(仮)第501統合戦闘航空団専属家政婦エミヤシロウ   作:にんにく大明神

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いやーやってしまいました現実逃避@二日で一万オーバー。
しにてえ……


今回もばっちりグダってます。
エイラの口調がわからん……というかペリーヌ視点のはずがいつのまにエイラ視点に……



日常に潜む〇〇

Eila Ilmatar Juutilainen

 

 

 

 

「なんですのこれは!!」

 

 

食堂の中にペリーヌの頓狂な叫び声が響き渡った。

まったくなんとも朝っぱらから威勢のいい奴だ。

寝ぼけた頭を覚醒させるにはもってこいの目覚まし時計のようなけたたましさだが、朝の微睡にもう少し浸っていたかった私にとっては迷惑この上ない。

あとで眼鏡を隠してやろう。

 

「宮藤さん! 何度言えばあなたは分かりますの?」

 

「え、えーと何がですか?」

 

「何がも何も……、食事にコレを出すのは止めて下さいといつも言ってるでしょう!?」

 

そうして今日も恒例の漫才タイムがはじまった。

今回は食事に関する争いのようだ。

実際はペリーヌが一方的につっかかってるだけなんだけど、どうにも必死なペリーヌの様子が漫才にしか見えないんだよなぁ。

 

 

 

ペリーヌはどうやら食卓に扶桑料理のこのネバついた豆、納豆が出るのが気に食わないらしい。

宮藤が料理をするようになってから二ヶ月は経つが、この料理に関する争いが絶えたことは無い。

どうせ食べないんだから無視すればいいと思う。

 

……なお、ペリーヌは気付いていないようだが、今日この争いを引き起こしたのは宮藤ではなくあの新人家政婦だ。

戦犯であるその男は、しかし二人の争いなど目に入っていないかのように熱心に給仕の真似事などをしている。

ヒヨコのワンポイントが入った黄色のエプロンが絶望的に似合っていない。

 

「あ、オイ。こっちにも紅茶のお代わり」

 

私がそう呼びかけるとエプロンの変態はポットを持ってあくまで優雅にやってきた。

動作と恰好のギャップが激しい。

未だに動き回るヒヨコを吹き出さずに見守るのは至難の技だ。

 

「まったく、君達には遠慮という物が無いのかね」

 

「ん、悪いナ」

 

不満を口にしながらもエミヤは私のカップに紅茶を注ぐ。

テーブルマナーには明るくない私にもその動作が洗練されたものだと分かる。

コイツの作法は本当はいいとこのお嬢様であるペリーヌをして見事と言わせているが……本当に何者なんだ?

 

「ん? どうかしたか?」

 

「……お前って執事の英雄だっけ」

 

「さぁな、まぁもしかしたら生前そんなこともあったかもしれないが……」

 

「なんだ、はっきりしない奴ダナ」

 

エミヤはそれきり、自らの靄のかかった遠い記憶を思い返そうとするかのように黙り込んでしまった。

時折口から独り言らしきものが漏れている。

……冬のテムズ河がどうかしたんだろうか?

 

 

 

――――非常に気になる。

 

今は六月の頭だから、もうすぐコイツがここに来てから一ヶ月経つことになるのか。

 

よく考えると一ヶ月経ったというのに未だに私達はコイツのことをあまり知らない。

大体何をした英雄なのかも良く分かっていない、というより知らない。

弓が上手くて執事、あと硬い胸。

うん、意味が分からないな。

 

サーニャは昼過ぎまで起きてこないし、たしか今日の搭乗割に私は入っていない。

これは神様が私にコイつの調査をしろと言っているに違いない、うん。

コルヴァトゥンゥリに白い髭のおっさんが住んでいることくらい確かだ、うん。

 

そういうわけで今日の私の仕事はコイツを観察することに決まった、というか決めた。

よって私は今日の基地周回マラソンにはでれないな、少佐。

 

 

え、ダメ? ですよねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、―――――、は、はぁ―――はぁ―――――――」

 

「よーし! よく頑張った! まだ足りないと思う奴はもう一周いってきていいぞ! ……宮藤! どうだ?」

 

「も、もう無理ですうう……」

 

「よし、もう一周行くかハルトマン。……ハルトマン?」

 

「中尉ならゴールした後そのまま部屋に帰ったゾ」

 

 

少佐監督のもと一週間に一度行われる基地周回マラソンが終わった。

雲一つない晴天のもと私達はみな思い思いの格好で基地の前の滑走路に倒れこんでいた。

このマラソンは、決して平坦な道が続くわけでもない基地の周りを、竹刀を振り回す少佐に追い立てられるというなんともバイオレンスな訓練である。

基本的に全員参加なので、普段は逃げ回るルッキーニも捕まえられて走らされる。

 

まったく、なんで新人でも無い私達まで付き合わされるんだろうか。

さすがに宮藤達のように地面にひっくり返るほどではないにしろ、ベテランである私達にも相当ハードなので、できれば遠慮したい。

……なにより一番恐ろしいのは、一番疲れる立ち回りであるはずの少佐の息が切れていないことだ。

まだ走ろうとする大尉も大概だけど……彼女たちは本当に人間なんだろうか?

