深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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第37話 死に至る病

「……ドクター!?」

 左胸に大穴を開けられ崩れ落ちるアナスタシア。そのぽっかり空いた傷口からは多量の血が流れ出し、みるみるうちに火星の土を赤色に染めていく。

 

 自分に『薬』を使いながらも駆け寄ろうとするヨハンだったが、それを拒むように襲撃者たちの中心に立つ少女、エリシアが放った猛毒の触手がヨハンに襲い掛かる。

 背中を向けながら回避できる量と動きではない。

 駆け寄ろうとする動きを止め、その走り出しの勢いで左に跳び、回避動作をとるヨハン。

 だが、それを易々とさせる相手ではなかった。

 

「させねえぜ!」

 

 第三班の班員の一人、甲殻型と思われる姿に変態した小柄な男が、ヨハンの進路を阻み、拳を打ち込む。

 ヨハンの変態はαMO手術、さらには昆虫型のベースとなっている。

 堅牢な甲皮を持つ生物ではないものの、ツノゼミと合わさってある程度の防御力は確保できている。

 

 ここは攻撃を受ける覚悟でそのまま突き進むべきだ、と判断し、ヨハンは男の拳をできるかぎり回避しようと試みながらも前進をやめなかった。

 拳は肩にあたり、甲殻類型の変態によって発生した甲殻を覆う棘は皮膚を裂き出血させる。

 

 しかしヨハンはその痛みを感じていなかった。

 戦闘の空気と自分の敬愛する人が致命傷を受けたショック。これらによって痛みはマヒし、それ以外の感覚が薄くなる。

 拳を繰り出した後の隙を晒している男に、変態で現れた特徴である腕の針を打ち込む。

 甲殻型の強固な装甲に昆虫の針は通用しない。だから、勿論狙うのは。

 

 

「……貴様ら……」

 

 まるで、底の無い淵から湧き上がるかのような暗く、低い声。

 それと同時に、男が崩れ落ち、痙攣する。

 その首には、針の痕が。

 

 

 

――――日本の昆虫、それは、世界の同族たちから見れば多くが弱弱しいものだ。

 

 あまり一般的には知られていない、南西諸島に生息するサソリ。彼らのサイズは外国産の大型種と比べて半分ほどであるし、毒も大したものではない。

 

 その勇猛な姿からは弱弱しい、という表現は相応しくないのだが、甲虫界のスターであるカブトムシ、クワガタムシも世界には日本産と比べサイズもパワーも上回る強豪が多数存在する。

 

 

 

 そんな中で、同族内最強クラスの戦闘能力を有する虫が存在する。

 それは、『蜂』。

 

 オオスズメバチ。日本やその周辺のアジアに生息する彼らはが持つのは甲虫ほどではないが硬い外皮。人間すら死に至らしめる事のある強い毒。高い飛行能力。数万匹のミツバチの巣を僅か数匹で襲撃し、皆殺しにする卓越した戦闘能力。

 日本に大型昆虫の外来種が少ない理由。それは、このオオスズメバチが片っ端から生意気なよそ者を駆逐するからだ、という説が存在するほどである。

 

 では、このオオスズメバチはハチ界最強、なのだろうか。

 その答えは、恐らくYes,であろう。少なくとも、今現在発見されている種の中では。

 

 

 ならば、ハチ界最大、と言われれば?

 

 

 その答えは、はっきりNO,である。

 

 

 

 オオスズメバチすら上回る体躯を持つハチ、彼は。

 

 社会性生活を営まず。

 

 たった一匹で。

 

 本来ならハチを捕食する蟲の、その中でも最大クラスの巨体を誇る生物に決闘を挑む。

 

 

 彼が武器とするのは、たった一本の毒針。

 

 強固な顎、持たず。彼が戦う目的のためには、それは必要ないからだ。

 

 堅牢な体皮、持たず。その俊敏さを求め軽量化された体は、彼が相対する強大な敵の軽い一撃が致命傷となるリスクを常に負っている。

 

 致死の毒、持たず。彼が戦う目的、それは、相手を殺してしまっては成す事ができないからだ。

 

 

 

 

