とんだサプライズです、狂喜乱舞です、吃驚仰天です。
本当にありがとうございます。
そしてこれはお返しのような感じになってしまう訳なのですけれど、
『空物語』の方もご一読、良かったらお願いします。
まぁあちらの方がお気に入り件数とかも十分に多いんですけどね……あははーっ!
007
さて。
さてさて。
状況を整理して集約して咀嚼して、正確な情報を手に入れることにしよう。
情報を確約して確立して確実なものにするために、正確な状況把握を執り行おう。
まず第一に。
炙り蝦蟇のおかげで一命を取り留めた俺は、恋人である愛望の許可を得て、二度寝という名の幸せ空間に身を投じた――そこまではまだ覚えている。意識を失う直前の事だから、睡眠に入る前の事だから、流石の俺でも覚えている。
そして次に。
俺があの正体不明で脅威不明で名称不明な怪異に襲われたのは、俺が佳乃の告白に『ノー』と言った後だ――そこまでも覚えている。俺にとってもアイツにとっても凄く衝撃的な出来事だっただろうから、忘れようにも忘れられない――忘れたくても忘れられない。
モノローグを利用して復習作業を終了させることは出来た。
問題はその先。
現在状況についての考察が必要だ――始めよう。
眠りから覚めた俺は、頭を掻きながら上半身だけを起こした――ここまでは問題ない。欠伸交じりだったことや目尻に涙が浮かんでいたことなどの行為に問題があるというならば話は別だけれど、そこについては今回ばかりは関係がないだろう。というか、欠伸とかが関係するってどういう悲劇だ。俺はノストラダムスの子孫か何かか。
そんなセルフツッコミは置いておいて、そろそろ現実から目を背けるのはやめよう。
現実から逃避して、目を逸らすのはやめよう。
はぁぁ、と溜め息を吐き、ベッドの横の空間――愛望の部屋の中央付近に視線を向ける。やる気がないというか人生を達観したかのような目つき――合算的に言うならば凄く悪い目つきで愛望の部屋の中央付近を見つめ、俺は現実を直視する――不本意ながらな。
そこには。
そこ、には――
「さっきから何度も言っているが、貴方様は大和とどういう関係なんだ!? わ、私様はまだ信じた訳ではないからな!」
「いい加減にしつこい。私は大和の恋人で婚約者で本妻――世界最高のパートナー。何度も言わせないで――いや、やっぱりもっと言わせて自慢したい。もあもあっ」
「表出ろこの無気力女ァァァあああああああああああああああああああああっ!」
――愛すべき恋人と信愛すべき親友で幼馴染みが互いの襟首を掴んだ状態で言い争っていた。
四十八願愛望と廿楽佳乃が、
絶対零度と灼熱地獄が、
無気力ダウナーと熱血アッパーが、
油と火が、
氷水と火焔が、
兎と狼が、
絶対に相容れない存在である二人の少女が――物理的な冷戦を繰り広げていた。
さて。
さてさて。
誠に不本意なのだけれど、現在状況がさっぱり把握できない。意味が分からないとか訳が分からないを超越して、もはや脳が頭が現在状況を把握することを放棄してしまっている。
《何を絶賛現実逃避しようとしておるのじゃ大和……さっきと言っておることが矛盾するどころか噛み合っておらんではないか》
うるせえよ。
大体そもそも、この状況は絶対に俺のせいじゃないはずだ。俺はただ襲われて傷ついて気絶して眠って起きて二度寝して二度起きしただけの無実な人間様――いや、半分怪異なのだけれど――のはずだ。こんな摩訶不思議な状況を作り出せるほど強力な怪異という訳ではない。
というか、こんな状況を作り出せる怪異なんているはずがない。奇跡的に天文学的な確率でそんな怪異がいたとしても、それはどう考えても嫉妬から始まる七つの大罪シリーズに関連する怪異に違いない。
故に、俺は関係ない。
故に、俺は悪くない。
俺に責任なんてものはないし、俺にこの現状を打破する義務や権利なんてものも無い。
あからさまに無関係で、
あからさまに無責任で、
あからさまに無関心――うん、これでいこう。状況が良くなるまでの間、俺はそんな身勝手な人間としてこの世に存在することにしよう。
――不本意ながら、な。
「そんなに信じられないなら大和に直接聞いて。これは覆すことも覆す気も無い、正真正銘確実無欠の事実だから」
「やぁーまぁーとぉー!」
あ、やっぱり無理っぽいわ。
008
さて。
さてさて。
三度寝という名の人類の至高を、怒号という名の人類の汚点によって遮られ邪魔され止められてしまった俺は、ベッドに腰を下ろした状態で二人の少女と向き合っていた。
