今年は防大受験もあり、中々時間が取れない危険性が高いですが、細々と投稿します!
それでは本編をどうぞ!
12/31 13:45
函南は1人萩月神社に向かっていた。長谷川は母親のところへ帰り、鷹見も家族の元にだ。
鷹見はパンデミックの最中、家族と一旦再会しているのだが、兵士を辞めるよう言われて、それ以来連絡すら取っていない。そんな状態だった。
函南の勧めで、この機会に和解すべく、鷹見は家族の元へ帰っていた。
宮間も家族の元。そうなると、必然的に函南だけが取り残されるわけだ。長谷川からうちに来ないかという勧めも、久しぶりの家族との団欒を邪魔したくないという理由で断っている。
ポセイドンは横須賀基地に停泊し、隊員は休暇で散り散り。それに、ポセイドンで過ごそうにも内部の改装で追い出され・・・本来なら日の出後に行くつもりだった初詣に前日から行く事にした。2度参りというやつだ。
長い階段をあの時のように駆け上がる。半ばまで登った時、函南はふと後ろを振り返った。
あの時は笑って追いかけてきた仲間がいた。でも、今は自分1人しかいない。少し寂しくて、ロングコートの襟を口元を隠すくらいまで上げ、ゆっくりと登る。肩に腕章にして付けているバルチャーのエンブレムを見ると、心を締め付けられるような感覚に襲われた。寂しい。そう思った。
函南は空を見上げた。曇天から音もなく降り積もる白雪。函南の頬を伝う一筋の涙すらも凍りつかせようとする寒さ。それを無視しようと、無心で登る。
登り切ると、やはり目の前では巫女さん達が慌ただしく働いていた。色々準備があるのだろう。函南は目的の人物を見つけ、声をかける。
「やっほー青葉。」
「あ! 祐介さん!」
「手伝う。男手あったほうがいいだろ?」
「助かります! じゃ、神主様とそこのお賽銭箱運んでもらえますか?」
そこにあった賽銭箱は、初詣用に上についている枠が外され、サイズアップしたものだった。巫女さんが運ぶのはキツいだろうと見て取れた。
「お任せあれ。ミサイル運ぶよりは楽な仕事だ。」
「一体普段どんな仕事してるんですか・・・?」
青葉は苦笑いを浮かべる。そんなことをしていたら仁がやって来た。
「やあ函南君。」
「こんにちは仁さん。」
「あ、神主様! ちょうどよかった! 祐介さんとそこのお賽銭箱運んでもらえますか?」
「私はいいが・・・函南君はいいのか?」
「はい。手伝う気でしたし。」
「なら、そっちを持ってくれ。」
函南と仁は賽銭箱を持ち上げ、所定の場所へ運ぶ。
「おおー!」
「流石神主さんと特殊部隊員!」
「よっ! 男前!」
「力持ち〜!」
巫女さん達はそれを見てキャッキャと騒いでいる。
「おいおい・・・少しは手伝ったらどうだ? 特に青葉。」
「なんで私!? 私は非力ですよ!」
「嘘を言うな。気絶した函南君を運んできたのはどこの巫女かな?」
「うう・・・」
そんなやり取りを聞いていて、函南は自然と笑みを浮かべた。
「さて、まだやることはあるぞ。」
「次は何をすれば?」
「よし。函南君は青葉と掃除を頼むよ。青葉は背が低いから高い所に手が届かないもんな。」
「それ気にしてるのに〜!」
「ほれほれ、取り掛かるぞお小さい方。」
「誰がお小さい方ですか!」
ムキー!と胸をポカポカ叩いてくる青葉を適度にイジりながら、函南は掃除に取り掛かる。
「むー・・・届かないよ〜・・・」
青葉は背伸びをするが、押入れの上にある小さな収納スペース、そこに手が届かないらしい。
「肩車してやろうか?」
「お願いします!」
函南がしゃがむと、青葉が袴をたくし上げて肩に乗った。青葉が頭をしっかり掴んだのを確認し、立ち上がる。
「おお〜・・・やっぱり力持ち・・・それに、結構肩幅あるんですね・・・」
「まあな。それより早くやってくれ。」
青葉は手早く作業を進める。
「終わりました。」
函南はゆっくり青葉を降ろす。青葉は少し残念そうにしていた。
「残念がるなよ。機会があったらまたしてやるから。」
「本当!?」
「ああ。」
「じゃ、お願いします!」
喜ぶ青葉を見て、函南も笑っていた。
結局、残りの力仕事やらをやっていたら日が暮れていた。仁や巫女さん達の勧めもあり、夕食をご馳走になった。その時に、数々の武勇伝を話したらかなり喜ばれた。まあ、カッコイイと言えるものは少ないのだが。
それからはおせちを作るのを手伝ったり(袖をまくったら、腕を巫女さん達につつかれた)腕相撲を挑まれたり、日が変わる寸前まで楽しく過ごした。
そして、年越し蕎麦を食べ終わった瞬間、さっきまでののほほんとした雰囲気とは打って変わって慌ただしくなる。巫女さんや仁、函南も円陣に加わり、確認を行う。
「いいかい? 打ち合わせ通りだ。今年は函南君がいるから警備の方は任せよう。絵里、見張りは任せる。」
