ぼくの かんがえた さいきょうの ひきがやはちまん   作:納豆坂

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6-5

 奉仕部に久しぶりに依頼者が訪れた翌日の昼休み、俺は自分の考えた案を実行するために教室にいた。

 なんで俺がやんなきゃいけねーんだよ、という思いが胸を支配するのだが、これも奉仕部としての仕事の一環だ。

 仕事である以上は私情は挟まない、それが俺の流儀。雪乃の流儀と違ってずいぶんとまともだ。あいつのは過激すぎる。

 

 よし、と気合を一つ入れ目標のもとへと向かう。

 不確定要素が無いわけではないが、俺は九割がた成功を確信している。

 適当にだまくらかして、残り一割を埋めるとしよう。

 

「三浦、ちょっといいか?」

 

 教室で海老名とだべっているクラスの女王様こと三浦に声をかける。

 

「ヒキオじゃん。何? なんか用?」

 

「あんさ、こないだは悪かった。名前知らないとか言って。俺の名前は知っててくれたみたいなのに失礼だったよな。すまん」

 

 それだけ言って頭を下げる。

 俺の突然の謝罪に面食らったのか、三浦は金色のドリルを巻き巻きしだす。

 

「いや、別にいいし。結衣から聞いたけど、あんたほんとクラスメイトのこと覚えてないんしょ? あーしも結衣があんたのこと話してたから知ってただけだし」

 

「それでもだ、ほんとすまなかった」

 

 そう言ってもう一度頭を下げる。

 ちなみにこの謝罪は案の第一段階ではあるが、申し訳ないと思っているのは本当だ。ただ三浦に話しかける自然な理由が他になかったので案に組み込んだだけである。

 

「もうあやまんなし。それにさ、あーしもこないだは悪かったし。あんたに謝ることじゃないってことはわかってるけどさ、こっちもごめん」

 

 結衣から聞いてたことだが、三浦は割りとこないだの一件を気にしていたらしく、戸塚にも謝罪したらしい。

 

「ヒキタニ、いや比企谷くん。私もごめん」

 

「えっと、海老名だったよな。あれ、俺海老名に謝られるようなことあったっけ?」

 

 たぶんなかったと思う。うん、無い。

 

「私さ、比企谷くんは受けだと思ってた。でもさ、あの時思ったんだ。あ、鬼畜攻めなんだって……」

 

 予想外の謝罪の理由により今度は俺が面食らう。

 

「い、いや海老名? お前が何を言ってるのかちょっとわからないんだが」

 

「はや×はちじゃなくてはち×はやだったんんだね。ほんと、ごめん」

 

 そんなことで謝られても本気で困るだけなのだが……。

 

「いや、その掛け算はちょっと……。あれだ、今は下克上で葉山総受けが熱いと思うぞ。落ちたクラスのアイドルが取り巻きに陵辱されるとかさ」

 

 根本的な解決には何一つ至ってないが、目先に新しい餌をぶら下げてやって話題をそらす。

 

「下克上!そういうのもあるのか。いいねえ比企谷くん、わかってるね! あ、ヒキタニくんって呼んでいいかな? 今はちはやで小説書いてるんだけど、ヒキガヤだと変換でなくてさ。いっつもヒキタニで変換してるからそっちのが呼びやすいんだよね? いい?」

 

 妄想している時っていうのはね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……。

 

「割と最低な理由だが……、まあそこさえ目を瞑ればヒッキーよりはましか。別にいいぞ」

 

 はちはやの小説に関しては考えないようにしよう。逃げじゃないよ戦略的撤退だよ。

 

「ありがとー。いやーみなぎってきた!!!」

 

「海老名、擬態しろし」

 

 そう言って興奮しだす海老名の頭をぺちりと叩く三浦。

 

「三浦……、お前も大変なんだな」

 

「そう思うなら姫菜が興奮するようなこと言うなし。んで、話ってそんだけ?」

 

「いや、別にちょっと相談があってな。実は職場見学の班のことなんだが、まだ決まってなくてな。俺と戸塚の共通の知り合いである結衣を誘いたいんだがいいか?」

 

「あーしら三人で行くからそんなこと言われても困るし。どうしても結衣じゃなきゃダメなわけ?」

 

「それは知ってるんだがな。あれだ、いつも一緒にいる葉山達いれたらお前らって七人グループじゃん? 結衣抜けて、その分男子から一人いれればちょうどいいと思うんだが。まあ戸塚を助けると思って頼む」

 

「それはそうだけど……。まあ、隼人に聞いてみていいって言ったらいいよ。それに戸塚にはちょっと借りがあるし」

 

 不承不承といった感じではあるが何とか了承をもらえた。当然あいつにはきっちり言いくるめてあるのでこの話が流れることは無い。

 戸塚をダシに使った感は否めないが、うまく丸く収めるためには必要な犠牲だし理解してもらおう。

 

「助かる。ありがとうな、三浦」

 

「別にいいし。これでこないだのことはチャラだから」

 

