(仮)第501統合戦闘航空団専属家政婦エミヤシロウ   作:にんにく大明神

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またグダりました。
もう病気ですねこれは。

今回は文字数はありますが中身はほとんどありません。


基地探訪 ~エミヤの受難その1~

 Erica Hartmann

 

 

トゥルーデにおんぶされながら基地に帰投するとミーナが駆け寄って来た。

私が負傷したと勘違いしたらしい。

ただの魔法力切れだと告げると、ミーナは今にも泣きだしそうな顔で私とトゥルーデを抱きしめた。

 

「私がちゃんとこの魔眼で避ける瞬間を見ているというのに、まったくミーナは心配性だな」

 

「それに私はちゃんと彼女達が避けられると確信するまで矢を放つのを待っていたのだが、……よもや私が二人を巻き添えにすることを厭わないとでも思っていたのかね」

 

そう言ってこの私達が召喚した英雄は不機嫌そうな顔をする。

その様子がなんだか拗ねている子供のようで、私にはなんだか急にこの英雄が好ましく思えてきた。

……えーっと、名前は確か、んーなんだっけ?

あ!

そうそうエミヤだエミヤ。

なんだか扶桑人っぽい名前だなぁって思ったんだった。

それより絶対ジークくると思ったんだけどなぁ……。

坂本少佐の扶桑刀に負けたのかぁ。

 

 

「う、でもあんなの見せられちゃったら誰だって怖くなってしまうでしょう! ねぇ?」

 

私達から離れて急に恥ずかしそうに顔を赤くするミーナ。

 

「そうか? 私には溜めがやけに長いように見えたんで普通に待ってくれてるものとばかり……」

 

「お、少佐もそう思ったか? 途中から明らかに魔法力の増え方がとまったからなあ、私もそう思ってたよ。……なぁ? ルッキーニ」

 

「んーえっとねぇ、私ねぇ、……見てなかった!!」

 

「私はよく分かんなかったけど、今日の占いはいいことしか出てなかったからあんまり心配してなかったナ。サーニャは?」

 

「……ごめんなさい。……実は私もよく見てなかったの……」

 

「ええ! そんなぁ。私すごく怖くて思わず叫んじゃったよ……」

 

ミーナの質問に宮藤以外のみんなが首を傾げていた。

さらに赤くなるミーナ。

久しぶりに可愛いミーナをみたなあ。

 

それにしても、今までのみんなの話を総括すると……、

 

「ね、ねえ! もしかしてさっきの飛んできたやつって……」

 

「あぁ、ここにいる、このエミヤが撃った()だ」

 

「ええ! 矢!? ウソでしょ……。私てっきり大砲かなんかかとお

 

「バカな! そんなわけあるか! 大砲でもあんな威力はありえないというのに、まして矢だと? ありえん!」

 

今までずっと黙り込んでいたトゥルーデが怒鳴った。

でも正直私もその意見に同感だ。

だってあんなの見たことない。

軍艦の砲撃、それにネウロイのビームだってあんなにすごい威力はない。

私はチラと未だに不機嫌そうな顔で腕を組むエミヤを見た。

まだ恥ずかしそうなミーナと何やら会話をしている。

 

……やはり信じられない。

名だたる英雄達はみんなビームを出すものだとみんなに言ってまわってしまったが、どうやら本当の英雄はビームなんてもんじゃないらしい。

女性ならウィッチ、男性ならビームを戦術価値の基準にしようと提案した私だけどさすがに認識を改めないとな……。

 

あ、トゥルーデまだ怒鳴ってる。

いや……違うな。

アイツどうやったのかは知らないけどすでに矢の話じゃなくて説教に移行してるわ……。

ご愁傷様シャーリー、ってうわこっち来んな!

