今回からだいぶバトルが続いたり途中でとあるテラフォ二次作者様とのコラボ番外編の魔法少女エリシアちゃんが挟まったり色々カオスな事になりますがよろしくお願いします。
「遅ぇなあオイ!」
地上では『裏切り者』の大軍勢が押し寄せ、両陣営の幹部を中心とした激しい攻防戦が繰り広げられている。
一方、基地の地下では。
こちらにはあまり人員は割かれていない。だが、その一区画で両陣営の精鋭による戦闘が始まっていた。
黒く、湾曲している腕から生えた鎌のような牙で襲い掛かる金髪の少年。
それを同じく腕から生えている昆虫の顎で受け止める青年。
前者、『裏切り者』幹部の一人、バイロン。
後者、『裏アネックス』9位、俊輝。
お互いがベースとなった生物の牙をぶつけ合い、一身一体の攻防を繰り広げている。
バイロンが俊輝の首めがけて放った一撃を体勢を低くして回避し、反撃を繰り出す。
だが、その攻撃はあっさりとかわされ、さらなる追撃が襲い来る。
スピードという点ではバイロンの方が上をいっているようだ。
攻撃、防御、戦闘の全てにおいて先手を取られているという苦しい状態。
だが、俊輝の側にも明らかに優位である要素がある。
「おっと、させねえよ」
姿勢が崩れた俊輝に放たれる牙を、岩の塊のようなものが受け止め、弾き返す。
「サンキューな、ダニエル」
そう、この戦いは二体一なのだ。
もう一人、この戦闘には参加者がいる。
第五班所属、ダニエル。
MO手術ベース、軟体動物型『オオシャコガイ』。
両者スピードを競い合う攻防において、彼のベースとなっている鈍重なそれは全く役に立たないと言っていいだろう。だが、それでも足手まといにはならない。
その理由は、バイロンの牙を弾き返す防御力。俊輝が危ない時に割って入って、押し返す。
これによって、この戦闘は均衡を保っている。
「邪魔くせえなぁ……」
舌打ちし、バイロンは一歩下がる。落ち着きの無い性格なのか戦略なのか、常に動き続けているそのスタイルは俊輝達を翻弄し、狙いを絞らせないでいた。
このまま長引けば、どちらが先に力尽きるのか。
「この動き、パワー、スピード、普通のMO手術ではないな」
ダニエルが俊輝に伝える、バイロンに質問する、その二つの意味を持った言葉を吐く。
「ご名答~。お前らのとこにいる博士が開発した新型の手術、ってやつだぜ、これが」
一歩下がり、自慢するようにくるりと一回転するバイロン。
そして、彼らの技術力の一端、それをうかがわせる内容を呟いた。
「ま、うちの博士のおかげでな、バカみたいに死ぬお前らよりもずっと高い成功率で実現できてるんだけどな」
――――
「Advanced Mosaic Organ Operation。アルファテスト、の意味とAdvancedの最初のAから意味をとってαMO手術、って言うんですよぅ、きっと」
「なるほど、勉強になります」
地下の空洞を、男女と三匹の従者が歩いている。
銀髪の女性、アナスタシアが軍服の青年、ヨハンに色々と話をしながら、地下道を歩いていた。
その二人を護衛するように取り囲むのは異形のテラフォーマー。どの個体も、手足の本数がおかしくなっている。本来手のある部分から足が生えていたりする個体もある。
その姿は現在裏アネックス計画の本陣となっている岩山に第三班が到着する直前に会敵したテラフォーマーのような何かに近いものだが、今現在ここにいる三匹は決定的に違う特徴を持っていた。
それは、全身から生えている棘。青と灰色の中間色のような不気味なそれは、彼らの異形さを増させている。
「私は偶然成功したんですね、で、色々実験して、成功率を高める事ができたんです」
「……私やバイロン達が今ここに立っていられるのも、博士のおかげ、というわけですね」
ヨハンが尊敬を込めた眼差しで隣を歩くアナスタシアを見つめる。
それを恥ずかしそうに両手を振って否定の意を表すアナスタシア。
「いえいえ、成功、といっても完全には成功じゃあないんですよ、ただ成功率が上がるだけ、ならどんなによかった事か」
「……」
その言葉に、ヨハンは少しの疑念を覚える。アナスタシアの行動と言葉を照らし合わせれば、見えてくるのは、副作用が存在するという事。
「貴方達のベース生物の事、よく考えてみてください」
次のアナスタシアの言葉に、バイロンは自分と同じく手術を受けた仲間達のベース生物を思い浮かべる。
そして、一つの結論に思い至った。
「……なるほど、選べる生物に縛りがあるのですか」
「ご名答です♪」
