家のメイドが人外過ぎて地球がヤバイ   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

ゾディアークの具現化修行を終えてから投稿しようと思っていたので遅れました。


お家騒動 イン・ヤン

 

 

 

 

(マズいにゃ……)

 

とある島の海岸。何者かに抱えられた一匹の黒猫が額に汗を浮かべている。

 

黒猫を抱えている者は足元から一本の触手を伸ばし、色々な角度から黒猫と自身を携帯で撮影しているらしい。その者に目を合わせる事すら出来ず、黒猫はただ固まっていた。

 

(マズいのにゃ……)

そして、黒猫は何かわからない者に両脇腹をガッチリと抱えられているため、身動ぎ程度しかすることが叶わないのである。

 

黒猫……もとい彼女は諸事情によりほとぼりが覚めるまでは、数十年前の開発事業に大失敗して以来廃れっぱなしで誰に見向きされるわけでもない、本土から離れたこの夜見島に身を隠していたのだ。

 

しかし、ヤミピカリャーというオイルショック時代に数多量産されたUMA人気にあやかり、この夜見島で一時期だけ騒がれた物体に間違われ、木陰で休んでいたところを触手でひょいっと捕らえられ現在に至る。

 

(本当にヤバいわ…とんでもないモノに捕まってしまった……)

 

彼女を抱えるソレは人型ではあった。だが、人間に近いところと言えばその程度だろう。

 

蛍光系の塗料をぶちまけたように蒼い肌に青み掛かった銀の髪と紅く輝く瞳、不定形で赤い一対の翼、そして下半身に集中して触手が生えている。

 

"エイリアン"。その言葉が当てはまるのならば正にコレであろう。そんな得体の知れない何かに彼女は捕まったのである。

 

更に悪いことに、そのエイリアンは彼女が力を計る事を考えるまでも無く、絶対強者或いは負けイベントとでも言いたくなる程に篦棒な実力が魔力の残子からすら鑑みれた。

 

本気になれば最上級悪魔クラスは無くもない事もない程度の彼女など、エイリアンがその気になれば赤子の手より楽に捻り潰させる事だろう。

 

『お肉は闇夜鍋の具材に、皮は記念に三味線の材料にしましょう♪』

 

意気揚々とした様子のエイリアンは未だ固まっている彼女を小脇に抱え、砂浜を歩き出した。

 

(誰か助けてよぉ……)

 

無論、彼女の声にさえならない断末魔のような悲鳴は誰にも届くことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

魔晄エネルギーの源泉を眼下に事の次第を全て思い返した私は、心の中で溜め息を吐きながら意識を前に向ける。

 

目の前には既に刀の鈍色の腹が私の首に据えられ、その合間を縫うように大量の魔弾が私に殺到していた。

 

私は完全に出遅れたタイミングで魔法を発動させる。

 

 

 

 

 

"クイック"

 

 

 

 

 

その瞬間、視界が鈍色に染まり、私だけが色を残す。私の瞳には灰色の色に飲まれ、愉しそうな表情で止まっている二人の少年少女が映る。

 

この私の時代の時空魔法クイックは周囲の時間を止めて術者のみが動ける魔法として認識はされていたが、実際には超高速で動くことによって擬似的に時間停止を再現する魔法だ。故に私が少年少女の後ろへと歩いて移動している間も彼らは空中で停止しているだけに見えるが、実際には認識すら叶わない速度で私が動いて思考しているだけである。

 

要はジェノバさんの事象そのものを干渉する事による時間停止に比べれば飯事(ままごと)どころか上部だけ整えたハリボテのようなモノ。

 

本来の事象による時間停止は、破壊という事象の経過も存在し得ないためダメージを与えることは勿論、修復等のあらゆる干渉は不可能である。まあ……ジェノバさんはその絶対さえも超える気がするが、あの人はヨグ=ソトースとシュブ=ニグラスを足したような存在なのでノーカウント。

 

要するに偉大な行いの猿真似には猿真似なりの使い方があるという事だ。

 

