ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第17話 「魔法書の秘密」

 あの森で見たことを、アルテシアはマクゴナガルに報告した。本来ならば、その相手はダンブルドアがふさわしいのだろうが、アルテシアが選んだのは、マクゴナガル。そこには、いささかの迷いもなかった。それはなにも、ちょうどその日が2人の勉強会の日に当たっていたからでは、決してない。

 そのことを話している途中、ダンブルドアから校長室に来るようにと言われていたことを思い出したアルテシアだったが、あれから半月ほどは経っている。あの約束がまだ有効であるのかどうかは、微妙なところだ。そういえば、ダンブルドアとはほとんど話をしたことがなかった。トロール騒動の直後に医務室で話をしたことはあったが、あれはお見舞いのついでだ。じっくりと話をしたわけではない。

 

「ダンブルドア校長には、わたしから話をしておきます。あなたは行かなくてよろしい」

 

 マクゴナガルにそう言ってもらえたこともあり、アルテシアは校長室には行かなかった。行くべきかなとも思ったのだが、身の回りのことに気を取られ、頭の隅へと追いやることになってしまったのである。クィレル先生のことは教師側の問題なので、手出し無用と言われてしまったが、禁止という言葉は使われなかったので、なにかあれば手出しはするつもりではいた。

 パチル姉妹のほうでは、ふくろう郵便で叔母さんからの手紙が届いたらしい。アルテシアのようすを聞いてきたそうだ。もちろんそれだけではないのだろうけど、パーバティが教えてくれたのはそれだけだった。

 それに、試験の時期を迎えたこともある。試験勉強の追い込みが必要なのだが、そんな日々のなか、寮の部屋でなにか違和感を感じるようになっていた。それがなにかはわからなかったが、わからないだけによけいに気になったし、違和感を感じていたのは、アルテシアだけではなかったのだ。あるとき、ハーマイオニーが声をあげた。

 

「やっぱりヘンだわ。本の位置が違ってる」

 

 同じ部屋の他の3人、アルテシアとパーバティ、そしてラベンダーが注目するなか、ハーマイオニーは、机の上に山積みとなっていた本を指さした。

 

「ほら、これを見て。位置がずれてる。引き出しだって、開けられてるわ」

 

 反射的にアルテシアも、自分の机を見る。自分のところでそんなことが起こっているのかどうかはわからなかったが、ラベンダーが声をあげる。

 

「まってよ、ハーマイオニー。まさかあたしが無断で開けたとか言いたいの?」

「そうじゃないわ。そんなの、いまさらでしょ。あたしが言いたいのは、ほかの誰かが部屋に入ってきてるんじゃないかってこと。何かを探しているのか、調べてるのか。とにかく、ここで何かしてるんだわ」

「でも、なんだってそんなことがわかるのよ。あんたの勘違いかもしんないじゃん」

「ええ、そうね。そうかもしれない。だから確かめるために罠をしかけたのよ」

 

 『罠ですって!』と、他の3人の異口同音の反応にハーマイオニーは満足げに言葉を続けた。

 

「マグルの世界では、よくある罠よ。罠っていうより、目印かな。とくに男の子がやるみたいなんだけど」

 

 ハーマイオニーが言うには、自分の髪の毛を積み上げられた本の一番上のページにはさみ、もう一方の端っこを一番下の本にはさんでおいたのだという。こうしておけば、本を動かしたことがすぐにわかるというのだ。引き出しのほうも、開ければ髪の毛が切れるようにしてあったらしい。それを、実際にやってみせる。

 

「ほらね、こうしておけばすぐにわかるでしょ」

「なるほど」

「みんなは、ヘンだと思ったことないの? どこか違ってるって思ったことない?」

「あるわ。たしかに、なんかおかしいなって思ってた」

 

 ああ、そうなのか。ここ数日の違和感は、それだったのか。誰かがこの部屋で、何かを探している。気づかれないようにと、動かした物は元に戻しているのだろうけど、まったく同じにはならない。微妙にずれてしまっていることが、違和感を生んでいたのだ。

 

「だとしても、誰が何のために? ここで何をしてるっていうの?」

「たぶん、本だと思う。ええと、試験が終わるまで言わないつもりだったけど、そうもいかないわ。アルテシア、きっとあなたの本だと思う。あの黒い本。あれが魔法書なんでしょ」

「えっ!」

 

 驚かずにはいられなかった。それは、残りの2人も同じなのだろう。その目は、アルテシアとハーマイニー、それぞれに向け、右に左に、交互に動いていた。

 

