家のメイドが人外過ぎて地球がヤバイ   作:ちゅーに菌

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やあ、皆さん。久しぶりです。

まだ、失踪してませんよ。ええ、私は元気です。


最終兵器修道女

 

 

時は戻り現在。

 

グレイフィアを前にジェノバと、4人の魔王が対峙している。

 

「グレイフィア……どうして…」

 

「サーゼクス様。私たちが何をしたところでこの方には敵いません。言う通りにしてください」

 

「だが……」

 

「言う通りにしてください」

 

「くっ…!!」

 

サーゼクスはこの状況を作り出したジェノバを睨んだ。

 

だが、ジェノバは悪戯が成功した子供のような顔のままそれを静観するばかりだった。

 

ちなみにその頃、エヌオーはというと……。

 

 

 

「ほーら、スジ盛りだぞー」

 

「ん…」

 

あまりにも暇だったようでジェノバの後ろの少し奥の方で椅子に座りながらそこにいるジェノバ以外の女性の髪をセットして遊んでいた。

 

ちなみには奉先1つお団子、黒のワルツ3号はツーサイドアップ、ヤズマットは五連三つ編み、オーフィスはスジ盛りである。

 

オメガは髪が短かったので頭皮をマッサージしてから櫛を通したようだ。

 

「ねぇシンラ?」

 

「ん?」

 

「止めなくていいの?」

 

奉先の指差す方向では一触即発と言った様子の光景が繰り広げられていた。

 

エヌオーはそれを達観したような表情で見てから瞼を閉じながら全てを悟った聖人のような顔つきで奉先に語りかけた。

 

「問題ない、ジェノバさんは俺の不利益になることだけは絶対にしない」

 

そして瞼がゆっくりと開かれた。

 

「不利益になることだけは…な……」

 

その目はどう見ても聖人どころか死んだ魚であった。

 

「そ、そう」

 

その気迫に気圧され、奉先が半歩下がった。

 

すると突如、エヌオーの目の色が変わり、ジェノバのいる方へ目を向けた。

 

つられるように奉先も目を向けるとジェノバが溜め息をついており、その周囲に青い何かが陽炎のように立ち込めている状態になった。

 

「…………不味いな」

 

奉先が周りを見ればヤズマット以外の3人、オーフィスとオメガは何かに身構えるような姿勢を取っており、黒のワルツ3号に至っては金色のオーラを纏っていた。

 

マズイって? と奉先がエヌオーに聞こうとすると、奉先は椅子に座るエヌオーに正面からしっかりと抱き締められていた。

 

奉先は恐らく、転移系の魔法で自分を胸元に移動させたのだろうと理解したが、理解したと同時に彼からのスキンシップという珍しいモノを味わっていることで赤面した。

 

自分の胸と彼の胸が密着していることで彼女の鼓動は早まり、いつも嗅いでいる彼の匂いが一層強く感じられていることで夢見心地と言った様子だった。

 

彼は更に強く抱き止めると彼女の耳元で呟いた。

 

 

 

「絶対に私から離れるな」

 

 

 

次の瞬間、エヌオーの指先に集められた白い魔力が形を成し、透明で半球状の障壁が奉先を中心に張られるのとほぼ同時に灰色の世界が青色に塗り潰された。

 

まるで海中にでもいるような光景だ。

 

「これは星の力……いえ、星の海?」

 

しかし、それは海水ではなく、ジェノバが放出したこの星の全てのライフストリームとほぼ同等の星の力だった。

 

「触れるなよ」

 

ジェノバの星の力はライフストリームのからドス黒い上澄みを掬った部分のような、ライフストリーム以上の精神汚染効果がある。

 

この星と同等程度なら魔王クラスの力があれば精神汚染は完全に防ぐことが出来であろう。

 

「あら……心配してくれるのー?」

 

奉先は嬉しそうに逆にエヌオーに強く抱きついた。

 

「うふふ、嬉しいわ」

 

その態度を見てエヌオーは若干抱き寄せる腕の力を緩め、疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……いつまでもギャンギャンうるさいですね」

