ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第25話 「協力体制」

 学校中で、フィルチの飼い猫であるミセス・ノリスの襲われた話がささやかれていた。その襲われた場所の壁に書かれた文字が、あいかわらず残されていることも、その要因の一つであったろう。もちろんフィルチは、その文字を消そうと努力はしたのだ。だが、相変わらす文字は、そこにあった。

 ミセス・ノリスを襲ったのは誰か。秘密の部屋とは何なのか。継承者とは? その敵とは?

 

「『ホグワーツの歴史』が全部貸し出されてるわ。しかも、あと2週間は予約でいっぱい」

「どうして、そんな本が必要なんだい?」

 

 当然のようにハリーが聞いたが、その質問は、ハーマイオニーのいらいらをつのらせただけだった。

 

「どうして、ですって? 『秘密の部屋』の伝説を調べるために決まってるでしょ。ハリーは気にならないの?」

「あ、いや。でもそれって、なんなの?」

 

 どうやら、ハーマイオニーにはあきれられたらしい。それがハリーにも分かった。ハーマイオニーがため息をつく。

 

「ミセス・ノリスが襲われたこと、もうお忘れなの? あたしとパーバティは、犯人にされそうになったのよ」

「も、もちろん、覚えてるさ。それに、キミが犯人じゃないこともよく分かってる」

「まあ、いいわ。とにかく、秘密の部屋のことを調べたいの。それが何なのかを知らなくちゃ対策しようもないでしょ」

 

 その機会の訪れは、思ったより早かった。意外にも、退屈な授業の最有力に位置する魔法史の授業のなかで、その機会が訪れたのだ。

 魔法史の担当は、ゴーストのピンズ先生。その一本調子の低い声が、催眠術かなにかのように生徒たちの眠りを誘うことでも有名であり、この日もいつものようにうとうとする生徒が多かった。だがそれも、この質問がされるまでだった。

 もちろん、質問者はハーマイオニー。

 

「先生、『秘密の部屋』について何か教えていただけませんか」

「わたしがお教えしとるのは魔法史ですよ。神話や伝説ではないのです」

 

 ハーマイオニーのはっきりとした、よく通る声。それに応えて、ピンズ先生は目をパチクリ。だが、ハーマイオニーは引き下がらない。

 

「先生、お願いです。伝説というのは必ず事実に基づいているのではありませんか? その基づく事実について教えていただければと思うんですけど」

 

 ピンズ先生はハーマイオニーをじーっと見つめた。普段なら、先生もこのまま授業を続けたのかもしれない。だがいまは、クラス全体がピンズ先生に注目しているようなものだった。誰もが『秘密の部屋』のことを知りたがっていた。

 

「あー、よろしい。では、わたしの知るところを話しましょう」

 

 先生が噛みしめるように語り出した。

 

「さて……『秘密の部屋』とは……皆さんも知ってのとおり、ホグワーツには1000年以上にもなろうとする歴史があります。偉大なる4人の魔法使いと魔女によって、創設されました。その創設者の名は、各寮の名称として残っています。すなわち、ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウエナ・レイブンクロー、そしてサラザール・スリザリンの4人」

 

 もちろん、クラスのなかに居眠りなどしている者はいない。ピンズ先生は、そんなクラスを一通り見回し、感動したように話を続ける。

 

「創設者たちは、魔法力を示した若者たちを探し出しては、この城に誘い教育したのです。しかしながら、4人の間に意見の相違が出てきました。そのことに関し、いくつかのエピソードはあるようですが、なかでもスリザリンは、純粋な魔法族の家系のみ入学させるべきだという考えを持つようになり、それが他の3人との亀裂となって、ついには学校を去ったのであります」

 

 ここでピンズは、またもや口を閉じ、生徒たちを見回した。誰も居眠りなどしていない。それどころか、手を挙げている生徒までいるのだ。だがその生徒を、ここで指名することはせずに話を続ける。

 

「信頼できる歴史的資料によれば、こういうことなのです。しかし、興味本位の空想的な伝説によれば、スリザリンがホグワーツを去るまでの間に隠された部屋を作ったというのです」

「それが秘密の部屋なんですか」

 

 そんな声がかけられたが、ピンズは無視して話を続ける。

 