私は両手に魔力を通すと少年少女に魔法を放った。

 

"バイオ"

 

パラピレプーという謎の音と共に二人が緑の何かに包まれ、直後爆発する。それを見届けた私は更に魔法を行使した。

 

"ライブラ"

 

カーソルらしきモノが少年少女を捉え、それによって私の頭に情報が流れ込む。

 

 

"イン LIFE"

 

レベル7

 

HP52482/HP58000

聖によわい 地によわい 水をきゅうしゅう

 

どくをうけている

 

つねにプロテス

 

 

"ヤン DEATH"

 

レベル7

 

HP49791/HP52000

 

聖によわい

 

どくをうけている

 

つねにシェル

 

 

おい、FF5特有のレベル詐欺止めろ。コイツらもジェノバ細胞ベースのモンスターであろうし、LIFEとDEATHはジェノバさんの洒落だろう。ゲーム内でのあんなクソ雑魚ナメクジの名を貰ってしまうとはグレるのも仕方がないな。

 

まあ、私の知る現実のジェノバさんのシドニアのガウナも真っ青な鬼畜性能から見て、きっとFFRK仕様であろうから大変失礼な考えは心の隅に仕舞っておこう。

 

それはそれとして完全時間停止には無いクイックの利点。それはこの状態で何もせずに放っておくと継続ダメージは入り続ける事だ。

 

要はクイックの時間の中でも毒状態やらスリップ状態は続くのである。

 

私は欠伸をひとつ落とすとその場に座り込み、奉先が面白いからと渡してきた漫画を部屋から転送して目を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

数冊読み終えたところで漫画を部屋に戻し、インとヤンに眼を向けてライブラを使わずにおおよその生命力を計った。よし、4桁まで落ちたな。

 

そう考え、ゲームよりも遥かにチートなクイックを解除する。まあ、現実では効かない相手が出てくるため大して使えはしないだろう。父さんと母さんクラスなら余裕でレジストするだろうしな。

 

灰色の世界が色に塗り潰された。ほんの少しの時間を経て再び鉛色の外壁と足場、そして魔晄の淡い光りが目に映る。

 

「……え…?」

 

「あ…れ……?」

 

インは空振った刀ごと地面に崩れ落ち、弾丸は私のガ系魔法では傷ひとつ付かない魔晄を囲む外壁に当たり、それから直ぐにヤンは膝を折る。

 

諦めろ。貴様らの考えている数百倍は時空魔法は無敵だ。それを使うのが元世界最強の暗黒魔導士なら尚更な。

 

そもそもただの存在が多少なり時という事象を干渉出来る者に勝てると考える方が可笑しいだろう。万物は時という流れの中に存在し、時空魔法使いはその外から理を見つめているのだ。

 

今まで使用を控えていたのは単に使うとつまらないからだ。あ、アンラ・マンユは違うぞ。アレクラスからは無意識下でクイックとかレジストしてくるし。

 

「やっぱりひとりじゃ勝てないね。姉様」

 

「ええ、ひとりでは勝てないわ。兄様」

 

インとヤンは地べたを這いずりながらもどうにか互いが互いに辿り着くと、抱き合うように身体を合わせてふたりだけの世界を作り、既に満身創痍にではあるが相変わらず、嬉しそうに笑みを浮かべている。

 

初めから壊れているのか、それともこれさえもジェノバさんの趣味の性格付けなのか。既に手遅れだと私も思うが、後者なら本格的な話し合いが必要かもしれない。

 

「私たちは片翼の天使」

 

「僕たちは片翼の悪魔」

 

インとヤンは誰に語る訳でもなく言葉を引き出しながら悪魔の翼を広げる。それは奇妙にもインが左側に5枚、ヤンが右側に5枚の互いに補い合うような片翼の構図であった。

 

「抱き合って空を飛ぶ」

 

「手を取り合って羽ばたくの」

 

インとヤンの身体が徐々に薄れ、2本のライフストリームへと変換されていき、2本のライフストリームは絡み合うように捩れて折り重なるように混じる。

 