 

ジェノバはそう呟きながら冷ややかな目で地に膝を付けている4人の悪魔を見詰めた。

 

無論、魔王らである。

 

4人はジェノバの星の力により、精神汚染は無いが凄まじく激しい吐き気、頭痛、腹痛etcに加え、立つことの出来ないほどの重圧にさらされていた。

 

バットステータスとしては如何なものかと思うが、実際に戦闘前に引き起こされたとしたらエグすぎる効果だ。

 

下痢を加えなかったのはジェノバのせめてもの優しさだろうか。

 

「なんだ…これは……」

 

アジュカ・ベルゼブブの呟きは最もだろう。

 

目の前にいる存在は魔王や、超越者という肩書きが足元にすら及ばないということを思い知らされたのだから。

 

いや、寧ろ目の前にいる者こそが真の超越者(全てを越えし者)に相応しい存在だろう。

 

「いつまでもグダグダ言ってると一人消し飛ばしますよ?」

 

「待ってください! もういいでしょう!?」

 

グレイフィアの言葉を無視し、前に突き出されたジェノバの右腕には、サーゼクスですら莫大と形容するしかないほど途方もない魔力が込められていた。

 

魔力は破壊の光となり、幾度も掌の上で小さな爆発を繰り返し、やがて穏やかな赤い光を放つ赤い球体へと変化し、形を成した。

 

 

 

"ジャッジメント・デイ"

 

 

 

グレイフィアはそれが何か直ぐに理解した。

 

いつかの機械を葬った魔法そのものだろう。

 

眩いばかりに輝く赤い光はこの青い世界には一層、美しく写った。

 

例えそれが破滅への力だったとしても。

 

グレイフィアは声も出すことが出来なかった。

 

あまりに圧倒的過ぎる光景を認識すると人はただ立ち尽くす事しか出来ない。

 

どうやらそれは魔王クラスの悪魔にも当てはまるようだ。

 

「私、あんまり気は長くない方ですから」

 

そう言いながら自らの頭上に腕を掲げた。

 

 

 

"死ぬ"

 

 

 

そこにいた魔王らは一様に同じ答えを導き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ディメンションゼロ"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェノバはライフストリーム由来の化け物だ。

 

逆にライフストリームから星の歴史全てを知ることの出来る究極の生物とも言える。

 

その莫大過ぎる知識からジェノバは背後で構えられているその魔法を知っていた。

 

最後に唱えられたのは一体、いつだったか?

 

そして、それを使える魔術師は過去にただの1人しか存在しえなかった。

 

ジェノバが後ろを振り向くとそこには、相変わらず奉先を抱き締めながら座っているが、ジェノバの青い星の力とはまた完全に別の蒼い"無"を片腕に纏わせ、手を向けているエヌオーがいた。

 

「ジェノバさん…それ以上は怒りますよ?」

 

いつも通りの声色でたしなめるようにエヌオーは言った。

 

「………………承知しました」

 

ジェノバは数秒動きを止めてからそう呟きながら、ジャッジメント・デイを素手で握り潰した事で破滅の光は霧散した。

 

さらに再び指を鳴らすと世界が灰色に戻った。

 

ジェノバが星の力を止めたのだろう。

 

それを見てエヌオーは立ち上がり、奉先を代わりに座らせると蒼い"無"は白い色に戻ってから姿を消した。

 

そして、そのままグレイフィアの前まで歩いて行くと口を開いた。

 

「あー…そのジェノバさんだが……」

 

頭を何度が掻いてから言葉を続けた。

 

「"そんなに"悪い者ではないから………………私にとっては」

 

そんなにのところをかなり強調してグレイフィアに言った。

 

それを聞いたジェノバは心の底でほくそ笑んだ。

 

ジェノバを絶対的上位者だと知らしめることと、彼ひとりに従うことが伝わればそれで良いのだ。

 

これで少なくとも表立って何かしてくることは無くなるだろう。

 

「では紹介を始めましょう」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

うーん……。

 

