【完結】CombatZone   作:Allenfort

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今回は最終話とエピローグの二本立てとなっております。

あとがきはエピローグでまとめて書きます。


File21 海神の最期〜水面に歌う鎮魂歌〜

バルチャーは医療ステーションを突っ切ってCICへと向かっていく。艦内の各所では兵士たちが敵へ盛んに反撃している。脇目も振らず、ただまっすぐCICを目指す。それ以外はなかった。

 

すると、医療ステーションからなにかの物音。金属がぶつかる音、その後に打撃音。マリーが襲われているのか!? 祐介たちは慌てて医療ステーションに向かって走る。そして、たどり着くや否や扉を蹴破って医療ステーションに突入した。

 

「マリー! 無事か……!?」

 

祐介と、それに続いてきた3人は絶句した。そこには、点滴台を持って震えているマリー、ぶっ倒れてる敵兵その1、そして、アラン、キリル、ベッカーに集団リンチ(?)にされている敵兵その2がいて、それをジャッカル、ヴィンペル、ユニオンのメンツが呆然と見つめていた。

 

「……なにこのカオス?」

 

暢はあきれてM249を落っことしそうになった。

 

「ベッカー、何事?」

 

「このアホが我らがアイドル、マリーちゃんを襲おうとしてやがったから仕置中!」

 

と、執拗にローキックで脛を蹴りながら答えるベッカー。

 

「乱暴する気だったんでしょう! エロ同人みたいに!」

 

どこで覚えたのかそのネタを使うアホのキリル。背中を踏みつけている。

 

「マリーちゃんに手を出すものには万死万死! それでも足りない瀕死瀕死! あなたと私は同志同志!」

 

謎の呪文を発しながら往復ビンタをするアラン。

 

「お前ら……で、そこの敵兵その1は?」

 

弘行があきれながら訊く。

 

「マリーちゃんが点滴台でボコった。追い詰められると強いんだなー」

 

ベッカーが言う。その後ろではマリーがまだ震えていた。

 

「そんなことしてる場合か! モリソンがやられちまったんだぞ!?」

 

「おい待てそれどういうことだ!?」

 

「どういうこともこういうことも、キーを敵に渡さず飲み込んだんだよ! で、頭に血が上った敵が撃ったんだよ! で、タイドマンがギャリソンの持ってるキー狙ってCICへ行ったっていうから追っかけてきたんだ!」

 

あたりが凍りついた。あのモリソンがやられた、その事実を受け入れられなかった。受け入れたくなかった。

 

「そんな……モリソンさんが……?」

 

マリーは泣き出しそうになっている。無理もないだろう。

 

「……ベッカー、指示を。」

 

アランがHK416のグリップを握りしめ、絞り出すように言う。

 

「決まってるだろ。野郎ども! タイドマンのクズを見つけ出して地獄へ送れ! 弔合戦だ!」

 

oohrah! 海兵隊の威勢のいい声が響く。マリーも震えながら護身用の拳銃を持ち、声を張り上げた。

 

「マリーちゃんは無理するなよ?」

 

「はい! ベッカーさん!」

 

「捕虜は要らんぞ、同志。」

 

ウラッド、キリル、ヴィクトルにおいては目がいっちゃっている。こいつらに鉢合わせたが最後、地獄への直行便の切符を嫌でも渡されるのは目に見えている。

 

「行くぞ! あの爺さんの犠牲を無駄にすんな!」

 

祐介が先陣を切る。ガタイのいいアメリカ、ロシア、イギリス人に比べれば小柄であるがゆえに、小回りが利く。そのため、狭い艦内では祐介たちに利がある。

 

機動性を活かして角から角へ、ヒラリヒラリと動きながらのクリアリング。敵を見つければほぼ一瞬で仕留める。

 

角から現れ、気付くこともなく頭や心臓を撃ち抜かれ、床に伏せっていく敵兵。それを兵士たちは踏み越えていく。CICはもうすぐだ。

 

その時、艦が大きく揺れた。船底に鯨でも激突したんじゃないかというくらいの大きな揺れだった。そして、次の瞬間鳴り響く警報。

 

「なんだってんだ!?」

 

「わからねえ! ともかくCICに突っ込め!」

 

慌てるキリルにアランが言う。

 

祐介がドアの前に立ち、暢がCICのドアを開く。

 

「突入!」

 

祐介に続いてアランたちもCICへ押し入る。ちょうど、敵の真後ろを狙うような形になっていた。

 

迷うことなくトリガーを引いて敵を撃ち倒す。一瞬にしてあちこちが赤くペイントされていく。たった数秒の出来事だ。

 

「艦長! 無事ですか!?」

 

「ベッカー! 右だ!」

 

ベッカーが右を向くと、隠れていたであろう男……タイドマンが殴りかかった。不意をつかれたベッカーは横っ面に一発もらってよろける。

 

タイドマンはコンバットナイフを抜き、ベッカーを狙って振りかざす。そのナイフが振り下ろされるより早く、宮間が間に割り込んでそのコンバットナイフをカランビットで弾き飛ばした。

 

「ナイフの使い方がなってませんよ?」

 

カランビットをくるくると回しながらタイドマンの右手首を切りつける。健を狙ったのだろう。タイドマンはあっさりナイフを落とした。さらに追い討ちをかけるように大腿部を切り裂く。

 

膝をついたタイドマンに全員が銃口を向ける。赤いレーザーポインターが幾つも頭に赤い点を照射する。

 

