「あー、祐介。開発データはこの先の情報管理室に行かないと手に入らない。どうもスタンドアロンのPCにデータ入れてるらしいんだ。」
「わかった。おいお前ら! 移動するぞ!」
「こいつでラースト!」
暢が最後の一体にストライクフェイスで殴りつけ、トドメとばかりに弾幕を浴びせて動力源を破壊する。ロボは火花を散らし、機能停止した。
「にしても、よくこんなにガラクタを作ったよな……」
祐介はロボの頭を蹴飛ばしながら言う。まだプロトタイプなのだろうか、弱すぎる。
「さっさと情報を回収しよう。こいつらに囲まれると弱くても厄介だ。」
弘行はロボを一体ずつ蹴飛ばして機能停止を確認する。既にガラクタと成り果てた鉄の塊は蹴りを食らっても動かない。
その時、警報が鳴り響き、ロボの足音が聞こえてきた。
「急ごう。」
祐介が先頭に立ち、ドアから入ってきたロボへ乱射を浴びせ、接近してストライクフェイスによる打撃を繰り出し、道を作る。壁に当たった弾丸が火花を散らし、祐介は思わず顔をすくめる。時折背中に衝撃。ショルダーバックに当たったのだろうか。中のミリメシが恐ろしいことになっていそうだが、それを思い出さないようにしつつ撃ち続ける。いや、逆に思い出し、我が飯の恨み、晴らさずに置くべきかと呟きながら撃ちまくった。戦闘糧食Ⅱ型は最近入手出来ないんだぞこの野郎と。
「そこを右!」
弘行の声に従って角を右に曲がると、蹴破ってくださいと言わんばかりに二枚扉があった。祐介はもちろんそれを蹴破って突入すると、前方のロボにヘッドショットをお見舞いし、破壊する。
「らーらーらーらー!」
「Ураааааааа!」
「……弘行、廊下から雄叫びが聞こえてる間に荷物を回収しろ。」
「ウィース。」
弘行はノートパソコンを見つけ出すと、USBメモリーを差し込み、データの転送にかかる。祐介はその間弘行を護衛するのだが……本音は暢と愛良に混ざって暴れたかった。
「フォートレスからバルチャー、進捗状況は?」
「こちら3-1、データの転送中。」
「早く終わらせて戻ってこい! 厄介なことになった!」
「厄介? 何事です!?」
「後回し! 」
「っち、急げ弘行。なんかヤバそうだ。」
「待ってくれ。このPC読み込み遅いんだよ!」
その時、ダクトから何かが祐介と弘行の間に割り込んできた。その手に刃が握られているのを見た祐介ら反射的に蹴りを入れ、何かをよろけさせる。刃は弘行の首をギリギリ掠める。
「っぶね!」
「こっちは任せろ!」
祐介が対峙した相手はロボットのようだった。だが、金属骨格のあちこちに肌……いや、肌からあちこち金属骨格が露出していると表現するべきだろう。かつて対峙した感染者、デウスエクスマキナ。それに似ていた。
「……金属骨格を隠してるな……さしずめ、暗殺用といったところか?」
弘行が作業の片手間に言う。そんなのは関係ない。破壊するのだから。
ロボットは手に握られたコンバットナイフで切り掛かる。祐介は咄嗟に抜いたククリナイフでそれを跳ね返すと、すれ違いざまにロボットの脇腹あたりを切りつける。そこから血液と思わしき液体が飛び散った。恐らく、医療用の多機能細胞をから作った組織を金属骨格にくっつけているようだ。
ただ、頭はまだまだ改良の余地があるだろう。ただ突っ込むしか知らないようなのが相手ならばそれほど手強くはないだろう。破壊し難いだけで。
祐介は姿勢を低くして目の前の敵へ突っ走り、脇腹を切り裂き、距離をとる。
敵はナイフで突きを繰り出し、祐介はそれを下から切り上げで跳ね返し、敵の襟首を掴んで押し倒し、ククリで2回、喉のあたりを突き刺す。ロボはそれでもまだ機能停止しなかった。