 そして、そんな彼が戦い続ける、『タランチュラホーク』という勇猛な別名に似合わぬ理由。それは。

 『子育て』という慈悲深いものである事もまた、あまり知られていないのである。

 

 

 

 

 ヨハン・アウフレヒト

 

 

 

国籍:ドイツ/中国

 

19歳 ♂ 178cm 75kg

 

 

αMO手術『昆虫型』

 

 

 

 

 

 

――――――――オオベッコウバチ――――――――

 

 

 

 

 

 

「……降伏すれば悪いようにはしません、そこの方は残念でしたが、貴方まで死ぬ事はないでしょう」

 

 ヨハンの怨嗟の声を聞いてか聞かずか、エリシアは油断なく触手を自身の周囲に展開しながら、降伏を促す。

 戦闘員揃いの第三班、その班員の一人を相性の悪さをものともせず制圧した実力。

 死ぬまで戦えば、こちらにも相応の被害が出る事は間違いない。そう考えての判断だ。

 

 だが、その答えはエリシアに向かって一直線に突貫してくるものだった。

 

 

「よくも……よくもやってくれたものだなァァ!」

 

 怒りに染まり切ったその姿。みるみる間に変態の度合いが増し、その体を光沢のある青緑色の甲皮が包んでいく。

 最初に変態した時から新たに『薬』を使用した様子は無い。だが、体に変化が起こっている。

 エリシアの知らない事象だ。

 どういう事なのか、と思案する前に、対応しなければならない。

 

「貴方とあちらの人がどんな関係なのかは知りません……ですが、これ以上私の部下を死なせるわけにはいかないんです!」

 

 己を奮い立たせるために大きな声を出し、同時に触手をヨハンが突撃してくる前方へ向けて集中させる。

 あの異形のテラフォーマーたちは一体は自分が仕留め、残りは部下が抑えてくれている。

 ならば、敵のリーダーは自分が抑え込むべきだ。

 

 ぎゅっと拳を握りしめ、自分の能力を、専用装備を制御する。

 このまま怒りのままに突撃してくれば、『キロネックス』の触手に突っ込み、ほとんど瞬間的にヨハンは絶命する事だろう。

 

 

「……いい能力だ、だがな、甘い」

 

 ヨハンが、唐突に軌道を変え、足元の何かを掴む。

 

 

「……!」

 

 それを見て、前方に集中させた触手を全て体内に引き戻すエリシア。

 相手の進路に敷いた防衛網を自ら撤去する自殺行為。なぜそのような事をするのか。

 

 

「……君が優しくて助かったよ、エリシアさん」

 

 ヨハンがその手に抱えていたもの、それは、先ほど倒された第三班の戦闘員の男だったからだ。

 

 オオベッコウバチの毒は、相手を麻痺させるためのもので、致死性は持たない。動けなくなった獲物、蜘蛛の中でも大型の種が多いオオツチグモ科、俗にタランチュラと呼ばれるそれに卵を産み、可愛い子ども達のゆりかご兼食事にするのに、死体だと都合が悪いからだ。

 

 

 これが死体ならば、エリシアは遠慮なく攻撃をしていただろう。

 

 死者の尊厳、それを守ろうとして、自分が死者になってしまっては意味がない。

 ……けれど、今目の前にいるのは、生きている仲間だ。

 

 戦局を見るならば、切り捨てるべき。触手の量は十分だ。人間一人程度の盾で凌げるものではない。戦闘員一人の犠牲で、敵の指揮官を仕留める事ができる。

 十分すぎる戦果だ。だが。このただの班員は、自分の班員たちは。

 

 自分のためにサプライズパーティを開いてくれたのだ。どう考えてもそんなものに慣れてなさそうな彼らが。

 デザートを作ってくれたのだ。絆創膏と包帯だらけの手を背に隠しながら。

 最初の顔合わせの時、怯えていた自分に笑顔を向けてくれたのだ。ぎこちなさすぎて、むしろ怖かったが。

 

 そんな光景がエリシアの脳裏をよぎり、攻撃を中断させる。物理的な盾ではなく、精神的な盾に猛毒の防衛網が崩される。

 

 

