リュミール・ルキメデスと名乗ったそいつは、ピンク色の髪とアメジスト色の瞳を持つ齢十の子供だった。
最近現れた新たな
「一方通行は太っ腹ですなー」
ガハハハハッと笑うルキメデスに少しイラっとしながらも粗方コーヒーを入れ終ったのでレジへ向かった。
レジで会計を済ました後、袋から缶コーヒーを取り出し、ファン○グレープはルキメデスへとやる。カシュッと缶特有のいい音がして、一口コーヒーを喉へ通した。
「そういえば一方通行って学校は?」
ファン○グレープをグビグビ飲み、プハァ!やっぱこれですなぁ!と言うおっさん臭いルキメデスはそう問うてきた。
一瞬、足を止めてしまう。学校。
俺にとって学校とはないようなものだ。俺専用のクラスとか何とか言って、俺一人しかいないのであまり意味はない。俺も高校の授業なんてクソつまらないと思うが、まぁ習う事はそれに関する事ではないがな。
だから、無いと答えておこう。
「ふーん、学生寮住んでるのに」
「ッ。てか、どォでもいいだろこの話」
「いや、どうでも良くもないよ。私、一方通行の学校に転校するし」
は?
今こいつ何て言った?俺の学校に転校?小学生がか?
「私も抗議したんだよ!けどね、あまり学校へ行かなくていいという条件が……」
眼をそらすルキメデスにため息を吐く。
こいつは良くも悪くも欲望に忠実だ。
「それにつられたか」
「む!そうじゃないけど、まぁ黒服さん達がなに考えているか知らないし」
むむ?と首を傾げるルキメデス。その姿に呆れながらも、こいつと出会った日に会った黒服を思い出す。サングラスにスーツ。典型的なアレだ。
チッと舌打ちが漏れる。こいつも巻き込まれたらしいな。ザマァねェ。
ルキメデスはファン○グレープを飲み終わったのか、缶の底を除き一滴残らず飲むと長すぎる袖の中へ入れた。能力を使ったんだろう。少し遠くからカランという音が聞こえた。
その音を皮切りに俺は眼を細める。
「一方通行」
「あァ」
どうやらルキメデスも気づいたようだ。
警戒するほどではないが、明らかにスキルアウト共が此方を狙っている。ったく、毎度毎度……飽きもしねェで、ご苦労なこったなァ。
二人して路地裏へと適当に入る。ルキメデスも慣れてきたらしい。元より大能力者だったこいつも狙われることが多かったらしい。楽しそうに話すこいつには少し呆れたが。
路地裏を突き進むと壁に当たった。どうやらここが終着地点なようで、俺たちはクルリと踵を翻した。
「へへっ、わざわざ路地裏に入り込むとはなぁ」
「見ろよ、
「小学生ってのはマジかよ」
三人。
しかしルキメデスの事がここまで広まってるとは。確かに新超能力者として名を挙げたが、小学生ということまでは広まっていなかったはずだが。人の口には戸は立てないというのは、このことのようだなァ。
「一方通行……殺ってもいい?」
チラリとルキメデスを見るが、ルキメデスの視線は前を向いたまま。しかし斜め上からでもわかる、口角がつり上がっていた。
「ダメだ。半殺しにしろ」
「りょーかいッ」
そう言うとルキメデスは普段袖に隠れている手を前に突き出し、笑った。
ルキメデスにスキルアウト共が蹂躙されていく姿を見ながら、俺は先日のルキメデスとの会話を思い出す。
『一方通行って』
『あァ?』
『意外に優しいよね』
そう言ったルキメデスに驚かされて、暫く黙り込んだあと俺は口を開いた。
『意外にってのはどういうことなンですかァ?』
その言葉を聞いたルキメデスは苦笑いをして、どういう原理かカチューシャについている羽をピコピコと動かした。
口元は袖で隠されている。
『いやぁ、私って
確かに超能力者たちは人格破綻者と呼ばれる事がある。それは
俺のこの口調もその影響だと言われている。
『今でもそう思うけど、うん。御坂さんと一方通行は除外かな!私はもちろんの事。ガハハハハッ』
笑うルキメデスを一瞥してから俺は眼を閉じた。