「終わりだ。タイドマン。」

 

ベッカーがいう。

 

「クク……ククク……ハハハ……」

 

「なんだこいつ、頭イカれちまったか?」

 

ヴィクトルが言ったその時、また艦が揺れた。

 

「てめえ、何しやがった!」

 

バーンズがタイドマンの頭を銃口で小突く。

 

「お前らもよく知ってるだろう? PETN。」

 

「まさか……」

 

ギャリソンが青ざめる。

 

「艦に仕掛けさせてもらったよ。じきにこいつはスクラップになる。」

 

「何が目的だ!」

 

ジェームズが声を荒げ、詰問する。

 

「わかってるんだろう? 国連が俺たちに何をしたか。足りない兵力を俺たちPMCに頼って、今度はテロリスト役だ。ふざけてる。だからやられる前にこちらから仕掛けた。それだけだ。」

 

「それで? 目的は達成したのか?」

 

「あのTF148が未曾有の大打撃を負うのだ。COMPLAN0987が無くとも、奴、事務総長の失脚は免れんさ。」

 

タイドマンがスイッチを取り出す。背中のバックパックが異様に膨らんでいるのに、やっと気づいた。そして、直感的にまずいと感じ取った。

 

「さらばだ。」

 

タイドマンは不敵な笑みを浮かべる。しかし、そのスイッチを押すより早く、祐介の放った45ACP弾がタイドマンの頭を貫いていた。

 

「おわりだ。」

 

バックパックを開けると、案の定PETNが入っていた。間一髪。だが、艦が再び大きく揺れた。時限式のでも仕掛けていたのだろうか。CICはクルーの悲鳴じみた声に包まれる。

 

「船体下部に損傷! 浸水しています! 排水……間に合いません!」

 

「船体横に亀裂が入っているとの報告!」

 

「傾斜角10度! 傾斜が止まりません!」

 

「発電機損傷! 復旧は絶望的!」

 

「クソッタレ! ダメージコントロールセンターは何をやっている!?」

 

ギャリソンはマグカップに残っていたコーヒーを飲み干すと、溜め息を一つついた。

 

「……もういい。君たちはよくやった。総員離艦だ。こいつはもう沈む。艦を放棄して脱出するぞ。」

 

「艦長! しかし……」

 

クルーはまだ諦めていないようだ。

 

「命令だ! 脱出しろ!」

 

「……イエス、サー。」

 

クルーはヘッドセットを外すと、CICを飛び出していった。

 

「さあ行こう。こいつはじきに沈む。まったく、あのジジイ(モリソン)に棺桶としてくれてやるのも癪だがな。」

 

祐介たちはギャリソンについていく。その間にも艦は揺れ、ケーブルから火花が散っていた。

 

「あ、忘れもの! 先行っててくれ! すぐ追いつく!」

 

「あ、祐介! どこ行く気だ!?」

 

祐介は自室へ向かって走る。暢は止めようとしたが、遅かった。

 

「何やってるんだアイツは……仕方ない。先に行って待ってよう。オスプレイがまだ残ってるはずだ。」

 

ギャリソンは祐介を追いかけようとする暢、弘行、愛良の肩を叩き、進むよう促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐介は激しく揺れる狭い通路をよろけながら進んでいた。壁に叩きつけられ、よろけながらもなんとか自室まで辿り着く。

 

そして、ベッド横の壁に貼り付けてあった2枚の写真を剥がし、ショルダーバッグに突っ込んだ。1枚はバルチャーチームの面々で撮ったもの、もう一つは萩月神社で撮った写真だ。壁に貼り付け、しょっちゅう眺めていた思い出の品だ。

 

艦の傾斜角が増す。沈没までそう時間がないと悟った祐介は甲板を目指して走り続ける。

 

前へ、前へ、前へ。攣りそうな足を叩いて叱咤しながら、急角度の階段を這いつくばるようにして登っていく。

 

装備が重く感じる。それでも、まだ歩く。

 

やっと甲板へ登ると、丁度最後のオスプレイが離陸するところだった。オスプレイは後部ドアを祐介へ向ける。そこにはギャリソンやいつもの面々が乗っていた。

 

「祐介! こっちだ!」

 

「早くしやがれ!」

 

「早く乗らないと離陸しちゃいますよ!」

 

祐介は最後の力を振り絞って走る。あと少し。そんな時に艦の傾斜が増し、オスプレイは少しだけ離れる。祐介とオスプレイの間には3mほどの間ができた。

 

「飛べ!」

 

暢が手を伸ばし、祐介はそれをめがけて飛んだ。間一髪、暢の手を掴むが、装備が重く、暢ごと海へ落っこちそうになる。

 

「何やってんだマヌケ!」

 

「最後の最後までこれですか!」

 

咄嗟に弘行と愛良が祐介の手首を掴んで無理矢理機内へ引きずり込む。

 

「いってー! 今ので肩外れたかも!」

 

暢が左肩を押さえて悶絶している。

 

「貸してみろ。」

 

「ぎゃーす!」

 

バーンズが暢の肩を無理矢理動かし、関節を治した。見てるだけでも痛そうだ。

 

オスプレイはポセイドンを離れていく。機内からは、船体が2つに折れて沈んでいく様子がよく見えた。

 

兵士たちはポセイドンが見えなくなるまで、ずっと敬礼していた。

 


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