 十分に接近したと踏んだヨハンが盾としていた男を放り捨て、エリシアに向かって手を、同時に毒針を伸ばす。

 勝った。いくら強かろうとも。一瞬で命を奪い取る猛毒の結界を展開できようとも。その体は、ただの少女。

 能力を突破してしまえば、仕留められる。

 

 ヨハンの右手は、エリシアの首を掴み、逃れられないように拘束している。

 そして、左の毒針を、エリシアのその、敬愛するアナスタシアと同じ空色の瞳に向かって一直線に。

 

 

「そうすると、思ってました」

 

 ヨハンが繰り出そうとした左腕。それを動かす事はできなくなっていた。力で拘束されたわけではない。突如の痺れによって、硬直してしまったのだ。

 

 理解できない、という様子のヨハンの頬を撫でるように、エリシアの手が伸びる。

 同時に、ヨハンの体に激痛が走り、意識を刈り取る。

 必死でそれに耐えるヨハン。なんとか反撃の糸口を見つけようと目線を動かしていたその時、ヨハンは自分を倒したトリックに気が付いた。

 集中しないと見えないような細く、透明な糸が一本、風にたなびいていたのだ。

 

 『キロネックス』の触手。その猛毒は、たった一本の触手に含まれるものであっても甚大なダメージを人体に与える事を可能としている。

 読まれていたのだ、攻撃の瞬間には重く邪魔な盾を捨てる事に。

 

 今の攻撃で仕留めなかったのは、即座にキロネックスの能力を再度使用する事ができないからなのか、ただ単に殺すつもりが無いので別の生物の毒を使っただけなのか、その判断はつかなかったが、どうやら自分は敗れた、という事だけはヨハンには理解できた。

 

 ……これで、終わり? 自分も、バイロン達も、アナスタシアでさえも。誰かに利用され尽くされて自分達はおしまいなのか? 

 絶望し、涙すら滲む。ああ、なんと残酷なのだろうか。目を閉じるヨハン。

 

 

「……新手です!」

 

 だが、エリシアの焦った声で、再びその目は開かれる事となった。

 新手。誰がこの状況で援軍になど来るというのか。あの適当に集めてきたクズどもが自分を助けに来るわけが……

 エリシアの勘違いだろう、と期待せずに目線を落とす。

 しかし、少しして自分を支えるエリシアの顔に怯えが浮かび、手が震えている事に気が付き、ヨハンは何か様子が違う、とその目線を追うように自身の目線をそちらに向けた。

 

 

 そこにいたのは、異形ではないものの様子がおかしいテラフォーマーだった。

 異形のテラフォーマーのような手足の本数にこそ異常はないが、その表情は白目を剥き泡を吹くという異形のものと同じそれである。

 そして、そのテラフォーマーが運んでいるものが一つ。

 

 それは、首の無い人間の体だった。

 やせ細っていて凹凸に乏しいものの、性別は女性。小柄な体だ。雪のように白い肌と合わさって、儚く壊れてしまいそうな印象を与えている。首の断面と思われる部位には布のようなものがかけられ、どこか水中でも通ったのか、全身に水滴が付いている。

 しかし、そんな体の特徴より目立ちすぎて目を奪われる特徴が一つ。

 

 体中に、痛ましい手術の痕があったのだ。それは、縫合の跡であったり、なんらかの薬品を投与したと思われる変色した痣のようなものだったり、様々だ。それが、儚くも美しい、というその体の印象を一気に書き換えていた。

 さらに、体の表側を上にして運ばれていたため背側の状態はわからないが、一瞬背中側で何かが見えたような、そんな気がする。

 

 

 そんな人間の体を運んできたテラフォーマーは、倒れ伏し、ぴくりとも動かないアナスタシアの近くに腰かけ、運んできた人間の体を追いた。

 

 少しアナスタシアの様子を伺い、懐から何かを取り出すテラフォーマー。

 それは、石で作られた鋭利なナイフだった。

 

 何をする気だ。やめろ。ヨハンは叫ぼうとするが、毒の影響で声は出ない。

 戦闘を中断する、しかし人体を運んできたテラフォーマーに近づけさせまいとする異形のテラフォーマーたち。

 

 それに阻まれ手が出せない戦闘員。

 

 ヨハンを抑え込んでいるため手が出せないエリシア。

 