「だから私たちは死なない」

 

「だから僕たちは永遠」

 

遂にはインとヤンの姿は消え、捻れたライフストリームの柱が聳え立ち、その禍々しいまでの生命の奔流の中から1体のモンスターが這い出た。

 

真っ先に見えたのは手先と脚先に付いた鉤爪。次に目に入るのは肌色に近い灰色の肌とオレンジ色の胸部。

身体を反る姿勢で上半身を後ろに倒していたそのモンスターは身体を戻すため、回転して体勢を前に向ける。

 

モンスターの胸の先は二股に別れ、左に薄ピンク色の目穴と笑ったままのお面のような顔、右にそれと全く同じ造形をした水色の顔が付いていた。

 

『さあ、遊びましょう?』

『さあ、一緒に遊ぼう?』

 

よろしい、貴様らにお兄さんからまずは最初の指導をしてやろう。

 

追い詰められてからの合体は…………負けフラグだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「暇ねぇ……」

 

魔晄炉の入口の階段に座ったまま青空を見上げて私は呟いた。

 

本人(シンラ)に言ったらド突かれるから言わないけどシンラは無茶苦茶過保護なのよ。

 

居るのよねぇたまに…。 軽く言えば特定のモノ以外に全く興味を持たない変人。強く言うと自分どころか世界がぶっ壊れようと気にさえも止めないのに、自分が認めた…いいえ、愛したモノが自分以外に犯されるのが最高に苦痛に感じる異常者。そういうのはだいたいはロクな死に方はしないわ。ソースは呂布(わたし)

 

その上に男のツンデレなのよシンラは。男のツンデレなんて誰が得するのって話ね。だが、それが良い。

 

『やっぱり大変な事になっていますね。私の魔晄炉』

 

いつの間にか私の背後に立っていた女性がそう呟いていた。彼女は"ジェノバさん"。シンラがそう呼んでいるから私もそう呼んでいる。

 

何故か脇に黒猫っぽいモノを抱えているわ。あら? この猫………………へぇ…。

 

『欲しいならあげましょうか?』

 

ジェノバさんは黒猫に金色の首輪を付けると、猫の眉間をそっとつついた。

 

「にゃっ…!?」

 

その瞬間、ポフンという音と煙に猫が包まれ、それが張れると猫はたちまち黒髪の女性の姿へと変わった。

 

「うっ…!?」

 

次の瞬間、私の目にギリギリ映るぐらいの速度で元猫の女性のお腹に手を叩き込むジェノバさん。おそろしく速い手刀。私でなきゃ見逃しちゃうわね。

 

良く見ればジェノバさんの手には、金色の首輪が握られており、手刀の序でにそれを首に付けていた。

 

ジェノバさんが私に女性を手渡し、それを私が受け取るとジェノバさんは笑顔で呟く。

 

『"クロカ"を かわいがって あげてね!』

 

わたしはネコマタを もらった!

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

"イン・ヤン SYNTHESIS"

 

レベル13

 

HP124/220000

 

聖によわい

 

つねにプロテス

 

つねにシェル

 

 

逃げ回ってた魔物が合体した程度で私に勝てたら世話が無い。既に死に身体のイン・ヤンをライブラでステータスを一応確認してから、このイン・ヤンというモノについて考えていた。

 

SYNTHESIS(統合)ねぇ…。そう言えばコイツは培養室ではなくジェノバさんの部屋に置いてあった培養槽から逃げ出したとジェノバさんが言っていた事を思い出す。

 

ついさっき見た限りはジェノバさんの部屋には他に培養槽は置いてはいなかった。

 

培養機が数台置いてあったが、朝には全て撤去してしまい、コイツは廃棄処分を免れただけの個体という可能性も無いこともないが、ああ見えて意外と医療器具や実験器具を最大限使い回す程度にはケチ臭……超効率主義的の性格をしているジェノバさんに限ってそれはないだろう。

 

