ナルト×オリ主
少年は走る。ただひたすらに。
自分の視界を遮る木々が煩わしく思った。
自分の頬を掠める枝を気にせず走った。
ただただ、ただただただただ走る。
息が切れようとも、足が縺れようとも、少年は走った。
ただ、愛する者達の為に。
「父さんっ!母さんっ!」
少年は長子だった。最初に生まれた子供だった。
弟か妹ができると聞いて喜んだ。父と手を取り合い、ダンスをして喜び合った。そんな記憶が脳を掠める。楽しかった、そう思う。それが現実逃避だとわかっていながら。
目の前の出来事を少年は受け入れ難かった。知っている事だとしても、自分という異端であり前例者がいながら、何故今日なのか。何故、次の子供が生まれる事を期待しなかったのか。
「あぁ、ほら見てごらん来てくれたよ」
「ふふっ……やっぱり、優しい子だってばね」
腹を貫かれた二人は少年の姿を見て微笑む。どうして、笑ってられる?自分が死ぬかも知れないのに。
「メンマ、弟をよろしく、ね。あと、ちゃんと、面倒見るんだよ……」
そう微笑んだ少年の母の口からは血が溢れていた。ゴフッと勢いよく飛び散る。
「僕も言いたい事は母さんと一緒かな……」
しっかりと気を保っている少年の父は、微笑みながら地面に横たわっている赤ん坊へと視線を向けた。
あの赤ん坊が少年の弟。父と母の血であろうモノが赤ん坊の頬に、手に、腹に滴っていた。
少年は呆然とその様子を見る。嫌、いやと呟きながら。
「「八卦封印っ!!!」」
「いやっ………………夢か……」
はぁああと自身の額を抑える。嫌な夢を見た。
青年は汗でびしょ濡れになった服を着替えるためにベットから起き上がる。
ベットや机、キッチン、冷蔵庫などの必需品以外は何もおかれていないこの部屋で青年は乱雑に脱いだ服をベットへと投げやった。
「(今更、こんな夢を見るなんてな)」
唯一の心残りである弟。それを里に置いてきた。それが最善だとしても、父と母の約束を破ったのだから、やはり青年の心は晴れない。
新しい服をクローゼットから引っ張り出し、着る。気持ち悪い感触から解放され、さぁこれから何をしようかと悩んでいた時だった。床から植物のような者が生えてきたのは。
「着替エ中、スマナイ」
「いいよ、別に。それで、仕事?」
「アァ」
パカリと割れて中から出てきたのは人の頭。髪は生えているが、肌が言葉の通り黒く、片言で話す男性。黒ゼツだと言うその男は床から出てこようとせずそのまま仕事の内容を話し始めた。
青年はクローゼットを再び開き、仕事用の服へと着替え始める。そこには羞恥心とかもなく、ただ淡々と服を脱いで取っては着るを繰り返す。
「オ前ニハ、イタチト鬼鮫ト共二木ノ葉ヘト行ッテモラウ」
“木の葉”。この言葉に青年はピクリと一瞬反応したが、すぐさま取り繕い、紅い雲模様が入った黒い装束を着る。
装束の下は既に戦闘に入っても大丈夫なものに変わっている。トントンとつま先を床に打ち付けた。
そして最後に、一つチェーンに通した三つの指輪を首にかけ、額当てを同じく首につけた。装束によってそれは隠れるが、忍であるがため額当てをつけないという選択肢は無かった。
「わかった。合流地点は」
「終末ノ谷ダ」
「え、それ嫌味か?嫌味なの?」
「サァドウダロウ」
「(コイツっ……)」
のらりくらりと躱す黒ゼツに怒りを感じながらも、ため息を吐いて黒ゼツに振り返った。
「今からだよな?」
「アァ、半刻後、合流ダ」
「りょーかい」
肩をすくめてから、机の上に置いてあった狐を模した仮面を被った。
いつも仕事をする時には被るモノだ。強く頑丈であり、あまり壊れない。もし壊れたとしてもストックがあるので大丈夫だが。
「ジャァ頼ンダゾ。トメ」
ズズズッと黒ゼツは床に消えていった。相変わらず便利だなと青年、トメは思いながらも自身の部屋を出た。
