ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第89話 「交渉のゆくえ」

 グリフィンドールの談話室。その入り口を通ってから、まだほんの数歩しか歩いていない。しかも、今日寮に戻ってくることは誰にも話していないのに、アルテシアは、その場で何人ものグリフィンドール生に囲まれることになった。包囲陣の先頭にいるのは、アンジェリーナだと言ってよかった。最初の一言も、アンジェリーナからだった。

 

「アルテシア、さっそくで悪いけど、お願いがあるんだ」

「あの、なんでしょうか」

 

 ごくり、と何人もの生徒が生唾を飲んだような、そんな空気がながれる。

 

「グリフィンドール・チーム再結成の許可が必要なんだ。もちろんアンブリッジに申請はしたんだけど、うまくいかなかった」

「そ、そうですか」

「何度も、お願いしたんだよ。そしたらあいつ、キミが申請に来れば考えてもいいって言うんだ。キミ1人でね」

 

 それを聞いて、アルテシアは理解した。なるほど、そういうことなのか。アルテシアは、ふーっと息を吐きながら、ゆっくりと目を閉じた。アンブリッジとはそういう手段に出るような女なのだと、アルテシアは改めて自分に言い聞かせる。そして、目を開ける。

 

「だから、お願いだ。キミがこれから行って、アンブリッジに頼んでくれないか。チーム再結成の許可をもらってきてほしいんだよ」

「あの、それは皆さんの」

 

 そこで、集まったみんなを改めて見ていく。すぐに目に入ったのは、赤毛の人たち。ハリーやハーマイオニーもいる。

 

「皆さん、そう思ってるんですね。わたしにそうして欲しいと」

「面倒を言ってるとは思うよ。でも、お願いだ。他の寮にはもう許可が出てるし、試合も始まる。グリフィンドールだけ不参加だなんて、キミだってイヤだろ?」

「それ、あとにしてくれませんか。体調のこともあるし、今日のところは寝かせてあげてください」

 

 そう言ったのは、パーバティだ。アルテシアの前に立ち、2学年上の先輩であるアンジェリーナに、きっぱりとそう言った。そして、アルテシアの手をとる。

 

「行くよ、アル。とにかく今日は、あんたは寝なよ。なんにも考えなくていい。すべては明日からだよ」

「う、うん」

 

 そんな約束をしていた。だからアルテシアは、すなおにパーバティのあとを歩いて行く。もちろんアンジェリーナたちのことは気になるのだが、今日のところはここまでといったところか。

 アンジェリーナもムリを言っているつもりはあるらしく、そのままアルテシアたちを見送った。そしてアルテシアの姿が見えなくなると、その気持ちを口にする。

 

「やっぱり、ムリだよな。あいつだって、アンブリッジはキライだろうし。それに、なにかムチャを言われて気分が悪くなったって聞いてる。そうだよな、ハリー?」

 

 そんなうわさが、生徒たちのなかでささやかれていた。ソフィアがこっそりと広めたそのうわさは、もちろんアンブリッジの無謀さを強調するためのもの。教師陣のあいだでアンブリッジとアルテシアのことが話し合われる際に、少しでも有利になればと思ってしたことだが、もちろんそこにはウソなどをからめていない。そんなことをしなくても、アンブリッジが十分に非常識であることくらい、誰もが承知している。

 

「うん、そう聞いてるよアンジェリーナ」

「じゃあやっぱり、今夜くらいは待つべきだよな。うん、それくらいなら、待つよ、ウン」

 

 アンジェリーナとしては、そうやって自分をムリヤリ納得させるしかなかった。アルテシアのこともわかるが、これはクィディッチ・チームのキャプテンとして譲れないこと、なのだ。

 

「明日の朝なら、あいつも落ち着いているだろう。そんなヒドイことにはならないさ」

 

 アンジェリーナも部屋へと向かい、自然、集まった生徒たちも散っていくことになった。

 

 

  ※

 

 

