ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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 今回より、原作第2巻「秘密の部屋」編です。
 1年次と同じく、学校から始まらないということになってしまいました。学校に着くのは第2話(通算で21話)になるのかな。
 では、秘密の部屋へとご案内。よろしくお願いしますね。


秘密の部屋 編
第20話 「家系図」


『こんにちは、ロン。

 ねぇ、おかしいと思わない? なにか起こってるんじゃない?

 ハリーのところに手紙を書いたんだけど、返事が来ないのよ。』

 

『やあ、ハーマイオニー。

 そんなこと、僕にもわかんないさ。けど、心配するのも今日までだ。

 だって、ここにハリーを連れてくるんだから。』

 

 ウィーズリー家の兄弟たちの間で『ハリー・ポッター奪還作戦』が計画・実行されたのは、それからまもなくのこと。ハリーの住むダーズリー家から首尾よく連れ出すことに成功したが、そのハリーがもたらした話は、ロンの言葉を借りるなら、おっどろきーっ。

 

「それじゃ、そのドビーっていうハウスエルフが、僕らの手紙を隠してたのか」

「そうなんだ。ドビーは、僕に学校に戻っちゃいけないって言うんだ。すごく危険だからって。でも、それだけじゃない」

 

 この『ハリー・ポッター奪還作戦』の根幹を支えているのは、ウィーズリー家が保有しているフォード・アングリア。旧式の車だが、ロンの父であるアーサー・ウィーズリーによって手が加えられており、空を飛ぶことができるのだ。いまは、その空飛ぶ車でウィーズリー家へと移動中、いや飛行中なのである。

 ロンのすぐ上の兄である双子のジョージが運転し、フレッドがナビゲーター。ロンとハリーは、後部座席だ。ロンたちの家につくまでのあいだに、ハリーはドビーのことを話して聞かせた。突然やってきたドビーという名のハウスエルフが、警告の言葉を残していったというのだ。

 

「つまり、なにかあぶないことをたくらんでる家があるってことだな。ハウスエルフってのは、魔法族の旧家にいたりする妖精なんだよ。大きな館や城なんかに住んでて、それなりの魔法力も持ってる。ハリー、キミのことを恨んでいそうな、そんな家に心当たりがあるかい」

 

 運転席から顔をのぞかせてそう言ったのは、フレッド。ジョージはさすがに前方を向いたままだが、同じ意見であるらしい。

 

「あるとすればドラコくらいだけど、あいつに、そんな大それたことをする根性なんてないよな」

「ロン、おまえに聞いてるんじゃないぞ。けど、マルフォイ家ならあり得るぞ。ドラコって、そこの息子だよな。あの家のおやじは、例のあの人に付き従ってたらしいんだ。つまり部下だったのさ」

 

 たしかにハリーも、そんなうわさを聞いたことがあった。ヴォルデモートが復活したなら、彼らはそこへ戻るのだろうか。その復活に力を貸したりするのだろうか。だがハリーには、そんなことより気になることがあった。

 

「おかしなことは、もう1つあるんだ。ドビーは、アルテシアのことを知ってる。クリミアーナってアルテシアのことだよな」

「そうだけど、どういうことだい」

「ドビーが言ってたんだ。ドビーのやつ、何かいいかけては頭を叩いたりしてすぐに自分を罰しようとするから、肝心なところがよくわからない。だけど、あいつがクリミアーナって言ったのは間違いないんだ」

「ドビーが名前を知ってるってことは、マルフォイの家でアルテシアのことが話されているってことだよな。どういうことだろう」

「まてよ、それって危なくないか」

 

 フレッドとジョージだ。いくら双子だからといっても、同じタイミングでまったく同じことを言うとは思わなかった。

 

「そう。僕もそのこと考えたんだ」

「マルフォイ家とは限らないが、気をつけた方がいいな」

 

 考えられることは、2つあるという話になった。その1つは、ハリーと同じくアルテシアも、危ないことに巻き込もうとしているのではないかということ。そしてもう1つが、アルテシア自身もそのたくらみに関係しているのではないかということ。そうでないとしても、なんらかのつながりがあるのは間違いないというのだ。

 実際のところは、どちらが正解なのかはわからない。あるいは、ほかに答えがあるのかもしれないが、なにもかも、はっきりとはしないのだ。考えてみればドビーは、肝心な部分についてはなにも話していない。ただ危険だと言うだけで、より詳しいところに話がいきそうになると、自分で自分を罰しはじめるのだ。ハリーはそれを止めるのに精一杯だった。

