【完結】CombatZone   作:Allenfort

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苦労したこと、ドイツ、ケルン市の地図探し。


File17 ボーン・イーター

ドイツ ケルン市 ゴルトガッセ

 

激しい銃撃戦の後、ケルン中央駅付近を制圧。補給を済ませたメメントモリ小隊とグライリッヒ率いるGSG-9の小隊はゴルトガッセからヨハニス通りへ向かう。ヨハニス通りからトランクガッセに抜け、ケルン大聖堂を目指す予定だ。

 

長谷川はこんなこともあろうかとコンテナに入れていた愛用のM249に持ち替えている。

 

ボーンイーター3人の持つ銃は年季が入っている。あの事件以来、消耗品を交換しつつ使い続けているのだ。

 

そんなことはさておき、散発的な抵抗に遭いつつも、GSG-9とTF148の精鋭に勝てるはずもなく、路地からの奇襲も待ち伏せも虚しく撃破されていく。

 

「やれやれ。掃除が大変だな。」

 

「それは言えてる。」

 

グライリッヒとベッカーは軽口を叩きながら敵を倒す。2人とも腕利きであり、これくらい余裕なようだ。

 

「ジャッカル、脇道から回り込んでトランクガッセで合流。ボーンイーターは露払い頼む。」

 

アラン達4人は脇道に突入し、路地を縫ってトランクガッセに向かい、ボーンイーターは前衛に立ってヨハニス通りを進み、トランクガッセを目指す。

 

GSG-9もTF148も緊張しており、何も話さない。

 

道のど真ん中を堂々と歩くのは、スナイパーに『俺を撃ってくれー!』なんて宣言しているようなものである。(長谷川であれば『僕は死にましぇーん!』とか言って堂々歩くんだろうが)それをよく知る函南達は物陰から物陰へと、特殊部隊らしく、悪く言えば台所やらに現れる黒い這い寄る混沌が如く移動する。

 

すると、鷹見が止まれの合図を出したので、全員物陰に隠れて止まる。何事かと思っていたら、スナイパーがいるという合図を出した。

 

鷹見は手鏡を使い、スナイパーの位置を確認する。建物の中にキラリと何かが光る。スコープの反射光だろう。次の瞬間、鏡が狙撃され、粉々に砕け散った。

 

「撃ち上げか・・・まあいける。」

 

スコープの倍率を9倍に合わせ、距離と横風を考慮してターゲットから少し照準をズラして撃つ。次の瞬間にはスコープに血飛沫が映る。

 

「スナイパーダウン!」

 

「前進!」

 

ボーンイーターは前衛に立つ。他にスナイパーはいないようだった。それでも油断はできない。市街地は隠れ場所が多すぎるのだ。どこに敵がいるかわからない。

 

銃を握る手には汗が滲む。グローブを外して拭きたいが、そんなことをしている余裕はない。陰から陰へ移動しながらジワジワとケルン大聖堂まで距離を詰めていく。

 

「路地にタンゴ。15だ。」

 

グライリッヒが言う。すぐにその辺に隠れて様子を伺う。こちらには気づいていない。

 

「ジャッカル、どこにいる?」

 

「ポイント12A」

 

ベッカーの問いにすぐ返答が来た。ちょうど、敵集団の横っ腹だ。なら、話は早い。2方向から殴ればいいのだ。

 

「合図したら横っ腹を殴りつけてやれ。」

 

「あいよ。」

 

アランからの返事。ベッカーは戦闘用意の合図を出す。長谷川においては残り少ないベルトリンクを新しいベルトリンクに交換している。蜂の巣にする気だ。

 

「弘行、リーダー格の奴を殺れ。それを合図にする。」

 

「小隊長の無茶振り嫌いデース。」

 

そう言いつつも指示を飛ばしているリーダー格の敵を見つけ出して照準を合わせる。

 

「制圧射撃任せるぜ。」

 

鷹見はそう言うと、迷うことなくトリガーを引いて敵兵を一撃で仕留めた。それを皮切りに2方向からの激しい弾幕が敵集団を襲う。十字砲火を食らった敵に成すすべはない。最早一方的な虐殺とも見れる。

 

決着は一瞬だった。撃たれても怯まない感染者に比べれば楽な相手だ。

 

通りを制圧し、更に進む。順調だ。

 

「トランクガッセ到達。間も無くケルン大聖堂だ。」

 

グライリッヒが言う。遠くからでもよく見える大聖堂がそこにはあった。初めて見る荘厳な大聖堂に、小隊は目を奪われていた。

 

「すげえ・・・本で見たよりデカイな・・・」

 

アランはそんなことを呟きながら大聖堂を見上げる。ボーンイーター4人は長谷川ですら何も言えなくなる始末だ。

 

ケルン大聖堂には既にドイツ警察とGSG-9の別働隊が集合し、どうするか善後策を練っているようだった。

 

「なあグライリッヒ、人質の居場所は?」

 

「礼拝堂だ。今見取り図を出す。」

 

礼拝堂は横長になっていて、正面にステンドグラス。高さはざっとビル5階程度。奥の方に座席だ。人質は座席より前にいるらしい。

 

「突入は?」

 

「おいおいベッカー、冗談だろ? 突入できる手練れなんてどこに・・・」

 

グライリッヒの視線がベッカーから函南達へ向いた。

 

「・・・俺ら?」

 

「行けるだろ? 英雄さん?」

 

函南は他の3人と目を見合わせる。まあ、やれなくはないな。アイコンタクトでやりとりしてそういう結論に落ち着いた。

 

「おいおい、俺らは?」

 

キリルが俺の出番はどこいったとばかりに言う。

 