「その部屋は、スリザリンによって封印がされております。そののち、ホグワーツに彼の真の継承者が現れたとき、その継承者のみが封印を解き、恐怖を解き放って、学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放するというのです。ですがこれまで、そんな部屋は見つかっていない。それすなわち、生徒を怖がらせる作り話。そういうことであります」

 

 手をあげている生徒は2人。ハーマイオニーとアルテシアだ。ピンズと目のあったハーマイオニーが、指名をまたずに質問する。

 

「先生、解き放たれる恐怖とは、具体的にどういうことですか?」

「なんらかの怪物であり、スリザリンの継承者のみが操ることができると言われていますが、そんなものは存在しないのです。これは神話であります。よって、部屋は存在しない。よろしいか」

 

 これで話は終わり。ピンズは授業を再開しようとしたが、アルテシアが席を立った。

 

「先生。サラザール・スリザリンは、このホグワーツから追放されたのですか。それとも」

「スリザリンは、ゴドリック・グリフィンドールとの対立を経て、自ら出て行ったのです。さあ、もういいですか」

「先生、あと1つだけ教えてください。ホグワーツが創設されたころ、クリミアーナの先祖がホグワーツを視察しています。そのときのことは、ホグワーツの歴史に残されてはいませんか」

「な、なんですと」

 

 ピンズだけではない。クラスの誰もが、この質問には驚かされたようだ。アルテシアの真剣なまなざしが、ピンズをみつめる。

 

「よろしい。調べておきましょう。そんな事実があるのかないのか。それは神話ではない。検証できるでしょう」

 

 授業が終わり、廊下へ出る。今日の授業はこれで終わりだ。寮へと戻るのだが、アルテシアはハーマイオニーに引き留められていた。

 

「いまの話だけど、もう少し詳しく聞かせてほしい。なにか、大切なことのような気がするから」

「え? えっと、何を?」

「クリミアーナ家にも、ホグワーツなみの歴史があるってことでしょう。ホグワーツを視察したご先祖は、スリザリンとかグリフィンドールなんかと直接会ってたってことになるんじゃない?」

「どうかしら。そこまではわからないわ。でも、創設まもないころに視察に来たことは間違いないみたい」

「ほかには? ほかにも言い伝えられてきたこととか、いろいろあるんでしょうね?」

「そうね。クリミアーナには、口伝というか、先祖の残した言葉がいくつか残っているわ」

「たとえば、どんなの?」

 

 廊下には、寮へと戻るたくさんの生徒たちの姿がある。そのなかを話しながら歩いていたのだが、ここで立ち止まる。一緒にいるのは、パーバティとロン、そしてハリーだ。なかでもパーバティは、アルテシアのすぐそばに立ち、話を聞いている。

 

「そうね。クリミアーナには先祖の墓地があるんだけど、その墓石のひとつに言葉が刻まれている。『そのときは突然やってくる。だが歴史は終わらない。意志を継ぐ者がいる限り』」

「それ、どういう意味?」

「さあね。それを読んだ人が、それぞれに解釈するだけ。正確な意味は、わからないの」

 

 誰の残した言葉なのか、実はそれもはっきりとはしていない。その墓に眠る先祖の言葉だとするのが自然だが、それが正しいとは限らない。だが歴代のクリミアーナの魔女たちは、それぞれにその意味を考えてきた。その話をパーバティは、妹のパドマを通して聞いたことがあった。それに、聞いたと言えば。

 

「ねぇ、アル。パドマにもその話をしてるよね。そのとき『守る』って言ったそうだけど、それってどういう意味? あたしにも言ってくれたことあるけど、どういうことなの?」

「パーバティは、何も心配しなくていいってことだよ。いつも心配かけてるわたしが言っても、説得力ないけど」

 

 アルテシアは、そう言って笑った。その笑顔を見て、パーバティはずるいと思った。こんなふうに笑うアルテシアを見るのは、ほんとうに久しぶりだったからだ。アルテシアが笑っているのなら、それでいい。そんな気にさえなってくるからだ。本当は、いろいろと聞きたいことなどあるのだけれど、この笑顔のまえにしては、なにもいえなくなってしまうのだ。

 パーバティは、そっとアルテシアの手を握った。

 

 

  ※

 

 

 ハーマイオニーが気にしているのは、『秘密の部屋』が本当にあるのかどうかということだ。それに、猫のミセス・ノリスが襲われたときの『秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ』と書かれたメッセージにある、継承者の敵という言葉。