 

 

  ※

 

 

 アルテシアは、ひさしぶりに戻ってきたクリミアーナ家の、自分の部屋のベッドで眠った。結局、ホグワーツでの学年末のパーティーには参加できなかったが、寮杯は、奇跡のような大逆転でグリフィンドールが獲得することになった。その1年目は、おおむね順調だったと言えるのだろう。

 トラブルはいくつかあった。なかでも学年末直前に起こった出来事は、命さえも危険にさらすものだった。なんとか乗り切ることはできたが、無茶をした反動は、同然のように返ってきた。おかげで体調をくずしてしまい、約束していたパチル姉妹の叔母とは会えずじまい。

 それでも順調だったと思うのは、アルテシアが、その結果におおむね満足していたからだ。最大の気がかりであった魔法も、なんとか使えるようになった。まだまだ未熟だし、勉強することもたくさんあるけど、とにかく使えるようになったのだ。それを順調だと言わずして、なんと言うのか。

 学年末試験でのトップは、ハーマイオニーだった。アルテシアのほうは、中間より少しだけ上といったところ。知識面ではほとんど差のない2人だが、魔法の実技ではかなりの差がついた。それゆえの結果である。ちなみにアルテシアは、試験ではいつもの魔法を使わなかった。ここはホグワーツなのであり、実技試験では杖を使うべきだと考えてのことなのだが、仮にいつもの魔法を使っていたとしても、さほど影響はしなかったんじゃないか。アルテシアはそう思っていた。

 

「おはよう、パルマさん」

「はい、お嬢さま。おはようございますです」

 

 クリミアーナ家でのアルテシアは、基本的に早起きだ。というのも、早朝の森を散歩することを、なによりの楽しみとしているからだ。ホグワーツでは朝の散歩はできなかった。散歩するのに適当な場所がなかったこともあるが、あちこち自由に動き回れるわけでもなかった。だがクリミアーナ家では、なんの気兼ねもいらないのだ。そのクリミアーナ家に久しぶりに戻ってきたのだから、アルテシアが夜明けとともに目を覚ましたのも、不思議なことではない。

 

「あのね、パルマさん。なるべく早めに戻ってくるつもりではいるんだけど」

「わかってますよ。ゆっくりと森を散歩なさりたいってんでしょ。いいんじゃないですかね。ホグワーツとやらでは、できないことですからね」

「ありがとう、パルマさん」

「いえいえ。でもアルテシアさま。なんだかこの家も、少しずつにぎやかとなっていきそうで、うれしいですよ。いずれまた、お友だちも遊びに来てくれるんでしょうから」

 

 そんな言葉に送られて、散歩へ出る。街中を通り抜けてから森へいくこともあるが、今朝は、直接森へ行くコースを選ぶ。早朝ということもあるが、早めに家に戻るためでもある。というのも、調べたいことがあるからだ。クリミアーナ家の書斎には、膨大な数の本がある。せめてひとつくらいは、関連する記載がされた本があってもいいのではないか。森の中をゆっくりと歩きながら、アルテシアはそんなことを考える。

 アルテシアが調べようとしているのは、パチル姉妹の叔母のことだ。学年末の騒動がなければ、すでに対面を終えていたはずなのだが、この時点で、まだ実現していない。あのとき、アルテシアが寝込んでしまったためだが、その叔母さんの家が、かつてクリミアーナと関係があったというのなら、いつごろクリミアーナに住んでいたのか、どういう事情で外へ出ることになったのか。そのあたりを調べることができるはずだと思っているのだ。

 仮に分からなかったとしても、キングズクロス駅からホグワーツ特急に乗るときに、会う約束ができている。出発の2時間前にホームで待ち合わせることになっているので、話が聞けるだろう。できれば、そのときまでに当時の事情について、いくらかでも知っておきたいのだ。予備知識があったほうが、よりよい話し合いができると思うからだ。

 パーバティによれば、母も叔母も、アルテシアに会いたがっているらしい。ということは、いい方向に進みつつあるということだろう。パーバティは、母や叔母が何を言おうとも、友だちでいることはやめないと言ってくれている。ありがたいことだとは思うが、お母さんや叔母さんともめ事を抱えさせてしまうようなことは、本意ではない。とにかく事情を把握し、その原因を知ることだ。それが解決への早道。パドマだって、それを望んでいるはずなのだ。

