「それで? 何であんな騒ぎになってたのかな?」
僕は昼休み、何故かこちらの世界に来ていた雄二達と共に学園長室で説教を受けていた。
「すみません。久しぶりに親友達を見たのと同時に日頃の恨みが一気に爆発してしまって。本当にすみません」
「全くだ。少しは抑えようっていう心掛けはないのか?」
「お前も少しは反省しろよ!」
自分も騒ぎの原因の一端だという自覚があるのだろうか、このゴリラは。
「坂本君、他校に来てまで騒ぎを起こし、そこに全くの反省がないのはどうかと思うよ。原因や状況が何であれ僕らがこの学園に迷惑を懸けたのは事実なのだから」
「久保君の言う通りだよ。少しは反省しろこのゴリラ」
「誰がゴリラだぁ!?」
「お前以外に誰がいるんだよ!」
「貴様ら、いい加減にせんか!」
「「~~~~っ!」」
耳元で野太い怒声……まるで鉄人のものだ。
「やれやれ、少しは頭が冷えたかの?」
やはり今のは秀吉の声真似だったか。流石に鉄人までこちらにはいないとわかっていつつも全く同じ声だったので体がつい反応して大人しくなってしまう。
「昼間の件については謝罪する。どうか2人を許してやってはくれませんかの?」
「僕からもお願いします。元々は僕達が勝手に学院に入り込んでしまったのが原因ですから」
秀吉と久保君が学園長であるさくらさんに頭を下げて謝罪した。
僕も申し訳なくなった2人と一緒に頭を下げる。
「にゃはは~。気にしなくていいよ。それより、みんな明久君を探してたんだよね? この後はどうするの?」
「いや……探してたには探してたんだが……俺達全員巻き込まれただけっつうかなんつうか……」
雄二が言いにくそうにしていた。それはそうだろう。
僕も雄二達もこの島に来たくてきたわけでなく、どういうわけか気がついたらここにいたというだけだ。
「(雄二……わかってると思うけど、ここは僕達のいた世界とは違うから僕達の家に連絡なんてつかないよ?)」
「(んなことは携帯見た瞬間からわかっていることだ。ところで、お前はどうやってこの島で生活してる?)」
「(一応僕は事実も織り交ぜながら家出っていう形で今目の前にいる人の家でお世話になっているけど……雄二達はどうしよう? 流石にこの人数まで面倒を見ろっていうのは無理だろうし)」
「(とにかく考えるのは後だ。ここで俺達も家出っていうわけにもいかないだろうから、仲間のお前を追いかけて資金を失ったっていう感じで誤魔化すぞ)」
僕と雄二はアイコンタクトで会話をしたあと、さくらさんと向き合った。
「そうだな……ここに来たはいいが、何日も探し続けた所為で資金が底をつきつつあるからなぁ。何処か今の状態でもこの人数で泊まれる場所があればいいんだが」
全く顔色を変えることもなく堂々とそんな嘘を言い放った。流石、汚い手に関しては右に出る奴がいないよ。
「う~ん……葉月ちゃんの方は、音姫ちゃんの家で面倒見てもらえばいいとして……それでもまだ4人かぁ」
「いえ、できれば秀吉も朝倉家の方でお願いできません? 流石に女の子と同じ屋根の下っていうのは……」
「明久よ、じゃから儂は男じゃと言うに」
「え? 君、男の子だったの?」
「……(ず~ん)」
さくらさんの純粋な疑問の言葉に何故か秀吉が目に見えて落ち込んでいた。
「諦めろ秀吉。実際問題、お前を同じ屋根の下でっていうのは色々と面倒が起きやすいからな」
「何故儂は男として見てはもらえぬのじゃろうなぁ……」
「同情するよ、木下君」
しかし、秀吉を抜いてもまだ3人もいる。さくらさんの家は結構広めだから無理して一部屋に2人ずつでいけそうだけど、それでもまだキツイかな?