 その意味を考える。本当は、アルテシアとこのことを話したかった。アルテシアが相手だと、話がしやすいのだ。アルテシアと話すときは、必要なことだけを言えばいい。そうすれば、必要なことだけが返ってくる。言いたいことだけを言って、聞きたいことだけを聞く。そんな話ができるとハーマイオニーは思っている。

 だがこれが、たとえばロンなどが相手だった場合は、事情が変わってくる。同じことを話そうとしても、アルテシアのときの倍はしゃべらねばならなくなる。まずは、その説明から始めなければならないからだ。

 では、相手がパーバティの場合はどうなのだろう。いま、ハーマイオニーの前にはパーバティがいた。ハーマイオニーが、ほぼむりやりといった感じで、空き教室まで引っ張ってきていたのである。

 

「わたし考えたんだけど、猫を襲った犯人は、わたしたちが見つけなきゃいけないって思うのよ」

「なるほど。その相談をしようってことなのね、あたしをここに引っ張ってきたのは」

「ええ、そうよ。あのとき騒いだのはドラコ・マルフォイくらいだけど、それを信じてる人もいるかもしれないでしょ」

「マルフォイなんてどうでもいいけど、犯人は見つけたい。でないとまた、同じことが起きる気がする」

「わたしもよ」

 

 互いに笑みを交わす。これで、協力していくことの約束ができたというわけだ。

 

「ロンとハリーにも、必要なときは力を貸してもらうつもりだけど、それはいいわよね?」

「ええ。ポッターは頼りになると思うわ。もちろん、ウィーズリーもね」

「アルテシアは、どうする? かなり頼りがいがあると思うんだけど」

「なるべくなら巻き込みたくないんだけど、なるようになるんじゃない? それでいいわ」

「わかったわ」

 

 ここは握手などするところかもしれないが、どちらにもそんな気はないらしい。パーバティが、ちらと出入り口のドアに目を向けた。

 

「どうしたの?」

「ああ、べつに。なんかさ、こんなとき誰かが盗み聞きしてたり、ここに入ってきたりとかするんじゃないかと思って。なんどかあったのよね、そんなことが」

「ふうん」

「ま、それはともかく。あの猫を襲ったのは、人じゃない。そう考えた方がいいと思わない?」

 

 その理由としてパーバティは、ダンブルドアがすぐにミセス・ノリスを治せなかった点を指摘。誰かの魔法によるものであれば、ダンブルドアなら対応できたはずだし、魔法史の授業でピンズ先生が言ったことを考え合わせれば、その結論になるというのだ。

 

「解き放たれる恐怖…… それはなんらかの怪物であり、スリザリンの継承者のみが操ることができる。そう言ってたわね」

「だとすると、継承者は誰かってことになるでしょ。その敵って? 敵は襲われる?」

「その継承者が、秘密の部屋を開けたのよね。どうやって開けたのかも気になるわ」

「その部屋がどこにあるのかもね」

 

 ピンズ先生によれば、それは神話なのであり実在はしないらしい。だがハーマイオニーとパーバティは、実在すると考えていた。でもなければ、ミセス・ノリスのことに説明がつかないからだ。

 

「あなた、知ってる? 新学期になる少し前、ハリーのところにドビーって名前のハウスエルフが来て警告したのよ。たしか『危険なことが起こるから学校に戻ってはいけない』とかなんとか」

「うわあ、それってまさにいまの状況だよね。つまりこれは、計画的なのか。同じようなことが、また起きるんだわ」

「怒らないで聞いてよ、パーバティ。怒っちゃだめよ。なぜだかドビーは、アルテシアのことを知っていたのよ。ということで、考えられることは」

「2つ、あるよね」

 

 あらかじめ言っておいたからなのか、パーバティが怒りだす気配はない。そのことにハーマイオニーは、ほっとしたようだ。なにしろ、アルテシアを疑っていると思われても仕方がないのだから。

 

「そのどっちかはあきらか。もちろんあたしは、そう思ってるわよ。でもね、パーバティ。少なくともアルテシアは、その犯人となにかしら関係があるってことになるんじゃないかしら」

「ずるいわね、ハーマイオニー。あらかじめ怒るなって言われてるんだから、怒れないじゃない」

「ごめん。でもアルテシアが犯人だなんて言ってないよ。そんなこと、あたしは思ってない」

「でもなにか、つながりがあるってことだね。だからアルテシアは悩んでるのかな。そうなのかな。あのときだって、犯人と関係があったから、見つけるなんて言えたのかな」

 

