深緑の火星の物語   作:子無しししゃも

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冒頭ポエムは暗い雰囲気の厨二感あるものを思いついて次回入れたかったから対になるように夜が明けたフランスが復興していく明るい系書こうとしたら
その描写が今回の話に結局入らず何か浮いてるなこれ……となった曰く付きの品です(謎)


Mind Game:第13話 上帝脈動

 夜が明け、日が昇る。

 

 偽りの神樹は枯れ、試練の果実は腐り落つ。

 

 盾は焼け落ち、しかして母屋は火を浴びず。

 

 此処は再び平穏の都。

 

 おお芳晴(かんば)らしき日よ! 花柳かな! 華麗かな! 

 

 さあ、意気踏々たる凱旋のギャロップを踏み、朝の光の中へ、中へ。

 

―――――――――――

 

 剛大とキャロルが合流したのは、日が微かに昇り始める早朝の事だった。

 

 剛大が怪物から市民を庇いながら避難をしている最中、突然怪物の群れが、引き潮のように追撃を止め護衛していた市民の集団とは逆の方向へと進んでいった。

 

 脅威は消え、しかし根拠も無く安全と断ずる事はできなかったためしばらくは市民に随行し、軍の救援部隊に保護されるのを見届け。

 そこで、剛大は、こっそりと、しかし素早くその場を離れた。

 

 自分達はフランスの援軍では無い。盤外の戦争に巻き込まれる無辜の一般人を守りに来た、というのは事実ではあるが、それを公にできない立場である。

 MO能力を用いた大規模な襲撃。軍部でもMO手術、という技術の存在は広く知られているだろうし、今回のこの事件を対処するにあたって情報共有がなされているかもしれない。

 なので機密が漏洩する、だとかそんな心配は全く無い。

 そもそも市民にその変態を行った姿を見られてしまっているため手遅れである。

 

 問題なのは、何も事情を知らない軍人から今の剛大を見ればどう映るだろうかと言う部分だ。

 

 外国人のMO手術被術者が、この混乱のさ中で街中を何やらうろついている。

 恐らく、敵対勢力の手先との疑いをかけられてしまうのでは無かろうか。

 

 市民が自分達を守ろうとしてくれていた、と擁護してくれるかもしれない。

 そのためいきなり敵対状態になるという可能性は低いだろう。

 

 しかし、結局国の管理下に無いMO手術を施されている得体の知れない人間である、という事実までは変わらない。

 戦力が足りないからこの騒動を収めるために協力して欲しい、という要請は問題無いのだが、そこから国にあれこれ取り調べを受けるのはまずい。

 

 そのような理由により、剛大は場を離れた。

 怪物の数は減り、軍の救援も間に合った。

 

 ならば、自分は別の場所の救援にいくべきだ。

 そうして、剛大はキャロルが向かった教会へと急いだ。

 

 

 最悪の可能性も視野にいれていた。

 相手は一度二人がかりで勝てなかった相手だ。キャロル一人ではさらに勝算は薄いだろう。

 

 いざという時のため、『薬』を手にしながら。

 

「終わり、ました」

 

 そして、目にしたのは教会の床に空いた穴と、全身に傷を負い力なく座り込んでいるキャロルの姿。

 

 無事……では無いが良かった、と胸をなで下ろした剛大に、キャロルは勝利の歓喜でも無く、傷への苦悶でも無く、ただ、悲し気に一言で戦いの結末を告げた。

 

 キャロルの簡易的な手当てと水分補給の後、二人は互いの状況を説明した。

 

 剛大は怪物が市民を狙わなくなり、軍の保護も各所で追いつき始めた事を。

 

 キャロルは無数の怪物を生み出しフランスを襲撃した元凶、アヴァターラを討ち取った事を。

 捕縛する事は叶わず、相手は死亡した事も含めて。

 

 これからどうするか。キャロルは傷が軽いものでは無いため暫くは動けないだろう。

 引き続き、剛大が残った怪物の掃討に当たるか。

 

 結論として、話し合った末にここで二人はフランス軍に身分を明かしてでも残った市民の救助を優先するべきだ、と考えた。

 

 自分達の事情をどこまで話すか。いつまで協力するか。もし相手が実力行使に出て来たらどうするか。それらの対応を話し合い、さあ動こうとなった、そのタイミングで。

 