 

「なーハルトマン、アレどうだった? エミヤの撃ったやつ。この堅物カールスラントに聞いても教えてくれないんだよー」

 

シャーリーはトゥルーデの説教などまるで気にしていないようだ。

どうやらエミヤの矢がネウロイを粉砕した様子が知りたいらしい。

 

「んーなんていうか、凄かったよ。……どんくらい凄かったかと言うとー、……なんとビックリしたトゥルー

 

「おい! やめろハルトマン何を言う気だ!」

 

「なんだよ邪魔するなよ。私が今から堅物大尉様の武勇伝聞くんだから」

 

 

そしてカールスラントハンバーグの話をするとシャーリーはこっちが心配になるくらい爆笑していた。

 

本当は本気で死を覚悟するくらいヤバかったんだけど、実際はそんなおそろしい話ではなかったらしい。

基地にいたみんなの心配してなさ加減には、正直驚きを通り越して少し呆れたよ。

 

 

夕焼けの残りカスともいうべきオレンジをなかなか手放さなかった春の空も、ようやく諦めたのか次第に暗くなっていった。

そしてやっと自分達がいつまでも無駄に外にいたことに気付いた私達は基地の中に戻っていった。

 

その日の夜はさすがにサーニャんの夜間哨戒も無くなり、ミーナの強い要望もあって久しぶりに501全員そろって夕食を食べた。

今日新しく基地に来た奴は最初、

私は食事を必要としない

などとのたまっていたが、宮藤があんまりしつこく食べるように言うものだから諦めて夕食の席に加わった。

 

 

 

こうしてもしかしたら私の人生で一番濃密だったかもしれない一日が終わった。

 

明日は一日中布団の中にいるぞ!

絶対にだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は普段やかましいカールスラント目覚まし時計がなかなか鳴らない。

ということは非番にでもなったのだろうか。

 

「ハルトマンさーん。今日は非番らしいでーす。―――。―――――」

 

よし!

宮藤も非番だと言っていることだし寝よう。

……最後なんて言ってるか分からなかったけど。

 

「りょーかーいぃぃぃ。おやすみぃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クソ!

どうしても起きなければならないのか!

……いや、しかし私は昨日自分に誓ったはずだ、

 

―――今日はベッドから起き上がらない。

 

そんな自分の言葉すら貫けないのか私は!

 

だが状況はかなり逼迫していることも事実。

これが自らの命とその誇りを天秤にかけながらしか生きられないカールスラント人の悲しき性か……。

理想をとるか、現実に屈するか。

トゥルーデ、私どうしたらいいのか分からないよ。

 

―――いいか、ハルトマン。私達カールスラント軍人はその

 

あ、ダメやっぱり我慢できない。

やっぱり空腹を我慢するのってよくないよね。

今だけ特別ルールってことで、さっさと食堂行こう。

 

私は脳内にまで出張説教しにきたトゥールーデを意識の隅に追いやり、居心地のいい布団を抜け、

布団などなかった……ここ床じゃん。

まあいいや。

 

時間は……11:30か。

さすがに朝ごはんは残ってないだろうけど、宮藤かリーネを探せばきっと作ってくれるだろう。

自分で作れ?

そうしたいのはやまやまなんだけど、ミーナとトゥルーデに厨房を出禁にされてるもんでね。

なんか書類まで書かされたし……。

 

 

 

 

食堂には誰もいなかった。

諦めて宮藤を探しに行こうとする私だったが、テーブルの上を見て驚愕した。

 

ハルトマンさんへ

今日の朝ごはんです。

少し冷めてるかもしれません。ごめんなさい。

食器はそのままにしておいて結構です。

 

 

……なんというか、宮藤、お前はいいお嫁さんになる。

なんだったら私がもらってやりたいくらいだ。

 

 

 

「いっただっきまーす」

 

私の声ががらんとした食堂に寂しく響く。

宮藤の朝食は冷めていてもおいしかった。

その内ペリーヌの言う腐った豆も挑戦しようかな。

 

それにしても今日はやけに基地が静かだな……。

非番の日ならいつも食堂に一人二人いるはずなんだけどなぁ。

あとで探しに行こうかな。

なんか眠るのも飽きたし。

 

「ごちそうさまー」

 

さて、探しに行こうか。

食器をそのままにするのは申し訳ない気がしたが厨房に入れないんじゃしょうがない。

ごめんなさいと書置きを残して私は食堂を後にした。

 

 