「……俺なら大丈夫だ。宿の手配は済んでいる」
「うわっ!? ムッツリーニ! 今まで存在すら感じなかったんだけど!?」
「それは俺が今さっきまでいなかったから」
相変わらずに神出鬼没ぶりだった。久しぶりだな、この感覚。
「にしても、手配って……ムッツリーニお金持ってないでしょ? 宿なんてどうやって?」
「それは俺がとある場所を提供したからだ」
「うわぁ!? 今度は杉並君!?」
ムッツリーニと同様、気配も悟られずに現れるその神出鬼没っぷりは本当にムッツリーニといい勝負だ。
「いや、先程そこで同志土屋と対面したのだが、彼は実に面白い。その卓越した隠密行動、行動力……彼こそ我が非公式新聞部に必要な人材なのだ!」
杉並君が両手を広げて恐ろしい事を言った。この2人に組まれたらこの先の行事はどうなるのだろうか? ものすごく不安で仕方がない。
「よって、これより彼は我が非公式新聞部が丁重にもてなすことにした。後はそちらでじっくり考えたまえ!」
「……邪魔をした」
そう言ってムッツリーニと杉並君は学園長室から去っていった。
「…………」
「明久……今の胡散臭え雰囲気漂う奴は何だ?」
「杉並君。苗字以外ほとんどが謎に包まれた人……としか言えない」
「ある意味、ムッツリーニといい勝負をしそうな奴だな」
「うん。この学園の女子が安全に暮らしていけるかものすごく不安だ」
きっと、彼のことだからこの学園にもマイ監視カメラなんかあちこちに仕掛けるだろう。
一応この事は音姫さんに帰ったら相談する事にしよう。流石に文月学園のような事はごめん被りたい。
ムッツリーニの写真が購入できないのは痛いけど……。
「さて、1人は宿が決まったようだし……2・3人は大丈夫か?」
「う~ん……僕はそれでもいいけど、一応義之君や音姫ちゃん達にも相談したいから話はそれからだね」
「ああ、ひとまず考えてくれるだけでもありがたい」
とりあえず泊まれるかどうかは今は置いといてその話は今夜改めてという事で雄二達はひとまず学園長室で大人しくさせ、僕は午後の授業に出たのだった。
「──というわけだから、音姫さんや由夢ちゃんにも今夜辺り相談てことで」
「……そうか。正直、色々話が飛んでて理解できんが、俺は別に構わないぜ」
明久から聞いたのは昼休みに校門で明久と騒いでいた赤毛の男とその他の4人を俺達の家に泊めてほしいという話だった。
なんでも家出した明久を追いかけたはいいが、資金が途中で尽きて宿に泊まるどころか食事にすらありつけないほど金銭面が厳しいらしい。
「じゃあ、放課後夕飯の買い出しだな。あの人数だと材料も相当買い込まないといけないだろうし」
「うん。特に雄二はかなりの大食いだからね」
「なら、今日はカレー盛り沢山といくか」
「うん。でも、葉月ちゃんもいるから甘口にした方がいいかな?」
「そうだな。由夢もどちらかと言えば甘口の方が好きだった気がするし」
そうして明久と夕飯の相談してるうちに次の授業が始まり、夕飯について考えてるうちに何時の間にか放課後の時間となった。
買い物に行く前に明久が5人を迎えに行くと言い、学園長室へと向かっていた。
「あ、馬鹿なお兄ちゃん!」
「ぐふっ! ははは……葉月ちゃん、ちゃんと大人しくしてた?」
「はいです! 早く馬鹿なお兄ちゃんに会いたかったですけど、我慢したです!」
「そう。偉いね葉月ちゃん」
「ふみゅ~」
扉が開いて早々ものすごいタックル(多分抱きついただけだろう、本人は)をかましてきた葉月ちゃんという少女を明久はなんでもないように受け止め、頭を撫でていた。
撫でられてる葉月ちゃんは気持ちよさそうに目を細めていた。相当あの子に好かれてるみたいだな。
「あ、義之君も来たんだね」
「はい。明久とこれから夕飯を買い出しに行く前に5人を迎えに」
「ああ、案内だね。偉い偉い」
「この人数だし、今日はカレーにでもと思うんですが」
「義之君のカレーかぁ。楽しみだな~」
「かなり多めに作るつもりなので楽しみにしといてくださいね」