『二人とも、無事かい?』

 

 緊急用の連絡回線から届いた声に、剛大とキャロルは同時に目を丸くした。

 キャロルにとっては馴染みのある、剛大にとっては少し距離が遠いため畏まった調子になってしまう、その相手。

 

「両名、命に別状は無く。いかがなさいましたか、クロード博士」

 

 キャロルと剛大をこのフランスに送り出した人間の一人であるクロード・ヴァレンシュタイン博士に、剛大は困惑しながらもこの通信の意図を問う。

 

 手分けして、剛大が市民の保護に向かう。キャロルが敵の指揮官と交戦に入る。それが、剛大とキャロルがU-NASA側に行った最後の報告だった。

 それの結果報告が待ちきれずに確認を行いに来たのだろうか、と一瞬二人は考えた。

 

 だが、それがクロード博士である必要性は無い。

 彼はあくまでも研究者だ。アメリカ方面での新型ウイルスのワクチン開発に手を割いているとも聞いていた。

 そんな多忙な彼がわざわざこちらに連絡を、しかも緊急の回線で連絡を入れてくるのは、何かあったのだろうか?

 

『早急に、対処しなければならない問題が起こったんだ。そうだね、一言で言うと……』

 

 クロード博士の声色が、少しずつ重たいものへと変わっていく。

 そして。

 

『放置すれば世界が滅びるかもしれないものが、地球に投下された』

 

 

「……え?」

 

 掴みの一言で、二人は唖然とした。

 

 滅びる? 世界が?

 こんな状況でクロード博士が冗談を言うとも詩的な表現で何かを表すとも思えないので、これは事実をそのまま語ったものなのだろうと二人は説明を待つ。

 

 その後、より詳細な説明は後で行うが、という前置きの後、クロード博士からその言葉の意味が語られた。

 先日、アフリカのリカバリーゾーンとベネズエラの熱帯雨林にそれぞれロケットが不時着した。

 

 即座にU-NASAの調査隊が編成され、両方に向かったのだが。

 結論から言えば、ロケットは発見された。

 だが、その中身は両方とももぬけの空であった。

 

 一体何が積まれていたのか、大した内部容積も無い小型の機体、大規模な兵器の類は入っていないだろう。

 ……と、それを地球に打ち込んだであろう相手、アダム・ベイリアルを知るごく一部のU-NASAの人間はほっと息をつく……事が、できなかった。

 

 ベネズエラのロケット。内部から無理矢理ぶち破ったと思われる穴の開いたその周囲にあったのは、一体なにをすればこうなるのかという盛大な破壊と、夥しい血の痕。

 

 リカバリーゾーンのロケット。その周囲は、生物が別の生物を無理矢理混ぜ込んだかのような奇怪な形状に変異し、変わり果てていた。

 

 その周囲の環境そのものが、異常を示していたのだ。

 

 後にロケットの内部を調査した結果、食糧や水が積まれていた事がわかった。即ち、人間がこの中に入っていた。

 ベネズエラのロケットの周囲で一体何が起こったかは定かでは無い。その中身の所在も不明である。

 

 しかし、リカバリーゾーンの方は、そうでは無かった。

 一つに、先んじて到着していたフランス軍の調査隊。

 

 先発部隊に次ぐ第二陣らしい彼らによれば、ロケットは調査したが、中には何も無かったとの報告だった。

 

 第二に、異常に変質した周囲の環境。

 こちらに関しての現地で情報を共有した際のフランス軍調査隊の見解は、「ロケット内に化学兵器が積まれていたのでは無いか」というものであった。

 

 

 一度は、それで収まった。だが、後に現地のサンプルを分析した結果恐ろしい事実が発覚した。

 それと、ロケット内の水と食糧が消費されていたという調査からわかった事実。この二つを合わせて、考えると。

 

 

『アダム・ベイリアルによって極めて危険な手術ベースを組み込まれた人間が、フランスに確保された可能性が極めて高い』

 

 その事実を、剛大とキャロルはクロード博士の声と同じ、重い調子で受け取った。

 キャロルはこの任務に就く前にシモンから聞いていた。"アメリカが滅ぶかもしれない""フランスの罪無き人々が大勢犠牲になるかもしれない"と。

 

 フランスの方面は、何とか被害が最小限になるように抑え込もうとして、ようやく終息の兆しが見えてきた。アメリカでは、皆が今この瞬間も奮闘している。

 なのに、ついでのように地球に何かを放り込んできて、それが世界を滅ぼす?

