ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第14話 「クィリナス・クィレル」

 パチル姉妹がケンカをしたのは、これが初めてではない。いわゆる姉妹ゲンカというもので、何度も経験してはいるのだが、今回は、お互いがお互いのことを、あまりにうらやんだことがその発端である。すなわち。

 

「そんなびっくりするような話があるのなら、わたしが直接お母さんから聞きたかったな」

「わたしだって、アルがそんなところに連れてってくれるんなら、行きたかった。話だけ聞くんじゃなくって」

 

 つまりがパドマは、クリスマス休暇は自分が自宅に戻っていればよかったと言ってるのである。その話を、姉を通してではなく直接聞きたかったというのだ。パーバティは、それを言うのなら自分もクリミアーナの森や墓地に行ってみたかった、とすねてみせた。そんなささいなことから始まったものが、なかなか終わらない。そんな状況が続いているのである。

 ここで気になるのは、パーバティが母親から聞かされたという話の内容だ。パドマはそれを姉のパーバティを通して聞いたのであるが、その内容に驚いたことも、その要因のひとつであるのかもしれない。すなわち、どう受け止めていいか迷い、決められない。なので、ひとまず怒ってみせたといったところだろう。これが自宅であれば、しょっちゅう顔を合わせることでもあり、自然消滅といった感じでいつのまにか仲直りとなってしまうのだろうが、ホグワーツでは別々の寮だ。顔をあわせずとも済むだけに、仲直りのきっかけが難しかった。

 だがこのことは、その本人たちを別にすれば、どうということのない出来事だ。せいぜい、あの仲良し姉妹がめずらしいわね、などとうわさされるくらいのものだろう。だが、アルテシアにとってはそんなに簡単ではなかった。パドマとパーバティは、とても大切な友だちなのだ。ほおっておいてもそのうち仲直りする、そんな程度のケンカだとわかっていても、ほおってはおけなかった。どうしても気になってしまうのだ。

 

「あのさ、パーバティ」

「なに」

 

 とにかくパーバティに話しかけてみる。いつもとかわらぬパーバティではある。だがそれは、パドマとの仲直りを提案しなければ、という前提条件があってのことだ。そのことに触れれば、とたんに機嫌が悪くなる。パドマのほうも似たようなもので、パーバティとの仲直りについては、口にすることができない。そんなことをすれば、すぐさま寮に戻ってしまう。これでは、なんの進展もない。

 

「わたしね、決めたから」

「なにを?」

「あなたたちと、絶交する。2人が仲直りしない限り、もう口も利かない」

「え! あんた、なに言ってんの。それ本気なの?」

 

 もちろん、本気ではない。2人にきっかけを作りたいだけのこと。とはいえこれは、アルテシアにとっては危険な賭けであった。思惑通りにいかなければ、どういうことになるのか。

 明らかに自分が不利な賭けだと言えた。ただ2人の友人を失うというだけではない。クリミアーナの娘として守っていくだのだと、そう決めた2人なのだ。むろん、絶交しようとも見守っていくことはできるだろう。だがそれでは、いけない。十分ではないのだ。見守る以外には、もうその人のために何もすることができない。そんな状況など、望まない。

 内心での、そんな思いが顔に表れていたのだろう。まじまじとアルテシアの顔をみつめていたパーバティが、急に笑い出した。

 

「あはは、あんたってホント、わかりやすいねぇ」

「な、なによ」

「そうか、自分ではわかんないんだ。そりゃそうか。鏡でもない限り、いまどんな顔してるかなんて、わかんないよね」

 

 自分が笑われているのは確かだが、いま自分がどんな顔をしているのかわからないのは確かだし、口を利かないと言ったばかりだということもあって、怒るに怒れなかった。でも、パーバティと並んだまま廊下を歩いていた。今日の授業はもう終わり。いまは、寮に向かっているところだ。

 

「ほら、今度は困った顔してるよ。絶交するなんて言っちゃったものの、ホントにそうなったらどうしようってところかな」

 

 いまは、顔が赤くなっているだろう。さすがにそれは、アルテシアにもわかった。こんなに簡単に気持ちを読み取られてしまうことに、気恥ずかしさを覚えたのだ。それにここまで見透かされているようでは、この絶交作戦は意味をなさないことになる。失敗というわけだ。