 

「あ、おいエミヤ!」

 

「あぁ、予定通りでいいのかね?」

 

「うむ、14時にハンガーで頼む」

 

「了解した」

 

ふと気付くと少佐とエミヤが隅の方で話し合っていた。

私達が苦しんでいるときはどこかに行っていたくせに終わった途端現れるとは、なんて奴だ。

今度コイツも走らせるように訴えよう。

 

……それにしても、今まで何処にいたんだろう?

 

 

――――やはり、これは観察するしかない……!

 

 

 

 

 

 

おっと、

その前にそろそろサーニャが起きるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでサーニャもついてくるんダ?」

 

「……だめ?」

 

「そ、そそそんなことないって! ……んー、でもたぶんあんまり面白くないゾ?」

 

「……大丈夫、私はエイラがアーチャーさんに失礼なことをしないか見張るだけだから」

 

「うえぇ、なんだよそれー」

 

時刻は午後一時半。

観察対象であるエミヤを探すためにとりあえず食堂を目指して二人で廊下を移動する。

今の時間なら、お腹を空かしたハルトマン中尉達が蒸かした芋を際限なく食べようとするのを止めるために厨房にいるかもしれないからだ。

 

私のベッドで眠っていたサーニャを起こすと、どういうわけかサーニャは私に着いてきたがった。

夜間哨戒が主な仕事であるサーニャは、基本的に昼間は眠っているので他の皆と比べるとアイツと接する時間が少ない。

そのせいかは分からないが私にはサーニャがどこかエミヤを苦手にしているように感じられていた。

 

――――もしかするとそれを克服する機会を窺っていたのかもしれない。

エミヤのくせにサーニャに仲良くしようとしてもらえるなんて……、んぐぐうらやましい。

 

「エイラ? どうしたの、歯ぎしりしてるけど……」

 

「い、いやなんでも……あっ、ほらもう食堂だゾ」

 

食堂では予想通りにハルトマン中尉とバルクホルン大尉、そして意外なことにミーナ中佐が揃っていた。

さしずめカールスラント組とでもいったところか、面子としては何も珍しいことはないが普段書類仕事に忙殺されているミーナ中佐が食堂にいるのは珍しい。

目標であるところのエミヤはいなかった。

 

「あら、サーニャさんにエイラさん。こんにちは」

 

「こんにちは、ミーナ中佐」

 

「おーっふ、お前はひも食へうかー」

 

「あ、こらエーリカ。口に物を入れたまましゃべるな」

 

三人の前には皿にのった大量のフィッシュアンドチップスが、自分がこのテーブルの支配者だとでも言わんばかりに鎮座していた。

ミーナ中佐はあくまで上品に、中尉は口にパンパンに詰め込みながらこのブリタニアの代表的適当料理を食べている。

うん、見ているだけで胸やけがするな。

 

「それ、どうしたんダヨ。てっきり中佐たちにはイモを茹でるくらいの料理しか出来ないのかと思ってたんだけどナ」

 

「そ、そんなことありません! ほ、ほらトゥルーデなんてお菓子を作るのが上手だし!」

 

「ん、何か言ったかミーナ?」

 

中佐は不自然に慌て出したが、当の大尉は中尉の口を拭くのに一生懸命で聞いていなかったようだ。

 

「んー怪しいナ。大尉が料理……しかもお菓子なんて」

 

「本当よ、エイラ。以前頂いたけどとってもおいしかったわ」

 

んな、な、なななななななにぃぃぃ!

サーニャに手料理を食べてもらえるなんて……!

私が作ろうとしても

……そんな、悪いわ。今お腹空いてないし無理しなくてもいいわ、エイラ。

としか言ってくれないのにぃぃぃ。

それに堅物の大尉がお菓子なんて……はっ、まさか餌付け!?

最近気付いたが大尉はおそらく重度の妹好きだ。

そこから導き出される答えはひとつ!

きっとひそかに『501妹ハーレム化計画』を進めているに違いない。

ん? 待てよ。

妹→可愛い、守りたい→サーニャ→可愛い→サーニャ可愛い!

