長谷川「もうちょい人の心について学べ。」
はい。それでは本編をどうぞ!
(長谷川視点)
14:00
ミリタリーショップ
宮間さんは現在試着中の為、俺はカウンターで武器のメンテナンスをながら、函南達の雑談を聞いている。
「にしても無数にある悪夢の中でも最悪の悪夢だよな。この現状。」
その辺に寄りかかってダンプポーチに入れていた空のマガジンに弾を込めながら函南は言う。確かに最悪の悪夢だ。
「全くすげェよ。歯車一つ狂わせただけでここまで崩壊するなんてな。」
鷹見はその辺の椅子に腰掛けている。
「なあ鷹見。社会は微妙なバランスの上に成り立つ砂の城みたいなものさ。人間が死ぬなんてのは元から分かってる。だが、そこにイレギュラーなモノ、例えばリッパーみたいなのが入り込むと」
「社会はこんな風に脆く崩れ去るってか。」
言えてるな。平和だからこそ、こんなことは誰も想定すらしなかった。それ以前にこんな事する奴もいなかった。番狂わせが出てくるまでは。
「積み木を積み上げるまでは長い。けど崩すのは一瞬だ。ちょっと横からイレギュラーな力を与えてやればいい。」
函南はその辺にあったSTANAGマガジンを積み上げ、横から指で弾き、崩す。
「成る程。砂の城から砂が一粒二粒消えた位どうって事も無いが、波というイレギュラーなもんが来れば呆気なく崩れるのと同じ事か。」
「そんなとこさ。パラベラム。平和を求めるなら戦いに備えろ。だ。」
一段落した辺りで、俺は気になっていたことを聞く。
「そう言えば函南、お前の親父の遺体は?」
「見つかって無い。」
「そうか。」
結果ダメだったか。
「にしても、この店の前とかも血だらけなのに死体の1つもねぇな。」
少し前なら血だらけで死体が無いなんてミステリー小説位でしかなかったが、今となっては珍しい事では無くなった。
「お待たせしました!」
そんな時宮間さんが着替えを終えてやって来た。
フローラ迷彩のBDUか。
タクティカルベストの代わりにチェストリグを着けている。
「やっぱフローラ迷彩ですか。あ、函南、G36Cのメンテ終わったぞ。」
ちょっと引きつった笑みを浮かべる。
「ちょっと外の様子見てくる。」
函南はそう言うと双眼鏡を手に外へ出た。
「そう言えば何の話を?」
「ああ、さっきのか、実は・・・」
俺が説明する。あの事件で函南が家族を失い、父親の遺体だけが見つからなかった事を。
「まあ、あいつが本当に悲しんでるのかどうかは微妙な所だが。」
「何でです?」
「色々といざこざがあったんですよ。そのおかげであいつは変わった。悪い意味で。」
「一体何があったんです?」
「1年前だったな。あいつには妹が2人と弟が1人いた。その3人は函南よりも出来がいい。それであいつの親は函南に厳しくした。と言っても、ただ怒るだけ。褒めたりしなかったな。兄弟は褒められ自分は怒られるだけ。それで親への不信感を募らせた。それがストレスとなってゆっくりあいつの心を蝕み続けた。それで今の函南の出来上がりだ。あまり人を信用しないし自分の事を理解出来なくなった。」
あいつは悩み事とか人に言わないタイプだからな。1人で抱え込んで自爆したようなもんだ。
「ま、俺達の事は信頼してくれているがな。ただ、あいつはそのいざこざのせいで自分の事がどうでもよくなって捨て身の攻撃を多用するようになっちまった。危なっかしくて見てられない。」
鷹見は心配そうにしている。
本当は、感性豊かで、正直で、いつも笑っている。そんな明るい奴だった。
それが今は、感情というものを何処かに忘れたようだ。顔が笑ってても心の中は笑って無い。まるで抜け殻のようだ。
函南が完全で無いにしろ心を閉ざしたのは、そうでもしないとストレスや自己嫌悪に押し潰されて壊れてしまうと本能的に感じたからなのだろう。感性豊かなのが裏目に出たということなのだろうか。俺なりの解釈だが。
1回のすれ違いが、ここまであいつを変えちまうとはな。さっきの函南の話は、自分と重ね合わせていたのかも知れない。
「ま、その時とは状況が変わった。この先どう変わるかはあいつ次第だ。」
「・・・」
宮間さんは何も言わない。いや、言えないという方が正しいだろう。
「確かにあいつは強い。でも無敵では無いから死ぬ可能性だってある。あいつは自分の事に関しては配慮なんかしない。このままじゃ近い内にあいつは死ぬ。まとめ役が居なくなってバラバラに行動する様になったら、終わりだ。」
こんな時にバラバラに行動したら奴らにやられて終わりだ。それに、ここで1人でも欠けたら残りの面々のメンタルに響くだろう。
その時、偵察していた函南が戻ってきた。
「どうしたみんな?」
「別に。それより外はどうだった?」
鷹見がいつも通りの口調で答えるが、函南は暗めの空気を読み取ったらしい。
「半径100m以内は敵影無しだ。何処へ行ったんだ?」
「生存者追っかけて行ったんじゃねぇ?」
俺もいつも通りの口調で答えたつもりだ。
「そうか。そう言えば鷹見、あの事件の管轄って何処の署だ?」
「川の向こうの中央署だか何でだ?」
あの事件の管轄って、一体何を考えてんだ?
「もしかしたら押収品の倉庫に武器があるかもしれないからな。」
「成る程。」
確かにそうだ。どんな時でも頭は回るんだよな、こいつ。
「なら行ってみるか?」
鷹見が車のキーを取り出し言う。
「だな。次の目標地点は中央署だ。」
「アイアイサ。」
俺達は車に乗り込み、中央署を目指し、出発した。
函南はフェイスガードを着けている。
まるで、表情を、
本当の自分を、覆い隠すかの様に。
鷹見「あれ?函南は?」
長谷川「あんな状態で来れる訳無いだろ。」
函南は外傷には強いですが精神が弱いですからね。
宮間「いわゆる豆腐メンタルですね。」
そうです。けれども戦闘になるとすぐに気持ちを切り替えられます。自分がウジウジしてて仲間を死なせたりしたく無いという思いからですね。自分が死ぬのは気にすらしてませんから。
鷹見「だが、誰か1人でも欠けたら・・・」
函南のギリギリで保たれていた精神は崩壊するかも知れませんね。
長谷川「死にはしねぇよ。それぞれの足りない部分を補いあってのバルチャーチームだ。」
珍しく長谷川がいい事言った所で締めます。
「「「「次回もよろしく!」」」」