ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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 いやあ、けっこう間があいてしまいましたね。もう、これまでのお話を忘れてしまった方もいるのでは。
 まことに申し訳ないことです。しかもそれは、もう少し続くのです。12月も、お仕事、忙しいんですよ。
 そんななかで、なんとか1話分、書くことができました。よければ読んでやってください。


第67話 「ホグズミードの家で」

「スネイプ先生、おたずねしたいことがあるんですけれど、いいですか」

 

 魔法薬学の授業が終わり、いつものようにあっという間にグリフィンドールの生徒たちが教室から出て行き、続いて合同授業のスリザリン生も立ち去ってしまったあとで、アルテシアはスネイプの前に進み出た。

 

「よくはない。おまえの言いたいことなどわかっているが、後にしろ。吾輩は忙しいのだ、今すぐここを出て行け」

 

 とてもそうは見えないのだが、なにか用事でもあるのだろう。いつになく厳しい口調でそう言われてしまえば、これ以上、どうしようもない。だがアルテシアは、あきらめきれないように、スネイプを見る。

 

「どうしたのだ、スネイプ。生徒の質問にくらい、答えてやればいいじゃないか。それが先生と呼ばれるものの仕事だろう」

 

 背後からの、ふいの声。反射的に顔を向けると、そこには自慢そうに自身のひげを指でもて遊んでいる男が立っていた。いつのまに入ってきたのか、アルテシアはまったく気づかなかった。

 

「ああ、カルカロフ。口出しは無用に願おう。少し待っててくれ」

 

 カルカロフという名前には、アルテシアも聞き覚えがあった。ダームストラングの校長が、そんな名前だった。つまりスネイプは、カルカロフが来ることになっていたので、アルテシアの相手などしていられないということなのだろう。

 

「おまえの話は、あとで聞く。とにかく今は出て行け。言うことを聞くのだ」

「わかりました。すみませんでした、先生」

 

 頭を下げ、教室を出て行くしかなかった。もちろんアルテシアは、カルカロフにも会釈することは忘れない。アルテシアの姿が教室を出てしまうと、カルカロフは、スネイプのすぐそばまで近づいていく。

 

「かわいい子だったじゃないか。何年生かは知らんが、あまり冷たくしないほうがいいんじゃないか」

「黙れ、いらぬことを言うな」

「まあ、落ち着け。セブルスと、昔のようにそう呼ばせてもらうが、おまえはどうだ。なにか感じないか」

「話があるというので、こうして時間を取ったのだ。言いたいことがあれば、さっさと言え」

 

 もちろん、何か言いに来たのだろう。だがカルカロフは、アルテシアの出て行った教室の出入り口をじっと見ていた。

 

「クリスマスに、ダンス・パーティーがあるのは知っているだろう。紹介してくれないか、スネイプ。本人が自分で探すべきだが、ウチの代表となった生徒は、以外にシャイな性格でね。あの子なら、ダンスのパートナーにちょうどよさそうじゃないか」

「おまえ、そんなことを言いに来たのか」

「もちろん、違うさ。だがあの女の子は、なにか気になるな。名前だけでも聞いておこうか」

「おまえになど、教える必要はない。だが、その代表選手には助言申し上げよう。ダンス・パーティーの相手すら探せないようでは、過酷な課題をこなすことは難しいのではないか、とな。むしろそのほうが心配だ」

 

 まさかスネイプは、カルカロフに会わせたくなくて、アルテシアを追い出そうとしていたのか。考えすぎかもしれないが、スネイプがカルカロフの来訪をこころよく思っていないのは確かなようだ。

 

「怒るな、セブルス。おまえにしか話せないことだからこそ、こうして、ここへ来ているのだ」

「だから、なんだ。聞いてやるから、早く話せ」

「このところ、おかしな気配を感じている。おまえはどうなのかと思ってな」

「なんのことだ」

 

 カルカロフは、なにも言わずに左腕をまくってみせた。それはすぐに隠されたが、それだけでスネイプは、カルカロフの意図を理解したらしい。

 