時間はもうすぐ正午になろうかという頃。

まず一番最初に最悪のパターンの可能性をつぶしておこう。

最悪のパターンというのは全員が作戦会議室でミーティングをしている場合だ。

遅れて入っていくとミーナの顔が非常に怖いことになってしまう。

そして当然奴もうるさい。

 

 

 

 

作戦会議室の扉を開ける。

開ける前から結果は分かっていた。

……はぁ、中から話し声が聞こえるよ。

 

重い扉を開けるとやはり全員そろっていた。

 

「あらフラウ遅かったわね」

 

「ご、ごめん。ミーナ」

 

ミーナの顔が人のままだ。

 

部屋の奥の黒板の前にはエミヤが立っていた。

服装は昨日の赤い外套にボディーアーマーという出で立ちではなく、黒のワイシャツに黒の長ズボンという極めて平凡な恰好。

……ミーナが用意したんだろうか。

腕は組んでいるが今は別に不機嫌そうな顔はしていない。

黒板の脇にはいつものようにミーナと坂本少佐が立っていて、他のみんなもこれまたいつものように思い思いの場所に座っている。

私も適当に座ろうとすると坂本少佐が口を開いた。

 

「あとはハルトマンだけだな、立ったままでいいぞハルトマン」

 

「今アーチャーさんにみんなで自己紹介をしていたところなの。……あとはフラウだけよ」

 

なるほどそういうことだったのか。

これでミーナがあんまり怒っていない理由がわかった。

今さら私が他の501メンバーの自己紹介を聞いてもしかたないということだ。

 

それにしても、ふむ、自己紹介か……。

よし、

 

「遅刻して申し訳ありませんでした! 自分は、エーリカ・ハルトマン中尉であります!  原隊はカールスラント空軍、趣味は読書、得意なことは整理整頓で、今後の目標は一刻も早く欧州をネウロイから取り戻すことです!」

 

そう言ってビシっと敬礼てみせる。

 

……決まった!

みんな驚いただろうな。

ミーナなんて感動して泣くかも……にしし。

 

私はこの自分のちょっとしたイタズラの効果を見ようと周囲を見渡す。

あれ……反応がおかしいな。

 

エミヤはなにやら残念なものを見るような目でこちらを見ている、なんか腹立つ。

ミーナは苦笑い、宮藤リーネまで苦笑い。

やれやれという表情で溜め息をつくペリーヌ。

シャーリーに至っては頭を抱えている。

トゥルーデはなにやら気が抜けている様子で、おそらく私がこの部屋に入ってきたことすら気付いていないだろう。

……何故だ。

 

唯一坂本少佐だけは少し嬉しそうな顔をしながらいつもの高笑いを始めた。

 

「はっはっはっは! お前がそんなに志高い軍人だったとは知らなかったぞ! 」

 

「……それじゃあ美緒、この二人でいいかしら? 」

 

「うむ、問題なかろう。」

 

なんの話だろう。

二人?

 

「はい、それじゃあ一通り紹介も終わったのでこの後の予定を話します。もう既に知っている人もいるかと思いますが、本日は非番とします。外出したい人はいつもみたいに申請をしてくださいね。予定では4日後にネウロイが現れることになっていますが、みんなも知っている通り最近の予測はあてにならないのでいつでも出撃できる準備はしておいてください。以上です。」

 

要するにいつも通りってことだね。

やっぱりなんか眠くなってきたからまた眠りにいこう。

 

解散しようと席を立つとミーナが呼び止めてきた。

 

「フラウ、シャーリーさん。ちょっといいかしら。」

 

うわ、なんか嫌な予感が……。

私は黒板の前まで段差を下っていった。

それにしても私とシャーリーって珍しい組み合わせだよなぁ。

 

「来たか。二人はこれからエミヤに基地を案内してやってほしい。貴重な休日ではあるが、……まぁ模範的な軍人であるお前達なら嫌な顔一つしないでやってくれることだろう」

 

「え? ちょっとま

 

「お願いね。」

 

「あ、はい」

 

……ミーナが出すプレッシャーは正直世界を狙えるレベルだと思うんだ。

あーあ、もう一眠りしたかったんだけどなぁ。

 

横のシャーリーの様子を窺う。

シャーリーも嫌がりそうだと思ったけどそうでもないらしい。

満更でもないとでも言うかのように頬をぽりぽり掻いている。

昨日バイクを修理に出したいとか言ってた気がするんだけど、……気のせいか。

ていうかなんでシャーリーもなんだろう?