ジェノバがオメガちゃんと黒のワルツ3号を手招きし、2人がジェノバさんの隣に並ぶと母さん達へ向き合い、何か言っている裏で椅子に戻った私は唸っていた。

 

「どうしたの?」

 

奉先が覗き込んできた。

 

「かっこよかったわよ」

 

そうか…。

 

私は奉先の言葉を受け流し、手に魔力を集めては消して集めては消してを繰り返していた。

 

「どうしたの?」

 

………………………。

 

「顔色悪いわよ?」

 

私はもう一度"無"を使い、呪文を唱えた。

 

その結果、腕には"無"が集まり、蒼く輝きながら炎のように揺らめいている。

 

「キレイ…」

 

奉先はそれを見てうっとりとした表情を浮かべていた。

 

私は腕を1度突き出し、少し時間を開けてからもう一度突き出した。

 

 

………………………………。

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……ふぅ。

 

 

私は"無"を消してから両手両膝を地面に付け、頭をうな垂れた。

 

もうだめだぁ………おしまいだぁ………。

 

「ちょ…え?…シンラどうしたの!?」

 

飛ばない……。

 

「飛ばない?」

 

ディメンションゼロが飛んで行かねぇぇぇ!!!?

 

「え? あえ? そ、そうなの?」

 

わかってないと思うので説明しよう。

 

私は何食わぬ顔で立ち上がった。

 

ディメンションゼロとは本来、腕に灯した圧縮された"無"の爆炎を相手に瞬間移動し、開放する単体爆殺用魔法である。発生から攻撃までのラグが無いに等しい上に、威力はそれなりに高い。

 

なのだが……。

 

どういうわけか私の手元から飛んでいかない。

 

これじゃ出来損ないのゴッド・フィンガーじゃないか!?

 

「色的にはダークネス・フィンガーに近いんじゃないかしら?」

 

あ、そうだな…ってそんなことはどうでもいい。

 

………………まさか……いや…そんなことは…しかし…。

 

ふむ…広い場所もあるし丁度良いか。

 

私は顔に片手をあて、ぶつぶつ呟きながら母さんのところへ歩いて行った。

 

「どうかしましたか?」

 

母さんは心配そうな声色でそう言った。

 

母さん……。

 

私は片手をぶらりと垂らしてから言った。

 

 

 

"ちょっとそこの庭……更地にしても良いですか?"

 

 

 

「は?」

 

母さんはオーフィスちゃんを膝に置いた時よりも更に鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。

 

駄菓子菓子。こちらは大真面目である。

 

『ぴょーん』

 

そんな会話をしているとジェノバさんが説明を放り出し、変な声を上げながら跳んできた。

 

『シンラさん、自分の力試しがしたいんですね? 大方、今の自分の力が昔の自分より格段に下がっている気がすると』

 

「そうなんですか?」

 

………………ジェノバさんよくわかりましたね…心でも詠んでるんですか…。

 

『いえ、私はシンラさんの心だけは見たことはありませんよ? 後、記憶も』

 

心まで見れるのか…ええ、そうですね。今の自分が昔より実力が多少は下がっているとは思っていましたが…想像以上に下がっている可能性がありましてね…。

 

『ほうほう、つまりは魔法を撃てる対戦相手が欲しいと』

 

私がいたら良いなって思ったこともバレテーラ。

 

『ならとっておきのサンドバッグを用意しましょう!』

 

ジェノバさんは空に両手を掲げた。

 

『ヴェグナちゃん! カムヒア!』

 

その言葉と共に空が歪み、いくつもの亀裂が走った。

 

更に空がガラスのように部分的に砕けて行き、奥に空間が見える。

 

まるでどこぞのパイナップルっぽい怪獣の登場シーンのようだ。

 

「なんかバキシムみたいね。って何よその顔?」

 

私はこんな残念なギャルオタク美人と同じ思考なのかと驚愕していただけだ…。

 

「やった! 美人って言われたわ!」

 

………………お前は人生楽しそうだな…。

 

