――空港のロビーを歩くその姿に、目線が集中する。
「あ、あの、やっぱりこれって似合ってないかな? なんて……」
早くここを出たい、という内心が現れているのか、自覚無く早足になる一人の女性。
そんな彼女が身に着けているのは白色のワンピースに麦わら帽子。それが包む日焼けした肌と健康的な肢体、赤色の髪が、互いに存在感を強めあい、より魅力的に映えている。
その姿を見れば、避暑地に来たお嬢様、としか思えないだろう。10人に聞けば8.9人はそう答えるくらいには。
「……いいえ、よくお似合いです」
お嬢様というイメージをより強く与えていたのが、その隣に立つ大柄な、スーツを着た青年である。服の上からでも鍛えている事が伺える肉体とその鋭い目つきは、どう見てもボディガードにしか見えない。
自身が周囲に与える威圧感に無自覚ながら目を光らせる彼がいなければ、女性は今頃何人かに一緒にお食事など、と声をかけられていたに違いない。
そんな彼は、髪と同じような色に頬を染めて普段の溌剌とした様子が薄れている女性の質問という名の主張に、本心からの言葉を返す。
この両者を見て、その本来の関係性を聞いて、今ここにいる何人が信じるだろうか。
「いやでもおのぼりさんとか思われてる気がするかな!? どう思います島原さん!?」
「いいえ、そういった類の視線では無いかと、ラヴロックさん」
この二人は主従では無く同僚であり、そして(片方は"元"が付くが)現在一時的に属している職場では無い所でも同職の人間であると。
何でこの格好で来ちゃったんだろうアタシのバカ、と内心でぽかぽか自分の頭を叩く女性、キャロル・ラヴロック。
経緯は、数日前に遡る。
アネックス計画の成功を表から裏から手助けする『アーク計画』。キャロル・ラヴロックはその中でもアネックス一号に班員として乗り込む『潜入員』の役割を担っていた。
そんな彼女が本来の所属であるアーク第二団、その団長であり自身の今の道を決めた恩人である人間に呼び出されたのはもう日が落ちた頃合いの事である。
「ごめんねキャロルさん、こんな時間に」
「いえ、大丈夫です!」
シモン・ウルトル。アーク計画の発案者の一人である彼は、少し申し訳なさそうに、しかし静かな面持ちでキャロルを出迎えた。
普段はここU-NASAから遠く離れたアーク計画の本部と呼ぶべき基地にいる彼がここに出てきて、自分を呼び出した。恐らく、そう安い話では無いだろう。
考え、キャロルは膝の上で握った手にぐっと力を込める。
「キャロルさんには、フランスに行ってもらいたいんだ」
「……フランスに?」
どんな任務を命じられるのか。自身を奮い立たせていたキャロルは、シモンの言葉にきょとんとし、オウム返しをする。
フランス。旅行では無く、確実に任務だろう。でも、何故フランスに。
「こっちの情報網で、アメリカでテロの計画があると判明したんだ。詳細はこれから説明するけど……ヘタをすると、
「へ!?」
一瞬、冗談かと思った。だが、彼はこのような状況で冗談を言う人間では無い。そう考え話を聞き始めたキャロルは、その情報を聞くにつれて、それが本当に冗談では済まない事を改めて実感する。
アーク計画の一環として、今ここにいるシモンと並ぶ計画発案者、クロード・ヴァレンシュタイン博士が主に担っている任務。それが、『アダム・ベイリアル』の抹殺である。
アダム・ベイリアル。それは、一言で言えば、天才という名の狂人の集まり。
彼らの全てが人類史に名を残してもおかしくない各分野の開拓者、エキスパートと呼べる才を持ちながら、興味本位で紛争を起こし、人道を外れた研究を行う、万単位の、もしくはそれ以上の人間の命を奪う事さえ躊躇いを持たない人格破綻者の集団だ。
その一人をクロード博士直属の部隊が討ち取った際に、とある記録が得られた。
