【完結】CombatZone   作:Allenfort

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File18 Iron and Cell

特に動きもなく、地道な諜報活動を続けているうちに秋になった。祐介は萩月神社の秋祭りに参加。神社の縁側で呑気にラムネを飲んでいた。もちろん、暢じゃないから酔わないが。

 

「祐介さん! 屋台には行かないんですか?」

 

「射的やろうとしたら断られた。」

 

「当然ですよ。本職なんですから。」

 

それもそうか、と祐介は笑った。つかの間の平和。また戦争に戻らなければならない。なら、少しだけ楽しもう。そして、また居場所の戦場へ戻ろう。

 

ふと、腰に目をやる。そこにはククリナイフが吊り下げられている。先の戦闘で、ケルン大聖堂の神父から送られたものだ。銀でコーティングされ、祝福儀礼を施したククリナイフ。何に使うんだと思いながらも、いつも持ち歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今度の任務は?」

 

祐介以下4人のバルチャーチームはポセイドン艦内の小会議室に集められていた。モリソン将軍はテーブルに書類を並べる。

 

「特殊任務だ。目標、ラインハルト重工研究棟。ここではロボットの開発を行っている。」

 

「それがなんで攻撃目標に?」

 

「問題なのはグローバルリスクに人型戦闘用ロボットを提供しようとしていることなのだよ。恐らく、実戦データが欲しいのだろうが、そんなことをさせるわけにはいかない。先に潜入し、開発データを回収、プロトタイプの破壊を行え。この作戦を知るのはここにいる5人だけ。いいな?」

 

「はい。わかりました。」

 

祐介は資料に目を通す。手に入れた情報の中にあった"バイナリードメイン"直訳すると"二進数の領域"恐らく意訳して"機械にしか理解できない領域"ということなのか。

 

戦闘用ロボット。人型でAIを搭載。厄介なのは、痛みを感じないし、感染者と違って頭がいい。そしてパワーもある。厄介な相手になりそうだ。

 

早速4人はワークショップで新たな装備を受領することにした。小口径高速弾でも金属の塊をぶち壊すには十分だが、研究施設内での取り回しが微妙な銃を使っているのが約2名いるからだ。

 

「グレゴワール!」

 

「ん? ああ少尉か。武器ならここだ。」

 

グレゴワールが4人の銃を取り出し、カウンターに置いた。

 

「お? 俺のG36Cがゴテゴテにカスタムされてるな……」

 

G36Cは内部パーツの換装の他に、マウントレイルにレーザーサイト、ホログラフィックサイト、マグ二ファイア。サイドレイルにフラッシュライト、アンダーマウントレイルにM320グレネードランチャー。極め付けに銃口付近は近接戦闘用にストライクフェイスが装備されていた。

 

「おや、グレネードランチャーは俺のか?」

 

「そうだ。長谷川軍曹はこれでいいだろ。」

 

グレゴワールはドラムマガジンを装着したMP5A4を取り出した。ホロスコープ、フラッシュライト、フォアグリップと、シンプルなカスタムだった。ストライクフェイス以外は。

 

「9mmの弾幕を張れと?」

 

「その為にドラムマガジンにしたんだろうが。次は曹長。」

 

Š弘行の装備はSCAR-H。ACOGスコープにドクターサイトを上乗せし、遠近両用としている。他にも、フラッシュライト、レーザーサイト、アングルドフォアグリップが装備されていた。ストライクフェイスはない。

 

「宮間軍曹はこれか?」

 

最後に出てきたのはSAIGA-12Kだった。それとAEK-972。両方使えということなのだろう。

 

「フヒヒ……ミハイル・カラシニコフの加護のあらん事を……」

 

その不気味な笑みに、野郎4人は縮み上がったという。

 

戦闘服は全員黒。また忍者かよと弘行はボヤいていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4人は夜中、ラインハルト重工隣のビル屋上にいた。

 

「目標の建造物を確認。弘行。ジップラインを。」

 

祐介は双眼鏡でラインハルト重工の建造物を確認。屋上に弘行がジップラインを撃ち込む。

 

「行くぞ。」

 

フックをかけ、順番ジップラインでラインハルト重工の屋上に移動していく。ここまでは上手くいっている。

 

「愛良はジャマーを起動。暢は侵入路を探せ。」

 

愛良はポケットから電波ジャマーを出し、起動する。これで気付かれても警察に連絡がいかないようにできる。さすがに警察を相手にするのはマズイのだ。

 

「こっちだ。ダクトから入れるぞ。」

 

暢がワイヤーカッターでダクトの金網を切り、侵入路を作る。

 

「オーケー。愛良先頭で行こう。ショットガン持ちだし。」

 

「感染者になった気分を味わえますね。」

 

そんなことを言いながら愛良はダクトに入る。それに暢、祐介、弘行が続き、狭いダクトを匍匐前進で進む。

 

換気口から廊下を覗くと、そこには誰もいない。

 

「監視カメラも動いてないようですね……」

 

「このクソ狭いところから出よう。」

 