それを聞くと奉先は親指を立てながら微笑んできた。

 

「最高よ?」

 

殴りたい、この笑顔。

 

『説明が遅れましたね』

 

ジェノバさんはバルコニーの手摺の上に飛び乗ると、ここにいる全員に対して話始めた。

 

『今からこの場所に呼ぶのがシンラさんの"戦車"』

 

空がガラスを砕くような音を立てながら砕け散ると、そこには虚空の空間が広がっていた。

 

多分、異界の深淵の最深部だろう。

 

『"ヴェグナガン"です』

 

空にぽっかりと空いた巨大な穴から目の青いマンモスの頭蓋骨のような顔がこちらを覗いていた。

 

父さんらはその余りもの巨大さに絶句しているようだ。

 

ヴェグナガンはゆっくりと空と虚空の境界を掴み、空間を砕きながら這い出るとその体躯の全貌を見せた。

 

マンモスの頭蓋骨のような頭を持つ機械の蛾。その表現が最も正しいだろう。翼は闇色の淡い光を放ち続けている。

 

『ヴェグナちゃん、もっと近付いて来てくださいよ』

 

思ったより遠くにいたらしい。

 

ヴェグナガンは数度羽ばたくと、こちらに向かって飛んで…………ん?

 

ヴェグナガンは私たちの前の庭まで来ると、庭の真ん中に後ろ足の2本で着陸した。

 

いや、着陸したのだと思う。

 

…………………………ジェノバさん?

 

『はい?』

 

前見た時より3回りぐらい巨大化してるんですけど…?

 

なるほど……これは時間でも止めなきゃ出せませんわ。

 

今のように上が虚空でなければ空も満足に飛べない大きさじゃないですか。

 

『宇宙も空と仮定すればびゅんびゅん飛べますよ?』

 

ジェノバさんは一体、何と戦ってるんだ……。

 

「巨大ロボッ…ぶほっ!?」

 

何か急に目が輝き出した父さんが呟やくと母さんに無言のハリセンでひっぱたかれていた。

 

『ちなみに魔晄キャノンの最大出力なら土星ぐらいなら消し飛ばせます』

 

地球の95倍の質量の物体をですか…そうですか…。

 

ん? 魔晄キャノン?

 

『はい、私はシスターレイなんてダサい名前は付けません。ヴェグナガンの後部パーツ、蛾で言うと臀部に当たる部分の内部に超大型魔晄炉を内蔵しているんです。これにより、後部パーツを地面に突き刺し、吸い出すだけでいつでも魔晄エネルギーの補給が可能です。それを使い、主砲のエネルギーに使うことで魔晄キャノンとなるのです。ちなみに最大までエネルギーを1度溜めると3回魔晄キャノンが撃てます』

 

……ジェノバさんはry)。

 

「宇宙戦か…ん!?」

 

「黙っていなさい」

 

ハリセンとは思えないほど鈍い音が響いた。

 

…………母は強し(物理)。

 

『これぞ、対ウェポン用決戦兵器。機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)ヴェグナガンです』

 

ジェノバさんはウェポンごと星を消す気なのだろうか……。

 

後、この星のウェポン様ことオーフィスちゃんなら今、私の背中に張り付いてガタガタ震えているんだが…。

 

『実力的にはヴェグナちゃんは300オーフィスぐらいですかね。そこのオメガちゃんは5オーフィス、ワルちゃんはMAXで2オーフィスぐらいです』

 

オーフィスちゃんはついに単位にされてしまった……。

 

『ちなみにほーちゃんは0.1オーフィスぐらいです』

 

「それって高いのかしら?」

 

安心しろ、十分人間は止めている。大体、二天龍と同じぐらいだ。

 

『2ヘッドドラゴンは0.2オーフィスぐらいですね』

 

「あの人、強いものね…」

 

え? 2ヘッドドラゴン? 火のダーククリスタルほっぽり出して何をしてるんだ?