過去と現在の両方に、向き合っていた。
四十八願愛望と廿楽佳乃。
どちらも大切なのは大切だが、その想いのベクトルが百八十度――真正面から逆になってしまっている、そんな二人の少女。
恋人である少女と、
親友で幼馴染みである少女。
どちらも言い様によっては同じ『愛情』を向けていることになる訳なのだけれど、味方によっては全く異なる『愛情』を向けていることになる――そんな曖昧な境界を保った二人の少女。
四十八願愛望と廿楽佳乃。
そんな、俺にとってはいろんな意味で大切で大事で大変な少女と向き合った状態で、俺は話を始める。
今回の事件の怪異についての、話を始める。
「これは気絶する前に確認した事なんだけれど……俺を襲った怪異は『オオカミ』の形をしていたぜ。日本では絶滅危惧種とか絶滅種に分類されている、『オオカミ』にそっくりそのまま、って感じだったな」
「そこまでは私も掴めてる。炙り蝦蟇が何か知っていそうなんだけれど、『ネタバレは嫌だ』って教えてくれない」
「アイツまたンな事言ってんのか……こりゃマジで俺たちだけで見つけなきゃいけねえのかもな――不本意ながらに」
そう言って肩を竦める俺に、愛望は苦笑を浮かべる。
愛望の隣で胡坐を掻いていた佳乃は「ちょ、ちょっと待ってくれ」と焦った様子で両手を忙しなく動かし、
「怪異とか何だとか、いったい何の話をしているんだ? そもそも貴方様は本当にその怪異とやらに襲われたのか? そこの自称恋人の話では結構重傷らしかった訳なのだけれど、現在進行形で現在形で、今の貴方様は凄いピンピンしているじゃないか」
「自称じゃない。本当の恋人。将来は結婚させていただきます」
『お前はちょっと黙ってろ』
もじもじしながら相変わらずでいつも通りな事を言う愛望に――何故か佳乃まで一緒に――ツッコミを入れ、俺は佳乃に『怪異』についての説明をした。
怪異についての説明と、
俺の命を奪い取って乗っ取った炙り蝦蟇の説明と、
今回の事件の真相についての説明を――廿楽佳乃に余す処無く完璧に完全に隈なく完遂した。
そこで俺は思ったわけなのだけれど、そもそも何で佳乃が愛望の家にいるんだろう。この二人に接点があったなんて話は聞いたことがないし、そもそも佳乃は直江津高校の生徒じゃない。比較的近いが比較的遠くにある、比較的優秀だが比較的落ちこぼれた、そんな公立高校に彼女は通っているのだ。
そんな彼女が、
廿楽佳乃が、
何で何故にどういう訳で他校のしかも知り合いでも何でもない生徒の家の中に滞在しているのか。
怪異云々の話の前に、その謎を解明しておく必要がありそうだ――特に俺の好奇心を満たすために。
そんな訳で「っつーか何でここにお前がいんだよ」と質問をしてみた。その際に愛望が横から「そーだそーだ」と相変わらずでいつも通りで無表情で合いの手(?)を入れていたが、「そもそもお前の許可があったからこそ佳乃がこの部屋にいるんだろうが」という指摘と共に放たれた俺の手刀を喰らい、何故か幸せそうに嬉しそうに満たされたように――俺の身体に倒れ込んできた。
きゅー、と可愛らしい悲鳴を上げながら倒れられても、こっちが困る訳なんだけれど。
そして今ので佳乃の身体から妙なオーラが放たれてしまった訳なのだけれど。
この状況を打破する手を――最善で最強の切り札を、果たして俺は所持することができているのか。
疑問に思って失念していた事である――不本意ながらな。
心の中で十字を切って合掌し、俺は恐る恐る――猛獣に近づく草食獣の様な心持でもう一度だけ質問する。
狼のような睨みを利かせてくる廿楽佳乃に、兎のようにビクビクしながら質問してみる。……兎は愛望の役目のはずなんだけどなぁ。
とか思ってみたり。
「よ、佳乃さん? 何でお前が愛望の家に――それも愛望の部屋の中にいらっしゃるんでしょうか? そこら辺の事情とそれまでの旨をお教えいただければ、俺は凄く感謝感激感涙雨霰な訳なんだけれども……」
「貴方様に電話を掛けたらそこの自称恋人が代わりに出てきて、口論の末にムキになった私様が貴方様のケータイのGPS機能を駆使して無理やり上がり込んだだけだが?」
「はいそこおかしいね。何で俺のケータイのGPS機能を何で家族でも何でもないお前が利用できるんだろうね。しかも勝手に上がり込んだってそれただの不法侵入だからね、犯罪だからね、裁判ものだからね」
「大丈夫大丈夫大丈夫だ、大和。私様は証拠を残すだなんてそんな馬鹿で愚かな真似はしていない!」
「お前に自縄自縛と自業自得と自機自爆という四字熟語を全力で叩きこんでやりたい!」