「よし、転送終わり! 祐介! そいつの弱点は鳩尾にあるバッテリーだ!」
祐介はホルスターからMk.23を取り出すと、ありったけの弾丸をバッテリーに撃ち込んだ。ロボはショートし、青い電気を撒き散らしながら痙攣。そして、動かなくなった。
「引き上げよう。なんかモリソンがヤバイらしい。」
「了解。暢! そっちは!?」
「大乱闘♪」
暢と愛良はまだロボットをボコっていた。弾がなくなったのか、ストックで殴りつけている。床に倒れたロボはそのせいであちこちひしゃげていた。宮間のSAIGAのストックにひび割れがあるのを指摘したら粛清されそうなので黙っていた。
「いいから引き上げるぞ!」
祐介が言うと、2人は渋々後退した。弾のない2人に代わって、祐介と弘行が後衛に立つ。この2人は乱射せずに胸が頭を狙い撃つため、少ない弾数で敵の数を減らす。
「フォートレス! ブツを確保! 撤退する!」
「迎えが出口にいるから走れ!」
「了解。お前ら! 出口にいけってさ!」
暢と愛良が全力疾走で出口へ向かう。祐介と弘行は最前列のロボの足を破壊して転倒させる。すると、後続がそれに躓いて次々と倒れていく愉快なことが起こった。確信犯2人はニヤニヤと笑いながらあとの2人が待つ出口へ走った。
出口近くにはバンが停まっていた。ドライバーはベッカーのようだ。既に暢と愛良は乗り込んでいる。祐介と弘行は後部ドアから車内に飛び込んだ。
「いいぞ!」
ベッカーは祐介の声を聞くとアクセルを踏み込み、バンを発進させる。祐介はしばらく後方を警戒するが、追っ手がないので安心して銃を下ろした。
「ベッカー、モリソンが慌ててたけど何かあったのか?」
「ああ。グローバルリスクの奴ら、輸送船を使って艦隊へ攻撃する気らしい。コンテナに対艦ミサイルだの対空砲を隠し持ってる。」
「情報の出所は?」
「数日前、米海軍SEALsがドバイの港で探し物をした時についでで見つけた。ただ、幾つかは既に積み込まれた形跡があったらしい。」
「脅威は?」
「護衛の駆逐艦でなんとか始末出来るだろうが、民間の船に化けてる以上、臨検して本当に敵と判別しないとな……本当に民間の船だったのに沈めたりしたら大問題だ。」
「で、俺たちが臨検するのか?」
「いや、ポセイドンで待機だ。切り札は手元に置いておきたいだろ?」
「俺らが切り札?」
「突拍子もないことをするから、裏をかくにはもってこい、だろ?」
「まあ、急ごう。」
ベッカーはバンを飛ばして最寄りの米空軍基地に向かう。
空軍基地到着から2時間。準備を済ませたバルチャーとベッカーはC-17に乗り込んでいた。
「よし。状況を説明する。連中の狙いはCOMPLAN0987の発動だ。これは前のパンデミックの時に立案された仮想作戦で、感染した都市を丸ごとミサイルで吹っ飛ばす、というものだ。当時士官だった奴にしか知らされていないがな。」
「初耳だな……まあ、下士官だったし当然か……で?」
「ハワイの基地でミサイル発射の指令を出すことになっていて、そのための鍵をモリソンが持っているんだ。作戦自体は万一に備えて残してあるらしいからな……奴らの狙いはそれだな。」
「で、目標はモリソンの持つ鍵を守ること、または鍵を奴らの手に入らないようにする、だな?」
「そうだ。だが腑に落ちない。なんで輸送船で仕掛けてきたのか……護衛の艦にやられるとは思わないのか……?」
そんな疑問を遮るように、ジェットエンジンの爆音が貨物室に響く。体に加速感が加わった数十秒後、ふわりと浮かぶような感覚がした。C-17は艦隊へ機首を向けて飛び立った。
迫り来る一般曹候補と防大の前期試験。小説書く時間がガリガリ削れております。