれなりに盛り上がってた気もするけど、今度は僕も風見学園の生徒としてそのパーティに参加して楽しみたい気持ちもあるんだけど。
「クリスマスパーティーですが、言ってしまえば文化祭と何ら変わりありません。各クラスでの催し物が義務付けられていじます」
ちなみに今この話をしているのは僕達が催し物を決めるためLHRでそれを決めようと沢井さんが意見したから。
「しかぁし!」
バン、と教卓を再び叩くと共にそれを見ていたクラスメートの何人かがびくりと体を一瞬震わせた。
沢井さんがギリギリと忌々しそうに拳を握って僕らを睨んでいた。
「残念なことに、私達のクラスの出し物は未だ何も決まっていません! この議題、11月からしているのですが……にも関わらず、現在までずっと引きずったままなのですが」
こ、怖い。沢井さんが異様なまでに殺気を漂わせてるよ。
決まってないと言っても、11月から色々意見は出ているのだがいつも却下されたり脱線したりが多いために今日まで決まらずにいるのだ。
僕もポピュラーに喫茶店でもどうかという意見を出してみたのだが、沢井さんに具体的な内容はと聞かれ、僕が悩んでるうちに女子のみんなが色々口論して脱線したので喫茶店も却下になった。
「明久、明久」
「ん?」
隣で義之に呼ばれ、そのすぐ近くでも板橋君や杉並君がこちらを向いていた。
「委員長、相当殺気だってるぞ」
「それは、見ればわかる」
「何かまた意見でも言ってくれないか? 喫茶店以外で」
「無茶言わないでよ。喫茶店ってだけでも結構知識絞ってようやく出した意見なのに」
僕……というより、ほとんどの学校では文化祭なんて秋にやるくらいなのに、冬でもそういった祭をやる学校ではできる事がかなり限られてしまう。
冬で何かできそうな事といえば喫茶店とかしか思いつかない。他に冬でできそうな催し物に関する知識は僕の中にはない。
「そういうなら義之も何か意見出してよ。僕より風見学園にいるんでしょ?」
「そうは言うが、色々文化祭でやった感があるからなぁ」
「ふむ。我が校は非常にイベント好きだからな。まあ、それでこそ俺も張り合いがあるというものだが」
何の張り合いだか気になると同時に杉並君が懐から手帳を取り出した。
「何なの? その手帳」
「ネタ帳だ」
「お笑い芸人か、お前は」
「そのネタをどういった事に使うかは聞かないでおくよ」
体育祭の事を鑑みるに、十中八九祭を滅茶苦茶にするためのネタとしか思えない。
「あ、俺も手帳持ってるぜ」
「へえ……って、なんで表紙にプリントシールばっか貼ってんだよ? 女子かお前は!」
「うわ、見事なまでにプリクラが表紙を埋め尽くしてるよ」
「可愛いだろ?」
「いや……なんていうか渉、これは……」
「キモイ」
僕がどうにかオブラートに包んで何か気の効いた事を言おうとしたところに義之がストレートに言い放った。
「うわ、キモイはちょっと酷くね? お前はもうちょっと俺に優しくするべきだ!」
「お前こそ、もっと環境に優しくなれ」
それは板橋君が汚染物質と言っているのか。
「か、環境? 俺は環境を汚染してるのかよ?」
「環境どころではない。今や板橋は地球規模で汚染存在だ」
杉並君も杉並君で規模を大きくしてるし。
「うわあぁぁ! 許してくれ地球っ! てか俺ってすごくね?」
もうこのお笑いやらコントやらな光景も見慣れてきた気がするよ。
「ちょっと、そこの悪の根源3人組! ちゃんと会議に参加しないと、あんた達に決めてもらうからね!」
「え? 悪の根源3人組って……俺も入ってんの?」
義之が心外だと言わんばかりに驚いた表情で尋ねる。
「当たり前でしょう! ふたりがボケであんたがツッコミ!」
その役割は的を射ていると思う。
「心外だ……」
「ならいっそ3人一緒にボケはどうだ?」
「うむ。新しい世界が拓けそうだ」