 

「はぁ、仕方ないなぁ」

 

 

 

「それじゃあアーチャーさん。この二人が基地を案内してくれるそうなので」

 

「いや先程も言ったと思うが、案内ななどなくても私は自分でみ

 

「それと重ねて言いますが、くれぐれも今日の朝した約束をお忘れにならないようお願いしますね」

 

「……了解。まったく、君はいい性格をしているよマスター(・・・・)

 

「何か言いましたか?」

 

「……気のせいだろう」

 

 

うわぁ……。

早速ミーナの尻にしかれてるよ、かわいそうに。

やはり英雄が一人現れた程度の変化ではミーナの盤石な501支配は揺るがなかったか……。

 

それにしても、だ。

今の話には大分気になるワードが含まれていた。

約束、それにマスター。

ミーナめ、私が眠っている間に随分と面白そうなことをしていたみたいじゃない。

シャーリーも私と同じことを考えているのだろう、目が少年のように輝いている。

 

 

「よーし、行こうぜエミヤ!」

 

「うん、早く行こう!」

 

「おぉ! お前たち気合が入っているな! はっはっはっはっは!」

 

こうして私達は、高笑いをする坂本少佐と不自然なまでにニコニコしているミーナを置いて作戦会議室を後にした。

 

 

 

扉から出て数歩ほど歩き始めたころでエミヤが口を開いた。

 

「イェーガーとハルトマン……だったか?」

 

唐突に私達の名前を確認してきた。

シャーリーはやけに嬉しそうな顔をしてエミヤの背中をバンバン叩く。

 

「おお、もう覚えてくれたのかぁ! ……でもその呼び方はやめてくれるかな。固っ苦しいのは好きじゃないんだ」

 

「ふむ、それではなんと呼べばいいのかな?」

 

「苗字じゃなけりゃなんでもいいさ。基地のみんなはシャーリーって呼ぶけど、別にシャーロットでも愛しのハニーでもなんでもかまわないよ。ははっ」

 

うわーお!

いきなり攻めるねぇ、シャーリー。

 

「それではシャーリーと、……君もか?」

 

エミヤはシャーリーの冗談を華麗にスルーした、というより普通に無視した。

残念そうな顔をするシャーリー。

 

それにしても私か……

本当は呼び方なんてなんでもいいんだけどなぁ。

でもこの流れで私だけ苗字っていうのも距離がある感じがするし。

 

「私はなんでもいいや。……あー、でもエーリカってあんまり呼ばれないかも……珍しいからエーリカで!」

 

「了解した。これからよろしく頼む、シャーリー、エーリカ」

 

……コイツはもしかすると結構真面目な奴なのかもしれない、ふと私はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

ここ501の基地は意外と、というかかなり広い。

いろいろ説明しながら歩いていると、なかなか進まないから余計広く感じる。

細々したことを説明するのは正直私もシャーリーも得意な方ではないと思うのだが、エミヤがあれやこれやうるさいのだから仕方がない。

意外と細かい性格をしているんだろうか?

最初は案内なんかテキトーに済ませて質問攻めにしてやりたかったのだが、どうにも本格的な501ツアーになってきてしまっている。

こうして私もシャーリーもなかなか話を切り出せないでいた。

 

 

 

「はあーいここは食堂でーす。昨日来たから分かるよね?」

 

食堂に来た。

中ではルッキーニとエイラがなにやらコソコソ話していた。

……それにしても珍しい組み合わせだ。

 

あとはハンガーを紹介すれば一通り案内し終わるな。

時計を見ると二時を少し過ぎたところだった。

早く質問しとかないと。

 

 

「や、やあこんにちは。今日はいい天気ダナ、あはは」

 

唐突に立ち上がったエイラがなにやら挙動不審な様子で近づいてきた。

 

「おーどうしたエイラ。サーニャも連れずに。」

 

シャーリーの質問にエイラは適当に返事をしつつエミヤの前で立ち止まった。

……なるほど。

アレをやる気か、……正気かコイツ?

