古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

963 / 1001
第957話

 今後の行動を決める話し合いの最中に、バニシード公爵の派閥構成貴族の一部が魔牛族にちょっかいを掛けて来た事を知った。息子の嫁とか言っているが、早い者勝ちみたいな感じで婚姻関係を結びたかったのだろう。

 

 魔牛族の成人女性は豊かな胸を持つ母性に溢れた種族だが、それが禍(わざわい)してバーリンゲン王国の連中から受け入れられない要求を突き付けられてエムデン王国に移動している途中だった。

 

 エアレー達、幼女に食指を伸ばす輩がエムデン王国に居た事に悲しみを感じる。しかも彼等の扱いについては、事前に報告書を回して極力接触は控える事と通達しているにも関わらずだ。

 

 

 

 早めに縁を作っておく布石にしたかったのだろう。

 

 

 

 だが、バニシード公爵本人の考えなのかアルドリック殿達参謀連中からの意見なのか?バニシード公爵本人が謝罪し、魔牛族と妖狼族、カシンチ族連合まで最後尾のモレロフの街に送り出した。

 

 モレロフの街の維持管理も任されたというが、押し付けられたというか微妙なのだが、正直街一つを自由にして良いと言われたのは助かる。万を超える非戦闘員を抱えているのだから、拠点として助かる。

 

 王命とは違うのだが、そこは最前線の先任士官としての判断という事で甘んじて受けよう。モレロフの街と、その周辺にカシンチ族連合の簡易野営地を構築。

 

 

 

 ここを拠点として対バーリンゲン王国の亡命や難民対策の最終防衛線とする。

 

 

 

 そして割り当てられた正規の場所に、カシンチ族連合に与える街を造り順次移動させれば良いだろう。魔牛族の連中はモレロフの街を正式な領地を整備する迄の仮の住処としよう。

 

 対応策を決める前に、エムデン王国の貴族連中との接触を抑える為にも街の中に隔離というか住み分けして貰った方が都合が良い。というか当分は目の届く所に置いておきたい。

 

 生活物資等は、ライラック商会に手配させれば不自由な事は無いだろう。詳細は、ミルフィナ殿と擦り合わせが必要だが権限は一任しているので何とかなるだろう。

 

 

 

 問題は、僕がフルフの街に行って周辺の整備を行いカシンチ族連合の野営地を錬金し、難民対策をお願いする案が没になる事だな。

 

 バニシード公爵からすれば、自分の管理下にない勢力を遠ざけた事になる。王命の成果の殆どを独り占め出来ると考えたのかな?相応に仕事は増えるが、後が無いのだから欲張るのは正解だね。

 

 無難にこなすのも方法の一つだが、勢力の巻き返しという意味では弱い。没落のスピードが若干弱まる程度だから、有る程度の命令違反も状況により柔軟に対処したで通せるだろう。

 

 

 

 勿論だが、不用意に魔牛族に接触した派閥構成貴族は厳罰が最低条件だけどね。この状況で配下の数家の首を飛ばす事で済むならプラスだろう。

 

 裏で厳罰に処した貴族連中に金銭でも何でも手厚い補償をしておけば、尚良いだろう。現状、バニシード公爵の派閥構成貴族は他の派閥への鞍替えが難しい。有能な連中は軒並み引き抜かれている。

 

 残っているのは忠誠心が厚い連中と、普通以下の連中だ。叱責して放逐しても禊の期間を設けて、王命達成後に再度受け入れれば良い。

 

 

 

 もしかして、不用意に魔牛族に接近したのも策略の一つか?成人女性に迫ったならば大問題だが、自分の息子の嫁にというならば本人同士が会う迄に相応の時間も有る。

 

 断られても、魔牛族の豊かな胸に母性を見出して迫ったとかの色事とは区別される。幼女愛好家の疑いも同世代の息子の相手となれば、問題にはされないだろう。

 

 もしかしなくても、上手くやられた感じ?此方にもメリットは有るが、総合的には向こうの方がメリットが多いか?

 

 

 

 取り敢えず、アウレール王に報告はしておこう。予定の変更、バニシード公爵派閥構成貴族の魔牛族への接触、モレロフの街をカシンチ族連合と魔牛族の仮の居住地とする事。

 

 後続の連中にも連絡して、モレロフの街で合流しよう。予定を変更し、此処の整備を優先。新しい街造りは保留だな。最悪というか、このまま此処をカシンチ族連合に与えられれば手間は省ける。

 

 予定と違う場所になるが、バニシード公爵の対応により予定が変更になり二度手間を省く為にって事にして提案してみようかな。

 

 

 

 転んでないけどタダで済ませるには少し面白く無いし、新しく街を造るより既存の街を拡張した方が楽だし早い。最終防衛線として機能させる事も合わせて提案しよう。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「幼女愛好家の糞共がぁ!なにが幼気な幼女の魅力は近くで愛でる事だと?知るか、馬鹿野郎!」

 

 

 

 魔牛族の扱いについては何度も念押しをしたし、された。異種族といえども軽んじるな、色に負けるな。魔牛族も妖狼族も、奴とエルフ族が背後に居るんだぞ!