 アンブリッジの部屋は、アルテシアが3年生のときの防衛術の担当教師であったルーピンが使っていた部屋だ。そのときに1度訪れたことがあったので、その場所はわかる。だがそこに行くのに、以前よりも時間がかかっているのはやむを得ないこと。なにしろ足どりが、とにかく重い。つまりが、行きたくないのである。

 だからといって、行かずに済ますことはできない。苦しいところ、であった。ふーっと、思わずため息。あの廊下の角を曲がれば、じきに部屋のドアが見えてくる。だが曲がらずにまっすぐ行けば……

 

「あ、スネイプ先生」

 

 その曲がり角の手前に、スネイプがいた。おそらくはいま、その角を曲がってきたところなのだろう。そのスネイプがアルテシアの前へと、いつものように大股で歩き近づいてくる。

 

「どこに行くのだ?」

「アンブリッジ先生のお部屋です」

「ほう。つまりは例のことの返事をしに行くということか。だがあれは、ダンブルドアが立ち会うことになっているはずだ。なるほど、返事のするのはおまえだが、おまえの勝手にしていいことではない」

「わたしが行くのは、クィディッチ・チームの再結成の許可をいただくためです。わたしがいけば許してくださるとかで、チームの人に頼まれたんです」

 

 スネイプの眉が、ピクリと動く。そして、ふふんと鼻で笑った。

 

「おまえのことだ、行けばどうなるかくらいわかっているだろうから、あらためてどうこう言うつもりはない。だがな」

「もちろん、わかっています。これがわたしの弱みであることや、それをあの先生に見透かされていること。そんなことは」

「わかっていて、なぜそうするのだ。せめてダンブルドアを同行しろ。1人では行くな。あの双子の娘はどうしたのだ。なぜ、ここにいないのだ」

「パーバティは…」

 

 パーバティはいま、アルテシアたちがよく集まる空き教室にいる。そこで、パドマやソフィアも一緒に、アルテシアが戻ってくるのを待っている。そうなるまでには、さまざまなことの積み重ねがあったのだが、それをあえて述べることはしない。とにかく1人では行かせないという人たちをなんとか説得し、アルテシアはここまで来ているのだ。

 

「パーバティは、わたしの帰りを待ってくれています」

「ほう、帰りをな。なるほど、そこにおまえの覚悟があるというのなら、吾輩も納得してやろう」

「ありがとうございます」

 

 だがそれで、スネイプの話は終わらなかった。どうあっても、1人ではいくなと言うのである。余計なお世話なのであるが、そんなことを言えるはずもない。同じことを言って譲らなかった友人たちをやっとの思いで説得したのに、これでは元の木阿弥。

 

「とにかく、ダンブルドアのところへ行け。立ち会ってもらうのだ。そうすれば、落ち着いた話ができるだろうし、何が話し合われたかを明らかにすることにもなる」

「でも、先生」

「一度くらいは、吾輩の言うことを聞いたらどうだ。悪いようにはならぬと思うぞ」

「はい。一度くらい、スネイプ先生のおっしゃることに逆らってみようと思います。わたし、1人で行きます」

「そうか。ならば好きにするがよい。だが吾輩に逆らったのだということは覚えておくがいい。グリフィンドールから2点減点」

 

 スネイプとはそこで分かれ、アルテシアは、廊下の角を曲がった。じきにアンブリッジの部屋のドアが見えてくるだろう。そこでアルテシアは、考える。なぜ、減点されたのか。もし、スネイプ先生が一緒に行くと言ってくれたならどうしたか。

 だがいま、そんなことを考えても仕方がないのだ。アンブリッジの部屋の前に立ち、軽く深呼吸。そしてアルテシアは、ドアをノックした。

 

 

  ※

 

 

 アルテシアは、椅子に座っていた。テーブルを挟んで向かい側にアンブリッジが座っている。テーブルには紅茶の用意もしてあるのだが、なぜか、手を付ける気にならない。

 アンブリッジが紅茶に手を伸ばすのを見ながら、アルテシアは巾着袋に手を突っ込み、封筒を取り出した。このなかに、グリフィンドールのクィディッチチーム再結成の許可を求める申請書が入っている。