 この場で、それを止める事のできる人間はいなかった。

 そして、そのテラフォーマーはアナスタシアの体から首を切り落とした。

 

 

 目を見開き、ヒビが入るのでは、というくらいの力で歯を噛みしめ、その蛮行に耐えるしかないヨハン。

 エリシアはアナスタシアの生首を見て、ある事に気が付き動揺を隠せなかった。しかし、ここは指揮官として耐えるしかない。

 ヨハンの表情から何が起こるのかを想像しようとしたが、その表情からヨハンにとってもイレギュラーな事だ、と判断し、テラフォーマーの行為へと目を戻す。

 

 テラフォーマーは切り落としたアナスタシアの首を、運んできた体の方へと持っていく。

 何かわかったかのように一つうなずき、体の側の首を覆う布を剥がし、そこにアナスタシアの首をそっと接続する。

 何をしているのか、どうなっているのか。この場の誰も、それを理解できている者はいなかった。

 

 

 ……そして。

 

 

 

「……ふう、全くイヤになりますね……博士には綺麗な体で会いたかったのですが」

 

 

 その何かの体は、アナスタシアの頭を接続されたそれは、むくりと起き上がり、言葉を話した。

 

――――

 

「レナート、君は野球をやっていたのかい?」

 

 『裏切り者』の攻勢は一旦落ち着いてはきている。そんな少しだけ安定してきた戦場を走る、部下を連れた二人の男。ヨーゼフは第三班の副官、レナートと話をしていた。腕力頼りのレナートと頭脳派のヨーゼフ。全くわかりあう事はないであろう。それぞれの考え方の違いに加え、ヨーゼフの腕相撲大会でさらに強化された体育会系嫌い、レナートの何故だか敬愛するリーダーであるエリシアがヨーゼフに懐いている事への嫉妬といった非常に個人的な理由もあり、二人の仲は最悪と言える。

 

 だが、今は戦場。お互いの確執をできる限り抑え込み、なんとか会話をしている。

 

「ああ……昔の事さ。ピッチャーだ。まさか一発で当たるとは思わなかったけどな」

 

 

 エリシアの、少人数での敵本陣への強襲。これを提案した時には、二人は大層驚いたものだ。

 異形のテラフォーマーを従えている男女。それが、突然基地付近の平地に出現した。そして、布陣するかのようにその場所から動かない。

 これは敵の指揮官で間違いないだろう、という報告が見張りから来たのがつい先ほど。

 

 すでに部下を引き連れて出撃した剛大とダリウス。彼らとの通信は傍受の危険を考え行ってはいないが、防衛側の三人の班長にはその情報を行きわたらせた。

 そして、エリシアが提案したのがこの案であったのだ。

 

 幸い自分の班には地下通路を効率よく開けるベース持ちがいる。例え標的が指揮官でなかったとしても、背後からの奇襲という戦術自体が敵の士気を下げ、相手を一気に切り崩す糸口にできるかもしれない。拙いながらも必死の言葉に、ヨーゼフとエレオノーラは納得し、それを許可した。

 制圧そのものはエリシア一人の能力で事足りる。だから、連れていく部下はエリシアで対応できない能力持ちが現れた時のため、最悪その相手が強大だったならエリシア一人でも逃がすための盾、という意味合いもある。

 だから、副官であるレナートは本陣で防衛に専念、という形になったのだ。

 しかし、それだけでは……というレナートの訴えにより、支援攻撃という形でのカブトムシの腕力での投石、という案、そして判明したレナートの意外な特技、という流れである。

 

 

 そしてそれは大成功し、見事にその石は敵幹部?の女の胸を貫いた。そこからの戦いは再び防衛に戻ったため見ていないが、相手は軍服の青年一人に異形のテラフォーマーが三匹。

 少し不安は残る。最初の奇襲でどこまで敵を減らせるか、それが問題だ。

 

「……ムダ話はここまでだ、さあ、急ぐぞ」

 

 だから、二人はこうして向かっているのだ。引き連れている班員の数は少ないものの、精鋭揃い。

 前線の指揮はエレオノーラに任せ、エリシアが通った通路を通り、戦闘に参加する。幹部搭乗員と上位戦闘員、その二人が引き連れる隊員。相手の戦力からすれば、これで十分勝利を手にする事はできるだろう。