アメリカを舞台に、ボードゲームと言う名の戦争が行われると。
その対策として、アメリカという国は動き、シモンもまた対処に赴く事となった。
ここまでならまだいい。いや決して良くは無いのだが、対処するのがアメリカという一国に留まっている以上はそこに戦力を集中すれば良かったからだ。
だが、問題はその参加者だった。
ニュートンの一族、その最上位に座する二人。その勢力圏は、どちらもヨーロッパらしい。そこでゲーム盤であるアメリカとは別の戦争が起こる可能性が浮上したのだ。
幸運な事に、アーク計画にはニュートンの一族の人間が参加していた。彼(?)から参加者と思われる人間の情報を聞けたからこそ、今回こうしてキャロルへとこの任務を頼む事ができたのだ。
片や、一国を総べる長でありながらどこまでも傲慢な、一族すら歯牙にもかけない超越者。
片や、一族の中ですらその全てを知る者はいない、人間の精神を求道する逸脱者。
両者に共通しているのは、自身がいずれ神に至らんとしている点と、他人を踏みにじる事に何の呵責も躊躇いも持たない人間である点。
恐らくは、彼らが互いに争えば民間人の命など紙のように飛ばされてしまうだろうし、彼らはそれを顧みる事など一切無いだろう。
「っ、そんな、事……!」
「うん、絶対にさせちゃいけない」
全身に力が入るキャロルに、シモンも自分も同じ気持ちだ、と頷く。
「でも、アタシ一人で大丈夫でしょうか」
任務への不安、というよりは疑問の色が濃いキャロルの質問は尤もだ。
戦争というからには、それは大人数同士がぶつかり近代兵器が飛び交うようなものとなるだろう。
そんな所に訓練をしてMO手術を受けているとは言え、たったの一個人で誘導から避難、体を張ったとしても市民を守る事など叶わないだろう、と。
「それに関しては、大丈夫……聞いたとこだと自分の基地がバレる事にすごく慎重な相手、らしいからそこまで大きな部隊を動かしてくる可能性は低い、って」
シモンの答えで、キャロルは納得する。
なるほど、フランスに攻めてくるであろう敵。
大がかりな兵器は動かしてこないだろう。人数も多くない。近代兵器は入国の際の検査もある、おいそれとは持ち込めない。つまり、使用されるであろう武器は軽量の銃器、もしくはキャロルが持っているものと同じだ。
「それに、
裏アネックス計画。アーク計画と同じく、火星への増援を目的として各国それぞれが準備をしている人員派遣計画だ。アネックス計画、アーク計画同様ランキングが付けられている彼らの内の最上位の一人が、今回の案件の対策として参加してくれる事になったため、共に向かってくれると。
「じゃあ、改めて。キャロル・ラヴロック。君にはフランスに向かってもらって、ボク達対策局が本案件を解決するまで警戒、そしていざという時には市民の保護に努めてもらいます。あ……何も無い時は、観光とかしてもらってもいいよ?」
シモンはキャロルの目を見て、告げる。大丈夫だ、その目に迷いや曇りは無く、彼女は、自分と最初に話したあの時に語ったように、きっとやり遂げてくれると信じて。
――――――――――
「何でこうなっちゃったかなー! アタシもちょっと乗っちゃってたし!」
『せっかく華のパリなんだからおめかししなきゃダメよぉ!』
『あら、服を選ぶなら一緒に行きましょうか。ついでに私の服も見てくれるかしら、シモン?』
そう、あれで終わるはずだった。さあ早速準備だ、と動きやすい服装をあれこれ考えていたキャロルが扉を開けた先に立っていたのは、二人の男(?)女、だった。
これはまずい流れだ。キャロルは即座に察した。シモンと同じ、アネックス計画における幹部搭乗員に近い役割である団長。本来であれば彼らその情報を迂闊に晒さないため本部にいるはずだが、シモン以外ではこの二人は外部での地位がある人間という理由から、外に出ている事が多い。偶然シモンと合流する所だったのだろうか。