という事はコイツはジェノバさんが何らかの意図を持って造り出されたということになる。まあ、名前からしてジェノバ細胞ベースの魔物。

 

『あらあら、随分と派手にやりましたね』

 

考え込んでいると、私とイン・ヤンの丁度、中間に家の青い宇宙人こと、ジェノバさんが音もなく舞い降りた。

 

するとイン・ヤンは顔を上げ、光りに包まれたかと思うと二人の少年少女へと戻り、一目散にジェノバさんへと駆け出した。心なしか二人の瞳には涙が溜まっているように見えた。

 

「ママー!」

 

「うわぁぁぁん!」

 

『おお、よしよし』

 

ジェノバさんは飛び付いてきた二人を受け止めると、両方をあやすように撫でたり、さすったりし始める。

 

ああ、やはりそうだったのか。どうやら今回の騒動はジェノバさんの自作自演らしい。

 

そもそもおかしかったのだ。機械のプロでもあるジェノバさんが、キャリーアーマーの損壊の仕方に疑問を覚えない訳がない。完璧主義者のジェノバさんが、自分の失態を私に悟られるだけでなく、尻拭いまでさせようとする訳がない。

 

クローンファリスの初稼働。再生の卵の使用。素体の精神の有無での戦闘データテスト。イン・ヤンの御披露目。

 

ジェノバさんはこの辺りの事を1度に全て行ったのだ。コンソールから再生の卵だけを使ったのはイン・ヤンで、素体の培養機を全て開けたのもイン・ヤンだ。指示されての事だろう。そして、ジェノバさんの目論見通り、クローンファリスは再生の卵を使用したアンラ・ユンマに勝ち、心のある素体は心の無い素体には決して負けない事が証明されるだろう。

 

全く……イン・ヤンという私の眷属が新しく増えたから良いモノを…。

 

「酷いんだよー! "兄さん"全然手加減してくれないんだー!」

 

「"お兄ちゃん"が大人気ないのー!」

 

『"お兄さん"は仕方のない人ですねー』

 

そこまで考えた時、なんだが聞き捨てならない単語が聞こえた事に戦慄を覚え、ジェノバさんへ顔を向ける。

 

それに気付いたのか、ジェノバさんは嬉しそうな笑顔を浮かべると二人を左右に連れて私の前まで歩いて止まった。

 

『この子達は…』

 

口を開いた直後に少年少年は駆け出し、私の足に抱き付くと顔を上げて嬉しそうにこれまでとは代わり、年相応の笑みを浮かべた。

 

銀髪に銀の瞳……それにこの顔のパーツと笑顔……何処かで見覚えがある。

 

ああ! そうだ! "母さん(グレイフィア・ルキフグス)"にそっくりじゃないか!

 

『"私の細胞"と"グレイフィアさんの細胞"を"交配して産まれた子達"です。まあ、興味本意でやった事ですけど』

 

「兄さんー!」

 

「お兄ちゃーん!」

 

ああ、見れば見るほど母さんにそっくり、引いては私にも似ている。なんだが、途端に可愛く見えてきたぞチクショウ。こうして外堀を順調に埋めて行く気だな。

 

『大丈夫ですシンラさん。許可は得ますし、認めさせますから』

 

せめて得ました認めさせました言って欲しかったという小さな呟きは魔晄の光りの中に消えていった。

 

こうして、第一次ニブルヘイム魔晄炉の変は母さんに精神的負荷を負わせた事と、奉先が猫又を飼い始めた事で終息した。

 

あんたどれだけ家の母さんいじめれば気が済むねん……。

 

 

 





ちなみにジェノバさんは細胞レベルでシンラさんの事が好きなので、それに非常に良く似ているグレイフィアさんの事も結構好きです。ただ、愛情表現が屈折しているだけです(絶望)


後、黒歌と奉先の組み合わせですけど。

黒歌&呂布

等と画像検索か検索でもしてみて下さい。そもそも奉先をこの小説に出す理由にもなった画像が見付かると思います。



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