 

 まるで、皆の尽力を嘲笑うかのような規模の拡大とその悪意に、思わず憤りが浮かんでしまう。

 

『これは、無謀な頼みだと私は思う。正直なところ、戦力も情報も、何もかもが足りてない。でも、それ以上に時間が足りないんだ。どうか、お願いしたい』

 

 敵の所在は不明。

 どれほどの戦力なのかも、不明。

 これはクロード博士の言葉通りに無謀な頼みだ。

 

 

「……正直、実感が薄いんです。世界が急に滅びるなんて、物語の中でしか見た事が無くて。それを自分がどうこうできる、とも思えなくて」

 

 クロード博士の言葉に先に答えたのは、キャロルだった。

 世界の破滅などという事象は万全の体調であっても自分という個人ではどうもできない、それが人類一般の普遍的な考え方であろう。キャロルの言葉も、それに違わぬものである。

 

 

「でも、言っちゃったんです。最期まで、何が起こっても皆と一緒に進み続けて、皆を守るって」

 

 だが、彼女には理由があった。

 

「それを聞いて、上手くいきますように、って祈って託してくれた人が、いたんです。一緒に泣いて笑って、こんなまだまだなアタシを信じてくれてる仲間(みんな)が、いるんです」

 

 彼女の言葉を聞き、それが良き結末に辿り着けますようにと祈りを捧げた人間がいた。

 

 共に汗を流し、この世界の未来の為に頑張ろうと励まし合い、今この瞬間も別の場所で戦ったり、来る日の為に修練を続ける仲間がいる。

 

「だから、アタシはそんな皆に恥じないように生きたい、って思うんです」

 

 だから、自分は皆に笑って顔を合わせられるような、そんな人間でありたい。

 

 息継ぎも忘れた様子で、力強く。キャロルは、クロード博士に言い切る。

 

 

『……島原君は、どうだろうか』

 

 

「自分は、組織の一員として命令とあらば従うまでです。それに……」

 

 キャロルとは真逆に、剛大は静かな調子で。

 

「世界が滅びるという事は、自分の家族も失われる、という事です。それは自分に看過できるものでは到底無い」

 

 しかし、その内にある譲れぬ部分を、クロード博士に吐露する。

 

 

『……二人共、ありがとう。それでは、作戦を伝える』

 

 この無謀な戦いに身を投じる二人に、感謝の言葉と同時に、クロード博士は話を纏める。

 

 

『目標の居場所はU-NASA第六支局の協力も得て目下捜索中だ。発見次第、それを叩く。シンプルだが、先にも伝えた通り困難を極める任務だ。どうか、健闘を祈っている。情報が入るまで、体を休めて欲しい』

 

 通信は、そこで終わった。

 最後は短い通信だったが、クロード博士も情報の収集と分析に急いでいるのだろう。

 

 長々とした労いの言葉などより、今は任務に当たる彼らに一つでも多くの情報を与える。

 そんな、彼なりの現場への尽くし方、というものなのだろう。

 

 

 

 ……そして、彼らが何よりも欲しい情報は、数時間後にネットニュースの疑わしい記事と、その直後のクロード博士の通信による答え合わせで知る事となる。

 

 

 

『フランス陸軍輸送ヘリ、バルト海方面に向けて飛行中行方不明?』……と。

 

 

――――――――――――――――――

―――――フランス 大統領執務室

 

「クハハ! 静養中に無理に通せなどと、随分と品の無い国家元首もいたものだ。なあ――」

 

 エドガーの玉座とでも呼ぶべき、エリゼ宮殿、大統領執務室。

 普段は豪勢な調度品で整えられたその部屋は、まるで、嵐でも通り過ぎたかのように荒れ果てていた。

 

 黒革の装丁がなされた本はそこかしこに散らばり、絨毯は割れた瓶からこぼれ出たワインで汚れている。

 そんな異常な状態の中、エドガーは椅子に深くもたれ掛かり、机の上のモニターに向かい合っていた。

 

 通信の相手は、神経質そうな60代半ば程と思われる男性だ。

 分厚い丸眼鏡越しに伺える目には皺を寄せ、口を曲げているその表情からは、伺えるのは、強い怒りの意思。 

 