 

――――サーニャが危ない!?

 

 

「さーにゃんー、さっきからエイラがカタガタ震えてるんだけど大丈夫かなー」

 

「大丈夫ですよ。いつものことです。……それで、やっぱりその料理は大尉がお作りになったんですか?」

 

「いや、私じゃない」

 

「私達がイモを茹でようとしてたらねー、エミヤがそんな雑な料理、許せん。とかなんとか。いよいよ小姑じみてきたなー、にしし」

 

「小姑って……まぁ、とってもおいしいからサーニャさんもどうかしら」

 

「あ、はい頂きます。……ん、サクサクしてるのに味わいがあって……おいしい。ほら、エイラ、帰ってきて」

 

「もがぁっ」

 

!?

口の中に急に何かが突っ込まれた、サーニャ?

食べろということか……む、おいしい。

まだほんのり温かい、かつサクサクした食感、そしてほんのりかおる程度のビネガーがくどさを感じさせない……まさに一流を通り越して超一流のF&C!

ブリタニア適当料理だと決めつけるのは失礼だったか。

 

「それで、アーチャーさんがどこにいるか分かりませんか?」

 

「あっそうそう、私達今エミヤを探してるんダ」

 

ふー、本当の目的をすっかり見失っていたよ。

危ない危ない。

 

「すまないが、分からん。これを作って行ったのも十分くらい前だし……」

 

「それもこれもミーナがエミヤに家事押し付けるから……」

 

「なんだ、中佐だったのか、アイツに家事やらせ始めたのは。おかげで水を得た魚みたいにピチピチ元気になってるヨ、アイツ」

 

この間ルッキーニがぽつんと、マーマみたい、と漏らした時には私も思わず納得してしまった。

あの邪険にできないうっとうしさはまさしくお母さんだ。

 

「そ、それは彼が暇そうにしていたからで! コホン、まあとにかく、エミヤさんを探しているならハンガーに行ってみたらどうかしら」

 

「あー、確かにたまに整備の手伝いしてるよね。私達より整備兵の方が仲いいんじゃないかってくらい」

 

「男一人で女性の中にいるっていうのも気を使うんじゃないか?」

 

いや、アイツがそんな事を気にするタマだろうか?

きっとまだ見ぬ変態性が隠れているに違いない。

 

「よし、じゃあハンガーに行ってみるヨ。ありがとナ、……行こうサーニャ」

 

「ええ。ありがとうございました」

 

「ほーい」

 

気の抜けた感じでヒラヒラ手を振る中尉を後目に私達は食堂を後にした。

 

――――彼女達はあの、未だに山と積まれた油料理を三人で平らげるのだろうか?

 

そら恐ろしい考えを振り払うように私は足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーニャととりとめもない話をしながら一階の廊下を歩く。

昨日は月が綺麗だったとか他のナイトウィッチと交信できたとか、正直こうしているだけで幸せなので、私はエミヤのことなど既にどうでもよくなってきてしまっていた。

しかしそんなささやかな幸せは、この騒がしい基地の中ではあまりに脆い。

ふと窓の外を見て、ああ今日はいい洗濯日和だとか柄にもないことを考えてしまったせいなのだろうか。

 

「んなっ、何をやってるんですのあなたはー!!」

 

私達の間にゆったりと流れていた平和な空気は、ペリーヌのヒステリックな叫び声で一瞬にしてめちゃくちゃにされてしまった。

 

「なんダヨもー」

 

「見てエイラ、アーチャーさん」

 

そう言ってサーニャが指差した窓の外には、怒りのあまりメガネをずらして震えているペリーヌと大量の洗濯物、そして私服姿のエミヤがいた。

 

 

「ツンツン眼鏡もよく飽きもせずにどなるよナー」

 

「そんなことを言ったら失礼よ、エイラ。……それにしても何をもめているのかしら」

 

「ちょっと隠れて見ていよう」

 

「ダメよエイラ。止めないと……!」

 

「心配しなくてもツンツン眼鏡はいつもあーだっテ」

 

心配そうにするサーニャをなだめて、私達は庭に通じる出口のところに隠れて様子を見守る。

二人がいるのはいつも宮藤達が洗濯物を干す、海に面した広場である。

青々とした芝生がまぶしい。

 

顔を真っ赤にしたペリーヌは、珍しく身振りも大仰に何かを訴えようとしていた。

 

「い、いいから早くそれから手を離しなさい!」

 

「む、そう言われても持たないと干せないだろう。これが一体なんだとい

 

「ああっ! 見ちゃダメええ!」

 

「ん? なんだ、これは君のズボンか。何、私は別にどうも思わんよ」

 