 なるほど、そう考えることもできるわけだ。話のつじつまは合うような気がするが、ハーマイオニーは、そんなふうに考えてはいなかった。

 

「らしくないわね、パーバティ。そんなふうに考えちゃダメよ。そういうことじゃないんだと思うよ。きっとなにか、違う説明ができるわ。そう考えるべきよ」

「そうだけど、秘密の部屋がなんなのか、それが分からないと結論だせない気がする。継承者って誰なんだろう」

「ああ、それはたぶん」

 

 そうは言ったが、思い当たる人物など、いない。いくつかの点を無視していいのであれば、疑わしいのはドラコ・マルフォイということになるが、ムリがありすぎる。とはいえ、それで無罪放免というわけではない。継承者のことを知っているか、あるいは情報を持っていることは十分に考えられるからだ。ハーマイオニーはそう考えつつ、パーバティを見る。声が返ってくる。

 

「サラザール・スリザリンって、つまり純血主義なんでしょ。じゃあ、継承者も純血主義なのかな。スリザリン寮の生徒に多いって聞くけど」

「そういうことならドラコ・マルフォイが一番だと思うけど、あいつはたぶん違うわよ」

「そんなこと、わかってるけどね。けど、あいつには話を聞く必要があるんじゃないかな。正直に教えてくれるとは思えないけど」

 

 マルフォイ家は純血主義者であり、スリザリン寮の出身。そんな家系であることを、もちろんハーマイオニーとパーバティはよく承知していた。さて、どうやって話を聞くか。その相談へと、話は移っていった。

 

 

  ※

 

 

 ホグワーツの校長室では、ダンブルドアが、なにやら楽しそうに紅茶の準備をしていた。いくつかのお菓子類もあることから、いわゆるアフタヌーン・ティーの準備中であるらしい。

 部屋の中にあるテーブルの席には、アルテシアが座っていた。紅茶の準備なら自分がすると申し出たアルテシアだったが、ダンブルドアからやんわりと拒否され、いまはおとなしくテーブルの前に座っているというわけだ。

 

「さてさて、ずいぶんとお待たせしましたが、ようやく、この日が来ましたな」

 

 準備の終わったダンブルドアが席に着く。まずは飲みなさい、とばかりにアルテシアの前にティーカップが差し出される。

 

「お嬢さんとは、これまでなんどか話をする機会はあったが、ゆっくりと話はできなかった。じゃが今日は、十分に時間もあるし、お互い体調にも問題はなさそうじゃ」

「それで、何をお話しすればいいのでしょうか」

 

 これまでアルテシアは、たとえばトロール騒動で医務室にいたときや、賢者の石が保管されている状況を見に行ったときなど、ダンブルドアと話をしたことがある。ゆっくりと話をしたわけではないのかもしれないが、それでも十分だとアルテシアは思っていた。

 

「気になるのは、新学期となってからのお嬢さんのようすじゃよ。もっと明るく笑っていたはずだと思うがの。お友だちのパチル嬢も気にしておるようじゃよ」

「それは…… それは、わかっています。でも、パチル姉妹には話せないのです。話せば、危ないことに巻き込んでしまうかもしれません。そんなことはしたくないんです」

「なんと。ではキミは、危ないことに関係しているというのかね」

「そうなるかもしれない、ということです。でもわたしは、あの姉妹を守りたい。だから、少し距離をおくしかないんです」

 

 ここで、はっとしたような表情となるアルテシア。たとえば、何かをおもいついたような。

 

「どうかしたかね、お嬢さん」

「あ、いえ、べつになにも」

「ふむ。じゃがもし、それがヴォルデモート卿に関することであるのなら、力になれる。協力できると思うがの。あやつとは、いずれ決着をつけることになるのじゃから」

 

 ダンブルドアの顔を、じっと見つめるアルテシア。迷っていることがうかがえるものの、アルテシアは何も言わない。ややあって、ダンブルドアが軽くため息。

 

「いつでも相談に乗りますぞ。このこと、ようく覚えておくのじゃ。よろしいな」

「すみません、校長先生」

「では、別の話をしようかの。これ、おいしいから食べなさい。タルトとかいうものらしいが、食べながらでかまわんよ」

 