「それだとツッコミ役がいなくなって収集つかなくなるからやめてね」
そんなお笑いみたいな光景を見てクラスメート達が騒ぎ始めた。
「静かに!」
そこに再び沢井さんの教卓叩きが教室に響いた。
「今決まらないのなら、放課後決まるまで残ってもらうけど、それでもいいかしら?」
クラスメートが沢井さんの言葉を聞いて再びシーン、と静まった。
しかし、このままじっとしていても堂々巡りだ。みんなどんな意見を出したらいいのか悩みっぱなしだ。
全員がどうしたものかとうんうん唸っている中で、
「……人形劇」
静まった教室に幼くも抑揚のないような声が響いた。
「人形劇なんてどうかしら?」
杏ちゃんが変化のない表情で一言いうと、教室内でどよめきが上がった。
「人形劇?」
「折角のクリスマスなんだし、ファンタジーっぽい出し物なら文句ないでしょ?」
「……なるほど」
沢井さんが腕を組んで頷いた。
「はいはーい! 私も人形劇がいいと思いまーす♪」
茜ちゃんもそれに乗って挙手しながら杏ちゃんの意見に賛成した。
「クリスマスだしぃ、こう……ロマンチックな物語とかがいいんじゃないかなぁ? 聖なる夜を盛り上げるラブロマンスとかー」
茜ちゃんが中学生には不釣合いな放漫な身体をくねらせ、男子生徒に振りまいていく。
後は言わずもがな、男子生徒のほとんどが目を光らせて賛成意見を飛び交わせていた。
しかし人形劇かぁ。そしてラブロマンス……葉月ちゃんとか好きそうだよなぁ。
「ついでに提案なんだけど……人形劇のヒロイン役に小恋……なんてのはどうかしら?」
ガタ──ン!
椅子が派手にひっくり返る音が聞こえ、クラスメートの視線がその音の聞こえた場所へと向けられる。
「あい……たたたた。な、何言い出すの、急に……」
名前を挙げられた小恋ちゃんが痛そうにお尻を摩りながら杏ちゃんに対して反論する。
「そんなのできないよ~」
小恋ちゃんは反対してるが、彼女は容姿もいいし、性格も至って優しい方。そして何より料理が上手(ここ非常に重要)。
なので小恋ちゃんがヒロインという意見に反対する人は本人を置いて他にはいなかった。僕も含めて。
「大丈夫」
「うんうん。小恋ちゃんならできるって」
「な、何を根拠にそんな~」
「でも、ラブロマンスっていうなら相手もいるの?」
心から思った事をそのまま口に出すと待ってましたと言わんばかりに杏ちゃんと茜ちゃんが口の端を上げて笑った。
「それはもう……」
「相手役は義之で決まりでしょ」
「賛成でーす。相手役は義之君がいいと思いまーす!」
「はぇ?」
名前を挙げられた本人は間抜けな声を出して驚いていた。
「ええ!? 俺じゃねえの!?」
渉が講義してるけどクラスメートのみんなはガン無視だった。
「で? 小恋ちゃんの相手役は義之君ってことで」
「特に問題はないと思うけど……」
「ちょ、ちょっと待って~! そんなの無理、無理~!」
う~ん。僕としても小恋ちゃんの相手役は義之がピッタリだと思うけど、確かに本人の言う通り無理がある気もする。
だって、小恋ちゃんは義之の事が好きで……更に小恋ちゃんはこういったことに緊張しやすい人なのだ。
本番で義之の間近で人形劇なんて事になったらどんな事になるか。顔真赤にしすぎて熱が出ちゃったり、声が裏返ったり……なんてなってもおかしくない。
「ふむ……お化け屋敷か」
「はい?」
今までの会話に上がりもしなかったワードが聞こえ、僕も間抜けな声を出した。
「ふむ、お化け屋敷。なるほど、催し物をお化け屋敷にすれば……ここをこうしてと、そうだな……アレは科学部の連中から拝借すればいいとして……うむ、これならばあの計画も……」
杉並君が手帳を見ながら何かぶつぶつ呟いている。ていうか、
「杉並君、何がどうしてお化け屋敷なんて話が出てくるの?」
彼は今の話を聞いていたのだろうか?