「そういうことか。なるほど、おまえの懸念はわからんでもない。吾輩も、そんな気がするからな。だが心配などするなと、そう言っておこう。するだけムダだぞ」

「いいや、セブルス。たしかにいまは、どこにいるのかもわからん。この先、どうなるかもわからんさ。だが、警戒だけはしておくべきだろう」

「ふん。そんなことはおまえに言われるまでもない」

「ともあれ、セブルス。もしそんなときが来たときのことを、お互い考えておいた方がいいのではないかな」

 

 セブルス・スネイプ、そしてイゴール・カルカロフ。どちらもかつてデス・イーター(死喰い人)として、ヴォルデモートのもとにいたことがある。その当時デス・イーターたちは、ヴォルデモートによって左腕に「闇の印」と呼ばれる、ヴォルデモート一派の印を刻まれている。単にデス・イーターであることを示すだけでなく、この印の変色あるいは発熱などによって通信手段としても使われていたのだ。カルカロフはその「闇の印」の変化を感じており、それがヴォルデモートの復活を意味しているのではないか、と心配しているわけだ。

 放課後の魔法薬学の教室でそんな話がされているころ、マクゴナガルは、医務室にいた。

 

 

  ※

 

 

「そうですか、ボーバトンの生徒がそんなことをね。アルテシアのことを気にしているようですが、どういう意図があるんでしょうかね」

「もちろん、心配してのことだと思いますよ。わざわざお見舞いにも来てくれてますし、印象としても、そんな感じを受けましたね」

 

 その生徒とは、クローデル家のティアラのことである。ティアラが最初に医務室へとアルテシアを見舞いに来たとき、マダム・ポンフリーに話を聞きに来るようなことを言ったのだが、そのことをいま、マクゴナガルに話したところである。

 

「その生徒は、ボーバトンの校長先生がとても優秀な生徒だと自慢していたようです。なるほど、そういうことなのかもしれませんね」

「なにが、そういうことなんです?」

「クリミアーナ家とは、なにかしらの縁があるようです。クローデルという名前も聞いたことがありますし、そのお嬢さんとは一度会っておく必要がありそうですね」

「先生が、お会いになるのですか。もちろんそれは、母として娘の友人に、ということなりますかね」

「なんですって?」

 

 顔は笑っているから、冗談ということなのだろう。それを見たマクゴナガルも、表情を緩ませた。

 

「まあ、たしかにそんな気持ちもあるでしょう。それを否定はしませんが、彼女に会うのは、確かめておきたいからですよ」

「確かめる? なにをです」

「彼女の魔法、です。アルテシアと似ているのか違うのか。アルテシアに聞けば済むことではありますが、自分の目で見て判断したいのです。ボーバトンでは優秀だと評価されているようですが、その理由を知りたいですね」

 

 アルテシアと同じクリミアーナ系の魔法を使うのなら、当然にして杖を必要としないはずだ。マクゴナガルは、そう思っている。だがそれでは、ぜひとも代表選手にとまで言われるような“優秀”な生徒、とはならないはずなのだ。アルテシアの成績は、せいぜい中の上といったところであり、実技面では、ハーマイオニー・グレンジャーあたりと比べると明らかに見劣りがする。

 だがそれも、杖を使用しているからだ。魔法学校での成績、という点から見れば、その評価は妥当なものとなるのだろうが、もしティアラがボーバトンの代表となってもおかしくないというのなら、彼女は杖の使用に関しても非凡なものをみせているということになる。ならばアルテシアもそうなれるはずだし、なにかの参考にはなるだろうと、そんなことをマクゴナガルは考えたのである。

 

「そのうち、あの娘さんが医務室へと来るでしょう。そのときには、いろいろ聞かれると思うんですが」

「でしょうね。何が知りたいのかはわかりませんが、べつに隠すこともないと思いますよ」

「アルテシアさんは、自分が何度も医務室のお世話になっていることは言わないでくれって言ってましたけど」

「おや、そうなんですか」

「でも、そのお嬢さんの前で言ってましたからね。たぶん冗談だったんでしょうけど」

 