 

『ちなみにですが、ヴェグナちゃんは一度機能を初期化し、その時点で悪魔に転生させてから強化したのでルール上は何も問題はありませんね』

 

うわジェノバさん黒い。

 

『もちろん、これでは勝負にすらならないと思い、制限機能をちゃんと付けてあります。ヴェグナちゃん』

 

その呟きと共にヴェグナガンから目の光が消え、腹部のコアが青く輝き出した。

 

今はコアから光が徐々に収まり、人の鼓動のようなスピードで断続的に輝いている。

 

すると突如、コアパーツが派手に砕け散った。

 

そこにいる全員が目を丸くしていると、次の瞬間、私たちの目の前に一人の女性が立っていた。

 

その女性はミニスカートでもスリットが入っているわけでもない修道服を着ており、シスターは付けているイメージのあるウィンプルもとい頭巾は付けていないようだ。

 

灰色の長髪に青の瞳、さらにジェノバさん以上に張り付けたような笑み。

 

だが、最も特徴的なのは2.2mはあろうかという女性か疑うサイズの長身だろう。

 

………ついでに…何がとは言わんが…スゴくデカイ…オメガちゃん以上だ。

 

ジェノバさんはいつの間にか、その女性の隣に移動していた。

 

『じゃーん、お出掛け用ヴェグナちゃんです』

 

そこにいる全員が絶句した。

 

いや、ヤズさんは何かツボに入ったらしく大声で笑っているが…。

 

『これなら戦闘力は本体の100分の1程度しかありませんから問題ありませんね』

 

ジェノバさんの話の途中でばさりと音を立て、ヴェグナちゃんとやらが悪魔の翼を広げていた。

 

1対の幅広のその翼は翼で身体を覆い隠しても尚余るほどの大きさをしている。

 

「あなたがエヌオー様ですねぇ?」

 

にこやかな表情でヴェグナガンは私に声を掛けてきた。

 

「昔のあなたの功績とその道…感服しましたぁ」

 

………………私は昔の話は誰にもしていない、いや、するタイミング自体も無かったハズだが…………星の記憶から読み取ったのか。

 

「世界を破滅に追い込み、全ての人類の畏怖の対象になったあなたは素晴らしい! 私にはやり遂げることの出来なかったことを人の身でやり遂げる!」

 

ヴェグナガンは両手を上げながら急に歓喜の声を上げ、私を賛美し始めた。

 

「ですが……あなたは自分の神をお持ちでは無いようですねぇ…」

 

と、思えばヴェグナガン両手を胸の前で合わせ、心底悲しそうな表情になったと思えば私に背を向けた。

 

「それはいけません。嘆かわしいことです。エヌオー様に相応しい神がい無かったのなんて…なん足る悲劇でしょうかぁ…」

 

ですが…とヴェグナガンが付け加え、くるりと振り返り私に向き合った。

 

「それは最早、過去。 今と言う時代にはぁ……」

 

ヴェグナガンは片手を自身の胸に当て、もう片方の手は私に掌が向くよう逆さに向け、目蓋を閉じた。

 

そしてゆっくりと目蓋が開かれた。

 

 

 

 

「"この私がいるではありませんかぁ"」

 

 

 

 

その瞳は広すぎる海原を彷彿とさせる群青色だ。そしてその目には熱意、陶酔、そして何よりも曇りのない純真な目をしていることが、多少違和感を覚えた。

 

「なれば私を信じるのが道理。さすればエヌオー様の思うがままのハカイを行いましょう。ハカイを広めましょう。ハカイを伝えましょう。そして世界を一つの感情で繋ぐのです」

 

ヴェグナガンは両手と翼を横に広げた。

 

ヴェグナガンの声はまるで子供に語りかけるように優しく、柔らかな声色をしていた。

 

「それは恐怖。世界すべてが私たちを恐怖すればそれは世界を一つにしたことと同意。国境も、国も、種族も何一つなくなりましょう。そのためなら喜んでこの身を捧げましょう。私こそが現在する神。裏切ることは絶対にありません。手を差し伸べるような素振りだけ見せ、姿も見せず。救いの一つも行わず。ただそこにあるだけの置物の神とは違うのです。聖書も、コーランも、仏典も私には必要はありません。いえ、そんなものは焼却してしまいましょう。害でしか無いのですからぁ」