「了解です。」

 

愛良が換気口の蓋を開け、そこから廊下に降りる。後の3人もそれに続いた。

 

「えーと、実験室はあそこか。」

 

弘行が壁にあった案内を見て実験室の位置を伝える。

 

「俺たちゃ産業スパイか?」

 

「うっちゃし。ドイツで忍者扱いされた後で産業スパイとかどんだけ格下げされてるんだ。」

 

祐介は暢にツッコミながらも前進する。そして、何の妨害も受けることなく実験室に到着してしまった。中は意外と広い。

 

「なんだか薄気味悪いな……」

 

「いいから弘行、そこのコンソールのデータを。」

 

「了解。」

 

弘行がコンソールのハックを始め、祐介たちは辺りを警戒する。機材だらけで隠れる場所は多い。それは自分たちがカバーに使うのにいい反面、敵が待ち伏せに使うにも都合が良かった。

 

3人は念入りに辺りを見回すが、何もいなかった。その時、警報が鳴った。

 

「なんだ!?」

 

「悪い! 地雷踏んだなこれは……ダミーだ。ハックした瞬間に警報鳴るようになってた! 俺としたことが……」

 

その時、実験室のドアが開いた。そこにいたのは黄色い装甲に覆われた人型ロボットだった。

 

「ケイコクシマス。ブキヲステナサイ。」

 

ロボットの手にはアサルトライフルが握られている。間違いない。これが例の戦闘ロボットだ。

 

「なんだありゃ? ロボ?」

 

暢はチラチラロボ軍団を見ながら言う。

 

「C3POじゃあるめえし。」

 

「俺はH2D2の方が好きだな。」

 

「そのネタはいいですから……」

 

くだらないことを話し始めた祐介と弘行に愛良がストップをかける。

 

「フォートレス、バルチャー3-1だ。鉄クズ野郎に見つかった。オーバー。」

 

「やるべきことはいつも通りだ。わかってるな?」

 

「了解。バルチャー3-1アウト。」

 

祐介は無線を切る。

 

「何だって?」

 

「いつも通りだやれ暢! 索敵殲滅(サーチアンドデストロイ)!」

 

待ってましたとばかりに暢はバックパックからラムネの瓶を取り出すと、一気飲みした。

 

「レッツパーリィィィィィィィ!」

 

「伏せろぉぉぉぉぉ!」

 

3人が伏せると、ラムネによって気が狂った暢が立ち上がり、ロボットに向けて9mmの弾幕を張った。弾幕狂想曲の始まりだ。

 

競技用ライフル並みの精度を誇るMP5も、暢に持たせては豚に真珠。狙わないのだから精度があっても無駄。まさに宝の持ち腐れ。

 

「なあ祐介! 暢にゃMP40(シュマイザー)の方があってるんじゃないか!?」

 

「私はPPSh-41(バラライカ)かと!」

 

「どっちも持たせるな!」

 

「アーッヒャッヒャッヒャッヒャッ!」

 

暢を敵と判断したロボットは容赦のない弾幕を張ってくる。なかなかの精度だ。もちろん、暢の弾幕で損傷した奴もいる。

 

「ラーラーラーラー! 弾幕薄いぞゴルァ!」

 

「野郎ども制圧射撃!」

 

祐介たちも銃だけ遮蔽物から出し、ブラインドファイアで応戦する。あるロボットは足が吹っ飛んだが、這いずって接近してくる。ホラーに思えた。

 

「突撃!」

 

暢は1人弾幕を張りながら突撃。這いずってきた敵へストライクフェイスのスパイクで一撃食らわせ、破壊。次々と弾幕で損傷させていく。

 

「やるじゃねえかあのトリガーハッピー!」

 

「私もやりたい!」

 

愛良は堪らずSAIGA-12を構えると、突撃し、次々と散弾でロボットをタコ殴りにしていく。近寄ってきた奴はストックで容赦なくぶん殴っていく。

 

「あーあー、あの2人の突撃思考はどうにもならないな……弘行、この間にデータを探せ。」

 

「了解。」

 

祐介はコンソールにハッキングを仕掛ける弘行を援護する。本当は突撃したくてウズウズしているのだが。

 

「うらっ! おらっ!」

 

「キェェェェェ!」

 

暢と愛良は奇声を上げながら暴れている。頭がトチ狂ったのではないかと祐介は心底心配していた。

 

「バルチャー3-1! さっきから聞こえる騒音はなんだ!?」

 

モリソンからお怒りの声。祐介は頭を抱えつつ返答した。

 

「3-2と3-4の奇声です。3-2はラムネ飲んでますよー。」

 

「で、奇声を上げながら何してる?」

 

「ロボに突撃してます。あの戦闘ロボのプロトタイプ、思ったより鈍いですよ。射撃は正確だけど接近しての殴り合いになればなんとかなりそうです。」

 

「わかった。なんとか情報仕入れて脱出しろ。フォートレスアウト。」

 

思った以上に厄介なことになりそうだ、祐介はそう思っていた。


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