 おそらくそうなのだろうが、違うかもしれない。つかのま、マクゴナガルは考える。知られて困ることがあるだろうか、と。

 よくは知らないが、相手はクリミアーナと関係のある家なのだ。だからマクゴナガルは、自分が知っていることくらい、とっくに承知しているはずだと思っている。ならば、いまさら隠し立てする意味などないと思ったのだ。だがもし、そうとばかりも言えないのだとしたら。

 少なくとも、アルテシアが言うなといったことは言わぬほうがいいのではないか。マクゴナガルは、そう考えた。医務室で治療を受けたことは、すでに知られている。ならば、その理由を言わねばよいということになる。

 

「あながち、冗談ではないのかもしれませんね」

「え?」

「それが冗談ではないのだと、そういうつもりでいたほうがいいようですね。そうお願いできませんか」

「どういうことです? 魔法の使いすぎがどうのという話はしないほうがいいということ?」

「ええ、そうです。それで思い出しましたが、また近々、アルテシアがここのお世話になるかもしれません。そのときはまた、面倒をみてやってくれませんか」

 

 思い出した、と言ったマクゴナガルだが、実は、それを言いに医務室へとマダム・ポンフリーを訪ねてきたのである。ティアラの話が出て言えないでいたが、その機会を得たといったところ。もちろんマダム・ポンフリーは驚くことになる。

 

「そりゃ具合が悪くなれば手当もしますよ。けど、なぜなんですか。またなにか、むちゃをしようってこと? アルテシアさんは、もうそんなことはなくなるって言ってましたよ」

「もちろん、そうなるためですよ。そのためには、あと少しだけむちゃをしなければなりません。うまくいけば、その後はなにも気にしなくてよくなります」

「そうですか。よくわかりませんけど、そういうことなら。今度アルテシアさんがきたら、ゆっくりと話をさせてもらいますよ」

 

 そのアルテシアはいま、夕暮れの校庭を歩いていた。

 

 

  ※

 

 

「おぉ、娘っこ。いまは森に入れてやるわけにはいかねぇぞ。これからしばらくは立ち入り禁止だ。いくらおまえさんでもな」

「ええっ、なぜです?」

「生徒に知られちゃなんねぇものが、森にはあるからだ。いまはまだ、その準備中ってとこだが、入れてやるわけにはいかん。おめえさんなら聞き分けてくれると思うから、ここまで言うんだ。とにかく行っちゃならん。一歩も入っちゃなんねぇぞ」

 

 ハグリッドとの約束で、森を散歩するときには申告することになっている。そのうえ、森に入れるのは1人だけという条件だ。禁じられた森というくらいだから、もちろん入ってはいけない場所なのだが、ハグリッドはこれまでアルテシアの散歩を認めてくれていた。なのになぜ、というのがアルテシアの正直な気持ちだろう。

 だが、ダメだと言われてしまえば引き返すしかない。ダメなときはあきらめる、というのもハグリッドとの約束だったのだ。

 

(ちょっと考えごと、したかったんだけどな)

 

 そんなときは、森を散歩するのが一番だとアルテシアは思っている。ほんとうなら、クリミアーナ家の裏手に広がる森を散歩したいところだが、学校にいるあいだはムリだ。ならばと来てみたのだが、断られるとは思ってもいなかった。なぜ、という思いは当然のようにある。だが理由は、教えてはもらえないだろう。

 校舎へと戻りながら、アルテシアは考える。いま最も気になるのは、校長室にあるにじ色のこと。あれを取り戻すにはどうすればいいのか。何も気にせず、そのままダミーのものと入れ替えてもよいとマクゴナガルは言う。ダンブルドアに気づかれようとも、いっこうに構わないから、後のことはすべて任せろとまで言うのだ。ならばそうすればいいようなものだが、さすがに過激すぎるとアルテシアは思っている。取り戻すのをやめるつもりなどないが、校長先生に気づかれない方法はあるはずなのだ。