それはそれで少し失礼な気もするが、まぁとにかく何か犯罪に繋がるようなことではないらしい。

だが誤解が解けかかったその瞬間、エミヤはさらなる問題発言をする。

あぁ、そういえば―――、と前置きをしてから、

 

「君がタンスの二段目の引き出しにしまいこんでいる下着、あれは君にはまだ早いと思うのだが、どうか?」

 

ちょっと散歩してくる、とでも言うような気楽さでそう付け加えた。

 

「ほわああああああああい! なんで、あなたが、私のタンスについて知っているんですのおおおおお!?」

 

 

これは……。

面白いことになってきた……けど、本当に犯罪の香りがしてきたぞ。

 

もう少し様子を見、て―――ん?

 

「なんでも何も、ここ最近君達の衣類の洗濯をしていたのは私だが。君も洗濯場に出せば自動で洗われてタンスにしまわれていたとは思っていなかっただろう? 芳佳の負担が大きいのでね、私が買って出たというわけだ」

 

「そ、それは仕方ないですけ

 

「仕方なく、なああああい! お、お前次に干すモノを見るなヨ!? いいか絶対にダ!」

 

私はエミヤの洗濯カゴを見て、思わず二人の前に飛び出していってしまっていた。

そして茫然とする二人に叫ぶ。

絶対に奴が次に手に取るであろう服を見せてはいけない!

 

「いいか! お前が次に取る洗濯物はな、サーニャが大事なイベントがある時にしか着ようとしないサーニャのお気に入りのキャミソもがっ」

 

「エイラ!! なんでエイラがそんなことを知ってるの!?」

 

私の訴えは奴に届く前に顔を真っ赤にしたサーニャに口を塞がれることで止められてしまった。

サーニャの問いに私は胸を張って答えた。

 

「それは、あれは私の一番のお気に入りだからダ! うぐっ」

 

ゴン、と頭に鈍い衝撃を感じた。

……サーニャにチョップされたのか?

な、なんで?

 

――――あぁ、それにしても顔を赤くしたサーニャ可愛いなぁ。

 

「……もう。ごめんなさい、アーチャーさん。いつもありがとうございます」

 

「なに、別に構わんよ」

 

「あぁ、それとペリーヌ。一番下の引き出しにある見事なレイピアのことだが、保存方法が悪い。あれでは剣がダメになってしまう。……今度手入れなどの仕方を教えてやろう」

 

「あ、はぁ。ありがとうございます」

 

そうしてペリーヌの怒りは収まったが、見事に受け流されていることに気付いているのだろうか?

 

「……というかいつまで私のズボンを握ってますのおおおお!?」

 

怒りが再来したらしい。

再び顔を赤くしたペリーヌはエミヤに食ってかかる。

 

「だいたいあなたは、殿方が女性の下着を洗ったり部屋にズカズカ入り込んでタンスを引っ掻き回すことに疑問は感じませんの!?」

 

「君は自分のことを女性というならもう少し慎みを、ん、待て。今下着と言ったな!?」

 

「え、ええそうですがそれがな

 

「これは下着なんだな?」

 

「そうに決まってるでしょう、変なことを聞かないでください」

 

急に雰囲気の変わったエミヤにペリーヌは戸惑ったのか怒るのを中断してしまった。

今の話になにかおかしいところがあっただろうか?

 

「ならばこれの名称はなんだ」

 

「ズボンですわ、さっきから何をおっしゃ

 

「それならズボンは下着なのか?」

 

「そんなわけないでしょう。私達は下着で歩き回る趣味はありませんわ」

 

「だが! さっき君はコレのことを下着と言った、違うか!?」

 

「えっ? そういえば何でそ

 

確かにおか

 

その時突風が吹いた。

その拍子にエミヤが持っていたペリーヌのズボンが空高く舞い上がる。

 

「ああ! 待ってええええええ!」

 

「あ、おい!」

 

さっきまでの疑問を忘れたかのようにペリーヌが自分のズボンを追いかける。

 

――――疑問ってなんだっけ?