 

「アルって、不思議だね。普段はこんなにわかりやすいのに、ときどき、なに考えてるのかわかんないときがある。そのこと、自覚してる?」

 

 アルテシアは、上目遣いにパーバティを見ただけだった。パーバティは軽くため息。

 

「口を利かない、か。わかった。あたしだって、アルと絶交なんてことになったらイヤだし、パドマもそれは同じだと思うから。仲直りするよ。パドマと話してみる。だから返事はしてよね」

「う、うん。ごめんなさい」

 

 そこで、パーバティは立ち止まった。空き教室の前だ。

 

「ちょっとだけ、話があるんだ。誰にも聞かれないほうがいいと思うから」

 

 たしかに廊下にはちらほらと何人かの姿はあった。だがそれよりも、立ち話ではないほうがいいと思ったのだろう。入り口にはカギがかけられていたので、パーバティが杖を取り出す。だが、思いついたようにアルテシアを振り返った。

 

「やってみる?」

 

 アルテシアも杖を取り出した。学校で習った魔法であれば使ってもいいということになっていたので、杖を使い、カギをあける。厳密にいえば、カギを開けるためのアロホモラ(Alohomora:開け)の呪文は授業では習っていないのだが、アルテシアのなかでは、杖を使っての魔法ならOKという判断がされているのだ。おそらくマクゴナガルも、それくらいは認めるだろう。

 カギが開いたので、2人は教室のなかへと入り込み、適当なところに座る。

 

「さすがだね。ホントに魔法が使えるようになったんだ。よかったね」

「ありがとう。わたしもね、なんだか不思議なの。練習しなきゃダメなんだと思ってたんだけど」

 

 不思議に思うのは、それだけではなかった。魔法を使おうとするときは、とくに意識することなく必要な魔法が頭に浮かぶものだ。考えることなく、無意識のうちにその魔法を発動しているといってもいい。この場合なら、自分が立っている空間を扉の向こう側へと移動させていただろう。より安全策を取るならば、いったん扉の向こう側をこちらへ移しだし、そこが危険な場所ではないことを確かめてから自分を転移させ、扉の向こうに戻す、というやり方を選ぶ。カギなどはどうでもよかったはずなのある。だが杖を持ってその前に立ったとき、カギを開けるという魔法が、最初の選択肢として頭に浮かんだのだ。空間転移に関することは、そんな方法もあったなと、頭をよぎるくらいのもの。

 都合良くできていると言えば、そうなのだろう。だが、そのことに不安を感じないわけではない。やはりクリミアーナの、いつもの魔法のほうが信頼できるような気がするのだ。試したことがないのでなんとも言えないが、杖を持っているときはクリミアーナの魔法が使えないのかもしれない。だから、そこを飛び越えるのではなくカギを開ける、という発想が最初に来るのだとしたら。だとすれば、どういうことになるのか。

 もっとも、試してみれば済むこと。やってみれば分かるのだ。仮にそうなのだとしても、いざというときは杖を放り出せばいい。そうすれば、いつもの魔法が使えるのだから。

 

「もしもーーし、アルテシアさん、私の声、聞こえてる?」

「あ、ああ、ごめん。聞こえてるよ」

「いま、何か考えてたでしょ。そんなときだよ。そんなときは、あんたが何考えてんのかわかんないんだ。いつもなら、ひと目でわかるのにさ」

「そ、そうなんだ」

 

 たしかに今、考えごとをしていたように思うが、そんなに極端に変わったりするはずがない。アルテシアがそう言おうとしたとき、ガラッと音をたてて教室のドアが開かれた。入り口には、クィレル先生が立っていた。

 

 

  ※

 

 

 自分以外は誰もいない、クリミアーナの家。その食堂にある大きなテーブルの前にパルマは座っていた。いつもの自分の席である。アルテシアは、休暇が終わり学校へと行ってしまったので、その席は空いている。母親のマーニャの席もずっと空いたままだし、来客用としてある2つも空席だ。あと1つ席があるが、そこも、もちろん空席だ。

