古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第98話

 

 デオドラ男爵と二回目の模擬戦、今回は二十四体で包囲網を敷いた。

 六体は最悪接近された場合の予備としていたが、使う機会は無かった。

 だが上下同時攻撃を仕掛け続けて全て躱されるとは思わなかった、流石は武闘派の重鎮デオドラ男爵って事か……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く執務室に通され依頼書を取り交わす、今回は武具の買付けで予算は金貨五千枚。

 『ブラックスミス』に同行し陳列している武器・防具を鑑定し良い物を購入する。

 簡単な仕事だが冒険者ギルドに指名依頼をしてくれたからこそポイントが貰えるのだろう。

 依頼書に合意のサインをして契約成立、これに完了の認めサインを貰えば依頼達成だ。

 今回は僕とウィンディアの二人で請けるが彼女はルーテシアに引き摺られて何処かに拉致られた。

 執務室にはデオドラ男爵と僕だけしか居ない。

 

「しかしリーンハルト殿の成長には目を見張るな。今回は少しヒヤリとさせられたぞ、鎧に数ヶ所擦り傷が有った」

 

 あの集中攻撃でも掠り傷しか与えられなかったのか、驚きを通り越して感心した。

 

「僕の方こそ驚きでした、上下同時攻撃を躱されるとは思いませんでした」

 

 かなり本気だった、後は飛び道具を併用すれば完全に本気の攻撃だったのだが……

 

「飛び道具も使わず予備兵力も温存、しかも術者が姿を晒していた。違うか?」

 

 全てを読まれていたみたいだな、なんて人なんだろう。

 

「はい、アレは倒しきれない場合は目標を足止めしてゴーレムごと魔法を撃ち込みます」

 

 通常の包囲網で倒せない場合は、毒霧を使い視覚も塞いで倒すのが必勝パターンだった。

 僕が水属性毒特化の魔術師である事は秘密にしてるので、止めは土属性魔法だと思ってるだろう。

 だが土属性は火属性や風属性と違い高威力の攻撃魔法が少ないんだよな。

 

「なる程な、次が楽しみだ。さて、昼食に招待したいのだが未だ時間が早い。

俺も雑務が有るので悪いがジゼルの相手をしてやってくれ、何か話が有るそうだぞ」

 

「話ですか?分かりました、失礼します」

 

 彼女の事だ、世間話とかじゃないだろうな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋の隅に控えていたメイドが案内をしてくれた、場所はバルコニーに設けられたテーブルだ。

 天気も良いし外でお茶会なのだろうか、デオドラ男爵の三姉妹が仲良くお茶を楽しんでいる。全員が美少女だから華が有りますね。

 紅茶に焼き菓子の大皿がテーブルに用意されていて美味しそうだ……

 

「お待ちしていました、リーンハルト様。さぁどうぞ」

 

 ジゼル嬢、ルーテシア嬢、それにアーシャ嬢がにこやかに座っているが女性ばかりの中に混じるのは辛い。

 

「有難う御座います。ジゼル様、何かお話が有るそうですが……」

 

 アーシャ嬢が自ら紅茶を淹れてくれたが、貴族令嬢としては珍しい行動だ。普通は傍に控えているメイドの仕事だろう。

 

「リーンハルト様、どうぞ」

 

「頂きます。そのブレスレットは……」

 

 カップを差し出す手首には鷹を模したブレスレットが輝いていた、僕がプレゼントした物だ。

 

「はい、大切にしていますわ」

 

 両手を胸元で組んでブレスレットに手を添えて嬉しそうに微笑まれたが、自分が作った装飾品を喜んで貰えるのは単純に嬉しい。

 思わず微笑み返してしまう……

 

「アーシャ姉様の鷹のデザイン、私の薔薇のデザイン、どちらも見事ですわ」

 

 ジゼル嬢まで僕の作った薔薇のブレスレットをしていた、彼女達ならもっと高価な装飾品を身に付ける事が出来るのに……

 

「私には何も無いのだが?」

 

 ルーテシア嬢が不機嫌だが姉妹の中で自分だけ貰えないので差別されたと思ったかな?