函南に与えられた重要な任務、それは毎年性懲りも無く現れる賽銭泥棒の撃退だ。犯人は中々足が速い上に、巫女さんは袴が邪魔で上手く走れないらしい。そのため、現特殊部隊員の函南が抜擢されたわけだ。
年が明け、参拝客が集まりだした。函南は屋根に陣取り、下の人に気づかれないように隠れ、時を待つ。境内を照らす三日月を眺めながら、お気に入りの歌を口ずさんでいる。黒のロングコートは上手いこと暗闇に溶け込み、隠密性を向上させている。
列に並んでいる参拝客を眺めているうちに、これだけの人がこうしてまた年を越せた、自分達が血を流したのは無駄ではなかったのかな。と、函南はふと思っていた。
意外と近くに隠れている自分の姿には誰も気づかない。それでいい。俺は影の存在。それでいい。自分の後ろに立つ人々が明るい道を歩けるのならば。
ロングコートを着ているとはいえ、冷たい風が吹いている。その風は露出している函南の頬を撫でる。その冷たさを忘れたくて、函南は歌を口ずさむ。
その時、境内を懐中電灯の光が照らす。照らされている1人の男。賽銭泥棒だ。函南は立ち上がり、屋根から飛び降りる。
突然現れた函南に、参拝客は驚き、唖然としているが、函南はそれを無視して賽銭泥棒を追う。
黒づくめで、前面のファスナーを開け放ったロングコートをたなびかせせいるその姿は、亡霊か何かに見えるだろう。そんな事をふと考えた函南の表情は綻んでいた。
函南はたちまち犯人を追い詰め、襟首をつかんで地面に組み伏せ、後頭部にオマケのパンチを繰り出した。
「確保!」
「函南っちグッジョブ! 青葉! 警察!」
「はい!」
懐中電灯を持った巫女、絵里が駆け寄ってきた。犯人は函南のパンチで既に戦意喪失している。
「やっと捕まえたよ! さあ、警察に突き出すから覚悟してな。」
絵里は手早く犯人を縛り上げる。犯人が息を荒くしていたので、少し不快に思った函南は顔面へ蹴りのオマケをつけて気絶させた。
神社の方へ戻る函南を青葉が懐中電灯で照らす。その姿に参拝客がざわめき始めた。それもそうだ。時々(将軍の命令もあり)メディアに顔を出す英雄、函南祐介がそこにいたのだから。
写真を撮り出す人もいたので、愛想よく手を振ったり笑ってみせる。一緒に写真を撮って欲しいという要望にも喜んで応えるサービス精神だ。
時計を見ると午前1時。近くで他の巫女さん達が餅つきを始める。
その時、函南に声をかけた人物がいた。
「やっほー分隊長!」
振り返ると、そこには長谷川がいた。
「あれ? 帰ったんじゃないのか?」
「帰ったよ。用事が済んだからここにいると思って来たのさ。寂しがってる頃だろうしな。」
「うるせえバーカ!」
そして、あと2人も現れた。
「函南!長谷川!」
「ここにいましたか〜」
「鷹見! 宮間さん!」
バルチャー分隊4人が集まり、参拝客はこぞって写真を撮り始めたので、話は後に手を振って愛想を振りまく。イメージ戦略も大事な戦略だ。
「そういや、初詣済ませたか?」
「俺らはまだだ。これからだよ。」
「そういうわけだ。並ぼう。」
「そうしましょう♪」
やれやれ、こいつらは・・・函南はそう思いながら笑みを浮かべ、4人で列に並ぶ。待っている間は特に何もしゃべらなかった。そして、順番が来た。財布から適当に小銭を出し、賽銭箱に入れてしっかり祈る。
(今年も、こいつらといられますように。あと・・・自分の存在の意味が見つけられますように・・・)
函南が祈り終わると、3人も丁度終わった所だった。
「今年もよろしくな。暢、弘行、愛良。」
「へっ、やっと隊長らしくなってきたな祐介!」
「どういう意味だよ?」
「まあまあ。暢の事だし、考えなしだろ。こちらこそよろしく頼むぜ祐介。」
「私も、よろしくお願いします♪」
「祐介さーん!」
そんな時、青葉が駆け寄ってきた。
「どうした?」
「あの・・・一緒に写真撮ってもらえますか? バルチャー分隊が来たって記念に撮っておけって神主様が・・・」
「だってよ。どうするお前ら?」
「異議なし!」
「いいぜ。」
「オーケーです♪」
祐介達は青葉に引っ張られ、仁や巫女さん達が集まっている場所へ向かう。既に撮影準備は整っているようだ。
「おう祐介、行方不明の間、あんな美人に囲まれてゴフッ!」
暢の腹に祐介の拳が命中し、暢はうずくまる。
「余計なこと言うからですよ・・・」
「早く早く!」
4人は真ん中に陣取り、自動でシャッターが切られるのを待つ。祐介は自分の前で笑みを浮かべている青葉の肩に手を乗せる。青葉は一瞬驚いたような表情になるが、すぐに満面の笑みに戻った。
「はい、チーズ!」
その写真は、萩月神社とポセイドン内のバルチャー分隊の寝床に飾られている。
萩月神社での初詣。改めて祐介は仲間の大切さを実感。
祐介が口ずさんでいた歌はそれぞれのイメージにお任せします。自分はEndless trarsを口ずさんでいたことにしていますが。
祐介「それ聴いて書いてたからだろ。さ、今年もよろしくな!」