 あわせて6人が一緒に食事ができるのだが、パルマが知る限り、ここに6人が揃ったことはない。クリミアーナ家は、意外に少人数だ。というより、マーニャさまが亡くなるのが早すぎたのだとパルマは思う。

 パルマがマーニャのもとへとやってきたのは、マーニャが20歳のとき。すでに妊娠しており、お腹も大きくなり始めたころだった。マーニャを無事に出産させること、それがパルマの使命だった。

 身体が弱かったマーニャは、医師に出産を止められていた。だがマーニャは妊娠した。まさに究極の選択であった。あきらめるべきか。だが自分が出産をあきらめれば、クリミアーナの魔女の血筋は途絶えることになるのだ。自分の命との引き換えになりますよ、と医師は言うが、それでもあきらめることはできなかった。

 マーニャは出産を決意した。自分は死んでもいい、元気な娘を残せれば、それでいい。

 そんなマーニャのそばで、パルマはさまざまに手をつくした。マーニャの体調を管理し、体力をつけさせ、出産もできるだけ安産となるようにと手をつくした。結果、マーニャは25歳まで生き、いまは森にある墓地でしずかに眠っている。本来なら、パルマの役目はもう終わっている。アルテシアが生まれ、その顔をマーニャにみせることができた時点で、完了しているのだ。だが、いまだにクリミアーナにいるのはなぜだろう。アルテシアの席をみる。ここを離れたくはない。

 席を立ち、飲み物の用意をする。これは、クリミアーナに伝わる秘伝の飲み物。来客をもてなすために特別に考えられたもので、パドマが泊まりに来たときにも作ったが、いまでは、その作り方を知っているのは自分だけ。

 ぜひとも、アルテシアさまにお教えせねば、と思いつつ、それができないでいる。というのも、それをしてしまえばクリミアーナ家での仕事がなくなってしまう気がするからだ。アルテシアが不在中の今は、家の留守を守るという役目があるけれど。

 だかパルマは知っていた。この家は、留守を守る必要などないのだ。たとえ無人であろうとも、この家に侵入できる者などいるはずがない。

 パルマの願いは、ただひとつ。この家でずっと暮らすこと。家に戻り『ただいま』というアルテシアに『おかえり』と言うことができさえすればそれでいい。アルテシアに看取られ、森の墓地のマーニャの隣にでも葬られることになれば、なにも言うことはない。

 おや? 願いはひとつじゃなかったわね。パルマは、しずかに笑った。

 

 

  ※

 

 

「キミたち、ここでなにをしている」

「あ、すみません先生。少し相談したいことがあって、話をしてました」

 

 パーバティが、あわてて説明する。だがクィレルは、そのまま教室内に入ってくる。

 

「空き教室とはいえ、勝手に使うのはよくないな。グリフィンドールから5点減点」

 

 言いながら、近づいてくる。2人ともに、クィレル先生は多少つっかえ気味に話すという印象を持っていた。だがいまは、いつものかん高い震え声ではなく、冷たく鋭い声だった。ヘンだ、とアルテシアは思った。マクゴナガル先生からは、クィレル先生には気をつけるようにと言われていた。この妙な気分は、そのせいかも知れない。

 クィレルは笑った。

 

「見ていたよ。魔法でカギを開け、教室に入るところをね」

「あの、それはいけないことだったんでしょうか。もしそうなら」

「謝らなくていい。もう減点したから、そのことはいいんだ。教えてほしいことがあるだけだよ」

 

 クィレルが立ち止まる。アルテシアたちとは5歩分くらいは離れていた。アルテシアの手には、杖があった。カギを開けるときに使い、そのまま持っていたのだが、この杖をどうするべきか、とアルテシアは考える。いったい今は、安全なのか。それとも危機に面しているのか。その判断ができぬまま、パーバティを見る。

 いけないことをして先生に怒られている、とパーバティは思っているのだろう。そこには、恐縮はあっても、恐怖はない。だがアルテシアは、そうではなかった。クィレルからは、なにかしら妙なイメージが伝わってくる。自分たちは見られている。足下から頭まで。たとえば獲物を品定めするように、観察されているのだ。このイメージは、好意的なものでは決してない。