 

まぁ忘れてしまったということはそんなに大事なことではなかったんだろう。

ただひとりエミヤだけが狐につままれたような表情をして青空の下で立ち尽くしていた。

独り言のようにアラヤがどうとかガイアがどうとか意味の分からないことを呟いている。

 

「おーいエミヤー! ん? なんだコレは」

 

「ほわあああああ! 少佐ああああああああ! 見ないでくださああああああい」

 

舞っていったペリーヌのズボンはエミヤを呼びに来た少佐の手の中に収まっていた。

……さすがに今回はかわいそうな気もする。

 

少佐はペリーヌにズボンを渡すと、腕組みしてむずかしい顔をするエミヤに声をかけた。

 

「おい、エミヤ? 時間を過ぎているんだが、やはり都合がつかなかったか?」

 

「あ、いやすまない失念していた。これを干し終わったらすぐ行こう」

 

「それは後ではダメなのか?」

 

「わ、私がやります少佐! エミヤさんを引き留めたのは私ですので」

 

意外なことにペリーヌが仕事を引き受けると言い出した。

あ、いやさっきの失態を払拭するためか。

 

「お、よし偉いぞペリーヌ! はっはっはつは!」

 

「悪いな」

 

そう言って二人は私達を置いてハンガーの方へ歩き始めた。

そういえば朝少佐と何やら約束してたなエミヤは。

 

「よし、ついていこうサーニャ」

 

「ダメよ。せめてペリーヌさんを手伝ってあげないと……」

 

「うえぇーめんどくさー」

 

「あ、ありがうサーニャさん」

 

私としてはすぐに追いかけて行きたかったが、サーニャが言うなら仕方ない。

確かにこの量を一人はちょっとかわいそうだし……。

 

なにより場所はわかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚いたことに半分以上終わっていた仕事を終わらせるのに、三人がかりでも十分以上かかってしまった。

それだけの仕事を普段宮藤達に押し付けていた事実に少し心が痛んだが、それ以上に自分達の効率の悪さに愕然とした。

……物干し竿のかけ方ぐらいは知っててもいいんじゃないかな、ペリーヌ。

 

お礼を言うペリーヌを置いて再びサーニャと歩き始める。

目指すのはもちろん、エミヤが朝呼び出されていたハンガーである。

 

「ハンガーで何してるんだろう。エイラは知ってるの?」

 

「さぁナー。まぁどうせ大事なことではないダロ。……あっ、ストライカーでも履かせるんじゃないか? ハハ」

 

「……その、アーチャーさんにストライカーの話。たまに聞くけど、本気なの? なんでそんな……」

 

もちろん本気だし、理由はエミヤが困ってる姿とか面白そうだからだ。

まぁサーニャの手前そんなことを素直に言えるはずもないので、いたって平静(・・)であることを装ってそれらしい理由を口にすることにした。

 

「もちろん本気サ。り、理由は、あーあの。……あっほら、エミヤが参加できる戦闘が増えるダロ? そしたら戦力がこう……ナ?」

 

「ウソ」

 

うっ。

そんな真っ直ぐな目で私を見ないでくれサーニャ。

 

「……もう。洗濯のこともそうだけど、私達結構知らないところでアーチャーさんにお世話になっているのよ?」

 

「そうかー? まぁ確かに料理は上手いけどサ」

 

「そうよ……、私なんてどうお礼をしたらいいか分からないくらい……」

 

「お礼……? あぁ、サーニャ最近納豆も生の魚も食べられるようになったもんナ」

 

そう。

アイツと宮藤の頑張りで最近納豆を食べられる人物が増えている。

刺身も、欧州では生の魚を食べない文化が多いので、宮藤が刺身を夕餉に並べるとたいそう嫌がられていた。

スオムスでは普通に食べるからサーニャが刺身を嫌がるところを見るのは少し寂しかったのだが、奴らの努力のおかげで最近はそんなことはない。

……まぁ、その点はお礼を言うべきなのかな。

 

「食事のことではないのだけれど……。まぁ確かにエイラはあんまり関係ないから仕方ないのかもしれないわ」

 

「ええ! なんだよそれー! 教えてくれよサーニャー」

 

私がそう問い詰めても、サーニャはまた今度ねと返事するばかりでついには教えてくれなかった。

 

 

 

 

しばらくしてハンガーに着いたが、目標の人物はいなかった。

まったく、ちょこまかと動き回る奴だ。

ハンガー内の時計を見ると時刻はすでに二時半で、エミヤが遅れて行ったとはいえ当初の時間から三十分経っていることになる。

さすがに移動してしまったのだろうか。

 

「エイラ、外を見てみましょう。もしかしたら少佐は訓練のために呼び出したのかも」

 

「ダナ」

 

そうして二人でハンガーの滑走路側の入口まで歩いていく。

未だに高いところに輝く太陽の光に目が慣れてくると、外にはおかしな光景が広がっていた。

 

 

「のわあああああああああ! ストップストーップ! こんなの死んじゃうよ少佐ああああエミヤああああああ!」

 

「にひい! たんのしいい!」

 

「おおすごいぞハルトマン! その調子だ!」

 