「ハグリッドが言ってたわ。あなた、禁じられた森に行ったでしょ。そこで、ユニコーンを襲った相手から魔法書を渡せと脅された。ハグリッドが、それを聞いてるのよ」

「そ、それは…」

 

 たしかにそうだったが、まさか、話を聞かれていたとは。急いで言い訳しようとしたのだが、そのときのパーバティの動きは速かった。アルテシアがほとんどしゃべらないうちに、アルテシアのところへと飛んできて肩を掴んだのだ。

 

「アルテシア、あなた、大丈夫なの?」

「ええと、平気よ、パーバティ。ケガもしてないし、お腹も痛くないわ」

 

 もちろん、心配してのことなのだろう。一瞬ののち、皆に注目されていることを感じてか、パーバティは、掴んだ肩から手を離し、自分の所へと戻る。いくらか、顔を赤くしていた。

 

「ええと、話の続きなんだけど、いいかしら」

 

 誰からも返事はないが、それが同意を意味することくらい、ハーマイオニーも承知している。

 

「その誰かさんは、アルテシアの魔法書が欲しいのよ。だから、こっそり探してるんだと思うわ。ね、アルテシア。大切なものなんだろうけど、渡しちゃうってことも考えた方がいいんじゃない。いつまでも隠してると、今度はあなたが襲われることになる」

「違うわ」

「え?」

「違うのよ。そうじゃない」

 

 何が違うというのか。誰もが視線をむけたのは、アルテシアではない。ついさっきは赤い顔だったのに、いまは青い顔をしているパーバティだった。

 

「パドマなの。魔法書を探しているのは、パドマよ」

「な、なに言ってるの」

「もう、正直に言うわ。ほんとはすべてがはっきりしてからアルテシアだけにって思ってたんだけど、わたしとパドマは、アルの魔法書を手に入れようとしてたの」

 

 

  ※

 

 

「じゃあ、なにか。賢者の石だけじゃなくて、その魔法書ってやつも守らないといけないっていうのか」

「ええ、そうよ。あたしは、必要なこと、いまわかってることを全部、あなたたちに伝えたわ。これまでの説明をちゃんと聞いててくれたんなら、ロンにだってその理由がわかってるはずなんだけど」

「待ってくれ。そりゃ、キミの言ってることはわかるさ。でも、信じられるかそんなこと。そんな本がほんとにあるんなら、フィルチだって魔法使いだぞ。あいつは、スクイブなんだ」

「でもアルテシアは、ちゃんと魔法が使えるようになったでしょ。このことは、どう説明するの」

「あいつは、もとから魔女だったってことだろ。フィルチとは違うさ」

「あたしがウソついてるって言うのね」

 

 ここで、話がおかしな方向へと行ってしまわないようにと、ハリーが間に入る。

 

「そうじゃないんだよ、ハーマイオニー。ロンは、疑ってるんじゃない。いろいろありすぎて、納得するのに時間がかかってるだけだよ。ロンだって、ちゃんとわかってるんだ」

「だったらいいんだけど」

 

 そのときロンに向けられた視線が、なんだかとても冷たい。さすがにロンも、これはマズいと思ったのだろう。

 

「そ、そうさ。ハリーの言うとおりさ。こういうことには、時間がかかるものなんだ。それはともかく、あいつがあれだけいじめられたりからかわれたりしてもメゲなかったのは、そういうわけか。いずれは魔女になれるって知ってたからなんだろな」

「ロン、あなただってからかったことがあるんだからね」

「まあまあ、2人とも。つまり話をまとめると、こういうことだろ。これまでべつべつだった2つのことが、実は1つだったってことさ」

「どういうことだい」

「いいか、ロン。まずは賢者の石だ。今までずっと、スネイプが自分のためにあの石を欲しがってるんだと思ってた。でも違った。ヴォルデモートのためだったんだ」

「その名前を言うのはやめてくれ!」

 

 どこかでヴォルデモートが聞いているのに違いない。まるでそう思っているかのごとく、ロンは震えだした。だがハリーは、そんなことには気づかない。

 

「賢者の石が手に入れば、命の水がつくれるだろ。ヴォルデモートが復活するためには、それが必要なんだ。だから、あの石を手に入れようとしている」

「その名前を言うなって言ったろ」

「いいか、ロン。賢者の石が奪われたら、あいつは命の水を得ることになる。そのあとは、魔法の力だ。せっかく魔法力の回復手段を見つけたんだ。手を出してこないわけないだろう」