修練の洞窟と言われるこれは、今やもう使われていないボロボロの建造物が特徴的だ。ただ洞窟自体はそこまで崩れてはいないため、トメが隠れ家として使うには最適だった。その洞窟を人は修練の洞窟と呼ぶ。
トメ自身、この修練の洞窟にもお世話になった。機械仕掛けで動く的にクナイを当てたり、組手したり。結構修行になるが、実力の高い者であれば物足りない所だった。
その修練の洞窟を出て、降り立つ。修練の洞窟は切り立った壁に出来ており、一歩外に出れば、足を踏み外して死ぬ。
下を見れば川が流れており、その上をボロい橋がやっとのことで建っている。少し衝撃を与えれば崩れそうだ。
川の上にトンとチャクラを用いて降り立つ。水面に立った彼は上流に向けて走り出した。それは目には止まらず常人には視認できない程の速さ。忍では普通の速さであるが、彼の場合それより速い。
この川を登っていけば終末の谷へと繋がる。谷であり滝もある彼処から、この川は繋がっているのだ。
このスピードでは半刻もしない内に着いてしまう。着いてからはどうしようか、トメはしょうもないことに頭を捻った。
「遅かったな」
「貴方が早すぎるんですよ」
「そりやぁ、悪いね」
やはりというか早く着いてしまっていたトメは水遊びしたりしていたが、それも飽きてしまい岩の上で休憩していた。
暫くすると今回の同じ任務を任された二人に気づき、仮面の下で微笑んだ。
霧隠れの額当てに木の葉隠れの額当て。そのどちらにも一本の線が入っており、里のマークを真っ二つにしていた。
それは里とは縁を切ったという印であり、それでもまだ忍であるという印でもある。トメの額当てにも一本の切り傷が付いている。
霧隠れの額当てをしているのは干柿鬼鮫。霧隠れの怪人と言われる、尾獣に匹敵するほどのチャクラの持ち主である。七つある霧の忍刀の一つである、大刀・鮫肌を扱う。
そして木の葉隠れの額当てをしているのは、三大瞳術の一つ、血継限界写輪眼を持つうちは一族。そしてその一族を皆殺しにして里を抜けてきた大罪人、うちはイタチ。
「こうして会うのは初めてかな」
「そうですねぇ、貴方には会議以外では会いませんからねぇ」
「トメは基本単独行動だからな」
そう言われたトメはハハッと苦笑して頬を掻く。仮面のせいで表情はわからないが、声色でわかるのはトメの感情が豊かなせいだろう。
「ま、何にせよ。早く行って早く終わらせよう」
「焦りは禁物ですよ。今回は偵察ですからねぇ。まぁあわよくば捕獲ですが」
「あぁ、九尾のね」
「それと里の戦力だ」
お前のは別の意味も含まれてるだろうに。トメはイタチの言葉に呆れながら、今まで座っていた岩から立ち上がった。
「(ま、俺も弟の顔見たいしな)」
今頃は自分そっくりに育っているだろう。違うのは髪色と瞳の色だろうが、顔立ちは同じだと自負している。何せ二年後の姿も知っているのだから。
だからこそ、この仮面を被っている。自身の弟が犯罪者だと勘違いされないよう。
「んじゃ、観光といこうか。木の葉の警備はザルだからなー、何もしないのならすぐには襲ってこないだろ」
「しかし、暗部がいるでしょう?」
「あぁーそれは、火影とかを護るためだけにいるから。多分来るのは表の上忍で、実力のあるやつだと思うよ。な!イタチ」
「……何故、オレに振る」
「だって、お前、木の葉の出身じゃん」
「……それは君もだろう」
「あれ?言ったっけ?」
うん?とトメが首を傾げると、トントンとイタチは自身の首元を指した。その行動に釣られるようにして、自身の首元を見るとそこには額当てがあった。
あぁ、とトメは納得する。そういえば、装束を脱ぎっぱなしだったような。
辺りを見渡して、自身の装束を見つけるとそれを拾い羽織る。どうやら忘れていたようだ。
「忘れてたわ」
あはははっと笑うトメを見ながら鬼鮫はいつもの笑った顔で、ポツリと呟く。
「天然……ですかねぇ」
「どうだろうか……」
鬼鮫の言葉に反応したのは意外にもイタチであった。