「うむ、さすがに501どころか人類のエースだな! ルッキーニもいいぞ! はっはっはっはっは!」

 

……。

 

「……これは、何?」

 

まさしく今の私の気持ちをサーニャが代弁してくれた。

空を飛びまわるハルトマン中尉とルッキーニ、下で歓声をあげるバルクホルン大尉に高笑いをする少佐。

そして滑走路を走り回りながら空へと散弾のように複数の矢を放つエミヤ。

 

……これは関わらない方がいいことのような気がする。

 

「これは訓練だよ。……おっいい動きしてるなあ。いいぞおルッキーニー!」

 

突然後ろから話しかけてきたのはシャーリー大尉だった。

空を舞うルッキーニに向かってぶんぶん手を振る。

 

「あっシャーリー!! 見てー、すっごいでしょー。いたぁっ」

 

「あっばか止まるなよ! あちゃぁ……」

 

「ルッキーニ、アウトだ降りてこーい」

 

大尉に手を振りかえしたルッキーニはエミヤの放った矢に当たったらしく、少佐に言われてすごすご降りてきた。

 

残された中尉は未だに一人でくるくる空を飛びまわる。

 

「で、これはなんなんダ?」

 

「訓練さ、これが大型ネウロイとの戦いに応用されるんだと」

 

訓練ならいつもペイント弾を使用した模擬戦をしているのに。

それとなにか違うんだろうか?

 

「違うさ。……そうだな、私達が普段している模擬戦はどういう形式のものだ?」

 

「……えっと、単純に一対一や、ロッテを組んでの二対二などです」

 

「それじゃあその目的は分かるか?」

 

「……機動力を上げるためじゃないのカ?」

 

空中での一対一は、言い換えれば背後の取り合いである。

いかに相手がついてこれない加速、軌道を取るかの戦いだ。

二対二はそこに作戦が絡んでくるが、基本は一対一の延長上。

ならば機動力の訓練と言っても差し支えないはずだ。

 

「そうだな、エイラの言うとおりだ。そして、その先に見えるのが本番での……まぁ格闘戦だ」

 

空では中尉が変則的なバレルロールを決め、予備動作なく急降下を始めたところだった。

滑走路のエミヤに向かってペイント弾を掃射するがあと一歩のところで命中しない。

エミヤが移動した後にはオレンジのまだら模様が出来ていく……誰が掃除するんだろうか。

 

それを眺めながら大尉は、私達の反応を気にしつつも話を続ける。

 

「格闘戦は本来小型から中型のネウロイ、まぁラロスなどとの戦闘において有効なんだ。それも少数のね」

 

「事実一昔前まではどこの戦線でも主な戦法は格闘戦だったな」

 

バルクホルン大尉が話に加わってくる。

中尉はどうやら今の一瞬で撃墜されたらしく、動きを止めたエミヤのもとへゆっくり降下していっていた。

 

「だがそれもこの大戦の初期まででな、今は集団戦法が中心だ」

 

「それはなんでですか?」

 

気付くとどこからともなく宮藤が現れていた。

もう全員集合しそうな勢いだ。

 

「大型の台頭さ。宮藤は見たこと無いかもしれないけど、小型や中型は大型とは違って攻撃できる方向が限られているからね。向こうも私達を攻撃するためには格闘戦に持ち込むしかない」

 

「だが大型は違う。宮藤も知っての通り、奴らは基本的に全方位死角無しの固定砲台。わざわざウィッチの格闘戦に付き合う必要は無いということだ」

 

「へぇー、全然知りませんでした」

 

驚く宮藤に対して大尉二人は話を続ける。

 

「理由はそれだけじゃないんだ。発生当初のネウロイはそれこそ、与えられた刺激に反応しているような……そう、あくまで無機的で知性の感じられない敵だった」

 

「だが奴等も次第に知性を獲得したのか、陽動やゲリラ戦といった戦術的な攻め方をするようになる。人間のように軍隊的な規律の取れた中隊もみられた。そんな中で、敵もウィッチに格闘戦では勝てないと学習したのか、格闘戦の誘いにのらない機体も増えて来てな」

 

「なるほどー」

 

リレーして話す二人。

そこにストライカーを抱えたルッキーニが駆けてくる。

……飛んでこいよ。

 

「芳佳って何も知らないんだねー。……ね、ビーム撃たないで銃弾を放つネウロイもいるんだよ」

 

「ええ! うっそだー。ルッキーニちゃん私が何も知らないからってからかってるでしょー」

 

嘘ではない。

私もルーッカネン分遣隊にいたころに何度か爆弾搭載型なども見る機会があったが、海上に出てこないネウロイにその傾向が大きいように感じる。

……それにしても

 

