ぼくの かんがえた さいきょうの ひきがやはちまん 作:納豆坂
葉山たちからアプローチを受けたのは、修学旅行前日の放課後だった。
入ってきたのは四人。葉山ととべっち、そして残りの二人は多分大和と大岡だろう。いや、実際それがあってるかどうかは知らないが、確率的にはそれが一番高いと思う。
「……何かご用かしら?」
結衣と自由行動の行き先について最終確認をとっていた雪乃にとって、彼らの来訪は邪魔以外の何者でもなかったらしい。いつも以上に冷たい声音で葉山たちに問う。
いつもの事だが、面倒なら無視してしまえばいいと思うのだがな。変なところで生真面目なやつだ。
「ああ、ちょっと相談事があって来たんだけど……」
妙に歯切れの悪い様子で葉山が答える。どうでもいいが、相変わらず葉山は要点から話すことができないやつのようだ。
正直、俺たちにとって葉山たちが相談にくるということは想定内である。むしろ、なぜこのタイミングなのか問いたいほどである。
「ほら、戸部」
「言っちゃえよ」
大和と大岡(仮)に促され、とべっちは口を開きかけるが、無理無理無理とばかりに頭を振り、黙ってしまう。
どうでもいいが、戸部ってのがとべっちの名前なんだろうな。
「いやー、それがさ、その……。あーやっぱ無理っしょ」
なんだろう、こいつすごくめんどくさい。
そもそも、ここに訪れた以上はなんらかの理由があるというのは確定的に明らかだ。
話すなら早くしろ。でなければ帰れ。
そう思った俺を誰が責められようか。
「……用がないのなら退室してもらえないかしら。部活動中とはいえ、修学旅行の準備もあるしそれほど暇な訳ではないのだけれど」
底冷えするかの様な冷たい空気とともに雪乃が問う。
「あー、それはその……」
もごもごと口ごもる戸部を仮称大岡と大和がこづく。
茶番&茶番。
ほんと、どうでもいいな。
そんな感想を胸に抱き、俺は思考をはるか大気圏の彼方へと飛ばした。
「つまり、海老名さんという女子に告白し交際したい。そういうことでいいのかしら?」
実に十分以上の時間を茶番に使い、しかし戸部から聞き出せたのはただそれだけのことだった。
「そうそうそんな感じ。やっぱ振られたらきついし、なんか奉仕部?に相談すればいい感じにうまくいくらしいじゃん」
底抜けに軽い戸部の言葉。
うぜぇ。
その話に食いついたのは、意外でもなんでもないことに青春楽しんじゃってます系女子である結衣だった。
「いいじゃん! いい! すっごくいい! 応援しちゃうよー!」
振ってわいた思いがけないコイバナにテンションが最高にハイってやつになる結衣。
「付き合うって具体的にどうすればいいのかしら……。いえ、この依頼をサンプルケースに今後の進展を……」
当てられたのか、男女交際に興味などなさそうな雪乃まで若干乗り気である。
そんな二人のテンションに若干引きつつも俺は葉山を見る。
思えば、こいつも少しは成長したものだ。
千葉村での、今の自分ならかつてとは違うなにかができる、という根拠のない自信を振りかざしていたときとは大違いである。
自分でできないことがあれば素直に他人を頼る。それを間違いだなどとは俺は決して思わない。まあ、一人で解決できない問題に直面したことのない俺には関係ないが。
「どう、かな?」
そんな俺の生暖かい視線に気づいたのか、苦笑交じりに葉山が問う。
「どう、と言われてもな」
正直な話、俺にとってこいつらの関係がどうなろうとどうでもいい。
むしろ、綱渡りな関係を続けるこいつらの友情(笑)を壊してやったほうがいいんじゃないかと思うまである。
まあ、海老名はそんな関係でも楽しいと感じているようだし、現状維持という依頼を受けてしまった以上はある程度の行動はとらないわけにはいけないのだが。
戸部を見る。
腕を目線の高さまで上げ、手のひらを戸部に向ける。
そしてゆっくりと一言、しかしはっきりと告げる。
「お断りします」