 

(そういえば、家系図があったよね)

 

 森でのアルテシアは、ときにひとり言を言うときがある。そうしたくて森に入ったりすることもよくあるのだ。

 家系図とは、つまりクリミアーナ家の先祖が、順に記された系統図のことである。そんなものがあることを、もちろんアルテシアは知っていた。見るためには魔法力が必要となるので、これまで見ることはできなかったが、いまなら見られるだろう。

 この系図には、クリミアーナ家に生まれ名前がつけられた時点で、自動的に記載がされるような仕掛けがされているので、そこにアルテシアの名前も記載されているはずだ。もちろん、その母マーニャの名もあるだろう。

 家に戻ってきたアルテシアは、朝食もそこそこに書斎に入り、家系図を開く。アルテシアの名前が書かれている。だが、他には何も記されていない。その上の方に金色の線が引いてはあるだけなのだが、そのことを疑問に思うようなことはなかった。その金色の線に触れると、その上にアルテシアの母であるマーニャの名前が現れる。もちろんその名に寄り添うように配偶者、アルテシアにとっての父親であるクリモアという名も現れる。クリモアは、マーニャがアルテシアを妊娠中に亡くなっている。

 この家系図では、金色の線がつながるその先へと進むためには、魔法の力が必要となる。始まりは自分の名前からとなるので、家系図に名前が記されていない人には、見られないということになる。そういう人は、アルテシアのとなりで一緒に見るしかないということだ。

 クリミアーナ家では、いわゆる一人っ子の場合が多いので、その系図が横へと広がることはあまりない。多くの場合は縦の方向、つまり世代が積み重なるほうへとつながっていく。マーニャの名前の上にある金色の線に触れる。その母、アルテシアにとっての祖母の名が現れる。アリーシャだ。かなり長生きした人ではあるのだが、アルテシアは会ったことがない。アリーシャは、マーニャが15歳のときに亡くなっているのだ。

 そのアリーシャのところで初めて横方向への線が現れたが、それにはかまわず、より上の世代へとさかのぼる。そうやって順々にたどっていけば、行き着く先が誰になるのか。もちろんアルテシアはその名前を知っている。知ってはいるが、それを確かめるつもりなのだろう。

 次々とさかのぼっていき、その最後へと到達したとき、アルテシアは自分の目を疑った。まさか、そんなことがあるのか。これは、どういうことなのだ。

 

「うそ、だよね」

 

 思わず、声が出ていた。なぜだろう。予備知識としては、そこにはアルテラという名前があると思っていた。いや、もちろんその名前はそこにある。当然、そこにあるべき名前なので、そのことはいいのだ。

 

「ミルバーナと、ユーリカ……」

 

 なぜなのだろう。この世代にだけ、まとめて複数の人たちの名前が現れたのだ。なぜそこに5人の名前があるのか。アルテラ・クリミアーナ、という名前はいいのだ。この人こそが、いわゆる初代さま。クリミアーナ家はこの人から始まったのであり、その後に続く娘たちにとっては、あこがれの名前だ。クリミアーナ家は、魔女の家系。魔女の血筋を受け継ぐ家とされているが、それはこのアルテラより続くもの。

 クリミアーナ家の魔女は、魔法書により魔法を学ぶ。その魔法のほぼすべてが、このアルテラより始まったとされている。アルテラが、自身の得た知識と魔法力のすべてを書き記した本を作ったことにより、クリミアーナ家は始まったのだ。それは間違いない。だが、当然存在するはずのそれ以前の歴史がわからない。アルテラが生まれ育った家のことや当時の状況は伝わっていないのだ。アルテラを中心とし、どのようして人が集い、その人たちとともにどのようにしてクリミアーナが成立していったのか。現在クリミアーナ家がある地に、どのようにして定着していったのか。そのあたりの事情は、まったくわかっていない。だから、これを称して『クリミアーナの失われた歴史』と呼んでいるのだ。

 そのことと、この予想外の結果とが、関係あるのだろうか。いや、関係あるはずだ。ここ出てきた名前が、失われた歴史をひもとくヒントであるはず。

 だがまてよ、とアルテシアは思う。いま自分が考えたようなことを、歴代のクリミアーナ家の魔女たちが思わぬはずがない。これまで誰一人としてこの家系図を見なかったとは考えられないので、このヒントからでは、失われた歴史を取り戻すには至らなかったということになるが、本当にそうだったのか。