 そんなことを考えつつ湖のほとりを歩いていると、ロンの姿をみつけた。そこのベンチに、ひとりで座っていたのだ。ロンのほうも、アルテシアに気がついたらしい。

 

「やあ、アルテシア。キミの笑顔が見れてよかったよ」

 

 そのとき、どんな顔をしていたのか。ロンの言うとおりだった自信はないのだが、アルテシアはロンのほうへと近づいていった。

 

「ひとりなんてめずらしいね、ロン。いつも一緒の人たちはどうしたの?」

「それは、あれだよ。そうか、キミは医務室で寝てたから知らないのかもな」

「何を?」

 

 ロンが、ベンチの真ん中から端の方へとずれてくれたので、アルテシアもベンチに座る。

 

「ハリーのやつ、自分だけゴブレットに名前を入れたんだぜ。だから代表に選ばれたのさ。そんなことするなら、ボクも誘ってくれるべきだろ。それが友だちってもんだ。自分だけなんて、ひどいと思わないか」

「そのことは聞いてるわ。でもロン、あれはハリーがやったんじゃないかもしれないよ」

「キミまでそう言うのか。わざわざ、他人の名前を入れる? 誰がそんなことをするっていうんだ。そんなことする意味、あるか」

「そ、そうだよね」

 

 そのことを忘れていた。ハリーが、誰かに狙われている可能性があるのだ。さすがにアルテシアは、自分のことだけ考えていればいいなんて思ってはいない。なにもかも、と言うほどうぬぼれるつもりはないが、少なくとも自分の目の届くかぎりにおいては、とアルテシアは思っている。守りたいと思ったもの、守ると決めたもの、譲らないと決めたもの。決めたことは、必ず守る。それがクリミアーナだと、アルテシアは思っているのだ。

 ハリーの件は、誰がなにを目的としてやったことなのか。それはわからない。ハリーが自分でやった、という可能性はもちろんある。

 

「なあ、アルテシア。キミ、ハリーやハーマイオニーとは話をしてるのかい? その、ボクたちとのことなんだけど」

「そういえば、あんまり話をしてないね。談話室でも、別々だし」

 

 ロンに言われるまでもなく、そのことはアルテシアも自覚している。これではいけない、とは思っているが、どうしても思い出してしまうのだ。3年生の終わりの、シリウス・ブラックを助け出そうとしたときのことを。

 

「エラそうなこと言えやしないけど、仲直り、できるんじゃないかな。キミたちは、優秀じゃないか。ボクなんかと違ってね」

「あら、ロン。それには同意できないわ。わたしだって、まだ半人前よ」

 

 まだまだ一人前ではない。魔法の使用に制限のある自分が、一人前の魔女だと言えるはずはない。ロンの言ったことは、アルテシアのなかではそんな解釈となる。結局、問題はそこだ。まず解決すべきは、そこなのだとアルテシアは思う。

 

「キミが半人前だというんなら、ぼくはマグルかスクイブ級ってことになるよな。けど、アルテシア。対抗試合のときは、もちろんハリーを応援するんだろ。セドリック・ディゴリーなんかじゃなくてさ」

「ロンも、そうでしょ。ハリーは親友なんだものね」

「そうさ。親友だよ。だから、自分だけってのが許せないんだ。ボクも誘ってくれるべきだったんだ。そりゃ、ボクなんかが代表になれたはずないさ。でも、仲間はずれにすることないじゃないか」

 

 仲間はずれ。ロンは、そのことにこだわっているのだ。そしておそらく、自分も。アルテシアは、そう思った。自分はおそらく、ハリーやハーマイオニーとは仲直りできないだろう。でもそうだとしても、ロンだけは、と思うのだった。

 

 

  ※

 

 

「アルと一緒にホグズミードに行けるだなんて、今日は楽しい日になりそうだわ」

「でも、パチルさん。目的があるんだってこと、わすれないでくださいよ」

「わかってるわよ。アンタに言われなくてもね」

 