 だが彼女に装飾品を贈るのは色々と問題が発生するから避けたい、避けたいのだが……その捨て犬の様な目で見ないで欲しい。

 

「ルーテシア姉様に装飾品のプレゼントは駄目ですわ、貴女はデオドラ男爵家の跡取りに嫁ぐのです。そういう事は極力避けるべきですわ」

 

「そうよ、ルーテシアは駄目ですわよね、リーンハルト様?」

 

 姉と妹から駄目出しを貰って涙目になってるぞ。何かフォローをするべきだろうか?アーシャ嬢の質問に答え辛い、いや無理だろ。

 

「き、貴族の柵(しがらみ)や決まり事とは大変ですよね。そ、それでジゼル様のお話とは?」

 

 多少強引だが話題を変えるのが良いだろう、ルーテシア嬢の機嫌回復はウィンディアに頼めば良い。

 ルーテシア嬢も分かってはいるので不満顔だが、それ以上は言わずに紅茶を飲んでいる。

 

「実はリーンハルト様と接触しようと企てている方が居まして、幾つかの伝手は潰しましたが執拗に繰り返してきます」

 

 ジゼル嬢が凄く嫌な顔をしたが、対処がキツいのか相手が嫌なのかどっちだろう?昨日の腹黒令嬢を思い浮かべるが……まさかな。

 

「それは面倒を掛けてしまい申し訳ないです」

 

 ジゼル嬢に対して評価を変えなければ駄目だ、デオドラ男爵の派閥から離脱しない為とはいえ勧誘を断ってくれるのは本当に助かる。

 

「リーンハルト様も気を付けて下さい。彼女は策士を気取ってますが、実家の力頼りの愚か者です。

自分の思った通りに事が進まないと、思慮の足りない行動をします」

 

 本当に嫌いなのだろう、吐き捨てる様に言ったぞ。実家の力、女性、策士気取り……もしかして?

 

「ニーレンス公爵のメディア嬢じゃないですよね?昨日バルバドス様の屋敷に呼ばれた帰りに、直接勧誘されて断りました。

大袈裟にしたくないので他言しない事にしていますので、宜しくお願いします」

 

「ええ、彼女です。私を一方的にライバル認定するのですが、私は相手にしていませんわ。実家の力を頼りにゴリ押しする嫌な女です!」

 

 ライバル認定?それは何度か争った事が有るんだな、そしてジゼル嬢は何度か負けている、公爵と男爵では歴然とした力の差が有るからな。

 普段からは想像がつかない荒々しい態度で紅茶を飲み干したが、周りの視線に我に返ったか?

 

「ニーレンス公爵はメディアを溺愛しています、エルフを護衛に付ける程に。

ですが自身の不利益になる行動には力を貸しません、その辺りのバランスを見て何とか彼女に勝ってますが……」

 

 なる程、親の七光りに対して自分の才能で戦ってるんだな。

 しかし不用意な引き抜きは派閥間で問題になると思うんだ、大物ならまだしも自分など来年まで待てば廃嫡されて平民だし……

 

「僕の勧誘はニーレンス公爵にも利益が有る?敵対派閥に属する者を引き抜く愚を犯す程のメリットは無いですよ、僕なんかには……」

 

「いえ、リーンハルト様は今一番王都で有名で有能な冒険者ですわ!」

 

 大人しいアーシャ嬢まで声を上げるとは驚いたな。

 

「確かにメディア嬢は少し迂闊な感じがしましたね。それと護衛らしいエルフ族のレティシアが気になります、何故か絡んでくるんです。

メディア嬢に言われて力量を探る為なら問題無いのですが、そんな感じでは無いのです」

 

 最初は単純に力量を知りたいだけと思った、だが昨日の馬車の中ではエルフ固有の魔法で僕を調べてきたんだ。

 精神操作系の魔法を掛けてまで、僕の何が知りたいんだろう?

 転生の秘密はバレてない筈だし、エルフ族に目を付けられる事もしていない。

 

「あのエルフがですか?私の情報ではニーレンス公爵が『ゼロリックスの森』に住むエルフ族と交渉し、愛娘の魔法の師として招いたと聞いています。

人間を見下し無関心だった筈ですが、何故リーンハルト様に興味を持ったのでしょうか?」

 

 ジゼル嬢の言葉に過去が蘇る、『ゼロリックスの森』のエルフ族……あのエルフの少女の里と同じ、300年前の事なら今も存命の連中も居るな。

 前世の僕を憶えているかもしれないし、不用意な接触は危険だな。

 

「分かりません、ですが明々後日(しあさって)からバルバドス様の屋敷にてゴーレム研究の手伝いとバルバドス塾の塾生と模擬戦を行います。

接点が多くなりますので気を付けます」

 

