古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第96話

 ニーレンス公爵の娘、メディア嬢とエルフ族のレティシアに目を付けられた。

 あのレティシアという女の探査魔法と精神操作魔法だが、過去に同じ魔法を掛けられた事がある。

 僕がルトライン帝国の王族だった頃、既に魔導師団を率いて戦争に明け暮れていた。

 敵国と隣接した森にエルフ族の集落が有り、作戦上どうしても森を通過したかった為に僕とマリエッタの二人で交渉に行った。

 行ったが、人間なんて相手にしないエルフ族とは交渉にならず追い返された。

 初めて森に踏み込んだ時に問答無用で掛けられたのと同じ魔法とはな。

 彼女は『ゼロリックスの森』のエルフ族かもしれない、結局若いエルフの子供に勝負を挑まれギリギリ辛勝した事で何とか森の通過を認めて貰ったんだ……

 

「ぐぬぬぬ、今思い出しても腹が立つ。魔法師団長たる僕が子供相手に騙し討ち的な勝ち方しか出来なかった。全盛期だった僕がだ!」

 

 一度負けたからと何度もリベンジしてきたあの子供、名前は確か……何だったかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その日の午後、エレさんと二人で魔法迷宮バンクを攻略する事にした。

 イルメラはモア教の教会の孤児院に差し入れと、ニクラス司祭に会いに行った。

 ウィンディアはデオドラ男爵の所に定期報告に行って戻ってきていない。

 幼馴染みのルーテシア嬢と積もる話も有るだろう。

 そこでエレさんのレベルアップとビックボアのレアドロップアイテム収集依頼をこなす為に、魔法迷宮バンクに来た。

 昼過ぎなので他のパーティも殆どいない、大抵は朝一番から目一杯攻略するから。

 

「二人で依頼って久し振り、冒険者養成学校の強制実地訓練以来だね」

 

 隣を歩くエレさんが、多分だが嬉しそうに言ってくれたが前髪を下ろしてるから表情が分かり辛い。

 

「そうだね、ビックビー討伐以来か。今日は三階層のボスであるビッグボアを狩るよ、レアドロップアイテムの肝を集めよう」

 

 入口前でゴーレムポーンを六体錬成し前衛四体、後衛二体のフォーメーションを組む。

 因みに魔法迷宮内のモンスターは突然ポップするから、エレさんの『鷹の目』は使えない。

 

「三階層迄は真っ直ぐ行くよ」

 

「分かった……」

 

 魔法の灯りを六個作り周囲に浮かべる、松明やランタンと違い両手が使えるから便利だ。

 早足で下に降りる階段を目指す、道順は既に記憶しているので問題は無い。

 

「前方に魔素の光が……」

 

「ゴブリンか、ゴーレムポーンよ、実体化と同時に攻撃!」

 

 ポップ数は四体、実体化と同時にロングソードで袈裟懸けに切り裂かれて魔素に還った。

 暫くぶりの魔法迷宮だが大丈夫だな、勘は鈍っていない。

 

「はい、ポーション二個」

 

 エレさんがドロップアイテムを拾い渡してくれる。

 

「有難う、幸先良いね」

 

 空間創造にポーションを収納する、因みに今日の僕は何時もの軽戦士の格好をしている。

 防御の要のイルメラが不在なのでラウンドシールドも装備した、常時展開の魔法障壁も張っているが万が一の為だ。

 何かの拍子に精神統一が乱れると障壁が機能しない場合も有る、用心に越した事はない。

 

 一階層で他のパーティとは遭遇はしなかった、二階層に降りるとポップモンスターと戦っているパーティが居たが迂回して三階層に降りる。

 三階層でポップするモンスターはコボルド、奴等は飛び道具を使い後衛にも直接攻撃をしてくる厄介な連中だ。

 ボス部屋に行く途中、二回程ポップモンスターと遭遇したが問題無く倒した。

 僕のゴーレム制御も上達したしエレさんのレベルが20になったら四階層に降りよう、四階層からはランダム罠や宝箱にも罠が掛かってるが盗賊職のエレさんのパーティ加入で漸く安全に攻略可能になった。

 

「さて、ボス部屋に到着した。101回目のボス狩りを始めよう、予定は20回ね」

 

 そう言ってゴーレムポーンを魔素に還しゴーレムナイトを六体錬成する、レベルアップの恩恵でゴーレムナイトなら八体まで負担無く運用出来る。

 最大なら十二体位は平気だろう。

 

「扉開ける」

 

「了解、ボス狩り開始だ!」

 

 エレさんが開けた扉にゴーレムナイトを先行させる、精度の上がったゴーレムナイトはビッグボア相手にどこまで戦えるだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「脆い、先日の敵も今日の敵ではなかったか……」

 

 ゴーレムナイトの性能が全体的に底上げされた為に、ビッグボアの突進に耐え一撃で倒せる様になっていた……

 

