ジンと別れた黒ウサギ一行は、ギフト鑑定をするべく“サウザンドアイズ”向かっていた。
「“サウザンドアイズ”? コミュニティの名前か?」
「YES。“サウザンドアイズ”は特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし。」
「ギフト鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定することデス。自分の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出所は気になるでしょう?」
「ふ~ん。」
同意を求める黒ウサギに答えたのは満だけ、他の三人は複雑な表情で返す。
「桜の木……ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けてるさずがないもの…。」
並木道を眺めていた飛鳥はふと呟いた。その声が聞こえたのか十六夜が反論する。
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。着合いの入った桜が残っていてもおかしくないだろ。」
「え? 今、春だよね?」
「……? 秋だったと思うけど。」
ん?っとかみ合わない四人は顔を見合わせて首を傾げる。その様子を見た黒ウサギはクスクスと笑って説明した。
「皆さんはそれぞれ違う世界召喚されているのデス。元いた時間軸にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ。」
「へぇ? パラレルワールドってやつか?」
「近しいですね。正しくは立体交差並行世界論というものなんですけど……今からコレを説明を始めますと一日二日では説明しきれないので、またの機会にということに…」
クルリと黒ウサギは振り返る。店に着いたようだ。出入り口の上には“サウザンドアイズ”のマークと思われる模様が入っている旗があり、青い生地に互いが向き合う二人の女神像が記されていた。
看板を下げようとしている割烹着の女性店員に、黒ウサギはストップをかけようとする。
「待っ---」
「待った無しです、御客様。うちは時間外営業はやっていません。」
「なんて商売っ気の無い店なのかしら。」
「全くです! 閉鎖時間五分前に客を締め出すなんて!」
五分前に来る黒ウサギ達も悪いと思うが。
「文句があるなら、どうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です。」
「出禁!? これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございますよ!」
キャーキャーと喚く黒ウサギ。
「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」
「うっ……」
どこまでも、隙が無い女性店員。黒ウサギは一転して言葉に詰まる。しかし、満は何のためらいも無く名乗る。
「僕達は“ノーネーム”ってコミュニティだよ。」
「つっ………」
女性店員は満を見て言葉を失う。そして、俯いてプルプルと震える。いきなりの態度の急変に皆は、はてなマークを頭上に浮かべる。
「(何、この可愛い生き物!? オーナーとはまた違った可愛さがこの子にはある!!)」
とか考えている女性店員。数秒間、俯いていたがスッと顔を上げて一言。
「どうぞ、お入りください。」
「「「「「え?」」」」」
態度の一変に戸惑うが、言葉に甘え入る。女性店員に案内されて、一つの和室に通される。
「すぐに、オーナーを呼んでまいります。お座りになって待っていてください。」
「あの~? 降ろしてくれる?」
「ごめんなさい。」
ずっと、縫いぐるみみたいに女性店員に抱っこされていた満だがやっと降ろされた。ふ~っと息を吐き、一番端に座る。
「にしても、店員さん急に態度変わったね。」
「ああ、絶対アイツショタとロリが好きだな。」
「何のこと?」
満と十六夜が話を終えた時、襖が開けられ一人の少女が現れた。
「待たせてすまんの。」
上座に座った銀髪の少女は自己紹介を始めた。
「私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている“サウザンドアイズ”幹部白夜叉だ。ここは一つよろしくの。」
「逆廻十六夜だ。よろしく和装ロリ。」
「久遠飛鳥よ。よろしくね。」
「春日部耀。以下同文。」
「片桐満。よろしく白夜叉。」
それぞれ挨拶をしていく問題児達。
「満とやら、ちと私と似てるような気がするのだが……」
「うん? そう?」
適当に聞き流す満であった。その態度に白夜叉は苦笑して本題へと戻す。
「黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやってる器の大きな美少女と認識しておくれ。」
「はいはい、お世話になっております本当に。」
「その、外門って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強大な力を持つ者たちが住んでいるのですよ。」
黒ウサギは喋りながら紙に図を描いていく。その図を見た四人は口をそろえる。
「……超巨大玉ねぎ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな、どちらかと言うとバームクーヘンだ。」
「僕もバームクーへンに一票。」
うんと頷きあう四人。
「ふふ、上手いこと例えるの。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切り東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持ったもの達が棲んでおるぞ………その水樹の持ち主などな。」
白夜叉は薄く笑い、黒ウサギの持っている水樹の苗を見る。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」
「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前、蛇神様を素手で叩きのめしたのですよ。」
「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!? ではその童は神格持ちの神童か?」
「いえ、黒ウサギはそうは思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし。」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがあるだけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ。」
神格は種の最高ランクに変幻させるギフトのことだ。
蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。
人に神格を与えれば現人神や神童に。
鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。
更に神格を持つことで他のギフトも強化される。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの。」
蛇神をアレ呼ばわりである。
それを聞いた十六夜は目を光らせる。
「へぇ? じゃぁオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の“
“最強の主催者”----その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に目を輝かせた。
「そう……ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリアすれば、私達は東側最強のコミュニティとなるのかしら?」
「無論、そうなるの。」
「そりゃ、景気のいい話だ。探す手間が省けた。」
三人はむき出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。しかし忘れてはいけない、もう一人の問題児を。
「やめといた方がいいよ。三人とも。」
満の発言に、問題児は振り向く。この場を収めたい黒ウサギは安堵の息を漏らす。
「どうした、満。怖気づいたのか?」
「そうじゃないよ。ただ、その人には勝てない……僕の野生本能がそう言ってる。」
「ハッ、オマエ人間だろ。わかった、後悔しても知らねぇぞ?」
「はぁ、そっちが後悔するよ。」
「どうやら、意見が分かれたようじゃの。ふふん、まぁよい……ゲーム前に一つ聞きたいことがある。」
「なんだ?」
十六夜は、視線を満から白夜叉へと変えた。
白夜叉は、着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印が入ったカードを取り出し壮絶な笑みで一言。
「おんしらが望むのは“挑戦”か----ー---------もしくは“決闘”か?」
刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。