「それが、アルテシアの本ってわけか」

「そうさ。きっと狙ってくる。いや、もうすでに手に入れようとしているんだ。キミもハグリッドから聞いただろ。アルテシアが、魔法書を渡せって脅かされてたって」

「そうだけど、信じられるか。魔法力を得ることができる本だぞ。そんな本が、ほんとにあるってのか」

「まだ、そんなこと言ってるの。あたしは、何度も見たわ。黒い表紙の本よ。アルテシアが読んでるところ、あなたたちは見たことないの」

 

 そんなこと、あったっけ。ロンの考えてることは、丸わかりだった。だがはたして、実際に目にしていたのかどうか。アルテシアが談話室でその本を読んだのは、数えるほどしかない。あとはもっぱら、寮の部屋だ。

 

「けど、そうだとして、どうすりゃいいんだ。賢者の石はフラッフィーが守ってて、いまのところスネイプは手が出せない。けどあいつは、無防備だろ。ぼくらが守るとしても、スネイプはあいつを呼び出すことができるんだ」

「そうだけど、アルテシアは、スネイプじゃないって言ってるわ。怪しいのはクィレル先生だって」

「え!」

「まさか、そんなことあるはずないだろ。スネイプに決まってる。絶対にスネイプだ」

 

 クィレル先生犯人説には、ロンもハリーも驚かずにはいられない。ハリーは、信じようともしない。

 

「とにかく、相手が誰だろうと賢者の石を盗まれちゃいけないわ。なんとしても守らないと。それがアルテシアを守ることにもなるの。わかるでしょ」

「わかるけど、ほんとかなぁ。魔法の本だぞ。そんなの、ほんとにあるのかな」

「まだ言ってるの。あなただって、アルテシアに勉強みてもらったことあるはずよ。あたしより教え方がうまいって言ってるの、聞いたことあるんだから」

「そんなこと、言ってないぞ」

「とにかく、協力するのかしないのか。どっちなの?」

 

 そう言われてしまうと、イヤだとは言えないロンであった。ハリーももちろん賛成したので、ハーマイオニーは満足したようだった。

 

「じゃあ、アルテシアにもそう言っておくからね」

「まてよハーマイオニー、疑問が1つあるんだ」

 

 急いで寮に戻り、このことをアルテシアに報告しようとしたのだろうが、そのハーマイオニーをハリーが呼び止める。

 

「アルテシアの本が魔法書だって、どうやってわかったんだ? そんな本だってどうして」

「それはもちろん、アルテシアが教えてくれたからよ。あたしは最初、いろんな魔法が紹介されてる本だと思ってた。でもそんな本なら図書館に行けば、いくらでもある。だから、脅されてるんなら渡しちゃえばいいって言ったのよ。そしたらね」

「どうしたんだ」

「反対された。とても大切なものだからそんなことできないってね。なにがそんなに大切なのか、いろいろと聞いてみたわ。なかなか言わなかったけど、一晩かけてようやくわかったの。クリミアーナ家では、あの本で魔法の勉強をして魔女になるのよ。つまり、あの本から魔法の力を得るってわけ。念のために言っておくけど、これは秘密だからね」

 

 それを聞き出すまえにひと騒動あったし、その騒動がなければ聞き出せなかったかもしれないのだが、ハーマイオニーは、そのことには触れなかった。触れなくても、この話は完結するからだ。あの件は、アルテシアとパーバティの、いやパチル姉妹の問題だ。もちろん口出しはするんだけど、とハーマイオニーは心の中で思った。

 

 

  ※

 

 

 試験が終わった。試験結果の発表は1週間後なので、それまでは自由時間のようなものだった。アルテシアは、他の生徒たちとおなじように、さんさんと陽の射す校庭にでた。そのあとを、パーバティがついてくる。2人は、湖までの道を、ゆっくりと歩いた。

 

「じきに、パドマも来るはずよ。話したいことがあるって言ってた」

「うん」

 

 試験が終わったら、ゆっくり話をしよう。そんな約束をしていた。場所は、湖のほとりのベンチ。冬場の寒い日に、アルテシアとパーバティが2人で話をした、あのベンチだ。あの日と違い、陽の光がまぶしいくらいだった。

 ベンチに座る。話は、パドマが来てから。どちらもそう思っていたのだろう。しばらくは、陽の光を反射してキラキラと光る湖面を見つめていたのだが。

 

