【完結】CombatZone   作:Allenfort

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File20 COMPLAN0987

C-17はUSSポセイドンの真上を通過する。例の輸送船から白い噴煙が護衛の駆逐艦へ向けて伸びている。どうやら敵艦は本当に対艦ミサイルを積んでいたようだ。CIWSのマズルフラッシュが眩しい。

 

「祐介、プラットホームを下せ。」

 

ベッカーが言う。祐介は機体の壁にあるスイッチを押し、プラットホームを下ろす。そして、端から身を乗り出して降下地点への進入ルートが正しいか確認する。

 

「30秒!」

 

問題なしと判断し、降下開始までの時間を伝える。4人も30秒! と声を張り上げる。

 

ジャスト30秒で5人は輸送機から飛び降りてパラシュートを展開。甲板へと降下していく。その時、輸送船からヘリコプターが飛び出し、ポセイドンへと向かうのが見えた。ポセイドンは5人が降下するため、CIWSを停止している。これを狙っていたのだ。

 

「まずい! 暢! 撃ち落せないか!?」

 

「無茶言うな!」

 

暢は祐介にそう言いながらもダメ元でM32を構えてちょうど甲板に兵員を降ろそうとするヘリコプターを狙ってみる。だが、空挺降下中にまともに狙いをつけられるわけもなく(普段からろくに狙っていないが)手前に榴弾が落ちる。しかし、ちょうど甲板に降り立った敵兵がその榴弾で吹っ飛ばされたので結果オーライだろう。

 

調子に乗った暢が残りの弾も撃つが、さっきみたいに結果オーライとはならず、無駄に甲板を損傷させただけだった。

 

艦内から友軍が飛び出して応戦する。祐介たちは巻き込まれないように甲板の後端に降りる事にした。パラシュートを上手く操作して後部に着地。すぐに背負っていたパラシュートを捨てると、戦闘態勢に入った。

 

「攻撃開始!」

 

祐介が先陣を切って進む。降下してくるのを見ていた敵がすぐにやって来た。落ち着いて狙い撃つ。タン、タンとリズムよく撃ち、次々と命中させていく。

 

「横通るぜ!」

 

暢は前に躍り出ると、弾幕を張って敵を牽制する。その時、弘行が叫んだ。

 

「RPG! 下がれ!」

 

敵がRPGを放つ。その弾頭は近くにあったオスプレイに命中し、オスプレイは燃料タンクに引火したのか、爆発した。破片が辺りに飛び、祐介たちは爆風で転倒する。

 

「痛いなぁ……」

 

宮間は自分の上に覆いかぶさるように落っこちてきたオスプレイの外装部を押しのけると、すぐに立ち上がって反撃に出る。ベッカーもその隣で立ち上がると、頭に血が上ったのかRPG持ちの敵を執拗に狙った。

 

祐介は吹っ飛んできた暢に吹っ飛ばされて甲板に頭を打った。おかげで少しフラフラしていた。

 

「おい祐介、しっかりしろって!」

 

弘行が祐介を引きずって敵の射線上から移動させる。祐介はヘルメットを被っていないことを心底後悔した。

 

「うが……弘行……」

 

「大丈夫か?」

 

「なんとかな……まだ頭がクラクラするけど……」

 

祐介は自分の頬を2回叩いて喝を入れると、すぐに立ち上がった。まだ戦えると自分に言い聞かせた。

 

「フォートレスから各部隊へ! ブリッジに乗り込まれそうだ! 援護を頼む!」

 

インカムからモリソンの声が聞こえてくる。これは相当やばいようだ。無線を聞く限り、ギャリソン艦長がたまたまCICに行っている最中のようで、ブリッジにいるのはモリソンとクルーだ。戦闘要員は数名程度。果たして勝てるのか。

 

「お前ら……ブリッジに向かうぞ!」

 

「おう!」

 

「ヒャッハー! いくぜ野郎ども!」

 

「粛清の時間です!」

 

「俺はCICに行くから、ブリッジは頼んだぞバルチャー!」

 

ベッカーは通路へ向かう。祐介たちはブリッジに通じる梯子を目指して前進する。散乱する資材やら機体の残骸を盾にして敵と交戦する。CIWSを再び動かしているので、しばらく増援は来ないだろう。

 

「スナイパー! 隠れてろ!」

 

弘行が叫ぶ。ブリッジの所に敵のスナイパーがいた。弘行は物陰から身を乗り出してそのスナイパーを狙い、敵のスナイパーは弘行を狙う。その一瞬の勝負を制したのは弘行だった。敵の弾は弘行の足元近くに命中。弘行の弾は敵のスコープを貫いて片目に命中した。

 

「進め!」

 

敵をやっと甲板から一掃し、ブリッジに通じる梯子を登る。祐介は念のために片手にMk.23を持ちながら登ったが、敵はいなかった。

 

