夢を見た。
斬って斬って斬って、裂いて貫いて殺す。
不満は無かった。それが私の生きる価値であると、存在を許される理由であるとわかっていたから。
だけど、そんな私に向けられる瞳は冷たかった。
棒切れを振り回す事しかできない粗暴者。末席に置いておくのも恥ずかしい。
別に、感謝を求めているわけでも無い。蔑むな、と言っているわけでもない。
お父様は耐えろ、とさえ言わなかった。これが我々の義務なのだと、ただ当然の物として疑問すら抱くなと、そう言った。
なるほどその通りだと思います、と私はお父様に言い返した。
そしてまた、日々が始まる。敵対者を。邪魔者を……あるいは、ただの、誰かが気に入らないだけの相手を殺し、報告する。そこに、感謝も褒賞も無かった。
……きっと私は、最期までこうやって朽ちていくのだろう。そんな事を思っていた時に。
『初めまして、君を私の好き勝手に利用したいんだけど、どうだろうか?』
誰かの声が、聞こえた気がした。
――――――――――――
「……少し、寝すぎましたね」
ゆっくりと目を開け、徐々に鮮明となっていく視界。
それを少女は認識し、静かに独り言を呟いた。
狭いトンネルが様々な方向に入り組んだかのような、狭苦しく汚い、圧迫感のある空間。そこに立っているには、少女の姿は余りに場違いであった。
複雑かつ華美な模様で彩られた短い丈の着物に、腰程まで伸ばした艶やかな黒髪。
その容貌は幼さを残しながらも気品を持っている。
腰に差した太刀は少しこの場に合っているように思えなくも無いが、それ以外は広い屋敷でお茶のお稽古に勤しむ伝統ある家系の娘さん、といった雰囲気の少女だった。
そして、彼女の目の前では、多数の人型が騒ぎ立てる。
「じょう」
「じょうじ」
その数は数十、という彼らは、日本語とは明らかに違う言語で意思疎通をしながら、複数の方向から少女へと襲い掛かった。
テラフォーマーの群。その先陣が、力を抜いた棒立ちのまま動かない少女にその剛腕を振り下ろす。
「……温い」
だが、鍛え抜いた人間であろうとも首をへし折られ絶命するであろうその一撃は、ただ、その腕を撫でるかのような軽い接触によって軌道を曲げられ、少女の横の地面へと突き刺さる。
強化コンクリートと思われる固い地面にヒビを入れる一撃。だが、少女は動揺の一つすらせず、懐から『薬』を取り出し、自身の体へと用いる。
それは、一瞬の出来事だった。少女の髪が、その黒が根本から、波が広がるかのように金や黄がかかった白色へと変化する。同時に、その体内からまるで日が落ち月が輝くかのような、薄ぼんやりとした光が漏れ出す。
少女が、右腕を左から右へと、まるで頭を撫でる動作を大振りにしたかのように一度、振る。
腰に下げられたままの太刀。それを脅威と認識していたテラフォーマー達。
それに注目していた26の視界は。
その瞬間、太刀を映し続けたまま、永久に潰えた。
観覧ありがとうございました!
当章には創作特有の超武術、微妙な科学考証などが含まれます、生暖かい目でお付き合いください。