 そう言ってソッポを向く三浦。

 そんな三浦を見ながら俺はうまくいったことに胸を撫で下ろした。

 

 

 

 

 

「四人から三人だから面倒になるわけで、だったら七人から六人にしてやればいい。ちょうど抜けても問題ない、今後の人間関係に影響を与えない人物もいることだしな」

 

「ヒキタニくん、どういう意味だい?」

 

 顔を上げ真剣な目で俺をみる依頼人。

 

「今回のチェーンメールが結衣が言った様に、お前の班からハブられたくないってのが理由だったらお前が抜ければいいだけだったんだがな。だが、お前をハブりたいっていう可能性がある以上、お前が抜けた時に追従してこなければ可能性が確信になるだけで丸く収まりはしない。だから、確実に回りが追従してくる三浦とお前が班を組めばいい。別に女子と男子が同じ班じゃいけないってわけじゃないんだし、いつも一緒なんだから十分自然だろ」

 

「でもさヒッキー、それじゃ今度はあたしらから一人抜けなきゃいけないんだけど?」

 

「簡単なことだ。結衣が抜ければいい。都合のいいことに、三浦はこないだの一件でこいつがやらかしたこと気にしてるんだろ? そして結衣は俺と戸塚の共通の友人で、俺たちはまだ班が決まっていない。戸塚のためとか言えば多分結衣が抜けることを了承してくれるだろ」

 

 俺のもつ三浦の印象は脳筋だ。わかりやすく、それでいて明確な理由を話せばわかってくれるはずだ。

 そして結衣が抜けたからといって今後の人間関係に影響がでることはない。三浦にとっては借りを返すという理由があり、一時的なものだからだ。

 

「戸塚のために結衣が抜けてそこにこいつが入る。残った三人はハブられることはないし、こいつをハブりたいにしても三浦と組む以上そこは押し黙るはずだ。これ以外にすべての可能性を潰す方法はないと俺は思う。それとも……結衣は俺と組むのいやか?」

 

「いやじゃないよ! いやじゃないけど……、隼人くんはそれでいいの?」

 

「優美子はそれで納得すると思うか?」

 

「不安要素が無いわけではないが、戸塚押しすればなんとかなんだろ」

 

 不安要素とは、こないだの一件の引き金を引いたこいつを三浦もハブりたいと思っている可能性だ。だが、まあこの可能性は低いだろう。引き金を引いたのは確かにこいつだが、切欠自体を作ったのは三浦だからだ。

 あまりにも落ち込むこいつに、さすがにそこまで言うのは酷だからいわんが。

 

「わかった。すまないがそれで頼む」

 

「任せろ」

 

 

 

 

 

 すべてが丸く収まり、グループ分け決定の日がきた。

 俺の思い通りにことが運び、うまくいったはずなのだが俺は釈然としないものを感じていた。

 

「三浦さん、そこいくんだ。うちもそこにかえるー」

 

「あたしもそこにしよっかなー」

 

「三浦ぱないわ。超三浦ぱないわ」

 

 何時も通り、みんなで、仲良くしている依頼人を見る。

 丸く収まったのは表面上だけであり、今後あいつは一人疑心暗鬼に囚われたままあのグループですごすのだろう。

 俺の提案を蹴り、原因を突き詰め、疑わしき関係を一新する選択肢もあったはずなのに、だ。

 他人を疑い、それでも独りになることを恐れそれを隠し、何事も無かったようにすごす。

 それは俺が煩わしいと感じ、今まで構築しようとしなかった人間関係そのものだ。

 疑うなら、信じられないなら独りでいい。

 誰かに裏切られた訳ではないが俺はそう思うし、実際そうしてきた。

 だから俺にあいつがなぜあのグループにそこまでこだわるのかわからない。

 メリットとデメリットを天秤にかけ、デメリットのほうが大きいのなら切り捨ててしまえばいいのだ。

 可能性の話だが、あいつ自身そうされかけたように。

 

「ねえヒッキー、さいちゃん。どこいくか決めてる?」

 

「ぼくは二人が行きたいところでいいよ」

 

 そして、俺の前で話し合う二人に目をやる。

 この三人の班は「組む必要があった」ただそれだけの関係だ。特に結衣は。

 利害関係においてマイナスに傾くようなら、いくらでも切り捨てられるもの。そんな関係。

 当然、あいつのように欺瞞にすがり付いて、必死になってまで守りたいと思うような、そんな関係ではない。

 俺はそんな関係に必要性を感じないのだから当然だ。

 

「あれだ、雪乃にメールしてどこ行くのか聞こうぜ。んで、あいつが行くとこにあわせないか?」

 

 だが、同時にそんな関係がどのようなものなのか知りたいとも思う。

 知らないよりは知っていた方がいい。俺自身はそんな関係を必要とはしないであろうが、他人から求められたときより効率的に対応できるはずだからだ。

 でも、今はとりあえずこいつらと組んで、あの日雪乃のかけてくれた言葉に報いるとしよう。

 班は違っても一緒のとこ行くことぐらいはできるんだぜ、と。


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