古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第973話

 バニシード公爵の派閥構成貴族の一部の馬鹿共が、僕に突っかかって来たので取り押さえた。何故、この様な馬鹿な行動を起こしたのかは、今後の調査を待つ事になる。

 

 リゼルのギフトにより深く考えもせずに、従来貴族の特権として新貴族が大きな顔をする事が我慢出来なかった。その程度の事なのだが……それは事実であっても証明は難しい。

 

 故に王都に送り返して、貴族院が主導で聞き取り調査を行う事になる。まぁ動機が分かった所で行った愚行が無くなる訳でも軽くなる訳でもない。

 

 

 

 公平性と正当性の証明みたいな事だな。

 

 

 

 政敵であっても一方的に断じずに公平な場で沙汰を下す。まぁ貴族院も従来貴族の連中が多く、新貴族の僕を疎ましく思っている者も多いだろう。

 

 だから、正式な報告書はアウレール王に送ったが、ザスキア公爵達にも個別に親書を送った。今回の件で、バニシード公爵と派閥構成貴族への圧力の一助にして欲しい事。

 

 貴族院に不正な判決を下さない様に、牽制も合わせてお願いした。未成年も含まれているし有耶無耶で済まされる事も有り得なくは無い。賄賂で、金貨を積むとかね。資産で罪が軽くなるなら払う親は居る。

 

 

 

 それは相手の実家との力比べ、公正な機関に対しても盤外戦術は有効って事だね。

 

 

 

 賄賂や、その他の利益を与えて、不公平な沙汰を下す事が全く無いなんて幻想は抱いていない。貴族社会の闇だが、それを理解して手を打たないなど有り得ない。

 

 別に反抗された程度で相手の家族や実家に害を加えたいとは思わないが、多くの兵士達が目撃しているので噂の広がりは抑えられない。故に甘い判断を下す事が出来ない。

 

 兵士達が英雄という立場の、僕に対して抱いている幻想を壊す事は出来ない。甘い対応は、僕とバニシード公爵との力関係の外からの判断材料にもなる。

 

 

 

 あとは兵士達の感情に配慮してかな。彼等は大分好き勝手していたらしいから、無罪放免は有り得ない。適正な処罰をする、それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 兵士達の宿泊棟の整備は問題無く終える事が出来た。長屋タイプで隊長格は個室、一般兵は二人部屋にしたが広さは変わらない。個室はベッドにクローゼット、それと執務用のデスク。

 

 二人部屋は執務用のデスクの代わりに二人掛けのテーブルと椅子。他に会議や食堂を兼務する大きな棟を五ヶ所、井戸を掘り水汲み場を整備し汲み取り式のトイレも錬金した。

 

 汚物は少し離れた所に幾つか大穴を掘り、そこに捨てて土を被せる。重労働だが、衛生面を考えたら仕方が無い。当番制で行って貰うのだが、特に反発は無い。

 

 

 

 今迄もトイレは有ったので、一ヵ所に集約して効率化を図ったって感じだろうか?

 

 

 

「さて、少し時間が出来たので今回の最大の裏の目的である地下大空間に小細工をしに行くか」

 

 

 

 ある程度の自由行動が許されているので、前回と同じ貴賓室のある区画の一部屋に入る。当然だが隠密行動の為に、探査魔法で周囲に人が居ない事を確認している。

 

 幸い扉は未施錠だったので音を立てない様に気を遣いながら開けて身体を室内に滑り込ませる。後ろ手で扉を閉めるが施錠はしない。開けてあったのに鍵が掛かっていたら不審がられるから。

 

 部屋の隅に有る壁に魔力を込めて触ると、細工して隠されていた扉が開く。扉と言うか固定化を掛けていた壁に穴を開ける感じかな。狭い隠し通路を20mほど進む。

 

 

 

 突き当りにポッカリと垂直に穴が開いている。覗き込めば真っ暗で、どこまでも繋がっていそうな深い穴。実際の深さは80mほどで、備え付けの梯子を利用して降りる。

 

 まぁ僕は黒縄(こくじょう)を身体に纏わせて降りるという反則技を使う。80mも橋子で降りるとなれば結構な体力を使うから、ここは魔法でズルをする。

 

 スルスルと真下に降下する。三分程で目的地に到着、魔法で数個の光球を作り出して天井付近に浮かべれば隠された空間の全容が見渡せる。

 

 

 

「前回同様、大広間に到着だな」

 

 

 

 自分の呼吸音しか聞こえない静寂の場所、防衛機能は生かしているが管理者権限を持つ僕には全て無効。本来なら細工された壁に何かしようとしただけで、防衛機能が働く。

 

