オリ主が一人転生しただけの簡単な二次創作です   作:騎士貴紫綺子規

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第三箱 「……まあだからなんだという話だが」

 めでたく異常(アブノーマル)になった和だが、彼は一つ失念していた。

 

 

「……しまったな。確かに書かれていたが」

「兄さん何が?」

「いや、なんでもない」

 

 

 黒神めだかがそうであったように、異常(アブノーマル)を見つけるための箱庭病院である。それゆえ異常(アブノーマル)と診断された場合、通院(・・)の義務が課せられる。

 

 

 

 しかし今日はいつもと何やら様子が違うようだ。和が病院に入ると、医者や看護師たちが慌ただしく院内を走り回っている。大丈夫なのだろうか。

 

 

 

「看護師が倒れたぞ!」

「黒神さんが!」

「院長を呼べ!」

「急いで分娩室に!」

 

 

 

 看護師、黒神、院長、分娩室。この単語から考えるに、恐らく陣痛が始まったのだろう。ということは、今日か明日には黒神めだかが生まれるのだろうか――

 

 

 「……まあだからなんだという話だが」

 

 

 ストレッチャーが目の前を通り過ぎていくのを見て、和は一人ごちた。ちらりと見えたのは恐らく黒神鳩だろう。それを追うようにゆっくり歩く鶴喰(つるばみ) (ふくろう)も見れたし、キャラの遭遇、という目的は達成されたと言ってもいいだろう。

 

 

 

 和には「物語」に関わる気はなかった。須木奈佐木咲に双子の兄がいたなんて描写はなかったが、いないという描写もなかった。すなわち、もともと「めだかボックス」には、須木奈佐木和というキャラクター(・・・・・・・・・・・・・・・)存在していた(・・・・・・)ということも十分に考えられるのだ。この場合は二次創作で言う「オリ主」になるのだろうが、描写がなかった以上、自分がいてもいなくても「物語」は進む。ならば、わざわざ死亡フラグを乱立させている黒神めだかなんかに近づかなくても構わないのではないか。

 

 

 そう考えた和だったが、一応二次元(めだかボックス)に来たのだから、せっかくなので楽しみたい。第二の人生を謳歌したい、そう思い至り、では何をするか。そこまで考えて一つ浮かんだ。

 

 

 

 登場人物(キャラクター)たちを直に見たい。

 

 

 

 作中登場人物が百を超えるめだかボックスだ。流石に月下氷人会、略して月氷会のメンバーや、黒神 舵樹(かじき)などには遭うのは不可能だろうが、序盤から中盤の舞台は箱庭学園だ。ならば、学園に通えばほとんどのキャラに会えるだろう。

 

 

 そう考えた和は、今まで以上に周りに注意を払った。そして、今日ようやく黒神鳩と鶴喰梟の二人に合えたのだ。

 

 

 人吉瞳には学園で会えるだろうし、あとは生徒たちだけだ、と一人頷いた。

 

 

 

  目指せ、キャラ制覇!

 

 

 

 この目標で、和は生きていくことにした。何が悲しくて死亡フラグがそこら中に立っているこの世界で戦いに身を投じなければならないのか。便利なスキルは貰ったが、だからと言ってもわざわざ自分から火の中に飛び込まなくてもいいだろう。そういうのは黒神めだか(主人公)人吉善吉(ヒーロー)だけで十分だ。

 

 

 

 もとより和は「めだかボックス」は好きだったが、「黒神めだか」も「人吉善吉」も嫌いだった。作中で一番好きだったのは、「不知火半纏」だ。他にも「飯塚(いいづか) 食人(くろうど)」や「鶴喰梟」、もちろん「須木奈佐木咲」も好きなキャラだった。自分が関わりたいのは彼らであって、決して「物語」ではないのだ。遠目に見れたらそれでいい。

 

 

 

 所詮自分は異物(イレギュラー)に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

 そして検査を終え帰る和たちと一方で、分娩室では「黒神さん!」と叫ぶような声が聞こえたような気がするが、それは恐らく、多分、気のせいだ。

 

 

 

   ☆   ☆   ☆

 

 

 

 

 黒神鳩が死亡し、黒神めだかが生まれたであろう日から数年後、和はめでたく「異常なし」と判断され、退院した。ちなみにその間、一度も黒神めだかにも人吉善吉にも、人吉瞳にも会っていない。

 

 

 そして現在、あのキャラと知り合い、仲よく(?)遊んでいた。

 

 

「にひひ。実に楽しいものだな」

「だろ?」

 

 

 和は十三組の十三人(サーティン・パーティ)裏の六人(プラスシックス)のリーダー、糸島(いとしま) 軍規(ぐんき)と知り合った。登場したにもかかわらず献体名と容姿しか明かされず、その異常(アブノーマル)も何なのかは謎のまま連載終了したいわゆる「謎キャラ」の一人だ。