 

「なんですの?」

 

 わかっているはずなのにと、そう思いつつも封筒から中身を取り出してアンブリッジに示す。声には出さなかったが、表情には出ていたかもしれないとアルテシアは思う。

 

「再結成の申請書です。わたしが持ってくれば許可していただけるということでしたので」

「おーや、誰がそんなことを」

「アンブリッジ先生がそうおっしゃったと」

「いーえ、わたしはそんなことは言ってませんよ」

「えっ」

 

 どういうことだろう。

 つかのま、アルテシアは考える。だが、アンジェリーナたちがでまかせを言ったとは思えない。アンブリッジのほうはと見れば、あきらかにアルテシアの困惑を楽しんでいるような、そんな目をしている。つまりは、そういうことか。そういう相手なのだと、自分を納得させるしかないアルテシアである。

 それはともかくとして、再結成についての返事をもらわねばならない。

 

「アンブリッジ先生、許可をいただけたということでよろしいですね」

「それは、あなた次第ね」

「あの、どういうことでしょうか」

「だから、再結成の許可はあなた次第なの。もっと説明が必要かしら?」

 

 アンブリッジは、やはり楽しんでいる。それがわかってしまうと、どっと疲れを感じた。話をするのもいやになってきたが、もちろん途中で投げ出すのはもったいなさすぎる。

 

「なんたってあなたは、わたしの助手、相棒となるのですから、これくらいのことは決めさせてあげようって考えたんですよ。どう? とってもいい考えだと、そう思うでしょ」

「では、許可ということでいいんですね」

「かまいませんけど、その代わりあなたは、わたしの側へと来ることを了承したと、そういうことになりますよ」

 

 どういうことか。すぐには理解できないでいるアルテシアを、アンブリッジが見つめている。どうやらまた、アンブリッジを楽しませているらしい。

 

「あなたのお返事は、そのまま、この申請書に対する返事となります。あなたがわたしのもとに来るというなら許可となるし、断るというなら、拒否。そういうことですね」

「まさか、そんなこと」

「おーや、不満なの? おかしいわね、グリフィンドールチームが再結成されることになるのだから、喜んでもらえるはずなのに」

 

 なるほど、再結成許可を待ちわびている人たちは、大喜びしてくれるだろう。だが、アルテシアがなにごともなく戻ってくること、そのことだけを心待ちにしている数人は、果たして喜ぶだろうか。わざわざ減点までしてくださった先生は、その点数をどうするだろう。

 そんなことは考えるまでもない、とアルテシアは思っている。だが真面目に反論するのも、面倒だ。こんなときは、さっさと話を進めたほうがいいと、そんなことを考える。

 

「では、アンブリッジ先生。先生に協力するという件についてですけど」

「待って待って、もうその話なの。もう少し、楽しませてくれてもいいんじゃなくて」

「楽しませる?」

「そうよ。どうせあなたは、わたしの側に来るしかない。どんなにイヤだったとしても、そうするしかないの。でしょ?」

 

 アンブリッジの指が、再結成の申請書をつまみあげる。再結成の許可がいわば人質に取られているのだと、そう言わんばかりである。

 

「5人? それとも10人くらいはいるかしら。再結成許可の返事を待っている人がたくさんいるんでしょ。寮に戻ってから、あなたはその人たちになんて返事をするつもりかしら。だめだった、なんて言えるの? がっかりさせたくはないわよねぇ」

 

 その点を指摘されると、弱かった。スネイプにもほのめかされたとおり、まさにアルテシアにとっての弱点であろう。だがそれでも、それがわかっていても、アルテシアはこの場へ来たのだ。

 

「先生に協力するという件ですが、きっぱりとお断りいたします」

「おーや、いいのしから、そんなことを言って」

「いいんです、先生。これが、わたしの意志ですから」

「そうなの。わたくしの言うとおりにはできないと、あくまでもそうおっしゃるのね」

「はい、アンブリッジ先生」

 