エミヤは挙動不審な様子のエイラにもあんまり警戒していないようだ。

 

「なぁエミヤさん、私はちゃんとアンタに自己紹介しておきたくてネ」

 

「あぁ、別に構わないが……」

 

それは良かったと言いながらエイラはエミヤに向き直った。

先程までの挙動不審さは影を潜めている。

 

「それじゃあ改めて、私はエイラ・イルマタル・ユーティライネン、原隊はスオムス空軍で趣味はタロット。昨日の奴すごかったよ、これからよろしくナ」

 

そう言ってエイラは握手を求めるように手をエミヤに突き出した。

 

「む、握手か。正直握手にはあま

 

「フッ!」

 

 

握手をするためエミヤが手を出した瞬間だった。

 

 

 

エイラが消えた、―――否。

軽く残像が残るほど素早くしゃがんだ。

そのままエミヤの高身長から生み出される死角、すなわち足元に最高速を以て飛び込む。

一瞬の息継ぎさえ命取りの超電撃戦、しかし彼女はおよそ完璧とも言えよう理想的な形で素早く収縮した。

そしてそのまま両手を万歳するような形で大きく跳び上がる。

 

「うおおおおおおおお!」

 

腹の底から叫ぶエイラ。

―――そう、彼女は男の大胸筋(おっぱい)を触ってみたかったのだ。

素晴らしいよエイラ、スオムス空軍のスーパーエースに恥じない圧倒的なスピードだ。

……だが甘い。

 

勝負は決したかのように見えた。

握手のために片手を出しているエミヤは完全にエイラを見失っている。

 

さりとて彼もまた世界に認められた一人の英雄。

完全な死角から伸ばされた手を事も無げに残った片手でまとめてつかんで見せた。

 

「ふむ、いいスピードだ、……だがそれだけだったな。正直君が何をしたかったのか全く分からんが、一つ助言をするとすればもう少し戦略を

 

片手でエイラをつまみ上げたまま助言を始めるエミヤ。

心なしか得意気な顔をしている。

ノリノリじゃん……。

 

―――だから足元をすくわれるんだ。

……あまり501、いやコイツらの情熱(クレイジーさ)をなめないほうがいい。

 

「うう……やっぱりダメだったナ」

 

未来予知が使えるエイラはおそらく次の瞬間何が起こるか見えているのだろう。

うなだれている顔は雰囲気とは裏腹に勝ち誇った顔をしている。

 

 

次の瞬間今度こそ完全にエミヤの虚をつく形で後ろからルッキーニが躍りかかった。

 

「しーろーうーのおおお、おっぱいチェーック!」

 

「ッ!」

 

今度こそ決まった、私だけではなくシャーリー、もちろんエイラもそう確信しただろう。

はたしてこのクール気取りはどんな風に恥ずかしがるんだろうか。

 

 

片手はエイラで塞がっている。

状況は誰が見ても詰んでいた。

 

 

 

―――だがそれを覆してこそ弓の英霊。

彼は思考タイムゼロで迷わずエイラを盾にして見せた。

 

 

 

は、速すぎる。

振り返った瞬間が全く見えなかった……。

 

完璧なタイミングに理想的な角度から飛び込んできたルッキーニも、結果エイラを抱き締めるだけに終わった。

 

「ふむ、どうやら戦略もしっかり練っていたようだが、声を出したところに問題があったな。……それにしても、私のききまちが

 

「ゲームセットだ。……アンタの敗因はそ、ってかってえええええええ!」

 

また得意気になっていたエミヤの背後からシャーリーががっちりとその胸を押さえていた。

 

「おいルッキーニ! めちゃくちゃ硬いぞこいつの胸!」

 

「ほんとー! んーどれどれー、……ほんとだ硬い! しかもよしかよりおっきーかも!」

 

「おぉ……これはナカナカ。柔らかいだけがおっぱいというわけでわないのカ。」

 