 

 確かに見目の良い連中だった。ミルフィナという族長の女を見た時に、俺でもあらぬ妄想を仕掛けたが理性で押し留めた。あの女を手に入れたいと思う貴族は多いだろう。

 

 だが手を出せば最悪の未来が強制的に訪れる事を嫌と言う程、教えた筈だぞ!いや『成人の方じゃなく幼女です』じゃねえ、馬鹿野郎がっ!

 

 

 

 思わず執務机を全力で叩いて、痛みで少しだけ感情が落ち着く。

 

 

 

「バニシード公爵様、落ち着いて下さい」

 

 

 

「俺は落ち着いている。静かなる怒りに我を忘れそうだが、未だ押し留めているぞ」

 

 

 

 胡乱な目を向けて俺を見る、アルドリックを睨みつける。余りの怒りで頭痛はするし怒鳴り過ぎて喉も痛い、執務机を叩いた両拳も痛ければ、先程壁を蹴った足も痛い。

 

 満身創痍、その一言に尽きる。カシオンの馬鹿が、お前の仕出かした事の影響が分からんのか?幼女の魅力を俺に語るな。お前の性癖など知りたくも無い。

 

 なにが『側で見て愛でるだけで、指一本触れません。息子も同様、成人するまでは触らせませんので問題有りません』じゃねぇ!問題しか、ねぇぞ。

 

 

 

「お前の提案を飲んで、モレロフの街を明け渡したが良かったのか?俺達に下された王命と違うぞ。カシンチ族連合の連中も取り調べもぜすに素通りさせる必要は有ったのか?」

 

 

 

 魔牛族は当事者だし事を荒立てない内に丁重に扱う必要は分かるし、謝罪も……まぁ嫌だったが仕方無い。ここで意地を張って頭を下げねば、俺でもどうなるか分からん。

 

 妖狼族の連中も護衛と言う事で、同じ扱いにするには理解出来る。奴等だけ取り調べたり拘束したりすれば、折角頭を下げたのに魔牛族が敵意を持つだろう。

 

 ミルフィナと妖狼族のフェルリルといったか?友人らしいし、差別するにはデメリットでしかない。俺もそれ位の損得勘定は出来る。

 

 

 

 だが辺境の蛮族共まで、素通りさせる必要が有ったのかと言われると理解も納得も出来ない。

 

 

 

「カシンチ族連合はバーリンゲン王国と敵対していましたから、彼等の中に難民が紛れ込んでいる確率は低いでしょう。仮に潜んで居たとしても、彼等はバーレイ伯爵の管理下です。

 

見付かっても、責は向こうが負いましょう」

 

 

 

「まぁな。奴等に付いて行こうと周囲で屯っていた難民連中の排除の方が手に負えなかったぞ。誰それの知り合いだとか仲間だとか、バレる嘘を平気で吐く」

 

 

 

 頭が痛い状況だが、フルフの街の周辺に難民共が住み着いている。武力での排除は問題が有り最終手段だが、それほどの時間も残されてないだろう。

 

 早ければ一ヶ月以内に、武力行使に踏み切らねば駄目かもしれないぞ。増えすぎて反乱でも起こされたら、此方の被害も馬鹿には出来ない。

 

 王命で明確に責任範囲を定めさせたのは建前を好む、ゴーレムマスターの奴の仕業だろうな。難民対策の全てを押し付けて来やがった。故に今回の件も権限の範囲内だ。

 

 

 

「それに王命では、カシンチ族連合にも難民対策を手伝わせると有りましたが、フルフの街の周辺に居られると我々との調整が発生します。成果も奪われる可能性も有りました」

 

 

 

 そうドヤ顔で言われてもだな。お前のドヤ顔など需要は皆無だぞ。まぁ理由としては納得はする。ゴーレムマスターが助力すれば相応の手柄を上げ成果を奪われるだろう。

 

 此処まで苦労しておいて、成果を分けるとかは嫌だな。現状でも、なんとか上手く回っている。いまさら増援など不要、手の届かない最後方へ送り出したのは正解だな。

 

 俺と同じくアルドリックの奴も後が無い。ここで手柄を奪われるリスクを減らしたのは正解だ。手柄は独り占めするに限る。そうしなければならない。

 

 

 

「だから理由を付けて後方へ押しやったのか?必要かは疑問だが、魔牛族の連中の護衛としてか。確かに仕事の区分も面倒だし手柄の何割かは取られるな」

 