そんなこんなで、キャロルとシモンは二人に拉致され、私達が払うから、という団長の二人に目が回るような値段の服をいくつも勧められ全力で首を横に振り、でもこんなのもいいかも、と流されかけ、結局お手頃な価格で可愛いな、と思った服を今回の任務のお給料の前払いよ、とウィンクする坊主頭の男性(?)に礼を言いながら購入してもらい、今に至る。
なおシモンはコスプレ衣装をやたら勧められていた。
……そして、今に至る。あれ、ひょっとして自分浮かれちゃった? と思ったのは、スーツ姿の同行者、剛大を見た時。自分にはこういうの絶対似合わないよぉ! と両手で顔を押さえたのが、飛行機の中。
別に、任務に向けた自分の心情に揺らぎは無いのだ。それは、彼女の中の信念である。でも、それを除いた他の部分を考えると、何と言うか……といった感じなのである。
「……ラヴロックさん、やはり」
「……はい」
キャロルに向いた目線が少なくなった頃合いを見ての剛大からの言葉に、キャロルの表情が変わる。自分のあれこれに困惑していた愛らしい女性のそれから、任務に就く警察官のものへと。
やはり、だった。一般に認知されていないものなのか、政府レベルでの対策はまだ甘いのか、二人の旅行鞄の中には『薬』が入っていた。危険物の類は執拗な検査があったものの、薬に関しては常用薬という事を説明しただけで通された。
自分達が簡単に持ち込めたという事は、即ち、敵対勢力もそれは同じという事だ。
任務は一つ。
――守り抜け。この国で内から、外から暴れまわる怪物から、無辜の市民を。
心の内で一度、二度繰り返し、息を吸う。
そして、二人の警察官は、雑踏へと歩き出した。
―――――――――――――――
――煙を吐き出し、蒸気機関車が走る。
それは、2618年現在、一般には用いられていない種の乗り物である。
その外見、用いられている技術で言えば600年からさらに前。
この形式のものが主流になっていたのはそこからもっと前。
場所から場所への運送という点では単純に高速列車と比較して遥かに劣るそれは、しかし未だに愛好家も多い。
特に、のんびりと景色を楽しみながら時代の浪漫に浸る旅、というような用途の時には。
「見てください、羊が沢山いますよ……」
「わぁ……!」
そんな車両の一つ、隣り合った席で、まだ成人していない程の外見の少女が二人、パンを手に窓の外の風景を楽しんでいた。
控えめな様子であるが、牧場で草を食んでいる羊の群れを指差し、柔らかに笑う少女。とてつもない美人、では無いが、素朴で可愛らしい容姿の彼女は、隣の少女に話しかけている。
それに対し、自分は遊びに来たんじゃないんだ、と自分を戒めるように移り変わる景色から目を逸らしていたもう一人の少女は、しかし機敏に反応してしまい、その指し示した方向を見て、思わず目を輝かせる。
「……ふふ、楽しそう、リースちゃん」
「ってもう! 仕事なんですよ、
少女たちの微笑ましい様子に、周囲の笑みと注目が集まる。
それは、単純にその光景が好感を覚える、というだけでは無く、物珍しかったから。
第一に、この列車の運賃は通常の列車と比べ高い。
車両そのものが特注と呼ぶべき、そこまで大量生産しない列車、という観点から見ても生産数の少ない特殊なものである、蒸気機関車というものの避けられない特性として環境に悪いという点もあり、料金が大幅に上乗せされているのだ。
そのためこの列車に乗っているのは金に余裕がありゆっくりとした旅を楽しむ中~高年の年齢層が殆どであった。
だから、無邪気に若者が楽しんでいるのは珍しくも微笑ましくもあり、そして自分達のこの趣味が認められたかのような感覚を覚えるのである。