 塾生との模擬戦も依頼内容に含まれているから、必ず接触は有るだろう。ジゼル嬢との因縁の関係も聞いたが、彼女は僕の婚約者だからな。

 その辺の関係も含めて気を付けて対応しないと……

 

「リーンハルト様、それですわ。僅か十四歳の少年が塾生を差し置いて元宮廷魔術師のバルバドス様の研究の手伝いをする、目を付けられるのは当然です」

 

「なる程、出来が良すぎたって事だな」

 

「流石はリーンハルト様ですわ!」

 

 アーシャ嬢はイルメラに似ている感じがする、しかし何故何時も木陰から覗くのか聞きたいのだが……

 暫く雑談していたが、アルクレイドさんから呼び出しが有り、お茶会は終了となった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 どう考えても悩んでも不可解な殿方だと思う、悪い人ではなさそうだが理解出来ない怖さは拭えない。

 何故まだ十四歳の少年がお父様と張り合えるのか?単純な魔法馬鹿じゃない、交渉も戦闘も慣れさえ感じる安定さは異常だわ。

 

「ジゼルが羨ましいわ、リーンハルト様の婚約者なんて……」

 

 アーシャ姉様が落ち込んでしまった、自分の理想に近い相手が妹の婚約者だったからね。

 貴族令嬢として略奪愛なんて非常識だし、お父様の決定は絶対だから……仕方ないわ、私の為にもフォローしてあげましょう。

 落ち込むアーシャ姉様に優しく微笑み掛ける。

 

「私が婚約者なのは仮初めよ、あくまでも彼の他の勢力からの勧誘を牽制する為のね。私は一度断られているのよ、愛無き政略結婚は嫌だそうよ。

でも現実的に私を拒んでも次は断れない相手を押し付けられるだけ、だからお父様が仮初めで構わないからと説得して婚約者にしたの」

 

 冒険者ギルドに登録して半月足らずで、オールドマン代表に認められ配慮される程の逸材。

 既に熟達したゴーレム制御と運用、だが本人は未だ未熟と言う底の見えない能力……

 

「愛無き政略結婚は嫌とは……それは無理だな。彼程の魔術師なら周りが許さないだろう」

 

「でも憧れますわ、彼の寵愛を受けれるなら女にとっては最高の幸せ。それは浮気はしない、側室や妾も持たないって事でしょ?」

 

 ルーテシア姉様は現実をアーシャ姉様は夢を語ったわね、実際にアーシャ姉様のみリーンハルト様と結ばれる可能性が有る。

 

「アーシャ姉様なら頑張れば、リーンハルト様と結ばれますわよ。お父様も私かアーシャ姉様のどちらでも構わないって言ってましたわ。

単純に私の方が知名度が高かったので対外的に考えて婚約者となってるだけですからね」

 

「えっ?私が……私でも?そっ、それは……恥ずかしい……ですわ」

 

 ふふふ、真っ赤になって俯いて可愛い姉様ね。殿方には堪らない仕草でしょうね、でもあの方はどうでしょうか?

 愛無き政略結婚が嫌なら好意を持たれてる相手なら構わないとお父様は考えているけど、それは多分思い違い。

 私の考えでは、リーンハルト様はイルメラさんを好きだと思う。パーティでは僧侶、家庭ではメイドとしてリーンハルト様に一番近い女性。

 ウィンディアの話では、迷宮攻略の休憩中に膝枕をする程の気の許し様、あのライラック商会のパーティーで群がる女達を路傍の石の如く冷めた目でみていた殿方が、膝枕で甘える相手なのだから間違い無い。

 

 でも、真っ赤になって俯く同性から見ても可愛いアーシャ姉様なら……

 

「一度イルメラさんと会って今後の事を良く話し合わないと駄目だわ」

 

「ん?何か言ったか?イルメラとか何とか?」

 

 思わず呟いた事をルーテシア姉様に聞かれてしまったわね。

 

「何でも有りませんわ。この可愛らしいアーシャ姉様の姿をリーンハルト様が見たら、どんな反応をするかと考えたら可笑しくなってしまって……」

 

「そうか、多分だが困ると思うぞ」

 

 正しく答えを導いたルーテシア姉様に驚く、確かにリーンハルト様なら困って苦笑いをするだろう。

 

「そうですわね、良くお分りになってますわね?」

 

 貴女まで真っ赤になって照れなくても良いのですよ。

 


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