ルキメデスは人格破綻者ではないと自分で言っていた。だが、実際はどォだろうなァ。
目の前に広がる血の海。腕を抱えて震えているスキルアウト共は恐怖の目でルキメデスを見ていた。そしてそれを冷めた目で見るルキメデス。
「(指先だけを切断……)」
案外エグいことをしやがる。
指先というのは、神経が集まっている場所だ。人が手先が器用なのはそのお陰であり、元より他の部位より怪我をすれば痛む。それを切断した……激痛だろう。これなら腕ごと持って行かれた方がまだ感覚がなくていい。
ルキメデスに近寄り、ぽむと頭に手を乗せガシガシと撫でた。
「ちょ!やめるの!一方通行!」
そう抗議してくるが、邪魔はしてこない。ある程度撫でると、倒れているスキルアウト共を踏み台にしてこの場を去る。うぐっ、ごふっ何て声が聞こえてきたが無視だ。
喉乾いた!ファン○グレープ!と言ってくるルキメデスにビニール袋から、缶を一つ取り出し与える。それを嬉々として受け取ったルキメデスは、長い袖の中に隠れた手で器用に開けた。カシュッといういい音が響く。
「ぷっはー!運動の後もコレだね!ファン○最高」
ガハガハ笑うその姿を一瞥してから、前を見た。薄暗い光から、明るい光へと変わる。表通りに出たようだ。
路地裏から出てきた俺たちを怪しむ者もいるが、俺たちが誰かわかったのだろう。関わらない方がいいと、視線を逸らしていった。ハッ、ゴミ共が。
しっかしエグい事をするなァ?と俺がルキメデスに先程について問いかけてみると、ルキメデスはむぅっと頬を膨らました。ご機嫌ナナメか?
「あれぐらい普通だよ。半殺しOKって言われたけど、半殺しがどれぐらいかわからなかったから」
なるほど、それで指を切断……ねェ。
「私がレベル4の時でもスキルアウトは来てた。その時してたお返しが、あれだよ」
く、は。
レベル4時代にしていたのがアレだって?
くくくくっ、あははははっ。こりゃァ、傑作だなァ。
「……一方通行?」
「いや、なンでもねェ。けど、テメェ最初は罪悪感とかなかったのか?」
人間誰しもある善の心。偽善者。この世は偽善者だらけだ。
こちらが善を持って接しても、悪で跳ね返ってくることがある。大抵の野郎が、自分第一で、それでいて正当防衛だとしたも人を傷つければ悪とする。馬鹿な連中だ。
さっきのスキルアウト共も嫉妬で支配されたただの馬鹿だろう。強いのが悪い、羨ましい。ハッ、そンなンだから強くなれねェンだよ。
「んー、最初に襲われた時はね、相手を遠くに飛ばしてたけど、それも面倒になって……そうだ、手段を奪えば襲ってこなくなるかな?って思って指先切断」
「ふーン」
「でね、最初はそのグロさとかで吐いたけど、罪悪感はこれっぽっちもなかった。返り討ちにされた方が悪い」
持ってない方が悪い。これは日本にも言えることだ。
一度は不思議に思っただろう。平等を捧げるのに何故、社会主義にしなかったのか。
人間は単純だ。誰しもが平等で、同じではやる気が出ない。しかし、下がいると思わせれば?
誰も貧乏にはなりたくなく、ホームレスはもちろんの事。彼らになりたくないからこそ、人は働き金を稼ぐ。
隣を歩く小学生を見る。珍しい桃色の髪。アメジスト色の瞳はキラリと陽の光を反射している。一見して、顔立ちの整ったただの小学生のようだが、その中身はかなり腹黒い。
「今はもう慣れた。うーん、多分だけど人の首がちょん切れても、平気な気がする」
あくまで気がするだけだけどー!ガハハー。
そう笑うクソガキの頭を乱雑に撫でてやった。
「この魔王さまに何をするー!?」
言葉の割にはきゃっきゃ笑うのにまた呆れる。腹黒さは異常ではなく、人の指を切断しておきながら笑う奴で、首を文字通り切ることができるただの小学生。
さて、もう一回言うが。
こいつの何処が人格破綻者じゃないって言うンだァ?
守られる系幼女だけじゃなく、背中任せれる系幼女をセロリの隣に立たせたかっただけの話。