 

 

 喜界島れぽーとあぶのーまるこれくしょんでは『とうそつたいぷ』と判断されたり、めだかブックスでも「マイナス寄りのスキルだったんだろうなあとは思う」と敢えて情報開示を防ぐ曖昧な表現がされていた。

 

 

 

 

 黒神めだか然り、箱庭学園然りと、どうやら異常(アブノーマル)同士は引き合う性質らしい。そういえば球磨川禊たち含む過負荷(マイナス)もお互いがお互いを認め合っていたように思う。箱庭学園理事長、不知火 (はかま)異常(アブノーマル)だけを隔離する十三組を併設していたが、その理由が自分が異常(アブノーマル)になって分かった。

 

 

 

   普通(カス)がそばにいるだけで不愉快だ。

 

   普通(ゴミ)は捨てたくなる。

 

 

 

 鶴御崎(つるみさき) 山海(やまみ)上峰(かみみね) 書子(しょこ)が言っていた意味がよく分かる。転生者という異分子も混ざっているだろうが、「自分は通常(ノーマル)とは違う」という感覚がとても強い。そんな異常(アブノーマル)通常(ノーマル)を同じクラスにしていたら一週間ともたずに学級崩壊、否、学校崩壊に陥るだろう。双子の妹の咲もスキルホルダーではあるが所詮通常(ノーマル)の域を出ない。可愛い自分の片割れではあるが、一生相容れることはないだろう。

 

 

 

 そんな気持ちが自分の中を巡って、ふと家を飛び出してきた。がむしゃらに走って着いた先が公園で、そこには一つのサッカーボールが転がっていた。

 

 

「…………」

 

 

 ふとそれを拾って辺りを見回してみたが、誰もおらず。仕方ないのでポーンポーンとリフティングしてみた。前世では十回もいかなかったが、今世ではいとも簡単に操れる。これも異常(アブノーマル)のせいか、それとも転生トリップの影響か。

 

 

 

「お? 誰だ?」

 

 

 声を掛けられたので振り向くと、まだ幼いが面影のある糸島軍規がいた。どうやらこのサッカーボールは彼のらしい。

 

 

 

 

 そうして今では二人でリフティングしている。――当人たちにとっては。

 

 

「いいかげん! あきらめたらっ、どうだ!?」

「はっ! その台詞、そっくりそのままっ、返してやるよ!」

 

 

 傍から見るとボールの軌道がすべて線になるほどのスピードで激しく蹴り合っているように見えるだろう。先天的だろうが後天的だろうが、異常(アブノーマル)異常(アブノーマル)だ。

 

 

「っあ!」

 

 

 そんなことを考えていると蹴り損なってしまった。それを見た彼は口元を歪ませた――が、甘い!

 

 

 

「うぉりゃ!!」

 

 

 異常性(スキル)を使いながら足を伸ばす。ありえない軌道を描いて足に当たったボールは今までより勢いを増して彼に飛んで行った。

 

 

 

「む!?」

 

 

 ゆっかり油断していた軍規はろくな反応もできないままボールに当たる。当たったボールは地面に落ちた。彼の負けである。

 

 

 

「油断大敵ってか?」

 

 

 先ほど彼が浮かべていたように口元を歪ませながら皮肉ってやる。俯いてプルプルと震えていたかと思うとガバッと顔を上げた。その瞳は爛々と輝いている。

 

 

「オマエすごいな! オモシロイな! 私は糸島軍規だ。お前は!?」

 

 

 矢継ぎ早に発せられる言葉に戸惑いつつも名を名乗る。

 

「須木奈佐木和だ。お前はすさまじい奴だな」

「そうか!? ありがとうな!」

 

 

 異常(アブノーマル)の中でも特出していた裏の六人(プラスシックス)。そのリーダーである彼の台詞に合った単語を使うと喜ばれた。意味を分かっているのか、それともただ単に褒められていると思っているだけか。おそらく前者だと思った。

 

 

 

 ――これが後に裏世界を牛耳る王、【死番長】となる糸島軍規と、世界をまたにかける天才犯罪プランナー、【狂(KYO)】となる須木奈佐木和の初遭遇である。

 

 

 

 





 あまり糸島君と知り合いの二次創作ってありませんよね。私は大好きです。

 最後の一文は何となく思いついただけです。糸島君の進路は明かされませんでしたし。くじらちゃんが言っていたようにパーティメンバーは全員フラスコ計画的な進路に進んだそうですけど。

 ほとんど全員スキルを成人前後で失ってますし、スキル使えば世界は牛耳れると思いますけど。一応糸島君も成人あたりでスキルは失います。でもスキルを悪用している人間を粛正する、ということで裏世界のドンにでもなればいいんじゃないかなと。元パーティメンバーですし。

 和君のスキルはもう少しお待ちください。糸島君の【死番長】は献体名から付いていますよ。


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