 あらためて、その名前をみる。

 アルテラ・クリミアーナ。その左右には、フェリシアとリーナの名がある。この2人はアルテラの姉と妹であり、一人っ子であることの多いクリミアーナではめずらしく三姉妹だったことが知られている。というより、その唯一の例なのだ。

 そして、ミルバーナとユーリカ。アルテシアを驚かせたのは、この2人がクリミアーナ家の人ではないからだ。ルミアーナ家とクローデル家なのである。これは、どういうことだ。クリミアーナ家ではないこの2人が、なぜ記載されているのか。あるいはなぜ、この2人はクリミアーナ家ではないのか。

 気になることは、もう1つある。パチル姉妹の叔母のことだ。かつてクリミアーナから追い出されたそうだが、そのとき名を改めなければならなかったという可能性はあるのだろうか。もしそうなら、そのときルミアーナと名乗ったのだとしたら。あるいは、クローデルと名乗ったのだとしたら。

 心のどこかで不自然さを感じながらも、アルテシアはその可能性を考える。仮にそう考えることが不自然でないのなら、家系図にこの両家が記載されている理由が、いちおうは説明できることにはなる。だが、不自然さはぬぐい去れない。アルテシアは、軽く首を横に振った。

 そうだ、そういえば。

 アルテシアの祖母アリーシャのところで現れた、横方向への線。そこまで戻り、その線に触れる。現れたのは、ガラティアの名。そこからは、どの方向へも金色の線はない。つまりそれは、ガラティアがブラック家へと嫁いだから。系図を見る限り、そういうことになるようだ。嫁いだあとのガラティアのことは、残念ながらこの家系図ではわからない。これは、さきほどのルミアーナ家とクローデル家の場合も同様だ。

 それらの家のことを調べることができれば、あるいは、失われた歴史に近づけるのかもしれない。

 

 

  ※

 

 

『 アルテシア・ミル・クリミアーナ 殿

 

  2年次に使用する教科書のリストを同封を同封します。

  これらの本を準備のうえ、9月1日にホグワーツ特急に

  乗られますよう、ご案内申し上げます。

 

            校長  アルバス・ダンブルドア

            副校長 ミネルバ・マクゴナガル 』

 

 通常であればふくろう郵便で届くその案内を、アルテシアはマクゴナガルの手から受け取った。届けに来てくれたのだが、これはなにもハリー・ポッターのように、ふくろう郵便の手紙を隠されていたりしたわけではない。ただ単に、マクゴナガルがアルテシアに会いたかった、というところだろう。ちなみに教科書リストは、ミランダ・ゴズホークによる基本呪文集(2学年用)を除けば、ギルデロイ・ロックハートの書いた本のオンパレードであった。

 

「先生さま、ひさしぶりですねぇ。お忙しいのでしょうけれど、もっとおいでいただいてもいいんじゃないかと思いますがね」

「それはまた、なぜです?」

 

 ただの社交辞令的なあいさつなのかもしれない。しかもあまり質のいいものとはいえないが、パルマは、とてもうれしそうだ。マクゴナガルの疑問は、もしかすると、そちらのほうに対してなのかもしれない。

 

「パルマさん。わたし、明日にでも教科書を買いに行ってくるわ。新学期まで、あんまり日にちもないし」

「そうですね、そうしたほうがいいでしょう。わたしは今回、一緒には行けませんが大丈夫でしょうね?」

「はい。本屋さんの場所は覚えていますから」

「そうですか。それから一応言っておきますが、魔法界には『未成年魔法使いに対する妥当な制限』というものがあります。つまり学校以外の場所で魔法を使うと処罰を受ける可能性があるのです。注意なさい」

 

 もちろん、アルテシアはそのことを知らなかった。たまたま、この休暇中に魔法を使ってはいないが、もし違反が発覚したならどのような罰をうけるのだろうか。

 

「先日、ハリー・ポッターがこのことに違反し、警告を受けました。なので、あなたにも言っておく必要があると考えました。同じ目にあうことのないようにしなさい」

「はい。でも先生」

「でも、はなしです。言うことを聞きなさい」

「わかっています。でも先生、わたしの母は、8歳のころより魔法を使用していたらしいんですけど」

「ああ、そういうことですか。さすがの魔法省も、このクリミアーナには関与できないのでしょうね。あなたのいつもの魔法は、少し特殊に過ぎるのです」

 