 

「うしろのキミ、キミはたしか、魔法が使えなかったはずだね。級友たちからはスクイブだ、マグルだとからかわれ、授業ではいつも、片隅でしょんぼりとしていた。そんなキミが、魔法でカギを開けた」

「あれはわたしが」

「黙れ。ちゃんと見ていたと言ったろう」

 

 パーバティが口を開いた瞬間、クィレルらしからぬ怒声が飛ぶ。いつもの彼とはまったく違っていた。ここでアルテシアは、自分の杖を、いつもの巾着袋へと戻すことを選択する。マクゴナガルとの約束では、使ってよいのは学校で習った魔法だけ。そう約束させられている。だから杖は持っていたほうがいいはずなのだが、その杖をそっと袋へ入れたのだ。

 

「つまりキミは、魔法の力を得たわけだ。ま、キミだってホグワーツの生徒だからね。魔法が使えても不思議ではない」

 

 杖のなくなった手で、パーバティの腕をとり後ろへ引く。そして、その反動を利用し、前にでる。立ち位置を入れかえたわけだ。クィレルは明らかにアルテシアに話しかけているので、それほど不自然ではなかっただろう。クィレルも、気にした様子はないし、パーバティも同じだ。

 

「不思議ではないが、見過ごすことなどできない。なぜ急に? どうやって魔法力を得たのか、あるいは高めることができたのか」

 

 気にしすぎなのかもしれない、それは常に頭の中にある。だが、万が一の場合を考えておくべきだとアルテシアは思った。このイヤな感じは、普通ではない。次第に強くなってくる。

 アルテシアは、考える。マクゴナガルとの約束をやぶりたくはない。では約束を守るかたちで、この場面を逃れる方法があるだろうか。そのことを気にしなくてもよいのなら、方法はいくらでもある。あるにはあるが、それは最後の手段とするべきだろう。

 

「なにか方法があるのだろう。それを教えなさい」

「一生懸命、勉強するだけです」

「ほう」

 

 それは、ウソではない。クリミアーナの娘は、3歳の誕生日に本を与えられ、魔法書を学ぶのだ。アルテシアもそうしてきた。クィレルが、興味深そうにアルテシアをじろじろとみつめてくる。さすがにパーバティも、妙な雰囲気を感じてきたらしい。

 

「あの、先生。本当ですよ、アルテシアは一生懸命勉強してます」

「だめよ、パーバティ。何も言っちゃいけない」

「え? でもアル…」

「とにかく、黙って」

 

 時間がないのだと感じる。クィレルは、今にもなにかしそうだ。そんな気がする、だけなのかもしれないけれど。

 まず考えたのは、寮の部屋への転移だ。そこは、いつも自分がいる部屋。どこになにがあるのか、細かいところまでイメージできる。自分とパーバティの2人を転移させるくらいのことは簡単だ。だが問題は、クィレルに転移魔法を見られること。それはマクゴナガルの禁止事項に触れることになる。

 では、クィレルをどこかへ飛ばしてしまうのはどうか。いや、ダメだ。なにが起こったのか、クィレルは即座に気づくだろう。あるいは彼の周囲だけ、時間の流れを半減させるのはどうか。すなわち、クィレルにとっては相手の動作が倍加することとなり、アルテシアたちとにっては、クィレルの動作が半減することになるわけだ。それだけの差があれば、逃げ出せるはず。その調整率をいくらにすればよいか。そこまで考えて、だめだとアルテシアは思った。たしかに、逃げることは可能だろう。だがクィレルは、気づくはず。では、どうする。

 数秒後。イメージしろ、とアルテシアは自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。マクゴナガルの部屋。テーブルを挟んでともに紅茶の飲んだ、あの部屋。マクゴナガルの机。マクゴナガルの椅子。そこに座り、机に向かうマクゴナガル。

 

「言え、言うのだ。何かあるはずだ。どんな方法なのだ」

 

 マクゴナガルを、この部屋へ呼ぶ。最終的にアルテシアはそう考えた。マクゴナガルなら、突然に自分の部屋からこの空き教室へと転移させられてもすぐに状況を把握してくれるはずだし、クィレルも、そこにマクゴナガルがいれば何もできなくなるのに違いない。だが、マクゴナガルが部屋にいるかどうかはわからない。いなければ、単に空気のかたまりが運ばれてくるだけだ。