 うなづいて、それに手を伸ばす。ダンブルドアも、それを1つ口に運んだ。そして。

 

「普段のようすなどは、マクゴナガル先生やスネイプ先生たちから聞かせてもらってはいるが、それだけではわからないことも多いのでな。ああ、もちろん魔法書のことや、それが狙われておったことは承知しておるよ」

「はい。マクゴナガル先生が話してくれました。そのことは校長先生もご存知だと」

「誤解しないで欲しいが、お嬢さんのことが気になるからじゃよ。ゆっくりと話もしたかったのじゃが、なぜかそんな機会には恵まれなかった」

 

 たしかに、そうかもしれない。スネイプとは数回だが、マクゴナガルとは、なんども話をしている。そんな先生たちが、生徒のことを校長に報告するのも、ごく自然のことではあるのだろう。もちろん、話したこと全てがそのまま伝わってはいないのだろうけれど。

 

「あの夜、キミは何をしたのかな。いまにして思えば、実に不思議なことじゃと思う。あのときお嬢さんは、ヴォルデモート卿からハリーを守ってくれた。そう考えてもよいのかな」

 

 あの夜とは、クィレル先生と賢者の石を争った夜のことだろう。賢者の石を奪われることはなかったが、クィレル先生は命を落とし、ヴォルデモートは逃げ去った。

 

「ハリーを守ったのは校長先生です。わたしは、例のあの人をどうすればいいのか、わかりませんでした。ただ、おろおろしていただけでした」

「いいや、そうではないよ。ヴォルデモート卿は、このわしにも、どうすることもできなかった。いったい、あの状態をどう例えればいいのか。ともあれキミがいなければ、ハリーは無事ではなかったじゃろう」

「闇の帝王とも呼ばれているそうですね」

「おお、その名も知っておるのかね。じゃがお嬢さん。きちんと名前を呼びなさい。ヴォルデモートと呼ぶようにするべきじゃよ」

 

 それは、なぜか。だがアルテシアは、その意味を尋ねることはしなかった。質問したのは、ヴォルデモートの過去についてだ。

 

「スネイプ先生にもお尋ねしたことがあるのですが、校長先生はご存知でしょうか。その人は、ホグワーツを卒業後、闇の魔法使いとして本格的に活動をはじめるまでの間に、消息があいまいとなっている時期があるようなんです」

「そうじゃの。その間に、魔法の研究などしていたのではないかと言われておるが」

「その不明な時期に、クリミアーナに関わる者が、魔法書を提供していた。そんな疑惑があります。これが事実なのかどうか、ご存知ではありませんか?」

 

 さすがのダンブルドアも、驚きを隠せない。つまりが、このことは知らなかったということだ。スネイプは、どこからかこのことを調べてきたが、ダンブルドアはそこまではしていなかったらしい。

 

「すまんが、そんな話は聞いたことがないのう。おそらく事実ではないとわしは思うがの」

「それは、なぜですか。スネイプ先生もそうおっしゃったのですが、その理由は?」

「ヴォルデモートは、学校にいたときから、人並み外れた才能をみせておった。クリミアーナの魔法書に頼る必要などなかったはずじゃ。もし仮にそうだったとするなら、ヴォルデモートはキミと同じような魔法が使えるということになる。じゃがあやつとキミとでは、まったく違うと思う。それゆえ、事実ではないと考えたのじゃよ」

 

 無言で考え込むアルテシア。たしかに、そうかもしれない。きっと、そう考えるのが自然なのだろう。もしそうであるのなら、アルテシアにとっては良い情報といえるものだ。だがパチル姉妹の叔母、ナディア・マーロウのことがある。マーロウ家は、ルミアーナ家がヴォルデモートに力を貸したと判断し、交流を断っている。絶縁しているのだ。そうするには、するだけのことがあったはずなのだ。そのことを、どう考えればいいのか。アルテシアのなかで、その答えがでるのは、まだまだ先のこととなるのだろう。

 なにやら考え込んでいるアルテシアと、それを見守るダンブルドア。そんな2人のいる校長室に、新たな被害者の報告がもたらされたのは、それからまもなくのこと。

 襲われたのは、コリン・クリービーという名の1年生で、彼もまた、石になっていたという。その報告を聞いたダンブルドアは、思わずこう言った。

 

「『秘密の部屋』が再び開かれた。じゃが、どうやって……」

 


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