 では、使ったとしてもおとがめなし? いやいや、それはないだろう。おそらく、マクゴナガルが許しはしない。

 

「ですが、杖による魔法は検知されるはずですよ。それはさておき、身体の具合はどうです?」

「もう平気です、先生。言っておきますけど、あれは無茶ではありませんから。だから、禁止はしないでください」

「では、またやるつもりなのですね」

「必要があれば」

 

 そう言って、アルテシアは笑った。これにはマクゴナガルも、苦笑を浮かべるしかなかった。

 

「そうだ、先生。魔法界にこんな名前の家はありますか。ブラック家、ルミアーナ家、クローデル家、なんですけど」

「わたしが知っているのは、ブラック家だけですね。ルミアーナとクローデルは、初めて聞く名前です」

 

 その問いに対する答えを残し、マクゴナガルは学校へと戻っていった。新学期はもうすぐだ。副校長としてやることは多いということだろう。その翌日、アルテシアはダイアゴン横町にある、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店を訪れる。1年目のときと違って買い物はこの店だけだが、アルテシアはそのあとで、マダム・マルキンの洋装店に顔を見せた。

 

「こんにちは」

「おや。おやおや、お嬢ちゃん。覚えているわよ、お元気そうでなによりね。どう、学校のほうは」

 

 とくに買うものはない。ただ、母とはつながりのあった人なので、素通りしたくはなかっただけである。

 

「おかげさまで、順調です。着心地のいい制服を、ありがとうございました」

「あらあら、そんなことはいいのよ。でもほんと、お母さまが生きておいでなら、どんなにかお喜びだったでしょうね。なにしろ、あなたの成長を、それはそれは楽しみにしてらしたのよ」

「はい。その話は聞いています」

「あら、そうだったかしら。ごめんなさいね」

 

 実はアルテシアは、その話をパルマから聞いているのだ。母マーニャは、パルマと2人でマダム・マルキンのアドバイスにも助けられながら、アルテシアの着るローブを作った。アルテシアの成長を思い描きつつ、そのローブを縫い上げたのだ。3歳のアルテシア、5歳のアルテシア、7歳、10歳、15歳… それぞれのアルテシアは、どんなだろう。何を考え、何に喜び、何に笑い、何に対して泣くのだろう。

 そんなことを話しながらの作業であったそうだ。当時、マダム・マルキンとは手紙のやりとりを続けていたので、そのことのいくらかをマダム・マルキンも知っているのだ。

 

「ええと、まだ新しい制服は必要なさそうね。でも、そうね来年あたりは、新調したほうがいいわね。もう、あの生地は残ってないんだけど」

「わたしの家にも、残ってないです。母は、あの生地をどこで手に入れたのか、言ってましたか?」

 

 考えてみれば、これだって立派な手がかりなのではないか。アルテシアは、そのことに気づいたのだ。あの生地は、どこにでもあるようなものではない。であれば、その入手先を知ることは、母のことをもっとよく知ることになる。そこまで考えてアルテシアは、自分自身に対して苦笑を覚えた。母のことを、誰よりも一番よく知っているつもりでいたからだ。

 

「あいにく、それは聞いてないわね」

「そうですか」

 

 店の入り口が、開けられる。顔を見せたのは、アルテシアとはさほど年の変わらぬ少女と、その母親らしき人物。さしずめ、ホグワーツの新入生であり、制服を買いに来たのだろう。引き上げるにはいい頃合いだ。

 

「あの、これで失礼します。また来年、来てもいいですよね」

「どうぞ、いらっしゃいな。お母さまの代わりにはなれないけれど、あなたの成長した姿を見せてもらうわ」

「はい」

 

 頭を下げ、店を出る。いや、出ようとしたのだが、店に入ってきていた少女と目が合った。その母親らしき人も、アルテシアを見ていたようだ。そのことに気づいたものの、どちらも見覚えのない人だったので会釈をしただけで店を出る。だが妙に、その少女のことが気になるアルテシアであった。

 




 ちょっと、話がややこしくなりましたね。ちょっとどころではないのかも。
 ドビーは、屋敷しもべ妖精ですが、ハウスエルフという呼び名を選びました。たぶんドビーの登場場面はほとんどないと思いますので、冒頭でお出ましいただきました。忘れないうちに、ということです。
 わかりやすく、軽快なテンポで。それを意識してはいるのですが、なかなか難しいようです。次回もよろしくお願いします。

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