「聞いていた。月島と桜内が人形劇を通じて、不毛な疑似恋愛をするという話だろう?」
非常に身も蓋もない発言だった。
「それは小恋ちゃんに失礼だよ。ていうか、なんで冬なのにお化け屋敷なわけ?」
「季節など関係あるまい。真冬でも桜満開のこの島で季節外れの催し物を出すのに何を躊躇う?」
それを言われると何故か納得してしまう自分がいる。
確かに冬だというのにいまだに桜が満開というこの初音島自体が季節外れの代表格っぽい感じがする。
「でも、なんでお化け屋敷なんて出してどうするんだよ」
「要は、気になるあの子を誘って、暗闇で告白できる! 2人の密着度、MAX! そんなすぅばらすぃーお化け屋敷を作ることに何の異論があると言うのだ!」
杉並君の密着という言葉に大半の男子生徒が歓声を上げた。
しかし、杉並君が色恋沙汰を問うなんて、
「何を企んでいやがる?」
「やだ、何のこと?」
普通に何か企んでるとしか思えないんだけど。ていうか汚れを知らない天使のようなおとぼけ顔しても杉並君じゃ怪しさ満点だよ。
しかしお化け屋敷……正直個人的にはやりたくないというのが僕の意見だ。
お化け屋敷だとかそういったホラー物に関してロクな目に会ったことがないもん。
文月学園でのオカルト召喚獣とか、美波や姫路さんからのオカルト召喚獣絡みでの攻撃に、坊主先輩のゴスロリファッションとか……うえ、思い出したら吐き気が。
「ちょっと吉井! 聞いてるの!?」
「へ?」
「へ、じゃないでしょ。あんたで最後なんだけど」
「はい? 何が?」
「何がって……あんた、話聞いてた?」
「人形劇とお化け屋敷という2つの意見が出てきた」
「はいはい。そこに現在多数決を行なっているを付け加えれば完璧ね」
「多数決?」
黒板に視線を移すと『正』の文字がいくつも書かれていた。どうやら今はさっき上げられた2つの出し物について多数決を行なっているようだ。
そして何故か綺麗にまっぷたつに別れていましたと。
「もうあんたしか意見だす人がいないの」
「つまり、どっちを出すかは僕の票しだいと」
「そう」
どうやら僕の一存で出し物が決まるようだ。
しかし、どっちにしたものか……なんて、答えなんて決まっていた。
「人形劇」
「意外と即答ね。あんたならもう少し迷ってたと思ったけど」
「正直お化け屋敷は個人的にやりたくないので」
「明久君って、オバケとか苦手?」
小恋ちゃんが不思議そうに尋ねてきた。
「いや、幽霊とかそういうのは別に怖くないけど…………こういうのでロクな目に会った事がないから」
この学校に限ってあんな恐ろしい事になるとは思えないけど、それでもあんなトラウマに近い出来事はあまり掘り起こしたくなかった。
「やったね♪」
「当然ね」
杏ちゃんや茜ちゃんを中心に、人形劇に賛成の人達は歓喜の声を上げていた。
「ええ~。はぁ……今日の占い、凶って出てたんだけど。これのことだったんだ……」
「何言ってるの小恋ちゃん」
「主役に選ばれたんだから大吉じゃない」
「あのねえ、勝手に変なこと言わないでよ~」
「じゃあ小恋ちゃん、こう考えたらどうだろう?」
「何、明久君まで?」
「好きな人の傍にたっぷりいられる時間ができたんだからむしろ大吉だと。何しろ恋人役なんだから」
「…………ふぇ~~~~!?」
今頃気づいたのか、小恋ちゃんが顔を真赤にした。いや、なんとも面白い反応だね。
「それでは、我がクラスの出し物は人形劇とします。準備期間があまりまいですが、皆さんがんばっていきましょう」
こうして僕達のクラスの出し物は人形劇に決まったのだった。