もう一つは、彼女たちがその外見的特徴から判断して、ここでは珍しいアジア系の人間である事。
ロシアを始点としヨーロッパを横断する長い国際路線。
歴史的にロシアとヨーロッパ諸国は長らく互いに警戒し合う関係が続いている。
今でもまだそれは完全に解けたわけで無いのだが、わだかまりは捨てて仲良くしよう、という事で立ち上げられたプロジェクトの一つが、両勢力圏を横断するこの鉄道網であった。
そのため、位置的にもアジア圏の人間が乗ってくる事はあまり多くない。
政治家はのんびり列車の旅を楽しむ事は少ないし、若者が旅行をするには料金が高い。
中々、この車両が選ばれる事自体が少ないのだ。
「それにしても、龍しょ……先生に感謝しないとですね!」
「……まあ、それは本当に」
二人の会話から、他の客の中ではこの子達は大学のゼミで教授の研究か何かを手伝うために乗っていて、旅費も手伝いのお礼として教授が出しているんだな、などというストーリーが勝手に組み上がっていく。
その想像は、少しだけ正しかった。
二人は、彼女たちが龍先生と読んだ人間の計らいにより、今この場に居る。
真面目な調子の少女、『磯山 リース』。現在準備が進められているアネックス計画、日米合同班に所属する、日本人とアメリカ人のハーフ、という経歴の班員である。
控えめな様子の少女、『梁
彼女達は現在、2人の属する組織から与えられた任務により、今この場にいる。
一言で言えば苛酷な任務だ。それこそ、命懸けと言えるような。
『そんな大変な仕事に赴く彼女達を安い旅券一つで送り出すなど、酷いでは無いですか』
そんな、任務の難易度と比べあまり厚いとは言えないその待遇に、異を唱えた人間がいた。
――中国陸軍大将、
軍の最高幹部の一人である彼の言葉の影響は大きかった。せめて任務の前に楽しい旅がある程度の役得があってもいいのでは?
そんな彼の計らいにより、二人は今この快適な旅を楽しんでいた。
龍も途中までは同行していたのだが、自分も出張でフィンランドまで行く予定が、と言い残し途中で降りていってしまった。
……何故、中国の軍人が関わって来るのか?
実のところ、今回の任務を与えた組織はU-NASAでは無い。中国の軍部及び、協力関係にある集団だ。彼らがU-NASAに提案した任務を遂行する人員として表裏アネックスの日米合同班、中国・アジア班からそれぞれ隊員が現地に送り込まれる事になった……というのが表向きの名目である。裏では、U-NASA所属としての任務では無く、中国としての任務を果たすためだ。
磯山リース、本名『
その正体は、日米班に潜り込んだ中国支局所属の間諜。
さらには、中国のMO手術発展の歴史における重要な一人だ。
梁雅维、本名『雅维・ヴァン・ゲガルド』。
中国軍部の影に潜むニュートンの一族、その中でも特異な立ち位置である『槍の一族』ゲガルド家に属する少女。
こちらに関してはそもそも当の中国軍部にも隠している情報であるが。
「あっ今度は牛がたくさん!」
「うーんそれは特に……」
そんな後ろ暗い事情を抱えた二人であるが、こうして風景を見て楽しんでいる姿を見れば、どこにでもいるただの少女である。
「あらあら、可愛らしいお嬢さん方だ事。どちらに行かれるの?」
隣り合って座るその向かい側の席に、新たな乗客が。
景色とこれからの任務を考えていた二人は、その姿が視界の端に映ってようやくそれに気付いた。
「ど、どうも……ちょっと、研究のお手伝いに、フランスまで」
「こんにちは」
突然声をかけられた事に微かに動揺する二人。
そこには、老婆が一人座っていた。かなり高齢だろうか、枯れ木のようにやせ細り、触れば折れてしまいそうな程弱弱しい。