まぁ、自機自爆なんて四字熟語は存在しない訳なのだけれど。そこはほら、あれだ。気分と言うヤツだ。
とにかくこれで現在状況はまぁなんとなくながらに把握し理解することができた。佳乃に関しては後で警察にでも突き出しておこうと思う。コイツはそろそろ法治国家の恐ろしさをその身でしっかりじっくりこってりと味わうべきだ。大丈夫、カツ丼ぐらいは出してくれるよ――容疑者の自腹らしいけど。
そんなことを考えていると。
いや、
そんなことを考えていたからか。
現在進行形で俺にぎゅーっと抱き着いている――というか声に出して「ぎゅー」と言っている――愛望を睨みつけながら、佳乃は地獄の底から響いてくるような声でこう言った。
額に青筋を浮かべながら、こう言った。
「貴方様が私様をフッた理由は、まさかその女なのか……ッ!?」
「誤解だ! あーいや、誤解って訳でもないのだけれど! それでもお前が思っていることは何か真実というか現実から曲解されすぎている気がする! まずは俺の話を聞け! そしてしっかりと理解し咀嚼し把握した上でネクストアクションだ!」
「咀嚼!? や、大和貴方様、まさか既にその女とそういう関係にぃ……っ!?」
「何で数ある単語の中でそれだけをピックアップすんだよ意味分かんねえよ! コイツとはまだそこまでの関係じゃねえ! 確かに、『ずっと一緒に居よう』とか『愛してる』とかは言った! だって本当に好きだったから! でも流石にお前が思ってるような関係じゃない! もっと健全、云わばピュアでハートピア! ネバーランドとかワンダーランドでも平気で認められるほどに純粋なラブなんだ!」
「ええい、うるさいやかましい聞く耳持たん! 何で二時間ほど前にフラれた男からそんな惚気話をリア充話を勝ち組話を聞かされねばならん! ムカついたイラついたプッツンだ! ちょっと表に出ろ! 私様が貴方様に恋する乙女の怒りの恐ろしさをその身に直接叩き込んでくれる!」
「いってらっしゃーい」
「愛望さぁん!? 何でいつの間にかベッドの上にテレポしちゃってんの!? そして何でそんな眠たそうな顔でひらひらと手を振ってんの!?」
「ねむねむふわぁ……」
「マジで寝てんじゃねえよ恋人だろ助けろよ仲裁入れよ!」
「私は大和を信じてる」
そんなところで信じてもらう必要はない! というかそれ以前の問題でコイツの侵入を許したお前にもいくらかの責任はあるはずだ!
そんな思いを悲しみを視線に乗せてプレゼントしたわけなのだけれど。
愛望は「それに」と思い瞼を涙が浮かんだ目尻をゴシゴシと擦りながら、
「炙り蝦蟇がいる限り大和は死なないし……積もる話もあるだろうから私はとりあえずログアウト」
「そんな気遣い要らねぇぇぇぇええええええええええええええええええええっ!」
「ほら良かったな大和。
「なにその表現聞いたことない!」
そんなツッコミを入れながらの助けの視線は、既に寝入ってしまっていた愛望には届く訳も無く。
俺は廿楽佳乃というスーパーアクションガール――もとい歩く暴力系殺戮兵器によって、
人類における大罪の数と同じだけの地獄を体験し経験させられることとなってしまった――。
神原駿河だ!
趣味嗜好の話は置いておくとして、バスケウーマンなのに腐女子というある意味世界で唯一と言えるだけの称号を手に入れてしまっている、そんな感じで変わり者の神原駿河だ!
神原マッ駿河という呼び名は以前どこかでやめてほしいと懇願したわけなのだけれど、まぁ好きに呼んでくれて構わない。
今日はクリスマスイブで明日はクリスマスな訳なのだけれど、私としては男女カップルのイチャイチャよりも男同士のアツい友情クリスマスの方が興味があるな!
シングルベルとはまた違う、シンBLというのはどうだろう?
あえて漢字表記をしてみるならば、真BLか新BLという感じだろうか。
真のBLと新しいBL!?
こ、これは大発見かもしれない! 神原マッ駿河よりもモロヘイヤよりも神秘的な、素晴らしすぎて鼻血が止まらなくなってしまう程の大発見なのではないだろうか!
因みに言わせてもらうけれど、私は受けと攻めがはっきりしていればそれぞれの体格はあまり気にならない。
男と男が絡んでいる。
もうその事実だけでお腹がいっぱい胸がおっぱいだ!
『次回! 無物語、第拾壹話――「よしのウルフ 其ノ伍」!』
個人的には阿良々木先輩と羽川先輩(『空物語』の主人公)、そして千石先輩の3Pに期待している!
頑張れ、日本!
頑張れ、日本男児!