「オイ、話逸れてるゾ。……時代が格闘戦じゃないってことはわかったから、そろそろこの訓練の意味を教えてくれヨ」

 

「それは私が説明してやろう!」

 

私の問いにはいつの間にかこちらまで歩いてきていた少佐が答えた。

その後ろからは、これまたストライカーを抱えた中尉とエミヤが会話をしながら着いてきている。

……飛んでこいよ。

 

 

 

 

「その前に、今ここに何人いる? いずれ全員に説明することになるからな、一度に説明してしまいたいんだが……」

 

「ミーナ中佐以外全員いますわ、少佐」

 

あっ、ペリーヌまでいつの間に。

前から怪しいと思っていたけど、こいつもしかして常に少佐のことをつけまわしてるんじゃ……。

 

「うむ、それは良かった。ミーナにはすでに伝えてあるから心配しなくていい」

 

中佐はおそらくまた執務室に戻って書類仕事だろう。

少佐は満足げに頷くと、私達を見渡して説明を始めた。

 

「では、これから対大型ネウロイ模擬戦闘訓練の説明を

 

「えー、名前は『エミヤのストレス解消訓練』にしようって言ったのにー」

 

「……エーリカ、君はもう少し慎みとか遠慮といった振る舞いを覚えたほうがいい」

 

苦い顔をしたエミヤがまなじりを押さえながらそう呻く。

まぁエミヤの意見には賛成だが、正直エミヤのストレス解消っていうのもあながち間違いではないように感じる。

そんな二人の会話など気にも留めずに少佐は話を続けた。

 

「説明を続けるぞ。……まずこの訓練を通しての最終的な目標を確認すると、まぁ簡単に言えば大型に対する単独対処(・・・・)能力をつけることだな」

 

単独対処?

……それはいずれ大型と一対一になる状況が訪れる、ということだろうか?

他の統合戦闘航空団に比べると比較的人員が豊富な501にそんな訓練が必要とはとても思えない。

周りを見渡すと私と同じ疑問を持ったらしい奴が首を傾げていた。

そんな私達を代表してリーネがそれを尋ねると少佐は間髪入れずに力強く頷いた。

 

「お前達も知っているだろう。最近のネウロイは行動パターンが変わってきている、…………だがその表現は正しくない」

 

誰もが今ばかりは少佐の話に耳を傾ける。

先程までバカ騒ぎに興じていた少佐はなりを潜め、彼女は今や立派な一人の軍人の威厳を持って私達に語りかけてきていた。

 

「奴らは常に進化してきた! 流水の克服やバルクホルンの言った知性の獲得もそうだ、いや本当に知性を獲得したのかは分からないが……、とにかくこの先この戦いがどうなるのか分かる者は誰もいない。そんな進化する相手に対していつまでも同じ戦いを続けられると思うか?」

 

少佐の問いかけに首を振る者はいない。 

 

……参ったな、エミヤ観察しに来ただけなのに気付いたら深刻な空気になってしまった。

 

「今回の戦争の発端である扶桑海事変からすでに八年経とうとしている。だが戦いの終結はまだ見えない。……だからこそ! 栄えある統合戦闘航空団である500番台の中でも、序列が一番最初に来る我々が未来を切り開く一石を投じるべきなんだ!! ……そう、私は思った」

 

「そしてこの訓練がその試金石となる、そうよね美緒?」

 

そうして501全員が滑走路に集合した。

 

 

 

私達は人員に恵まれているが、いつ何が起こるか分からない。

そもそも本来統合戦闘航空団は理想ではウィッチが14人必要なのだ。

他と比べて11、いや12人と一番多い私達でもその人数には足りていない。

そして私達の配置はブリタニアを守る上での最重要拠点であり、ここが落ちることはすなわち欧州全域を敵に明け渡すことを意味する。

だから万が一があったとしても、たとえ一人でも奴らと渡り合いここを守り通さなくてはならない。

その最悪のケースを想定してのこの訓練なのだそうだ。

 

二人が語った内容をざっとまとめるとこんなところだった。

前々からその必要性は感じていたらしいのだが、いかんせん砲台(ネウロイ)役となるモノがそう簡単に見つかるはずもなく、今まで断念していたそうだ。

だがエミヤなら無尽蔵に複数の(ビーム)を同時に放つことが出来、銃の精度を上げる面でも彼の素早さが役に立つ。

……まさに敵役として適役というわけだ……ふふ。

 

「また、人員がさらに豊かになったからな。欠員が出た他の部隊への隊員の貸し出しという依頼も請け負おうと考えている。もし選ばれたときは……まぁそんなに長い期間じゃない。我慢してくれ」

 

「欠員が出た部隊にはすみやかに本部から補充が来ると思うから、面倒な書類仕事の存在を加味したとしても最長……まぁ悪くて二ヶ月といったところね。今度エミヤさんのことも含めてその旨を本部に伝えてくるから、頭の隅には入れておいて頂戴」

 

そう二人は締めくくった。

まぁ訓練のことは良く分かったけど……、最後の貸し出しの話は少し、まずい。

貴重なナイトウィッチであるサーニャが選ばれることはないだろうけど、もしも私が選ばれたら……。

想像するだけでも恐ろしい!