 ほんのわずかも、迷ったようには見えなかった。しっかりとアンブリッジを見据えつつ、アルテシアははっきりとそう告げた。明確に意思表示をしたのだから、もうこの話はここまで。すぐにもアンブリッジの部屋を去ればいいようなものだが、アルテシアには、まだそうできない理由がある。

 

「もう一度、聞きますわよ。わたしのもとに来るつもりはないんですね」

「はい、そのとおりです。アンブリッジ先生」

「わたくしも、いずれは魔法省に戻ります。あなたが卒業しても、面倒は見てあげられるのだけど、それでもイヤ?」

 

 それがなにを意味するのか。そのことを、アルテシアは考えなかった。アンブリッジという人物そのものを受け入れることができないのだから、考えても意味はない。そんな無意味なことよりも、さっさと返事をもらって帰りたかった。グリフィンドールのクィディッチ・チームより託されたチーム再結成の許可についての、アンブリッジの最終的な返事が必要なのだ。

 

「アンブリッジ先生、チーム再結成のことですけど」

「あぁ、そうね。それがあったわ。そうそう、グリフィンドールのチームはどうするつもり? あなたに見捨てるなんてことができるとは思いませんけどね」

 

 まさか、忘れていたのか。いや、そんなことはないはずだと、アルテシアは思う。そんな風を装いながら、再結成の件を利用できないかと考えているのだ。おそらくそんなところだろう。

 

「もちろん許可していただけますよね、アンブリッジ先生」

「いいえ、お嬢さん。さきほど言ったように、あなたが拒否するならば不許可、ということになります。あなたはすでに拒否をしたけれど、もう1度くらいなら、チャンスをあげてもいいわよ」

「どういうことでしょうか」

 

 まさに意味不明だが、そのチャンスというものが、アルテシアにとっていいことであるはずがない。そこにはなにか、別の意味が隠れているのに違いない。

 

「そんな顔をしなくても、よろしくてよ。安心なさいな。さっきあなたは、こちら側には来ないと言ったけど、1度だけ忘れてあげるって、そういうお話をしてるのよ」

 

 つまりは、やりなおそうということだ。もう1度、アルテシアがアンブリッジの助手となることを受け入れるかどうか、改めてその選択の場からやりなおそうと、そう言うのである。

 だが、アルテシアにとっては迷惑な話でしかない。

 

「わたくしの提案を、あくまでも拒否するのか、それとも了承か。さあ、お選びなさいな。あなたの選択と同じ答えを、わたくしもあなたにお返しするわ」

 

 アルテシアがアンブリッジの助手となることを拒否すれば、グリフィンドールチームの再結成は不許可となる。だがアンブリッジに従えば、それは、許可される。

 アンブリッジがニタニタと笑みを浮かべているのは、あきらかにこの状況を楽しんでいるから。こうしてアルテシアを困らせ、どう答えるかを心待ちにしているのだ。そんな楽しみを2度も味わわせてしまった。

 そのことが悔しいと、アルテシアは思う。それにもちろん、なにごともなく帰れるつもりでアンブリッジの部屋を訪れたのではない。スネイプに減点されてもなお、1人でここへ来たのだ。それなりに覚悟もあるし、考えもあった。

 

「アンブリッジ先生。わたしの答えは、もうお伝えしました。過去と未来と今とにおいて、その答えが変わることはありません」

「おーや、いいのかしら、そんなことを言って。あなたのお友だちが、さぞがっかりするでしょうね」

「そうですね。そうならないように再結成の許可をくだされば、それが一番いいんですけど」

「ではあなたは承諾すると、そうことでいいわね」

「いいえ、わたしの答えは変わりません」

「困ったわねぇ、それでは話にならないわ」

 

 実際には、アンブリッジは楽しそうだ。いっこうに困っているようには見えない。そのことに軽くため息をつきながらも、アルテシアは笑顔を見せた。

 

「ではアンブリッジ先生、こういうことにしませんか」

「おや、なにかいい考えがあるとでも。いいわ、聞きましょうか」

 