 

 

「……なんだかよ、嫌な予感がするんだ」

「奇遇だな、私もだよ」

 

 レナートの言葉に、珍しくもヨーゼフが同意する。

 レナートの嫌な予感と不安、それは当然、エリシアの安否。敵の数自体は多くない。だが、敵は自分がギリギリでようやく一体撃破した異形のテラフォーマー。それが三体。その上で、能力持ちの青年。

 勝てる相手なのか、それはわからない。だが、班長を失う、それだけは避けなければならない。

 例え、敗走したとしても。最悪、この基地が落とされたとしても、班長を失う事だけは……

 

 一方のヨーゼフの嫌な予感、というのは、曖昧なものだった。エリシアに対する感情。昔、何かあった気がする。何か、大切な事を忘れている気がする。それもある。だが、それと同じか、それ以上に、得体のしれない何かがある気がするのだ。自分が、絶対に失いたくない、そう思っていたものが、ぶち壊されている、そんな現実を突きつけられるような気がする、そんな感覚が。

 

 

「ここを昇れば到着だ、博士、いいな」

「……ああ」

 

 そして、不安を抱えたまま、二人は穴を飛び出し、目の前の戦場に目を向ける。そこにあったのは―

 

 

―――――

 

「……やはり、か」

 

「お嬢! ッ!?」

 

 目の前に広がる光景に、ヨーゼフとレナート、二人は顔を歪ませる。

 

 そこにあったのは、数人の人間の残骸と、茫然自失としている軍服の青年と、異形のテラフォーマーと通常のテラフォーマー、一匹ずつの死骸。

 

 そして。

 

 

「ぅ……あうぅ……」

「……ようこそ、博士。お久しぶりです」

 

 ヨーゼフとレナート、隊員達に背を向けている小柄な女性。黒一色に染め上げられた白衣に、右手に持った機械的な装飾の杖。その左手には、傷だらけのエリシアがぶら下げられていた。まだ生きてはいるが、ボロボロに弱っている様子。

 

 その左右には臣下のように二匹の異形のテラフォーマーが控えている。

 

 

「テメェ! よくも……」

「何故だ……? なんで君が……こんな場所に」

 

 エリシアを救わんと突撃しかねないレナートを手で制止し、ヨーゼフは女性に問いかける。

 それの答えは、くすくすという心から嬉しそうな笑い声。

 

「やっと、やっと会えましたぁ……博士、私はずっと……」

 

 

「オイ! テメェ、あの女と何の関係が……」

 

 先ほどからの明らかな態度。ヨーゼフと女性が既知の仲であることは確実だ。

 レナートは説明を求めようと、ヨーゼフに飛びかからん勢いで質問する。

 

 

「ねえ、博士……私はね、ずっと貴方とね、でも、長くはないんですよ」

 

 

「……彼女はアナスタシア。かつての私の友人で、恐らく『裏切り者』の総指揮官。そして―」

「それで、この子を見つけたんです、ねえ、博士。もういいじゃないですか。だから―」

 

 説明するヨーゼフ。それと同時に、女性、アナスタシアはまるで恥ずかしがりやな少女が好きな男の子に告白するかのような、緊張したか細い声で、そこで初めてヨーゼフたちに振り返り、己の目的を、言い放った。

 

 

 

 

「クローン生体工学の若き天才だ」

「私もこの子も貴方も、楽になりましょうよ」

 

 

 

 振り返ったそのアナスタシアの顔を、ちょうど基地で起こった爆発により鮮明に照らし出されたそれを見て、レナートと部隊の班員たちは硬直する。

 

 

 

 

 風にそよぐ美しい銀髪。触れれば壊れてしまいそうな儚げな色白の肌。憂いを帯びた、優しさに溢れながらも少し困ったような穏やかな微笑み。

 

 

 

 

 それは、彼らが敬愛する班長(エリシア)のものと、全く同じだったのだから。




観覧ありがとうございました!

ババァとタメを貼る化物がもう一人。
明らかになったが色々と謎な展開。次回説明&バトルです

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