「うん、また後でね~♪」
さくらさんと挨拶を済ませ、俺達はまず買い出しに行く事になった。
「あ、そういえば雄二達の着ているの風見学園の制服だね」
「ああ。流石にいつまでもあのダボダボの服でいるわけにはいかないからな。学園長からありがたく制服を貸してもらった」
「明久と言い、なんでお前らはダボダボの服のまま初音島にくるんだか」
「「それは気にしないで(するな)」」
2人同時に言われて俺は気になるが、あんまり追求するような事でもないかととりあえず納得する事にした。
「あれ? 明久く~ん!」
そこで今度は白河と出会った。白河は明久の姿を認識すると駆け寄ってきた。
「ん? 今日は随分と大勢だね~。……その人達って、昼間のだよね?」
「ああ、うん。本当から探しに来てくれた僕の親友達」
「その割には昼間その赤毛の人と思いっきり喧嘩してたよね?」
「それは……気にしないで」
などと、いつものようになんてことない事だが、楽しそうに会話をしていた。
「桜内と言うたかの? あの女子は誰なのじゃ?」
あの2人が楽しそうに会話しているのを見て木下だったな。男なのか女なのか……制服は男子用なのだが、容姿はどう見ても女にしか見えない。どちらかと言えば女子寄りの中性的な奴だった。
「ああ、白河ななか。うちの学院じゃアイドルと言われてるよ」
「そのような者が何故明久と?」
「ああ、文化祭の時にな~(事情説明中)~……というわけだ」
「ふむ……お姫様抱っこして追っ手から逃げ回った、か。明久らしいのぅ。こちらでもその行動力は健在じゃったか」
「てことは、そっちでもそんな感じだったのか」
「うむ。毎日が大騒ぎじゃったぞい。じゃが、儂はそんな馬鹿騒ぎが気に入ってるがの」
その時の木下は本当に楽しそうに言った。
「ところで、白河だったか? そいつは既に何人もの女に手を出しているぞ?」
「こら、雄二! ななかちゃんに変な嘘を吹き込むんじゃない!」
「ああ、すまん。実は既に手を出されてたな」
「だから変な嘘を吹き込むなぁ!」
「手を出されたという点に関しては間違ってはおらんの」
「出されたのか?」
「主に、暴力的な意味合いでの」
「……なるほど」
何故か話が変な方向に進みつつあった。
「ななかちゃん! 今のは雄二の真っ赤な嘘だから信じないで!」
「え~……明久君もう私以外の女の子とあんな事とかこんな事を?」
「誤解だってばぁ~!」
「なんて冗談だよ明久君。ちょっとした悪戯だよ♪」
「い、悪戯でもそういう質の悪い事をいうのはやめてほしいんだ。僕の社会的生命が危うくなるから」
「あはは! ごめんごめん♪」
「……ふ~ん」
楽しげに会話をしている明久と白河を見て坂本は不思議なものを見る目で眺めていた。
「物好きな奴もいたもんだな。あの明久にとは」
「ふむ……雄二もそう思うかの?」
坂本と木下が何かこそこそと話していたが、何の話なのかはよく聞き取れなかった。
「む~……馬鹿なお兄ちゃん! その可愛いお姉ちゃんとだけじゃなくて葉月ともお話してほしいです!」
そう言って頬をふくらませた葉月ちゃんが明久の制服を引っ張る。
子供らしい微笑ましいヤキモチの場面だな。
「うわっ……ああ、ごめんね葉月ちゃん」
「明久君、その子誰? 妹さん?」
「ああ、ううん。僕の妹じゃなくて友人の美波って人の妹」
「島田葉月です。よろしくです」
「うわぁ、可愛いね~」
そう言って白河は葉月ちゃんに抱きついて頬ずりしていた。やはり可愛い子には目がないと言ったところか。女の子だしな。
「吉井君……楽しそうに会話してるところ申し訳ないのだが、そろそろ買い出しにいかなくては夕飯に間に合わないのではないかい?」
「ああ、そうだった。ごめん。というわけだからななかちゃん、僕達はこれから夕飯の買い出ししなくちゃいけないから」
「僕達って……この人数で夕飯を?」
「うん。僕を追いかけてここに着いたばかりだから泊まる所の事とか色々ね」
「ふ~ん……」
そう言って白河は明久の手を握ってきた。それから何度か頷くと、