「そういえばさ、あのとき。寒い日だったのに、このベンチで話をしてても、そんなこと全然思わなかったんだよね。ひょっとしてあのとき、アル、なんかした?」

「ううん、べつになにも。ただ風邪ひかないようにって思ってただけだよ」

「ふうん。このウソツキめ、よく言うよ」

 

 クスクスと、軽く笑いあう。こんなふうに笑いあえるのも、ひさしぶりだ。というのも、パドマ姉妹とのあいだにある問題に、解決の目途がついてきたからだった。解決できると、2人は思っていた。夏休みになったら、実家へアルテシアを連れていく。そこで叔母さんと会う。そんな約束ができていた。実際に会って話をすれば、いろんなことが解決するはずなのだ。

 かつて、クリミアーナを追い出されたという叔母。もちろんその先祖ということだが、それから数世代の時が過ぎた今へと、当時のすべての事情が正しく伝えられてきたとは限らない。どこかに思い違いや行き違いなどがあって、誤解している部分があるのではないか。それを、可能な限り確かめようというわけだ。

 もちろんアルテシアは、『クリミアーナには近づくな、あの家と付き合ってはいけない』という言葉の意味するところを聞いてみるつもりだったし、可能ならクリミアーナに戻ってきてもらいたかった。

 

「でも、ほんと。ごめんね」

「もういいよ、気にしないで、パドマのお姉さん」

「な、なによ、その呼び方は」

「あはは、でも間違ってはいないでしょ」

「そうだけど、なんかヤだ」

 

 イヤなら、もうその話はしないで。アルテシアは、そう言っているのだ。だが、そのことに触れないわけにはいかない。無かったことにはできないし、このことがあったからこそ事態は進展した、とも言えるのだ。

 ハーバティは、母親に何を言われようとも、アルテシアとは友だちでいるつもりだった。なにも変わることはない。だがパドマには、母の納得が必要だったのだ。だから、説得を試みた。何度も何度もふくろうを飛ばし、ようやく叔母を引っ張り出すこともできた。魔法書のことは、その叔母から聞かされた。叔母は、クリミアーナの娘がホグワーツにいるなど、とうてい信じられないと言うのだ。もし本当なら、魔法書があるはずだと。クリミアーナの魔女は、あれで魔法を学び身につけるのだから、ホグワーツに入学するはずがない、そもそもそんな必要はないのだからと。

 パドマは、叔母に魔法書を見せると約束した。叔母は、アルテシアが本当にクリミアーナの娘であるのなら、本当にそうだというのなら、パチル姉妹の母親も交えて話をしてもいいと言ったのだ。昔のことも、もっとよく調べてみると約束もしてくれた。だから、その証明として魔法書が必要だったのだ。

 相談してくれればよかったのにと、アルテシアは言った。なるほど、今思えばそうなのだが、パチル姉妹はそうしなかった。パチル姉妹の考えた作戦は、パーバティがアルテシアを寮の外へと連れ出している間に、パドマが寮の部屋を調べるというものだった。パチル姉妹は双子だ。パドマがグリフィンドール寮にいても、気づかれない。誰もがパーバティだと思うだけ。部屋に入っても、不審に思われることはない。

 だがハーマイオニーには、気づかれてしまったというわけだ。

 

「あれ、ハリー・ポッターだよね」

「ほんとだ。ウィーズリーもいるけど、ハーマイオニーはいないね」

 

 その2人は、すぐにやってきた。ベンチに全員は座れないので、ハリーとロンは立ったままだ。

 

「アルテシア、なるべく人の多いところにいたほうがいいよ」

「うん、わかってる。でもほら、今日は、校庭にもたくさんいるわ。ここでパドマと待ち合わせなの」

「そうか。だけど僕の額の傷がうずくんだよ。これは、警告なんだ」

 

 たしかにハリー・ポッターの額にはイナズマ型の傷がある。その傷が『名前を言ってはいけないあの人』につけられた傷だということは聞いていた。

 

「痛むんなら、マダム・ポンフリーのところに行ったほうがいいんじゃないの」

 

 そう言ったパーバティを、ハリーがにらむ。

 

「僕は病気じゃない。何か危険が迫ってるってことなんだよ」

「ほんとだぜ、アルテシア。寮の部屋にいたほうがいいんじゃないか。キミ、狙われてるんだろ。その、スネイプにさ」

「違うわよ、ロン。スネイプ先生は、そんなことしない。処罰のレポートを早く出せ、とは言われるけどね」

「レポートだって。なんのはなしだよ」

 