 確率が高いのか低いのかわからないが、やるしかない。やるなら、早いほうがいい。そう思いながらもためらってしまうのは、マクゴナガルとの約束があるからだ。だが、マクゴナガルは許してくれるだろう。約束に反して魔法を使うことにはなっても、そのことに気づくのはマクゴナガルだけなのだから。よし決めた。

 教室のドアが開いたのは、まさにアルテシアの魔法が発動されようとする、その寸前だった。

 

「……な、なんで……よりによって、こ、こんなときに セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」

 

 やってきたのは、スネイプ先生だった。教室の中まで入ってきたスネイプの姿をみたとたん、クィレルは、アルテシアたちのよく知る、いつものクィレル先生に戻っていた。

 

「なにやら、よからぬことが行われているという情報を得たのでね」

「よ、よからぬことなど、な、なにもない」

「そうかもしれんが、そうでないかもしれん」

 

 スネイプの視線が、アルテシアとパーバティへと向けられる。ニヤリと笑ったようにも見えた。

 

「教室を出ろ。ここは、使われていない教室だ。生徒が入ってはいかん」

「は、はい」

 

 なぜスネイプがここに来たのか。そんなことは知らないが、この場を逃れる絶好のチャンス。パーバティの手を引き、出口へむかう。そのアルテシアに、スネイプが追い打ちをかける。

 

「ミス・クリミアーナ、教室無断使用の処罰だ。休暇中におまえが学び知り得たことを、羊皮紙5枚にまとめて提出せよ。さすれば、吾輩も自ら添削して返却しよう。聞こえたなら、もう行け」

 

 アルテシアは何も言わなかった。ただ頭を下げただけで、パーバティを先にして教室を出ると、すぐにドアを閉めた。

 

「ごめんね、アル。あたしがここで話そうって言ったから、こんなことに」

「そんなの、気にしないで。でも、スネイプ先生はどうしてここへ来たのかしら」

「それは、僕が知らせたからさ。感謝してほしいね」

 

 スネイプたちが残っている教室を離れながら話している2人の背後から、声がした。ドラコ・マルフォイだった。

 

「キミたちが、クィレルとなにやらもめているのを見て、スネイプ先生にお伝えしたんだ。コソコソと空き教室に入るキミたちのこともみていたよ」

「マルフォイ、それって、あたしたちが何を話しているのか、盗み聞きしようとしてたってことでしょ。弱みを握れるかもしれないと思ったのよね。感謝なんて、聞いてあきれるわ。きっと、盗み聞きしていたところをスネイプ先生にみつかりそうになったから、あわてて報告したんだわ」

「し、失礼な。僕は盗み聞きなんかしないぞ」

 

 いつもの青白い顔が、赤く染まる。パーバティの指摘は、きっと大当たりなのだろう。だがこれで、ピンチを脱出したのは事実だ。自分の妄想が勝手に作りだしたピンチだったのかもしれないが、アルテシアは、素直にお礼を言った。

 

「ありがとう、ドラコ。あなたのおかげで助かったわ」

「あ、いや。いいんだ、アルテシア。キミが魔法が使えるようになることくらい、わかっていたさ。母上もそう言ってたからな」

 

 ドラコが気になることを言ったが、聞き流すしかなかった。パーバティが、なおもマルフォイにつっかかっていったからだ。

 

「アンタとしちゃ、からかうネタが欲しいんだろうけどさ。そうやって、コソコソと他人の秘密をさぐろうなんてしないほうがいいよ。そのうち、大ごとになるんだから」

「黙れ、僕は盗み聞きなんかしてないんだ」

 

 真っ赤な顔のマルフォイと別れ、寮へむかう。パーバティの横を歩きながら、アルテシアは考える。魔法に関する制限を緩めて欲しいと頼んだなら、マクゴナガルは、妥協してくれるだろうか。ムリかなぁ。

 ともあれ、もっともっと魔法の勉強が必要なことだけは間違いない。

 


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