 

 

「はい。確かに事前の打合せとは異なりますが、現地で臨機応変に対処したって事ですからお咎めは無い筈です」

 

 

 

 お互い黒い笑みを浮かべる。今迄も苦労してきたのだ。いまさら少しの助力で何割かの成果を奪われる位ならば、多少の、命令違反を犯してもプラスだな。

 

 アイツの手駒を切り離せるだけでも意趣返しにはなるか?最後方だから最終防衛線だな。そこを突破された場合の責任は、奴の方が大きいだろう。

 

 見逃しても最悪の失敗ではない。突破されても最後の保険としての守りは有る。そういう余裕が生まれる訳だな。

 

 

 

「うむ、良い献策だったぞ。さて、次はフルフの街周辺に居座る難民共だが……どうする?」

 

 

 

 モレロフの街は切り離して考えてよい。スメタナの街は順調、定期的に見回りを行い難民は見つけ次第拘束。

 

 財産を没収、抵抗すれば処分し無抵抗ならばフルフの街より先に強制的に追いやっている。結構な押収品が有り、今回の作戦の費用として運用して良いとのアウレール王からも言われている。

 

 財貨に食料、自分の懐に入れる訳にはいかないが予算が逼迫しているので補填する意味でも有難い。現地調達や臨時の徴収は極力抑える様に命じられているが、抵抗する連中には適用しない。

 

 

 

 財貨を奪って放逐すれば、より弱い奴から奪うのが連中だ。ここを最前線の防衛ラインとして抑えておけば、奴等は奪い合いを繰り返して弱い連中から淘汰される。

 

 そもそもの国力が低く、生産を担当する連中が……作る側が奪う側になれば、放っておいても数が減る。俺達が直接手を下さなくても、淘汰か浄化か?まぁ数は減る。

 

 長期間、此処に拘束されてしまうがエルフ共に一年後にはフルフの街を引き渡す事になる。奴等もバーリンゲン王国の連中は目障りだからと処分に力を入れるだろう。

 

 

 

 つまり約一年程、此処に拘束される訳だな。

 

 

 

「普段通りに見つけ次第拘束、抵抗すれば処分。抵抗しなければ財貨を没収して放逐、あとは自由ですよ。奪うも奪われるも、殺すも殺されるも。自然と数は減るでしょう」

 

 

 

 同じ考えって事だな。現状維持、難しいが出来ない訳じゃない。余計な邪魔が居なければ上手く機能しているので、維持は難しくない。兵士達のケアは厚くする必要が有るな。

 

 正規に予算を申請すれば通るだろう。人員の交代も早々に計画をしておけば融通は利かせて貰えるだろう。概ね三ヶ月で交代する予定だ。それ位なら兵士達の精神も保つだろう。

 

 俺の変わりは居ないのは仕方が無い。だが敵国の連中が悲惨な末路を迎えようが、俺の精神は病まない。本当なら皆殺しされても文句が言えない連中なのだからな。

 

 

 

「ふふふ、お主も悪よのう」

 

 

 

「いえいえ、公爵様には敵いません」

 

 

 

 腹の底から笑いが込み上げてくる。王命の達成までの道のりは順調、この仕事を無事に終える事が出来れば返り咲く事も可能だろう。

 

 暫くすれば、ゴーレムマスターの奴がフルフの街に滞在し大使館やら自分の屋敷を整備し、此処の地下にある巨大な空間の調査をするらしいが邪魔はしないが、邪魔もさせない。

 

 先任の俺に伺いを立てに来るだろうな。精々、先輩として対応させて貰うぞ。ふふふ、奴を合法的に下に見る事が出来るのは笑いが止まらないな。

 

 

 

「うわっはっは!楽しみだな」

 

 

 

 公爵四家の四位まで落ち込み没落も秒読みだったが、巻き返しも可能な状況まで巻き返している。ザスキアを押し退けて三位になる事は無理だろう。ニーレンスやローランにも勝てる可能性は低い。

 

 だが公爵家としての地位と勢力は維持出来る。今は耐え未来に希望を託すしかない。だが後継者が定まらないのだ。これと言って優秀な者が居ないのが心配事なのだ。

 

 目ぼしい連中は早々に引き抜かれ、残っているのは普通かそれ以下。実子共は小粒ばかりで、養子を迎えるにしても同じだな。今から頑張って後継者を仕込むにしても時間が……

 

 

 

 最大の問題は、自分の後継者か……才女との間に作った子供が優秀とも限らない。血筋や血縁を重視しても同じ、教育の問題とも言うが素養が無ければ凡人を量産するだけ。

 

 

 

 なまじ自分が傑出した人物だけに、後継者のレベルも高くなってしまう。これも自業自得という事なのか?出来る男は辛いものだな。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。