 もし、アンジェリーナたちに頼み事をされていなかったなら。

 仮定のことを考えても無意味ではあるのだが、そのときにはまた、違った方法があっただろう。だがいま、アルテシアはこんな選択をした。するしかなかった。ダンブルドアがアルテシアにみせた、いわゆる大人の知恵というものの応用である。もしその経験がなかったなら、いまだに対応策を考え続けていただろう。考えて考えて、また医務室に運ばれていたかもしれない。

 

「わたしは、アンブリッジ先生の提案には従いません。明確に拒絶します。ですがそれでは、クィディッチチームへの許可はいただけないんですよね」

「ええ、もちろんよ。それどころか、あなたの友人たちには、これからいろいろと不都合なことが起こるようになるかも知れませんね」

「もし、もしもそんなことをしたら、わたしもおとなしくはしていませんよ」

「おやおや、このわたくしを脅かすおつもり? 怖いわねぇ」

 

 実際には、そんなことを思ってもいないだろう。もちろんお互いに、ということだが。

 

「わたしは、アンブリッジ先生の相棒とはなりません。先生のそばに行くつもりはないんです」

「まだそんなことを言ってるの、後悔するわよ」

「もちろん、後悔したくはありません。だから、こんなことをするんですよ、アンブリッジ先生」

 

 さすがにアンブリッジも、機嫌が悪くなってきたようだ。表情にそれが現われているし、アルテシアのほうも真剣そのもの。どちらも、互いの目をまっすぐに見ている。目をそらせば負け、とでも思っているかのようだ。どちらの顔も、笑ってなどいない。

 

「取り引きをしましょう、アンブリッジ先生」

「取り引き、ですって」

「はい。グリフィンドールチーム再結成を許可していただければ、先生の言うことを1つ。わたしの友人たちに手を出さないと約束していただけるのなら、もう1つ。先生の言うとおりにします」

「おーやおや、あなたからそんな言葉が出てくるとは。どうせ誰かに入れ知恵でもされたんでしょうけれど」

 

 アルテシアは、何も答えない。ここでは、何も言う必要はないのだ。答えを出すのは、アンブリッジ。

 

「まあ、いいでしょう。あなたが必要なことをやってくれるというなら、わたしには不足はないわ。そうね、それで手を打つことにしましょうか」

「ありがとうございます、アンブリッジ先生」

「では、グリフィンドールチームの再結成を許可しましょう。あなたの友人たちには何もしないし、あなたがわたしのもとに来ないということも受け入れましょう。あらあら、3つになったわね。3つよ、あなたはなにをしてくれるのかしら」

「わたしが決めてもいいんですか?」

 

 もしそうならこんな簡単な話はないのだが、当然、アンブリッジはそれを認めなどしない。だがこれで、話はまとまったということにはなる。アルテシアが不利のようにも思えるが、アルテシアにとっては狙いどおりの結果なのである。なんとしても、アンブリッジを拒否したうえで、なおも再結成の許可をもらうための、いわば最大限の譲歩ということになる。

 

「きっと、マクゴナガルの差し金なんでしょう。でもねお嬢さん、約束したからには、きっちりと仕事はしてもらいますよ」

「もちろん、約束は守ります。それは、先生のほうもですよ」

「おや、言ってくれるわね。では、さっそく調べ物をしてもらおうかしら」

「はい。でもその前に」

 

 とにかく、グリフィンドールチーム再結成の許可はもらえたからだろう。アルテシアの表情は、ずいぶんと柔らかくなっている。

 

「わたしの友人たちですが、互いの認識が違ったら困りますので」

「確認しておこうというのね。いいわ、双子の同級生とスリザリンの4年生なんでしょ。この3人には手出しをしない。それでいいわね?」

 

 ほかにも、友だちがいないわけではない。だが人数を増やせば、アンブリッジからの要求も増えていくだけだ。生徒全員を対象とできればそれが一番だが、そこまで言えば、通る話も通らなくなる。ならばせめて、この3人だけは守りたい。これが最低限だった。

 

「では、調べてちょうだい。闇の魔術に対する防衛術を、ひそかに生徒同士で練習している人たちがいるのよ」

「えっ、ええと」

「あら? なぜ驚くのかしら。わたしの調査では、あなたは参加していないはずなんだけど」

「も、もちろんです」

 