呆然としているエミヤを尻目に、三人は彼の胸をぺしぺし叩いたり、揉もうとしてその固さ故に揉めなかったことに歓声をあげたりしていた。

どさくさに紛れて私もエミヤの胸に手を伸ばす。

 

うわ……ほんとに硬い。

 

「……これは、一体なんなんだ」

 

エミヤは絞り出すようにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

エイラとルッキーニはひとしきり騒いだあと、みんなにも言ってくるとかなんとか言いながら食堂を飛び出していった。

 

 

「いやー悪かったな、つい楽しくなっちゃってさ。アハハハ」

 

「いや、構わん。……私はさっきの出来事は忘れることにした」

 

遠い目をしているエミヤからはもう聞くなオーラが漂ってきている。

顔には出していないがおそらく相当ショックを受けたに違いない。

 

微妙な沈黙が流れる。

私達は最後の目的地のハンガーを目指す。

 

道中沈黙に耐えられなくなった私は、丁度いい話題があったことに気がついて口を開いた。

 

「そういえばさー、エミヤ」

 

「何かね」

 

案外普通に受け応えるエミヤ。

 

「さっきミーナとの会話で『約束』とか、『マスター』とか言ってたけど、あれってどういうことなの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の質問に対してエミヤはなんの躊躇も見せずにあっさり答えた。

正直拍子抜けしたくらいだ。

 

 

その話は簡単にまとめるとこういうものだった。

 

まず約束についてだが、なんでも、エミヤはよほどバカげた命令でない限りミーナの言うことを聞かないといけないらしい。

ミーナも彼を完全に束縛したいという訳ではないようだが、やはりきちんと首輪をつけておかないと信頼できないみたいだ。

 

そしてこの『約束』はネウロイとの戦いに関しても言及されている。

 

基本戦闘時に昨日の二射目の矢、宝具というらしい、アレのような味方を巻き込みかねない威力をもった攻撃は禁止(・・)

やむを得ない場合でもきちんとミーナの許可をとる必要があるとのこと。

 

……確かにアレが後ろから迫っていると思ったら戦闘どころではない。

 

しかし普通に考えてエミヤはこんな『約束』とは名ばかりの命令を聞く義務などない。

 

ここでもう一つの気になるワード『マスター』が関わってくる。

 

ここでいうマスターとは、やはり主人(マスター)という意味らしい。

 

私達は全く知りえなかったことだが、今回私達は本来『聖杯戦争』という儀式で用いられる方法で彼を呼び出したらしい。

その儀式については大変興味深いのだが、まあそれはまた別の話だ。

 

とにかくその儀式では英雄、本当は英霊と呼ぶらしい、を呼び出した者が、本来いない筈の存在である彼らを魔法力で現世につなぎとめ、その代りに彼らを使い魔(サーヴァント)として使役する『マスター』となるんだそうだ。

 

実は私達も気付かないうちにエミヤに魔法力を提供しているらしい。

……全然気付かなかった、本当なんだろうか?

 

ただ、エミヤ曰く魔法力は提供されているが私達はマスターではないんだとかなんとか。

本当のマスターは不明らしいが、どう違うんだろう?

それで、本当のマスターではないという点ではミーナも私達と同じなんだけど、エミヤの手綱を握っておくためにもマスターの代わりをミーナがするらしい。

 

「本当は代わりとかそういうことが可能なものではないんだが、彼女に強く言われてしまっていてね。……余程君達のことが心配なんだろうな。それに無駄に逆らう理由もない」

 

エミヤはそう言って皮肉気な顔をした。

 

まぁ結論から言えば、要するに彼はミーナのわがままに無償で付き合うと言っているのだ。

もちろんミーナは私達のことを思ってこんな無茶を押し通したのだろう。

だがエミヤもエミヤで、口では困ったものだとかなんとか言っている割に不満に思っているようには見えなかった。

薄々気付いてはいたが、コイツ大分ひねくれた性格をしている。

……まあ悪い奴ではない。

 

 

「ふーん、……ミーナは怖いぞー」

 

「……あぁ、知っている」

 

私達の間に微妙な緊張感が生まれる。

ちょっと脅かしてやろうと思ったのだが、どうやらもう何かしら体験したらしい。

……さっすがミーナ。

 

 

 

 

あともう少しでハンガーだ。

この501ツアーももう終わりかと思っていると、思い出したようにシャーリーがエミヤに話しかけた。

 

「あ! 大事なこと聞くの忘れてた」

 

「どうかしたのか?」

 

「ちょっと聞きたいんだけどさぁ、……昨日のアレってやっぱ魔法なのか?」

 

昨日のあのすんごいやつのことだ!