 3校対抗試合の最初の課題が行われるのを次週に控えた週末。アルテシアは、パチル姉妹やソフィアと一緒にホグズミード村へと向かっていた。アルテシアがホグズミードへ行くのは、今回が初めてとなる。許可証への保護者のサインのことがあって、行くことができなかったのだ。

 

「でもさ、対抗戦が来週でしょ。だからホグズミード行きは中止にします、なんてことになるんじゃないかって心配したけど」

「そんなことにならなくてよかったよね」

「対抗戦といえば、ポッターのインタビュー記事、読んだ? ほんとにグレンジャーと付き合ってる、なんて思う?」

「このところ、ウイーズリーが一緒にいないのはそのためかもしれないって思う? 2人だけにするためだって思う?」

 

 どんな返事を期待しているのか、パチル姉妹は目を輝かせながら、アルテシアに迫ってくる。アルテシアは、苦笑するしかなかった。

 

「よく一緒にいるのは、わたしたちも同じでしょ。それにロンだけど、ハリーが代表選手になったことで気まずくなってるのよ。ゴブレットに名前を入れるとき、自分も一緒に名前を入れたかったみたい」

「ああ、アル。あたしたちは、そんなこと言ってるんじゃないよ」

「そうよ、アルテシア。あたしたちはね、浮かれているだけなの。なんでもいいから、アルテシアと話をしたいだけだよ」

 

 パドマは、ほんとうに楽しそうにみえた。寮が違うため、姉のパーバティと比べアルテシアと一緒にいる機会ははるかに少ない。きっと、そのためもあるのだろう。

 

「だけど、リータ・スキーターの話はしなくてもいいかな。あのインタビュー記事は、リータっていう記者が書いてるの。あることないこと、おもしろおかしく好き勝手に書いただけのはずだから、話半分以下なんだって思うよ」

 

『ぼくの力は、すべて両親から受け継いだものだと思っています。きっと両親は誇りに思ってくれるんじゃないかな。いまでも両親のことを思うと涙が出てくるけど、それをはずかしいとは思いませんし、いつも見守ってくれていると思っています。対抗戦は、かならず優勝してみせます』

 

 その記事で、リータ・スキーターが書いた、ハリーが言ったとされる言葉だ。もちろんハリーはなにか言ったのだろうが、リータにかかれば、ささいな一言でもこんなふうになってしまうのだ。しかも『ハリーはホグワーツでついに愛を見つけた』なんていう記事まであり、それらの記事は、学校内でのうわさとして広がっていく。とくにスリザリン生などは、話半分ではなく話を倍ほどにもして、ハリーをからかう。なかでもハーマイオニーとハリーの仲に関することは、格好の話題となっていたりする。

 だが、そんなことは。

 

「どうでもいいじゃないですか。それよりも、あたしたちの今日の目的は」

「わかってるよ、ソフィア。まずはバタービールでも飲みたいところだけど、いいよ、すぐにあの家に行こう」

 

 見れば、バタービールが名物となっている三本の箒の店がすぐそこだ。そこでゆっくりとおしゃべりしたいところだが、4人はそのまま歩いて行く。アルテシアたちが向かっているのは、およそ1年前にパチル姉妹が出会った、アルテシアを探していた女性の家である。より正確には、会いたくなれば訪ねるように、とされた家だ。ダンブルドアもその家を訪れたことがあり、そのときアルテシアに渡るべき“にじ色の玉”を持ち帰っている。

 

「そういえば、アル。校長の透明化魔法のことは、どうなったの? マクゴナガルが調べてくれてるんでしょ」

「見えなくする方法はあるんだけど、ダンブルドア校長の使った魔法と同じものかとなると、自信がないみたい。確認できないしね。マクゴナガル先生は校長に気づかれてもかまわないって言ってくれてるんだけど、そうもいかないよね」

「どうして? あれは全面的に校長が悪いでしょ。気づいたところで、何も言えやしないって」

「あたしもそう思うな。気づかれないほうがいいのは確かだけど、そんなこと言ってたら、いつまでも取り戻せないでしょ」

 