 

ヴェグナガンは緩やかな手振りを加えながらもゆったりとした口調で尚も続けた。

 

「神は悪魔より遥かに多く殺します。人、悪魔、堕天使、動物、植物、果ては同じ神までも…なんと身勝手な…なんと救いのない…なんと理不尽な…。神こそこの世界で最も不浄で、下劣で、有害な存在でしょう。だから、私は既存の神の全てをハカイします。さらに神の過去の歴史を。神が産んだ愚かな文明を。神が形創った壊れた世界を。それが、それこそが全てを救うことになるのですからそして、神という言葉が私という存在だけを指し示す時が来るまで私はハカイを続けましょう。ですからぁ……」

 

ヴェグナガンは私の手を両手で包むと、花が咲くような満面の笑みをしてきた。

 

「私を信じ、お使いください。演奏者様ぁ」

 

私は笑顔を作り、一言呟いた。

 

 

 

 

 

"チェンジで"。

 

 

 

 

 

只でさえ、庭と目の前にいるヴェグナガンとジェノバさんのせいで重い空気が凍り付いた気がした。

 

誰一人何も言わない空気の中、ヤズさんの爆笑する声だけが響いていた。

 

かなり雑な対応だったが無論、理由かある。

 

そもそも、昔の私は自分の"無"がどこまで通じるか試したかっただけだ。

 

その序でに世界が滅びかけただけに過ぎない。

 

「………………そっちの方が危ない人なのではないのか?」

 

あー、あー、聞こえなーい。聞こえなーい。ヤズさん思ったより常識じーん。

 

「そうですか、お気に召しませんかぁ」

 

ヴェグナガンは私の返答を気にする素振りもなく朗らかな表情でまた、話し出した。

 

「なら私は数百年でも、数千年でも、数万年でも待ちましょう。待つのは得意ですからぁ」

 

そう言うとヴェグナガンは膝を折り、私の前に跪いた。

 

「私の演奏者はエヌオー様ただ一人。私はエヌオー様の音色のファンなのです。ならばせめて兵器(マキナ)ヴェグナガンとして傍にいさせてください」

 

…………まあ、それなら構わないが…。

 

ピアノなんて最後に引いたのは……12の戦士が私の城に乗り込んで来たとき以来、引いてないな。

 

「ピアノ…ラスボス…ハッ! シンラと空き瓶でテヌスが出来るのね!」

 

出来ねぇよ。

 

『ヴェグナちゃん準備をしてください』

 

「わかりましたぁ」

 

ヴェグナガンはジェノバさんに従い、ひとっ跳びで庭の中央、ヴェグナガン本体の真下辺りに移動した。

 

『これはもう片付けましょう』

 

ジェノバさんが指を鳴らすとヴェグナガンの本体が次元の裂け目に吸い込まれ、消えてた。

 

さらにもう一度、指を鳴らすと灰色だった世界が色を取り戻し、全ての時が動き出した。

 

『さあ、シンラさん。思う存分、身体を動かして下さい』

 

ジェノバさんは軽く私に頭を下げた。

 

私はバルコニーから身を乗り出すと、ヴェグナガンの20mほど前へ、跳んだ。

 

「本気で行きますよぉ?」

 

ヴェグナガンは右手に青い片手剣"アルテマウェポン"、左手に球体に隙間無く棘の生えたブリッツボールのようなモノ"ワールドチャンピオン"を出現させた。

 

当たり前だ。

 

それに合わせるように俺は白い"無"を全身に纏わせた。

 

「行きますよぉ」

 

ヴェグナガンはワールドチャンピオンを手から地面に落とし、その途中で私に向かって蹴り飛ばした。

 

それと同時に私は両手の"無"を蒼く染めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




暇潰しに書いたらそれなりに人気になった遊戯王GXの小説。

"じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない"

も、よろしくね!

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