先ほどからアナスタシアはやけに上機嫌だ。何かに期待している様子で、会話していなかったら鼻歌まで歌いだしそうである。
会いたい人がいるのだと本人は言っていた。だが、会ってどうするつもりなのだ? とヨハンは思う。
所詮、その会いたい人間は敵でしかない。その人がアナスタシアにとって大切な人だったとして、会ったところで殺し合うか、相手に従って自分達の目的を諦めるか、その二つしかない。だというのに、何故こんなに上機嫌なのだろうか? そんな疑問が浮かんでくる。さらに、それとは違ってもう一つの疑問、先ほどの話題の中にあったもの。
「でも、バイロンは」
「だから、ああなっちゃったんですよ。昔は優しくて賢い子だったのに」
急にアナスタシアの顔から感情が消える。
その声色の無機質さに、ヨハンは自分の背筋が凍るような感覚を覚える。
何か、これ以上踏み込んではいけない気がする。そんな予感がする。
「先ほど、αMO手術はアルファテストの意味も込められている、とも仰いましたよね? アルファテストとは開発初期の試作段階に行われるテスト、という意味だったと思うのですが、すでに完成している技術であるαMO手術に何故そのような名前が?」
話題を逸らす。そうすれば、死ぬのを待つだけだった自分達を拾い上げ、優しく接してくれた彼女の表情に笑顔が戻ってくれるはず。先ほどのように機嫌よくなってくれるはず。
「そんなの、決まっているじゃあないですか」
だが、ヨハンに向けられたのは、無表情でも、暖かい笑みでもなく。
「致命的な欠陥、重大な不具合。それがあったからですよ」
――――
再びバイロンの鎌が鈍く輝き、二方向から襲い掛かって来る。
それを見据え、俊輝は冷静に判断する。
片方を避け、もう片方を片手の顎で弾き、こちらの残った片方の顎でバイロンを狙う。
避けようとしたが避けきれず、頬を薄く切り裂かれるが、その程度のダメージならば何の問題もない。
今の攻防のバイロンの動きは慎重さを欠いていた。きっと、これまでの攻防から1対1での優位を確信し、確実に仕留めにきたのだろう。
だが、それが仇となったのだ。大振りな攻撃で隙を見せ、大きく踏み込んでいる為に素早く回避する事もできない。
俊輝の右手のオオキバウスバカミキリの顎が、バイロンの頭に振り下ろされる。
が、その攻撃は空中でピタッと停止した。
「……!」
当然、俊輝が情けをかけたわけではない。
次の瞬間、引き戻されたバイロンの鎌が俊輝の右胸を引き裂く。
カミキリムシは甲虫だ。変態によって、カブトムシやクワガタムシほどの強度ではないが、全身を強固な甲皮が守っている。その鎧が、いとも簡単に貫かれた。
追撃を防ごうと駆けだすダニエル、だが、何かに足を絡めとられ派手に倒れこむ。
吹き出す血、痛み、それと同時に襲い来る激しい吐き気を必死にこらえる俊輝。
ただの攻撃ではない、何かを擦り込まれた。全身から流れ出る汗が、危険信号を送っている。
気づくべきだったのだ。道中で道に張り巡らせていた糸が何であったのかを。
ぐらつく視界の先で、バイロンは宙に立っていた。そして、自分達が戦闘していた空間の中空に、そこにある何かが放つ無数の反射光が見える。
――――
―――人類に対する兵器のような生物が存在する
彼らの仲間の中でも特に発達した牙は人間の表層で最も硬質な部位、爪さえも突き破るほどの威力を持ち、その身に蓄えられた猛毒は人間やサル、一部の哺乳類などにしか効果を及ぼさず、彼らが本来天敵とする生物や餌とする生物には何の効果も及ぼさない。
その毒の強さは、わずか10cmほどの彼らが一度に注入する毒で一日足らずで大人が死ぬほどである。
何故このような進化を遂げたのか? その理由は、未だにはっきりとはしていない。
だが、防御に持ちいられる事の多い彼らの仲間の毒事情から、彼らもまたその毒を防御に用いているという説が有力なのである。
では、彼らを脅かし、かつ彼らの毒が効果をもたらす対象とは?
そんな事は、考えるまでもないだろう。
――――
「わりぃな、痛かったか?」
バイロンは空中、正確には自分の張った糸の上で、二人を見下しながら髪をかき上げる。
そこには、無機質な蟲の目が六つ、二人を睥睨していた。
バイロン・エスパダス
国籍:グランメキシコ
17歳 ♂ 176cm 79kg
αMO手術 “節足動物型”
―――――――――――――――シドニージョウゴグモ―――――――――――――――
観覧ありがとうございました!
今回登場のこの生き物、対人に優れてるって事で原作の中国班にいそうだな、とか思ってました。