 パーバティとパドマの言うことはもっともなのだが、アルテシアは、強いて荒だてるようなことはしたくなかった。なにか方法はあるはずだと、ギリギリまで考えるつもりにしている。いい方法が何も見つからなければ、そのときは、そのとき。

 

「あたしが、取り戻してきましょうか。もう場所は判ってるんだから、教えてもらえればいますぐにでも」

「いいえ、ソフィア。あなたに、そんなことはさせられない。だから、その場所は教えない。大丈夫だよ、わたしがやるから」

「でも、いつまでもほおっとけないのはソフィアの言うとおりだよ。あのティアラって人との競い合いもあるんだし」

「ええ、パドマ。もちろん、いつまでもこのままにはしておかないよ。いい方法がみつからなかったとしても、クリスマス休暇になるその日まで。とにかくその日には、取り戻すつもりだから」

 

 仮になにかで手間取ることとなり、魔法を使いすぎるようなことになっても、学校が休みとなるのでその影響を少なくできるだろう。マクゴナガルとも相談し、そうすることに決めているのだ。だがその場合、ティアラとの競い合いの最初の課題には間に合わないということになる。なにしろ三校対抗試合まで、あと数日。週が明けた火曜日がその日なのだ。

 

「ま、それはともかくとして、目的地についたよ」

 

 かつては青い屋根であった、その家。4人は、そのすぐ前まで近づいていく。

 

「いつだったか、マクゴナガル先生と来たときは留守だったよね」

「どうする? ドア、ノックしてみようか」

 

 だがアルテシアは、それには応えず、一歩、二歩と後ろへ下がった。少し離れて家の全体を見ようとでもしたのだろう。右手の人差し指と中指とをそろえて立て、それを、まず自分の顔の前へ、そして目的の家へとむけた。

 

「アル、魔法かけてるの? なにか、わかった?」

 

 なおもじっと、その家を見つめているアルテシアだが、ゆっくりと首を横に振る。とくにはなにも、感じないらしい。

 

「うちの母もここには来たことがあるんですけど、この家からはとくに痕跡みたいなものはみつからないって言ってました。アルテシアさまもそうですか」

「よくわからない。わからないけど、なにもないとは思うんだけど、でも」

 

 そうとは言い切れない、何かがあるのかもしれない。なおもじっと家を見つめていたアルテシアだが、結局、そこにはなにもない、と結論づけるしかなかった。

 

「まあ、仕方がないよね。あのときアルがいればよかったんだけど、そのときに戻れるはずもないしね」

「え?」

「どうしたの、なにかわかった?」

 

 アルテシアが、はっとしたような顔をしたのを、パドマは見逃さなかった。なにかに気がついたのではないかと、そう思ったのだろう。

 

「あ、違う。そうじゃないけど、パーバティが言ったことで思いついたことがある」

「だから、なによ。なにか気がついたんでしょ」

「校長室のにじ色を取り戻す方法だよ。そのときに戻ればいいんだよね」

「どういうこと?」

 

 急に話が変わってしまったが、そのこともアルテシアたちにとっては重要なこと。みなが、アルテシアを中心にして顔を寄せる。

 

「ダンブルドア校長が、にじ色に透明化の魔法をかけたときに戻ればいいんだよ。そこで入れ替えてしまえば、どんな手段で透明化されてるかなんて、関係なくなる。絶対に気づかれない」

「それはそうだけど、そんなことできるの?」

「たとえできても、する必要なんてないです。また医務室で何日も寝込むことになりますよ。そんなことしなくても、あたしが」

 

 取り返してくると、そう言いたかったのだろう。だがソフィアはそこで言うのを止めた。訪ねてきた家の、その入り口が開かれ、なかからせいぜい30歳くらいかと思われる女性が顔をのぞかせていたからだ。

 

「あなたたち、人の家の前で騒がないでくれる? それともウチに、なにか用でもあるの?」

 

 

  ※

 

 

「うーん、そんなこと聞かれてもねぇ。おぼえがあるような、ないような。はっきりしないのよね。どうだったかしら」

 