「うん! 楽しそうだね!」
「え? うん……多分これからもそうなりそうだけど」
「じゃ、また明日ね! 明久君!」
「うん。また明日」
明久と白河が互いに手を振って別れ、明久が俺達の方に向き直った。
「明久、さっきの白河とやらとはどんな関係だ?」
「へ? 友達だけど?」
「それにしてはあの白河、やたらとスキンシップが激しいと思うのじゃが」
「そう? 大体いつもあんな感じだったと思うけど」
いや、本当のところはどうかは知らないが、俺の知る限り、明久に対するスキンシップはいっそう激しいと思うぞ。
そんな会話を繰り返しながら俺達は夕飯の買い出しにと向かったのだった。
「……というわけだからさ、葉月ちゃんの方は音姉達の方でなんとかならないかな?」
「そっかぁ……」
夕飯の時間になると音姫さんと由夢ちゃんがいつものように芳乃家に訪れ、居間に入るとあまりの人数に事情を知らない由夢ちゃんが一瞬驚いた。
そして夕飯になると同時に雄二達の事を説明すると音姫さんと由夢ちゃんも事情を飲み込み、音姫さんはどうしたものかと考えているようだ。
流石にこの人数な上に小さな女の子とはいえ、音姫さん達の家にまで迷惑をかけることになると言っているのだから悩むのはしょうがないだろう。
最悪の場合、僕が出ていく事になっても葉月ちゃんはちゃんとした家で寝泊まれるようにしないと。
「……うん。当分の間は葉月ちゃんはうちで預かる事にするね」
「本当ですか!?」
どうやら音姫さんは葉月ちゃんを泊める事を許してくれたようだ。
「うん。そういう事情なら仕方ないと思うし」
「世話になる俺らが言うのもなんだが、こんだけの人数の面倒を見るのも大変じゃないのか? あの学園長がどれだけの人かは知らんが、大人一人でこの人数は流石にな」
「確かに……多少はバイトなどを考えたいところだが……」
「今の儂らにはそれがかなわぬからの」
確かに、一応来年になればバイトもできるけど……それまでこの人数で今年を乗り越えられるかも不安だよ。
「……その件については心配いらない」
「(ぶふぅ──っ!?)」←(ご飯を吹き出した音。)
「うわっ! 汚えな明久!」
「ご、ごめん……それより何時の間に何処から入ってきたんだよムッツリーニ!」
何故か僕の背後にムッツリーニが立っていた。全く気付かなかったよ。
「わわっ! 何時の間に!?」
「ど、何処から入ってきたんですか? そして、何で忍者みたいな服装で……」
音姫さんや由夢ちゃんもムッツリーニの突然の登場と格好に驚いた。
「ところでムッツリーニ、問題ないってのはなんだ?」
「その男が突然入ってきた部分は指摘しないのか?」
義之、その事は問い詰めても恐らく無駄だと思うんだ。
「……早速仕事を始めて売れ筋はうなぎのぼりなので資金が盛り沢山」
「何だ? その資金の一部を俺達に譲ってくれるのか?」
「(コクッ)貸しひとつ」
ムッツリーニの貸しというのが若干不安だが、これは願ってもいない話だ。
多分こっちにもムッツリ商会の網を広げているのだろう。流石にこの平和な島でそれは遠慮願いたかったけど、今は生活のためにムッツリーニの協力は欠かせないだろう。
せめて僕達が本校に上がるまでムッツリーニには生活費の収入に尽力してもらおう。
「わかった。いつかお前が気に入りそうな聖典を譲ってやる」
「僕も。折角協力してくれるんだからそれくらいはね」
「(コクッ)交渉成立。さらば」
それからひゅん、と風を切るような音と共にムッツリーニの姿が消えたのだった。
「……今のも、明久君のお友達?」
「あ、はい。土屋康太ことムッツリーニです」
「明久よ、紹介の順序が逆じゃと思うのじゃが……」
「何? そのムッツリーニって?」
「名前を聞くからに嫌なイメージしか浮かばないのですが」
「2人も今ので察しただろうがアイツは俺達の学校じゃ本名よりもその渾名、寡黙なる性職者。ムッツリーニの名で知名度が高いムッツリスケベだ」
「えっと……」
「…………」