しかし、この場で堂々と若い二人の間に割って入るだけの胆力はあるらしい。
「あらあら、それはそれは……いい所よ」
友好的な態度の老婆に、二人は上手く言葉を返す事ができない。
見知らぬ相手に気さくに話しかけてくるような人間があまりいない環境で育った静花。
そんなノリの良い人間に会った事はよくある……というか、姉が他ならぬそのような積極的な人間ではあるが、当の本人が内向的な性格の雅维。
「ほら、良かったら食べてくださいな、つい調子にのって買いすぎちゃったのよ」
持っていた袋から雑多な惣菜を取り出す老婆に、二人はどう言っていいのかわからずあたふたしてしまう。
というか二人が何も言えないのを見抜いていたのか、次々と押し付けてくる老婆。
「……遠慮しなくていいわよ、若い子は沢山食べなさいな」
穏やかな様子の老婆に二人は頭を下げ、その惣菜を老婆と共にいただく。
ああ、こんな親切な人もいるんだな、とこれからの苛酷な任務の前に気分が少しだけ和らぐような気がした。
「よぉよぉ、カワイコちゃんだねぇ!」
しかし、そんな気分も長くは続かず。
いきなり三人に、いやらしい声色が投げつけられる。
若い男が、三人。いずれも一定水準以上の容姿はあるものの、ゴテゴテに付けられたアクセサリーや着崩した高級スーツを見るに、金持ちの家の素行が悪いボンボン、という印象である。
「んー、どっから来たの? 俺らと一緒に」
「ごめんなさい、今からお仕事があるもので」
デートのお誘いを切って捨てたのは、静花だった。
ここでナンパ男に構っていられる程自分達は暇じゃない。
「へぇー、真面目! いいじゃんいいじゃん! 仕事とかいいからサ」
……しかし。このような場所で相手の迷惑も鑑みずに声をかけてくるような人間がそう簡単に退いてくれるはずが無いという事を箱入り娘の静花は理解していなかった。
強引に掴まれた腕に、本能的な嫌悪感で体が震える。
「……止めてください……!」
雅维も声を出すが、それを相手が聞き入れる事など当然無く。
正直なところ、相手が成人男性であろうと、軍事的な訓練を受けている静花とニュートンの血族である雅维にとって相手をするのは余りにも容易い。しかし、これからの任務を遂行するのに、目立ってしまうのはまずいのだ。
どうしたものか、と二人は悩む。
「その手を離しなさい、紳士がする事では無くてよ?」
そこで、意外な場所から声が上がった。
冷ややかな目で男たちを見る老婆。その手は、静花に触れている男の腕をがっと掴んでいた。
「何だぁババァ?」
しかしである。当然ながら、このように強引に女性に迫る男が老人愛護の精神を持っている事はまずない。
不興を買うのは当たり前の事であり、男たちの負の感情は老婆へと向かう。
まずい、と二人は考える。親切な一般人が巻き込まれるのは、流石に。
その所属と果たそうとする目的は明らかに悪人のそれだが、人間としての根っこの部分では二人共善人寄りなのである。
「めっちゃ不快だなぁー傷ついたわー、これは慰謝料貰わねぇとなぁー」
男達の矛先は完全に老婆に向いたようで、今度は老婆の腕を無理矢理掴み、立たせようとする。
周りの乗客も助けてはくれないらしい。車掌さんも来ない。どうする、と目配せしていた二人は、次の瞬間男達と同時に、一瞬固まってしまった。
「オラ立て……って、あ……?」
その言葉通りに立ち上がった老婆。何だか頭の位置が高いなあとは思っていた。
だが。
その立ち上がった老婆の背は、腕を掴んだ男の頭一つ以上高かったのだ。
想像以上の体躯に一瞬場が硬直するが、だから何だこのババアと男達は老婆を引っ張り、車両と車両の間、下車口のある区画まで連れていく。
そこに繋がる扉が占められ男達と老婆の姿が見えなくなった後、残された二人は考える。