 具体的には壁の物理的な強度の向上、それを壊す事は非常に困難だ。それが制御球に蓄えられた魔力が尽きるまで生じる。まぁ細工した扉の存在自体が発見される事は稀だろう。

 

 大広間の一部にはコウ川から地下水路を通じて水が引き込まれていて、前は軍船が停泊していたが今は僕の空間創造に収納されている。水辺まで近付けば、前回は気付かなかったが生物が泳いでいる。

 

 

 

 まぁ前回は、そんな時間的にも精神的にも余裕が無かったけどね。

 

 

 

「海老?川海老かな?それにサンショウウオ?珍しく身体が白いけど、暗闇でも生息出来る生き物なのか?」

 

 

 

 秘匿されてはいても水は対流しているので外部から小さな生き物は侵入出来るのだろう。多くの洞窟に居る蝙蝠(こうもり)が此処に居ないのは、この空間が水中でしか外部と繋がっていないからだな。

 

 流石に魚は居ないようだが……いや、なにか白い魚の様なモノが高速で泳いでいったぞ。あれは魚の様な泳ぎ方だったと思うけど、こんな暗い場所に生息出来るの?

 

 興味は尽きないけど、それは正式に調査を行う時に調べれば良いと思い直す。魔術師の性(さが)って未知なるモノへの探求心も強いんだよね。困った事にさ。

 

 

 

「さて最初は、待機小屋の確認をするかな」

 

 

 

 前回と同じ様に待機小屋と倉庫の現状を確認する為に向かう。待機小屋の中は記憶の中の前の状況と同じ、六人用のテーブルと椅子が四組。椅子は倒されたままで食器類も散乱している。

 

 何か有って慌てていた状況が思い浮かぶ。後から調査に入るのだが、こういう小道具というかシチュエーションは過去に何が有ったのかを想像するスパイスになるよね。

 

 倉庫の中も見るが、予備の帆やロープ、整備用の錆びた工具類が、整然と並んでいる。まぁ整備すべき軍船が一艘も無いが、帆が残っているから船が有った事は想像出来るだろう。

 

 

 

「次は住居区か……」

 

 

 

 倉庫の扉を閉める。建付けが悪くなくスムーズに開閉できるのは、固定化の魔法の効果が残っているからだ。この掛けられた固定化の魔法を調べるだけでも、現在に伝わる魔法と古代魔法の差が分かる。

 

 効率と効果、それは現代の魔法と格段の差が有る。秘匿し後世に残さず廃れて行った魔法も多い。魔法大国ルトライン帝国の滅亡は、魔法技術の消失に大きな影響を与えたのだろう。

 

 過去に所属し、裏切られて処刑された祖国。その崩壊は配下の者達による復讐によって成されたので、僕としては思う所が有るが悪かったとも思わない。

 

 

 

 過去に惨劇の有った居住区、その痕跡は前回の時に殆ど無くしている。死者は埋葬したが、争いの跡は未だ残ってはいるが……それも過去の歴史を紐解く一助として、このまま残しておくのも良いかな?

 

 目的地の途中の大食堂に入る。室内は真っ暗なので魔法の光球を幾つか飛ばして照明を確保、自分の足音だけがコツコツと響く。これ、巷で流行っている創作の宝探しをモチーフにした小説の一場面みたいだな。

 

 無人の食堂のテーブルの間を歩く。前は厨房や食料貯蔵庫も確認したが、今はその先に用事が有る。食料貯蔵庫には、干からびた野菜やカピカピに固まった干し肉。それと酸化したワインが大量に残っているが……

 

 

 

「探索して見付けた財宝とは言えないよな。古代の食生活を知る上では貴重な資料だけど、価値という意味では値段は付かないかな」

 

 

 

 酸化してビネガーになったワインに、金貨を出して買う連中は居ない。

 

 

 

「次は重要区画、武器庫に金庫室だな」

 

 

 

 武器庫、過去には此処で凄惨な戦闘が有り多くの遺体が有った。白骨化していたりミイラ化していたり……同士討ちの結果、殺されたルトライン王国正規兵の連中だな。

 

 死体は丁重に埋葬したが、激しい戦闘が有った痕跡は残っている。壁にロングソードで縫い付けられた死体は埋葬したが、壁に開けられた傷はそのままだし抜いたロングソードも近くに落ちている。

 

 武器庫には未だ大量の武器が残されていて、高価な魔法の付加された物は持ち出されたが、それでも少しだけ魔法が付加された武器や防具が残っているから、宝探しの本命は此処だ。

 

 

 