 だが、誘われた覚えはある。参加はしなかったが、あのときのハーマイオニーの計画が、実際に始まっているということだ。でもそれを、どうしてアンブリッジが知っているのか。それがアルテシアには不思議だった。

 

「このグループには、もちろん結成の許可など出してはいませんよ。申請されても許可などしませんけど、無断でやってるんですからほおっておくわけにはいきませんね」

「はぁ、そうですか」

「この違法なる『闇の魔術防衛』グループが、どこでその集会やっているのか。それを調べてほしいの。わかるわね?」

「場所を、ですか」

「誰が参加してるかは、おおまかには分かっているの。リーダーも把握してるわ。でも摘発には、現場を押さえないとね。よろしい? 1つめはそういうことよ」

 

 では、2つめは? そう聞くべきかもしれないが、アルテシアはなにも言わなかった。考えているのだ。1つめの、その場所を特定するのは可能だろう。でもそれをアンブリッジに教えれば、参加者たちはどうなるのか。

 

「2つめ。例のあの人が復活した、なんてでたらめを聞いたことあるわよね? 困ったことに、校長という立場にある人までがそんなことを言ってるんだけど」

「ええと、実際にはどうなのですか?」

 

 アルテシアは、その復活の場を実際に見ている。間違いなくヴォルデモート卿は戻ってきているのだが、それを言うと話がややこしくなる。なのでアルテシアは、そんな言い方をしてみた。

 

「でたらめだと、そう言いましたでしょ。これは、魔法省の判断でもあるのです。虚言によってみんなを惑わせ、混乱させるなど慎むべき。そんな外部の世迷い言を、学校内には持ち込ませない。それがわたしくしのお仕事でもあるのよ」

「それで、わたしになにをしろと?」

「不死鳥の騎士団という名前を聞いたことある? あるわよね。なにしろ、校長が結成した組織ですもの」

 

 その話であれば、マクゴナガルから聞いたことがあった。そのときのアルテシアの理解では、あの人の脅威から魔法界を守ろうとして結成されたものということになる。だがアンブリッジによれば、それは魔法省のっとりを計画したものであるらしい。今は根拠のないうわさで混乱させ、自分たちの仲間を増やしている段階だというのだ。

 

「違法な『闇の魔術防衛』グループも、いずれ取り込んでしまおうとするでしょう。そのまえにつぶさねばなりませんし、外部とのつながりも断つ必要があるのです」

「外部と?」

「通信手段にもいろいろとあるのよ、フクロウだけじゃなくてね。そのときどんな話がされているのか、あなたにはそれを」

「じゃましろって言うんですか」

「いいえ、それは、こちらでやります。あなたには、内容のほうの調査をお願いするわ」

 

 つまりは、こっそりと盗み聞きをしろというのだ。そして、その内容を報告しろということ。いわばスパイ活動を命じられたようなものであり、この場合、アルテシアに拒否権は認められていない。

 

「煙突飛行ネットワークのほうはこちらで監視ができますが、あなたにも手を貸してもらいます。よろしいわね」

 

 ここで拒否すれば、話は元に戻ってしまう。アンブリッジが細部についての指示をしてくるが、アルテシアはただ聞いているしかなかった。

 

「とりあえず、このあたりにしておきましょうか。帰ってよろしいわよ」

「3つめはいいんですか?」

「覚えておくといいわよ、お嬢さん。楽しみは、あとに取っておくものなの。逃がさないための工夫、とでも言えばいいのかしら」

 

 それを、どういうつもりで言っているのか。だがアルテシアは、その意味を考えることはしなかった。帰っていいというのなら、自分を待ってくれている友人たちのところへと戻るだけだ。

 

「では、失礼します」

「報告は欠かさないようにしてくださいね。3つめの指示は、いずれさせてもらうから」

 

 少なくともこれで、アルテシアはこれからもアンブリッジの部屋を訪れなければならなくなった、それだけは確かだ。

 


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