「一掃したのか?」

 

「中じゃないですかね?」

 

「かもな……戦闘用意。ブリッジに突入するぞ。」

 

祐介の指示に従って暢、弘行、愛良は水密扉の前に陣取り、突入の用意を整える。

 

「モーションスキャン……敵の位置を確認。指示を待つ。」

 

弘行はMP7を構える。最近、ハンドガンでは心許ないと言って持ち始めたのだ。

 

「暢、やれ。」

 

暢はドアを蹴り開けると、中にフラッシュバンを投げ込んでから隠れる。

 

爆発音。それから少し遅れて突入する。フラッシュバンを食らって倒れていた敵兵へとセミオートで精密射撃。これには慣れた。何度もやったのだから。

 

4人の敵をそれぞれが斃し、ブリッジはクリア。船員たちも無事……否。モリソンがいない?

 

その時、隠し扉が勢いよく開いてモリソンが出てきた。余計なオマケ付きで。

 

モリソンは後ろから敵に組みつかれて、頭に拳銃を突きつけてられていた。

 

「動くな!」

 

そのバカを撃ちたいが、下手に撃てばモリソンに当たるだろう。後ろの奴は敵の指揮官と言われているタイドマンだろうか? 違う。資料と顔が違う。ならば、ただの一般兵で、足止め役なのか?

 

「将軍を離せ! 殺すぞカス!」

 

暢は撃つ気満々のように見せかせる。前の暢だったら問答無用で後先考えずに撃っただろう。こいつも成長したのだな。祐介は横目に暢を見ながらそんなことを思っていた。

 

「目的はなんだ?」

 

モリソンは組みつかれながらも言う。

 

「持ってるんだろ? ミサイルのキー。」

 

「目的はCOMPLAN0987か……」

 

「そうだ。なあ爺さん、もう一度くらい孫の顔を拝んでおきたいだろう?」

 

「ははは……なあ函南少尉。教えてくれ。捕らえられた殿様はどう行動する?」

 

「知りませんよ。捕まる前に切腹しちゃいますから。」

 

モリソンはこっそり、静かに笑みを浮かべた。そして、ズボンのポケットから銀色の小さなキーを取り出して、顔の横に掲げた。

 

「目的はこれだな?」

 

「どうも、爺さん。」

 

敵はそのキーを取ろうとした。が、それより早くモリソンがそのキーを口の中に放り込んで、飲み込んでしまった。それを見ていたバルチャー、クルー、そして敵も唖然とした。

 

「……ゲホッ、ゴホッ……残念だが、私に家族はいないから、そんなありきたりの脅しは効かんぞ。残念だったな。」

 

「貴様!」

 

敵はモリソンを突き飛ばすと、その背中に向けて2発発砲した。

 

「将軍!」

 

だが、この時モリソンに当たっていたレーザーポインターが、その敵へと集中した。頭に血が上って忘れていたようだ。モリソンが盾になっていたから自分は撃たれなかった。その盾を、自分で捨ててしまったことに。

 

赤いレーザーの点の当たったところは次々に穴が開き、血肉の赤い点に変わっていく。容赦のない集中砲火。45口径が、9mmが、38口径が肉に穴を穿ち、血管を断ち、体の組織を破壊していく。

 

心臓と脳には命中せず、動脈からの出血でじわじわと死んでいく……苦しみながら、その敵兵は息絶えることになった。

 

「将軍!」

 

祐介たちは倒れているモリソンに駆け寄る。」

 

「ははは……やってやったぞ……」

 

「今手当しま……」

 

モリソンは手当しようとした祐介の手を握って止める。

 

「いいか……タイドマンはCICに向かっている……ギャリソンがもう一つのキーを持っているんだ……何としても止めろ……命令だ! ミサイルを撃たせるな!」

 

祐介は後ろの仲間たちに目をやる。3人は祐介と目が合うと、覚悟を決めたような表情で縦にうなづく。祐介はもう一度モリソンの方を向くと、迷いながらも命令に従うことにした。

 

「……お世話になりました。将軍。」

 

「ああ……お前が、本当に私の孫だったらと、よく思っていたよ……」

 

モリソンは安堵したような笑みを浮かべると、ゆっくり瞼を閉じた。祐介はモリソンの手をそっと胸の上で組ませると、3人とともに敬礼して、ブリッジを飛び出していった。

 

祐介たちのいなくなったブリッジには、クルーの嘆き、悲しむ声が響いていた。

 

それでも、祐介の耳にはもう嘆く声も聞こえなかった。それは暢やŠŠ弘行、愛良も同じだった。

 

自分の涙をこらえるのに必死だったから……

 




一般曹候補生採用試験まで100日切りました。それまでに終わるかな……

次回、second assalt完結予定。

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