 せいぜいが、玄関前での立ち話。そんなところだったが、ともあれアルテシアたちは、その女性と話をする機会を得ることができた。だが彼女の話は、どこか変だった。

 

「でも、預り物をしたのは確かなんですよね。ホグワーツの女生徒に渡すようにということで」

「そうそう、大切な物だからってね。でもね、探してみてもそんなのウチにはないのよね。預かったのなら保管してあるはずなんだけど、勘違いなんでしょう、きっと」

「でも、思い出してみてくれませんか。しばらく前に、ホグワーツの校長先生がここへ来てその玉を持って帰ってるんです。アルバス・ダンブルドアはご存じですよね?」

「もちろん知ってるわよ。あたしだって学校には通いましたからね。でもここへ? ウチに来たことなんてあったかしら」

 

 さきほどから、この家の女性に質問をしているのはパドマである。誰もが言いたいことはあるはずだが、みなが好き勝手に聞いても混乱するだけ。パドマにまかせたほうが話はスムーズに進むと考えてのことだった。こういうときはパドマにまかせるのが一番なのだが、肝心の相手の話が、要領を得ない。

 

「校長先生は、このあたりにまでは来ないはずよ。パブの三本の箒なんかにはよくいらっしゃるみたいだけど」

「じゃあ、違うことお聞きしますけど、こちらはずっとホグズミードにお住まいなんですか」

「ええ、そうよ。ウチは純血の家だからね。少なくとも6代前まではさかのぼることができるのよ。それ以前もずっとそうだったって聞いてるけど」

「魔法の杖って、もちろんお持ちですよね」

「え? ええ、もちろんよ。わたしのは26センチの柳の木。芯材は、って、どうしてそんなことを聞くの?」

「ああ、いえ、べつに」

 

 パドマが考えたのは、この家の人たちがクリミアーナとなにか関係があるのではないか、ということだ。聞きたかったことには満足な答えはもらえていないが、それも、あの玉を校長が持ち帰ってしまったからだと考えれば納得がいく。屋根の色まで変わったくらいなのだから、人の記憶に影響があっても不思議ではない。その証拠、というわけではないが、それ以外の質問にはちゃんとした答えがすぐに返ってくる。

 

「それでは、クリミアーナという名前をご存じですか。あるいはアルテシアという名前に、聞き覚えとかは」

「ああ、こっちのお嬢さんのことでしょう。たしか、会ったことあると思うんだけど」

 

 パドマ、パーバティ、そしてソフィアがいっせいにアルテシアを見る。そして、同時に同じ質問をアルテシアに浴びせる。すなわち、会ったことがあるのか、ということを異口同音にだ。だがアルテシアには、そんな覚えはない。会ったことのある相手の顔と名前をほとんど忘れることのないアルテシアだが、この家の女性に見覚えはなかったのだ。

 

「どこで会ったのかわかりますか」

「ええと、あれは。あれ? そうよね、あなたのはずがないわ。だってあれはわたしがまだ小さい頃だし」

「あの、どういうことでしょうか。ずいぶん昔に、ということですか」

 

 昔といえば、この家には500年前のクリミアーナでの騒動の直後よりずっと、あのにじ色の玉が保管されていたという可能性がある。だがなぜなのだろう。どういう経路で、この家へとやってきたのか。それに、この女性はなぜ、アルテシアに見覚えがあったりするのだろう。

 

「違うわよね。ごめんなさいね、そんな気がしたんたけど勘違いだと思うわ。そうよね、あなたたちとは初めて会うんだものね」

「あの、わたしたち、また来てもいいですか。そのとき、なにか思い出したこととかあったら、教えてもらうってことはできますか」

「いいけど、お役に立てそうにはないわね。ウチの母でも生きていれば、もっと何か知ってたかもしれないけど」

 

 そんなところで、4人はその家をあとにした。そして、すぐ近くにあるマダム・パディフットの店へと入っていく。それぞれの話したいことは、その店で腰を落ち着けてから、ということになるようだ。

 


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