 

「魔法か……、あぁ、あれは投影という、まぁ簡単に言えば物を作る魔法だな。……まぁ私の周辺では魔術といっていたのだがね」

 

魔術?

 

「ほぇーすっごいねー。そんな固有魔法聞いたことないよ……」

 

「それで弓矢を出したのか……。じゃあ! あの凄い勢いで矢を飛ばせたのも? やっぱり超加速の固有魔法? もしそうならちょっとコツとか教えてくれないかなー?」

 

凄い勢いでまくしたてるシャーリー。

それにしても一人のウィッチが二つの固有魔法なんて聞いたことないな……。

投影とかいうのもそうだし。

ていうかまずウィッチじゃないし。

 

「固有魔法? ……矢を飛ばしたのは自分の力だが」

 

「……え、えええええ!? 筋力だけで? ウソでしょ……」

 

「まぁ、威力に関しては違うがな」

 

「なんだ超加速じゃないのか……」

 

私は思わず叫んでしまった。

対称的にシャーリーはがっくりうなだれている。

あぁ……音速突破のヒントが欲しかったのか。

 

私は質問を続けた。

 

 

「魔法使えるってことは魔法力あるってことだよね?」

 

「あぁ、私が考えているものが君達の言う魔法力と同じなら、まぁそういうことになるな。」

 

……随分と回りくどい言い方だ。

さっきから思っていたが、エミヤは何かを隠している。

この短時間で見えてきた範囲での彼の性格を考えると、まぁおそらく私達の害になるようなことではないんだろう。

でも気にはなるな。

 

それにしても魔法力を持っている男性か……。

現代では見たことも聞いたこともないが、神話とかだとそういう人もいたらしい。

そう考えるとそんなにあり得ないことではないのかもしれない。

 

「魔法力? ……ということは」

 

立ち直ったのか分からないが、なにやらシャーリーがブツブツ言い始めた。

 

 

 

 

 

「はい、知っての通りハンガーでーす。ここでツアーは終わりだけど……最後になんかある?」

 

「いや、特にないな。……長い間すまなかったな」

 

「いえいえー、どういたしましてー」

 

 

ふぅ、やっと終わったよ。

部屋に帰って寝ようかな。

 

その時シャーリーがブツブツ言うのをやめてエミヤに向き直った。

 

「なぁ、魔法力あるんだよな?」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「いやな、魔法力あるなら使えるんじゃないかなーと思ってね」

 

「……一応聞くが、何をだ?」

 

「……ストライカーユニット?」

 

自分で言っているのに疑問形のシャーリー。

 

……しかし、なるほど。

エミヤが飛び回る姿は正直想像したくないが、もし可能なら大きな戦力だろう。

 

「……エミヤ?」

 

「すまんな。……用事を思い出した、悪いが私はここで失礼させてもらおう!」

 

あっ! 逃げた。

エミヤは踵を返してハンガーの出口に向かって走り出した。

ハンガー内にいた整備兵がその速さに驚いて二度見していた。

ていうかアレ本気で走ってるな……。

 

「お、おい待てって! 履こうぜーストライカー!」

 

そういいながらシャーリーはハンガーの外へ逃げていったエミヤを追っかけて行った。

……そんなに嫌か。

 

さすがにあいつらの元気についていくのは不可能なので、私は本来の予定通り部屋で眠ることにした。

 

 

時間は気付くともう三時半になろうかという頃。

 

 

 

とりあえず夕飯までは眠ろう。

 

 




本編中にさりげなーく出てきた疑問等は一応大体理由、というか答は用意しています。
ショボいかもしれませんが。

年内にはお姉ちゃん覚醒させときたいなぁ…

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