「ダメダメダメ。スペツナズは人質ごとテロリスト撃っちまうだろうが。」

 

「言えてるな。」

 

バーンズは笑いながら言う。

 

「まあ、忍者になら出来るだろう。」

 

「おい待てジェームズ。いつから俺らは忍者になった?」

 

「その黒ずくめになった瞬間からだ。」

 

確かに忍者にも見えるだろう。黒ずくめで、黒のバラグラバまでしているのだから。オマケに、鷹見は暗器まで持っている。

 

「やれやれ・・・グライリッヒ。あのステンドグラスをぶち破っても大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない、と言いたいところだ。上に掛け合ってみる。」

 

グライリッヒは無線で上司に交渉する。函南は既に策を考え付いていたようだ。

 

屋根にワイヤーを固定し、ステンドグラスを破って突入するつもりなのだ。

 

「よし。たとえステンドグラスが壊れても俺は知らんと上司に言わせた。つまり、やれってことだ。頼むぜ忍者さんよ!」

 

「任せろグライリッヒ。野郎ども! ジップラインを用意しろ! 派手にやるぞ!」

 

「アイェェェェ!?」

 

ふざけた長谷川の脇腹に函南の回し蹴りが食い込む。ここでまでふざけるか。だからコメディ分隊なんて呼ばれるんだ。函南はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋根にロープを固定。フック、異常なし。ラペリングの用意は出来た。あとは降下し、ステンドグラスをぶち破って突入。4人で大暴れするだけだ。人質を傷つけずに。

 

「いいかお前ら?」

 

「オーケー。」

 

長谷川は今ばかりは真剣だ。この一撃に掛かっているのだから。

 

「こっちもいいぜ。」

 

「私もです。」

 

やる時が来た。さあ始めよう。

 

「降下開始!」

 

キィィ、キィィとロープが音を立てる。ステンドグラスの所まで降下し、最近全然使ってなかったタックゴーグルのモーションスキャンを起動する。中にいる動体の輪郭が浮かび上がる。どれが人質かは体勢を見ればわかる。指差しで合図。

 

準備は整った。4人同時に窓を蹴り、距離を取ってから勢いよく蹴破る。ステンドグラスの色とりどりのガラスが散り、光を反射して光る。それに混じった4つの黒。手には白銀に光る刃物を手にしている。その光景をテロリストは唖然とした表情で見ていた。

 

鷹見がグレゴワール試作の暗器を出し、直下にいた2人の敵を貫く。次々と着地した黒ずくめの兵士はククリナイフ、スペツナズ・マチェットやカランビットで手当たり次第に敵を葬り去っていった。

 

ククリナイフが勢いよく首を切り、辺りに生暖かい液体を撒き散らす。その光景に、見ていた敵は恐怖を覚えた。次の瞬間には、カランビットに意識ごと首を刈り取られていた。

 

恐慌状態に陥った者が銃を乱射する。肩の骸骨に食らいつく狼のエンブレムが、獲物を屠っていく目の前の兵士と重なって見えた。

 

兵士は人質の盾となるように動き、矛となるように獲物を仕留めていく。1人がしゃがみ、その上を飛び越えたもう1人が手首からせり出した刃で獲物を貫く。しゃがんだ1人は起き上がりながらククリナイフを投げ、撃ってきた敵を仕留める。

 

マチェットで大腿部を切りつけ、動きが鈍ったところをもう1人がカランビットで首を切りつけて仕留める。何も言わずに、見事な連携を見せた。

 

まるで、手足が無意識に動くかのようだった。そしてそれは嵐のように。

 

銃声。肩が熱い。撃たれたようだ。痛みも感じる。

 

お前か。ハンドガンを構えていた敵へとククリナイフを力一杯投げつける。ククリナイフは回転しながら敵の顔面を二つに割る。ざまあみろ。

 

すると、ドアの方から物音。GSG-9が突入したのだ。

 

「クリア!」

 

グライリッヒが叫ぶ。割れたステンドグラスが顔を出した陽の光を浴び、光り輝いていた。その中に立つ4人の黒ずくめの兵士。肩には骨喰らう狼のエンブレム。後に『GSG-9の切り札か?』や『ドイツに忍者現る』など、マスコミに取り上げられることとなる。

 

人質は全員無事。強いて言えば割れたステンドグラスで怪我したくらいである。また、ボーンイーター4人はあちこち負傷しており、病院送りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ポセイドンの医療ステーションのベッドに仲良く寝かせられていた。そんな時に長谷川が言った。

 

「やったな、祐介。」

 

「なんだよ。名前で呼ぶなんて珍しいじゃんか。」

 

「うるせ。そういう気分なんだよ。」

 

「まあ、俺もそんな気分かもな。」

 

「もう、長い付き合いなんですから私も名前で呼んでくださいよ!」

 

「宮間軍曹は年上だし、ちょっと遠慮が・・・」

 

祐介は苦笑いを浮かべる。そんなところへマリーが天使のような笑顔でやってきた。

 

「はい皆さん。お注射の時間ですよ♪」

 

「「「「天使の笑顔で怖いこと言うな!」」」」

 

注射器を持ったマリーの笑顔が恐ろしく見えた。バルチャーは後にそう語った。

 

「はい、じっとしててくださいね〜。」

 

「アカンアカンアカン! そこアカン神経!」

 

「あれ、ここかな?」

 

「お前わざとだろう!?」

 

「バレました?」

 

「もちろん! いつもそんなヘマしないだろう!」

 

マリーの冗談に、祐介は悲鳴をあげていた。




日常シーン入れたいな、と思った結果・・・マリーまでコメディ分隊の巻き添えとなりました。

夢見の狩人さん、ごめんなさい!

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