どうする。助けるべきか。見捨てるべきか。周囲の乗客は怯えているだけでアテにならない。
人間としての善良な部分と、秘密の任務を担うエージェントとしての冷徹な判断。
どちらを優先すればいいのか。まだ若い二人はそれの判断に迷い動けず、一分が経ち。
<リヨン駅、リヨン駅です お降りの方は忘れ物にご注意ください>
そこで、アナウンスが車内に響いた。
目的地の駅だ。
二人は慌てて立ち上がり、下車口へ、老婆が連れ去られた方へと急ぎ足を通り越し駆け足で向かう。
無事であってほしい、怪我をしていたなら、病院へ。
そして、扉を開け。
「……あれ?」
「……へ?」
そこには、誰もいなかった。男達も、老婆も。既に空いた駅への出口のみだ。
どうなってしまったのか。何が起こったのか。結局わからないまま、二人は車両から降り、もう一度周囲を見回し首を傾げる。
中に戻って、話を聞いてみるか。いや、時間にあまり余裕が無い。
二人は、後悔とこれからに気を重くしながら、人ごみに紛れる。
「お仕事、頑張ってね」
「へ……!?」
そんな二人の耳に突然入って来た声に周囲を見渡すが、その姿はどこにも見当たらず。
二人は気のせいか、と考え、その場を後にした。
漁夫の利というのは国同士のような大きな世界でも不変の概念である。
アメリカが滅びの危機にある? じゃあ、横からつっついて利益を貰おうか。
そう考える国は少なくないが、かの国の考えは、違った。
自身と深い協力関係にある集団。彼らは自分達の計画の最終段階の一歩手前までは味方であるが、その中の異端児は別だ。いつ何をされるかわからない以上、隙を見せれば食い殺せ。
アメリカに噛みつく頭を、横から食い千切る。あとは動かない胴体をどうとでもすればいい。
そのために、彼女達は送り込まれた。今だ未熟な身でありながら、潜入した人員に補助させればそれでも任務を遂行できる能力を有していると判断され。
彼女達に与えられた任務。天に至ろうとする者がいるならば、さぞ高い場所にいるだろう。では、突き落として転落死してもらおうか。即ち――
――――エドガー・ド・デカルトの暗殺、である。
観覧ありがとうございました!
~コラボ先キャラクター・用語等解説~
コラボのメインキャラクターに関しては作中で!
『シモン・ウルトル』(贖罪のゼロ)
『贖罪のゼロ』の第二部、アネックス編主人公。とある狂科学者によって作り出された存在。
第一部にてU-NASAでドナテロ・K・デイヴスと親交を結び、火星にテラフォーマーという脅威が存在する事を知りバグズ2号に密航し搭乗員と共に火星で激戦を繰り広げ、一人の犠牲により他全員が生還という結果にしかし、その犠牲になった一人は……
そして第二部、二度と悲劇は繰り返すまいと武器を、仲間を揃え、アネックス一号とは別の宇宙艦を用いて火星に旅立ちアネックス一号を救うために戦う事となる。
真面目に紹介しすぎてネタを挟み込む余地が無い。
何で第二部の主人公なのに一部の事が書いてあるのかとか詳しくは『贖罪のゼロ』本編で!
『オスカル・新界』(贖罪のゼロ)
本文中で男(?)と書かれていた人。シモンとクロード博士率いるアーク計画における団長(幹部搭乗員ポジション)の一人。一言で言えば戦闘狂のオカマ! 俗にニューハーフと呼ばれる人種で、頼れる兄貴姉貴。千古とかたぶん悩み聞いてもらっている。
エロネの異母兄弟らしい。本コラボではこの人からのエドガーとオリヴィエの情報によりキャロルと剛大が動く事となる。
ベース生物はオオゲジ(偽装)。その偽装ベースの通り、凄まじい速度でテラフォーマーを殲滅していた。本当のベースが気になりますね。部下は犯罪者等の凶悪な人間揃いであるが今のところ全員ニューハーフである。団構成から実戦に至るまでに何があったのだろうか。