長くて二ヶ月サーニャと離れ離れになるだって? 無理だ!

一週間だって胸が張り裂けそうになるっていうのに……!

 

「……とまぁこんなところか。いや、つい熱くなってしまったな。はっはっはっは!」

 

「いえ! とっても素敵な演説でしたわ、少佐!」

 

「貸し出しかぁ……、寒いところは嫌だな」

 

少佐の高笑いをきっかけにいつもの騒がしい501に戻ってきたころ、宮藤がおずおずと申し訳なさそうに声をあげた。

 

「あのー、ちょっといいですか? ……肝心の訓練のやり方が良く分からないんですが……」

 

「ん? ……まぁ確かに口頭では分からんところもあるだろうし、実践して見せた方がいいな。ハルトマン、もう一本いけるか?」

 

宮藤の言い分ももっともだというように少佐は頷いて中尉の方を向いた。

 

「むりー、だってエミヤ殺す気で来るんだもーん。私疲れちゃったよ」

 

「安心しろ、刃はつぶしてある。間違っても死ぬことは無いだろう」

 

「……そういう問題じゃないと思うんですけど……」

 

「……じゃぁルッキーニは……寝てるな。まぁ今回は許してやろう」

 

先程実践していた二人は使えないと見ると、少佐は値踏みをするように私達を見まわした。

……非常に嫌な予感がする。

 

「そういえば、エイラ。お前は固有魔法のおかげで実戦でシールドを張ったことが無いと前に聞いたんだが……本当か?」

 

「いや、本当じゃないゾ」

 

はたして嫌な予感は的中した。

だがサーニャの目の前で無様な姿をさらすわけにはいかない私は、即プライドを投げ捨てて刺さった白羽の矢を引き抜いた。

 

「本当です、少佐」

 

「サ、サーニャ! なんで!」

 

「ウソは良くないわ、エイラ。それに私はエイラが他の二人に負けないくらいすごいって知ってるから」

 

「う、うん。ありがとナ」

 

思わずお礼を言ってしまう。

思わぬところで叛旗がひるがえったが、サーニャの真っ直ぐな目を見て私の覚悟は意志とは無関係に決まってしまった。

なに、死ぬわけじゃなし。

たまにはサーニャに(おとこ)を見せなくては。

女だけど。

 

「分かったヨ。……テストパイロット、やればいいんダロ?」

 

「おお! やってくれるか! テストには天才型の二人を選んだんだが、勘がよさそうだったからな。だがお前なら引けをとらないはずだ、固有魔法、未来予知の真価を見せてくれ」

 

「おうヨ!」

 

「……ほう? 未来予知か、面白い。私の心眼がどこまで通用するか試させてもらおう」

 

見ててくれサーニャ。

きっと私は勝つ、あの変態家政婦野郎を縁日のカラーヒヨコばりにオレンジに染めてやるぜ!

 

……ところでエミヤ、さっきよりやる気になってない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どわああああああああ! うおおおおおおい待ってストップ、死ぬううううううう!」

 

 

 

数分後。

私は安請け合いした自分を後悔した。

赤く塗ってある矢はネウロイのビームのつもりなんだろうか? なんとも心憎い演出だ、頭が痛い。

 

 

とにかく、あんまりできていなかったかもしれないが今日一日エミヤを観察した結果。

 

こいつは、…………良く分からん。

ただ、今の状況を見るに鬼畜、そしてバカの要素はあると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなものでは無いだろう未来予知! 逃げてばかりでは私は倒せんぞ! ふははははは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………訓練名。『エミヤのストレス解消訓練』にするか、やっぱり」

 

 




最後の方なんか勝手に坂本さん演説し始めるんだもん。
怖いわー扶桑人とかいう人種はきっとサイヤ人並みの戦闘民族だよ。

今回いろいろ以後につながることがありました。

それと気づいたらリーネちゃん以外全員しゃべっているというカオス。
かわいそうだから一つだけセリフを入れたんですがお分かりいただけたでしょうか。

次回はいい加減世界説明かな?

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