 

「――フィンランド共和国大統領、サムエル・ハカミエスよ」

 

 そんな彼、エドガーが名を呼んだフィンランド共和国の大統領であるサムエルの突然かつ強引な通信に、エドガーは嘲笑を以て応える。

 

『……品が無いのはどちらだ、エドガー・ド・デカルト!』

 

 当然、それはサムエルの怒りに強く触れる。

 何故ならば。

 

『我が国土に武装した兵士を送り込まれ抗議しない人間があるかッ!!』

 

 軍事的な侵略行動を、フランスから受けていたから。

 

 早朝、軍用の高速輸送ヘリが突如バルト海方面から飛来し、フィンランドの国防軍は大慌てで対処に当たるハメとなった。

 英語、ロシア語、イタリア語、ドイツ語、フランス語、諸々の言語のいずれにも答えなかったその機体は地対空ミサイルにより、回避こそしたものの姿勢を崩し墜落、幸運にもそれは人里離れた森林地帯に落下した。

 

 その後の迅速な画像判別から、侵入を測った機体はフランス製であり、輸出が行われていない機種である事が判明。

 即座に抗議と共に大統領間の直接対話をサムエルが望み、今に至る。

 

 

「ほう? 国土に武装した兵士を送り込むという行為は品が無いのか?」

 

『……貴様、耄碌しているのか?』

 

 しかし、そんな怒りもどこ吹く風、首を傾げながら何がおかしいのかわからない、と尋ねるエドガーに、サムエルは怒りより先に呆れの感情を見せる。

 宣戦布告も同義の行為を行っておいて、それを否定しないどころかいけない事なのか? と言わんばかりの対応など、コイツはどうかしているのでは無いかと。

 

 

「クハハハハ! 余を笑い死にさせる気か貴様は! では――」

 

 再度の笑い。

 何がおかしい、とサムエルが発する隙も無く、次いでその理由は語られる。

 

「――貴様は自分が致命的に品性に欠くと認めるのだな?」

 

『何の話だ』

 

 

「余のフランスにカルトの使いを土足で上がりこませ、兵士に沿岸部を羽虫のようにうろつかせていたのはどこの国だ?」

 

『それこそ、何の話か理解ができないな』

 

 この度のフランスを襲った事件。

 それを誰が命じたのか。

 その追求に、サムエルは冷めた瞳で返す。

 

「本当に理解ができていないのであれば、貴様は既に寄生虫に食い荒らされた後、というわけだな」

 

『貴様……余程国際社会の裁きに合いたいと見える』

 

 そこで初めて、道化でも見るかのようだったエドガーの表情が変わる。

 もはや貴様などに興味は無い、とでも言わんばかりの無表情。

 

『秩序と足並みを乱す貴様とフランスにはさぞや冷たい目が向けられるだろうよ』

 

 まるで、会話の始めのエドガーのように侮蔑と嘲笑込めた笑みを浮かべるサムエル。

 サムエルの認識は何も間違っていない。

 

 国を跨いだマフィアの台頭、日に日に力を増していく中国や衰えはしたがそれに近い力を持っているアメリカといった超大国という外部の軍事的、経済的脅威に、北欧も含むヨーロッパ諸国は一丸となって対抗してきた。

 今回のフランスの突然の軍事行動はその足並みを乱すものだと各国に非難を受けるだろう。

 

「成程」

 

『先ほどの無礼を撤回し我が国に向けて謝罪の声明を出すならば、まだ貴様の立場は保たれるかもしれないぞ?』

 

 短く返したエドガーに、ここだ押せと言わんばかりに前のめりにサムエルは提案する。

 自分とフィンランドに無礼を働いた事を認め謝罪しろ、と。そうすれば、不幸な事故だった、で留めてやらんでもない、と。

 

「ところで、貴様は知らないのか? その墜落地点に何があるのか」

 

『……? 人的被害が出ていない、何も無い場所からこそ、貴様を許してやれるのだが?』

 

 確認だ、というエドガーに、サムエルは言葉の意図が理解できない様子で、だが会話の主導権を握ろうと話す。

 

 

「成程。これは傑作だな。泥人形も人を見る目くらいは付いているのか」

 

『大統領! 墜落地点より、テラ……人型の空を飛ぶ生物が……それに』

『……何だと!?』

 