 結局アルテシアは、スネイプから命じられた羊皮紙5枚分のレポートは提出しなかった。スネイプもアルテシアの顔を見るたび『レポートを提出しろ』と言ってはくるが、あまり強くは言わないところを見ると、本気ではないのだろう。夏休みのパチル家訪問が終わり、いい結果となったなら、新学期にスネイプのもとを訪ねていくつもりにしている。もっとも、スネイプが居所を教えてくれるかどうかはわからないのだが。

 

「ハリー、心配してくれてるのよね。ありがとう。でもわたしは、あなたたちのほうこそ心配よ」

「ぼくたちは大丈夫さ。狙われてるのはキミのほうだ」

「違うわ、ハリー。あなたは例のあの人と因縁があるでしょう。今回のことは、それとつながってると思うよ」

 

 ハリーは、返事をしなかった。アルテシアの言うことに、心当たりがあるからだ。彼自身も、今回のことはヴォルデモート復活のための事件だと思っている。まず賢者の石を手に入れて生命力を得る。そして、魔法書によって魔法力を回復させる。そうなれば魔法界は、かつてのような暗黒のときを迎えることになるのだ。そんなことは、させない。賢者の石は、絶対に守るんだ。

 ハリーは、改めて自分に言い聞かせる。もちろん、アルテシアの魔法書も、渡したりするもんか。

 

「ハリー、あの石を守ってる罠のことはハーマイオニーに伝えてあるわ。でも十分に気をつけて」

「わかってるさ。けど大丈夫だ。スネイプはフラッフィーをおとなしくする方法を知らないんだ。それがわからない限り…」

 

 そこまで言って、ハリーは口をつぐんだ。ちなみにフラッフィーとは、三頭犬の名前だ。

 

「どうしたんだ、ハリー?」

 

 ハリーの言葉が不自然に途切れたことに気づいたロンが問いかける。ハリーの顔は真っ青になっていた。

 

「今、気づいたことがあるんだ。すぐ、ハグリッドに会いに行かなくちゃ」

「どうして?」

「とにかくこい」

 

 そして走りだそうとしたが、思い直したように止まる。

 

「アルテシア、キミは寮に戻るんだ。あとでハーマイオニーを行かせるから、ぼくたちがOKを出すまで、部屋をでちゃいけない。いいね」

「なんなの、ハリー・ポッター。どういうことなの」

「パーバティ、キミにもお願いだ。アルテシアを、部屋に閉じ込めておいて。ぼくたちがOKを出すまでだよ。いいね」

 

 今度こそハリーは、ロンとともに走り去る。行き先は、その方向から見てハグリッドの小屋。ハリーは気づいたのだ。ハグリッドが、フラッフィーの秘密を漏らしてしまったかもしれないということに。その可能性があることに気づいたのだ。

 ほどなくして到着したハグリッドの小屋で、ハリーたちは、その可能性が現実となっていたことを知った。ハグリッドが、うっかり三頭犬のフラッフィーをおとなしくさせる方法を漏らしてしまっていたのだ。となれば、賢者の石があぶない。

 アルテシアは、フラッフィーをどうやって切り抜けるか、これが一番難しいと言っていた。そのあとにも罠は仕掛けてあるけれど、クィレル先生であれば、難なく通り抜けるだろうと。ハリーは、クィレル先生ではなくスネイプだと思っているが、この際それは、どっちでもいい。問題は、賢者の石が奪われてしまったかもしれないということだ。

 

「どうするんだ、ハリー」

 

 ロンの問いかけには答えず、走りだす。そしてようやく校舎へと戻ってきたところで立ち止まる。

 

「ロン、校長室ってどこだ。ダンブルドアのところに行かなくちゃならないんだ」

 

 だがその場所を、ロンも知らなかった。

 




 賢者の石と、そして魔法書をめぐる攻防も、いよいよ終盤です。ハリーたちと主人公とが協力することになったようです。もっと早くにそうしてもよかったんですけど、魔法書の秘密を知るのはクィレル先生のほうが先、という形にしたかったんですね。それに、主人公にそのことを告白させるタイミングも難しかった。いま思うと、トロール騒動で入院しているときがチャンスだったのかも。
 賢者の石は終わりつつありますが、秘密の部屋をどうするか。ともあれ、次回もよろしく。

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