雄二の紹介で音姫さんと由夢ちゃんが微妙な顔をした。どういう反応をすればいいのか非常に困っているようだ。
「まあ、生活費についてはひとまずアイツに一任するか。俺達は来年までのんびりさせてもらうとしよう」
「坂本君、泊めてもらうのだから最低限の礼儀は身に付けておいた方がいいと思うんだ」
雄二が無遠慮に寝転がると久保君がそれを注意した。
「はう……馬鹿なお兄ちゃんと離れるですか?」
「うん。流石に女の子を一緒にってわけにはいかないからね」
「儂は男じゃというに……」
葉月ちゃんと一緒に朝倉家で世話になることになった秀吉が居間の隅で落ち込んでいた。
「まあまあチビッコ。今までとは違って家が隣にあるんだ。学校帰りになればいつでも馬鹿なお兄ちゃんと遊ぶ時間はできるだろう」
「そうだよ。明日からはたっぷり遊べる時間はできる。今日はひとまず朝倉さん達の世話になった方がいい」
「うぅ……できれば馬鹿なお兄ちゃんと一緒に泊まりたかったです」
「ふふ……明久君って、モテモテだね」
「随分と好かれてるな、明久」
「人気者ですね」
音姫さん、義之、由夢ちゃんから冷かし……いや、この3人だから純粋な褒め言葉が来た。どっちにしても悪い気はしなかった。
「ただいま~♪」
その時、ようやくさくらさんも帰宅してきたようだ。
「うわー! いい匂いだね!」
「こんばんは、さくらさん」
「こんばんは~♪ あ、みんなも集まってるね!」
「おう」
「お邪魔してます」
「泊まりについては感謝してますぞい」
「学園長さん、こんばんはです!」
異世界組も全員さくらさんにあいさつし、僕は義之とさくらさんの分の夕飯を用意した。
するとちょっと気になるものがあった。
「雄二、胸ポケット……何入ってるの?」
雄二の胸ポケットが僅かに膨らんでいるように見えた。
「ん? ああ、そういえばこいつの事なんだが……わかるか?」
雄二が取り出したのは小さな枝……そしてその先には小さな淡い紅色の花が咲いていた。
「……桜?」
「そうだ。桜の花だ」
「っ!?」
雄二が桜の花を僕に向けるとそれを見ていたさくらさんが一瞬顔色を変えた気がした。
「ん? それ枯れない桜の一部じゃねえか?」
「枯れない桜?」
「ああ、この島の桜って……枯れない桜って大きな桜の木を中心に咲き誇っているんだって」
「ふ~ん。で、こいつがその一部だってのか?」
「多分そうじゃないかな? 枝が折れてるのに花は咲いた状態のままならそうなんじゃない?」
「ふ~ん……それが何で明久がいなくなった後に出てきたんだか」
「え? それ、僕がいなくなった後に出てきたの?」
「ああ。(お前の姿が消えた場所でな)」
雄二が頷くと同時にアイコンタクトで一言僕に説明する。どうやら僕がいなくなった直後に出てきたもののようだ。
何でこの島の桜の一部が僕の世界に出てきたんだろう?
「う~ん、不思議な事もあるもんだね~。ささ! いつまでもわかんない事を考えても始まらないし、今はおいしい夕飯を楽しもうか!」
さくらさんがパンパンと手を叩いて話を終わらせ、夕飯を食べ始める。
……何だろう? あの桜を見た時のさくらさん、いつもとどこか違ってたように見えたけど。
「秀吉、さっきのさくらさんの様子……どう思う?」
「む? さくらさんがどうかしたかの?」
「いや……雄二の持ってる桜を見たらちょっと何か様子が違った気がするんだけど」
「うむ?」
僕の話を聞いて秀吉はさくらさんの方を見つめる。演劇に関しては右に出る者のいない秀吉ならさくらさんの様子の違いにも気づくかもしれない。
「う~む……確かに何かある気はするのじゃが……儂からはこれ以上の事はなんとも言えんのう」
「そっか」
「ところで、その桜とあの人が何か関係あるのかの?」
「ううん……なんでもない」
秀吉でも何かあると、漠然な事しかわからなかったらしい。
さくらさんの事は気になるけど、今ここで問う事ではないだろう。
僕はこの考えは一旦頭からはじき出してみんなと夕飯を楽しんだ。