 そこで、会話に声が加わる。モニターの向こうには、秘書だろうか? 焦った様子の青年がサムエルに報告書を渡している。そこで通信中である事に気付いたのだろう。一般人には機密になっているその名前を伏せながら。

 

『これは……!』

 

 エドガーを脇目に置き、サムエルは資料を見て一瞬で顔を蒼白にする。

 ヘリの撃墜現場の写真だ。

 

 墜落し、地面に突き刺さったヘリ。それにより地面が抉られ露わになった地表。

 それは岩盤等では無く、何らかの研究施設と見られる天井だった。

 さらには、周囲の植物がごく一部ではあるが奇妙な姿に変わっていた。

 

「それを世間に公表してみるか? 『フランスに攻撃されてこっそり隠していた危険生物の研究所が破壊された』とでも言うのか? それとも施設の事を隠蔽して誰も外に漏らさないと信じられるだけの支持が貴様にあるのか?」

 

『う、な、何を……』

 

 この時点で既に、首脳の会談に勝ち負けを付けるのはナンセンスではあるものの、勝敗は見えていた。

 何とか取り繕おうとするサムエルに、しかしエドガーは手を緩めない。

 

 

「貴様、今回の一件を利用して自分の名誉を回復しようとしていたな? 重なる失政、それによる経済の後退。成程、そこで国土を侵そうとする無礼者として余を罰すれば、愚民どもからの映えは良くなり、その敵意もこちらに向くだろうな」

 

 サムエルの浅はかな考えを、野菜の皮を削ぐようにはっきりと言葉に出して明らかにしていく。

 

 

「そして何より、余に一杯食わせた、とすれば奴からの覚えも良くなるだろう、とな。そうだろう―――」

 

 そして、最後に。国民の支持よりも、サムエルが恐れていたもの。

 

 

 

「――――オリヴィエ・G・ニュートンよ」

 

『……な、なに、なにを』

 

 

 

『うん、そうだね』

 

 

 その名に、サムエルの背後が答えた。

 

 

『アルト! 貴様……ああ、いえ、貴方、様……は……』

 

『こんにちは、エドガー君。おはようの方がいいかな? 素敵なプレゼントをありがとう』

 

 先ほどの焦った様子とは違い、すらすらと言葉を並べていく、サムエルの秘書……だったはずの青年。

 いきなり秘書が会話に入って来た事を反射的に怒鳴ったサムエルは、その口調とエドガーとの会話の様子に状況を悟り蒼白を通り越して蝋のような顔色になる。

 

 

『サムエル君はちょっと頼りなかったから、研究施設とかあれこれの事は伏せていたのだけど……やっぱり、正解だったようだ』

 

「お飾りの人形にしてももう少し慎重に選ぶ事だな。貴様の底が知れるぞ?」

 

『ご忠告、痛み入るよ』

 

 おどけた様子で肩をすくめるオリヴィエに、エドガーは不快そうに鼻を鳴らす。

 

 

「こんな所で油を売っているよりも、貴様にはやる事があるだろう」

 

『いいや? 今回は少し経過を観察してみようかな、って思うんだ』

 

 エドガーの呆れた様子の言葉に、オリヴィエはのんびりと返答する。

 

 

「クハハ……手遅れになっても知らんぞ?」

 

『あはは……そうなったら、その時はその時さ』

 

――――まあ、流石に家に入られそうになったら対策くらいはするけどね?

 

 震えるサムエルは、もはや両者の表向きだけは和やかな会話に耳を傾けられてはいなかった。

 そして、もはや逃げ出す事など不可能である事もわかっている。

 

 

「つくづく不快な男だ……無駄な時間を使ってしまった。ではな」

 

『お互い様だろうね。では、ごきげんよう』

 

 

 

 そして、別れの挨拶だけはきちんと交わし、フランスとフィンランド――それぞれの表と裏、二人の主は通信を切った。




観覧ありがとうございました。

・おまけ

Q,何で大統領執務室荒れ果ててたの?
A,フィンランド行きを命じられたアストリスが寒いのは嫌だって嫌がってめちゃくちゃ抵抗しエドガーが抑えつけたからです(アダムからの命令で所属する事になった陣営のボスには能力使っちゃダメだよと言われていたためエドガーが勝った)

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