 まぁ内包された魔力が枯渇した武器や防具も多い。この壁に立て掛けてあった槍もそうだ。本来の効果は機能していないが、調査する資料としては重要。魔術師ギルド本部に与えれば喜ばれるだろう。

 

 金庫室に到着、その最奥の壁には王都防衛軍第一防衛隊隊長殿が倒れていた。いや倒されていた。身体中に矢が刺さり、脇腹には槍が突き刺さった状態でも両手に剣を持ち奮戦したのだろう。

 

 貴方の奮闘のお陰で、金庫室の最奥の隠し金庫の中身は無事でしたし制御室も荒らされずに済みました。改めて元王族として、感謝の意を込めて黙祷する。

 

 

 

「この隠し金庫の存在は秘匿しよう。どの道、エルフ族が調査に入ればバレるだろうけどね」

 

 

 

 壁に掘られている小さなルトライン帝国の紋章に指を添えて魔力を流し込む。既に制御球にて機能を掌握しているので開閉に問題は無い。隠し金庫の扉が音も無く左右に開いたが、当然だが中身は全て持ち出したので何も無い。

 

 手前の金庫室の中身も空、何も無い。それでは宝探しとして味気ないので、持っていても使い道の少ないルトライン帝国の公式な金貨を五千枚程、手前の金庫室の棚に無造作に並べる。

 

 魔法の付加の掛かった武器や防具、それと古代の金貨五千枚があれば一応の成果とはなるだろう。古代遺跡って夢は有るけど、正直実入りは少ないんだよな。

 

 

 

 そうそう古代の秘宝なんて物が有る訳も無いし、王命の中の一つとしての結果としては十分かな?最後に制御室に向かおう。

 

 

 

 貴族や上級士官に与えられていた居住区、ここは其れなりに私物が残されていて調査としても面白いかもしれない。元住人の私物の中には、その時代に流行った著書なども残されている。

 

 まぁ元住人も殺されて部屋は荒らされているので、歴史的なミステリーの題材には事欠かないかも知れない。例えば隊長殿の部屋も荒らされてはいるが、当時の帳簿類は残されていた。

 

 補給の記録に人事名簿、日誌には転生前の自分の事や配下の魔道師団の連中の事など色々な事が書かれていたので回収している。

 

 

 

 アスカロン砦の記録簿には、マリエッタの事を毒婦とか厄災とか酷い書き方をしているので、彼女の名誉の為にも公にはしない。

 

 

 

 制御球の事は、公にするには問題が多過ぎる。ここは秘匿して全てをエルフ族に丸投げするのが吉、彼等なら同じ様な事も出来るので特に問題は無いだろう。

 

 この技術というか、効果が分かったら絶対に復元しろって事になり国の重要施設に設置したがる。現状で、運用可能なのは僕だけだろうし、今も多忙なのにコレもとなれば過労死してしまいます。

 

 技術の秘匿って意味では良くないと思うけど、今の世では過ぎた技術って事で葬り去ろう。ははは、自分勝手で自己中心的な嫌な野郎かも知れないが『僕の幸せな人生』には必要無い。

 

 

 

「さて、最後の大仕事だな」

 

 

 

 司令官室から制御室に侵入出来る。ゴーレムポーンで備え付けの本棚を移動させ、その後ろのツルツルした壁に刻まれたルトライン帝国の紋章に触れて魔力を流し込み入口を錬金する。

 

 ヒト一人がギリギリ通れる通路を抜けると5m四方の小さな部屋が有り、その中央部分の台の上に直径30cm程の球体が置かれている。コレが制御球だ。

 

 前回は魔力を注ぎ込んだが、今回は魔力を抜く。両手を添えて魔力を少しずつ抜いて行く。制御球を取り除くなり破壊するなりも考えたが、クロレス殿が此処の存在を知っているので無用な破壊はしない事にする。

 

 

 

 金塊や宝石を欲しがるとも思えないし、元々はルトライン帝国の資産なのだ。正当な王族である、僕が殆どを貰っても構わないだろう。

 

 魔力を完全に失った制御球は輝きを失い一見すると普通の大きなガラス玉に見える。古代の魔法技術の集大成、叡智の結晶はエルフ族の管理下に置かれる事になる。

 

 僕と関連が有ると気付かれるかも知れないが、三百年も前の出来事だから幾らでも誤魔化せるだろう。最悪はレティシアを通じて、転生した事を教える事になるのかな?

 

 

 

 まぁ何方にしても悪い様にはならないと思う。

 

 

 

さて、小細工は済ませた。もう直ぐ王都から応援の連中も到着するし、魔術師ギルド本部と盗賊ギルド本部の連中と宝探しゴッコをするかな。それはそれで楽しそうだ。

 

 

 


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