「凄い、前回より断然楽になった」

 

「そうだね、自分が強くなる事を実感出来るのは良い事だね。しかし未だ最も魔法迷宮の三階層レベルのモンスター相手だ、慢心は禁物だよ」

 

 前に『黒鉄兵団』のスパイクさんに教えて貰ったが、バンクの本番は七階層からでモンスターが格段に強くなるそうだ。

 

「ん、分かってる。扉開ける?」

 

「ああ、一応外を確認してくれるかな」

 

 ボス部屋独占とか言われない様に毎回外は確認する事は忘れない。まぁ武器庫や宝物庫と違いボス部屋は不人気なんだけどさ……

 

「大丈夫、誰も居ない」

 

「よし、閉めてくれ。本日二回目のボス狩り開始だ!」

 

 エレさんが扉を閉めるとボス部屋の左奥部分に魔素が集まりビッグボアが実体化し始めた。距離が有るので実体化即攻撃は無理、迎撃の準備をする。

 

「四体横並び、突進に備えろ。二体は僕等の防御に専念だ」

 

 ビッグボアの突進は真っ直ぐだったりフェイントを織り交ぜたりするが、四体ならば何処から来ても押さえ込める。

 突進さえ止めてしまえば残りの三体で攻撃して倒す、落ち着いて対処すれば負ける事は無い。

 

「残念、今度は獣皮だった」

 

「ドロップしない時も有るからね、儲け物だよ」

 

 獣皮を空間創造にしまい、103回目のボス狩りを始める。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「これで120回目まで終了、終わりにしよう」

 

「ん、ドロップアイテムはルビーだけだった」

 

 割と効率良くボス狩り20回を終えた、成果は肝が五個に獣皮が六枚、それにルビーが二個だ。

 肝は金貨五枚、獣皮は金貨一枚銀貨五枚だから今日の稼ぎは金貨三十四枚、悪くない稼ぎかな。

 エレさんのレベルも一つ上がり18となった、レベル20までもう少しだ。

 途中で手に入れたポーションやハイポーションは売らずにストックしておく。

 イルメラの負担を減らす為にも回復薬は予備を持つ事にしている。

 ゴーレムナイトからゴーレムポーンに変更しボス部屋から出る、ボスに挑戦する待ちパーティは居なかった。

 やはり人気なのは宝物庫と武器庫か、僕は固定の宝箱との相性が悪くダガーしか出てこないのだが……

 

 三階層を歩いていると前方で戦闘中のパーティを見付けた、危なげない戦い方だ。

 後衛職が弓矢で牽制し体制が崩れたコボルドを前衛職が倒す、良く連携が取れている。でも、何処かで見た事が有るな……

 

「ヘラとマーサだ」

 

「ヘラさん?ああ、『マップス』か!」

 

 思い出した、エレさんを勧めてきた彼女の幼馴染み達だ!リーダーのキプロスが最後のコボルドの喉をショートスピアで刺して戦闘は終了した。

 

「ヘラ、マーサ!」

 

 珍しく比較的大きな声を掛けて彼女達に駆け寄っていくエレさんの後ろに着いていく。

 抱き合って喜ぶ彼女達を微笑ましく見ていると男性陣に囲まれた、確かキプロスとラギアスにムランだっけ?

 

「久し振りだな、今日はあの子と二人切りか?」

 

「ああ、エレさんのレベルアップとドロップアイテム集めの為にね。君達は、マッピング?」

 

 確か彼等は自分達で魔法迷宮の地図を作るって言ってたな、明確な目標を持っている連中だ。

 

「いや経験値と資金稼ぎだ、三階層迄のマッピングは完了したけど、四階層に降りる前にレベルアップと装備を整えたい」

 

「堅実だな、先程の戦い方も見せて貰ったが安定してるね」

 

 順調な迷宮攻略方法だ、余程の無理をしなければ堅実にレベルもランクも上がるだろう。

 僕は成人前になるべく早くCランクになる為に駆け足してるけど……

 

「前回ビッグボアで痛い目みたからな、身の程を弁えないと全滅するのは理解したよ。

君達はボス狩りか?有名だぞ、誰も真似しない狂った迷宮攻略だってさ」

 

 彼等の顔は笑ってるから悪い意味で言ってないが、僕等の迷宮攻略方法は広まっている。

 この先誰かが真似しないとも限らないな、連続十回毎のアイテムドロップの情報提供のタイミングを考えるか……

 

「僕等は前衛職にダメージ無視のゴーレムを使えるからね。迷宮内を彷徨ってポップモンスターを探すよりは効率的だよ、これは土属性魔術師の特権かな」

 

「便利だよな、魔術師。どっかに仲間を探してるフリーの魔術師居ないかな?」

 

「いや、それは居ないだろ!」

 

 思わず突っ込みを入れたが、そんな野良魔術師とか聞いた事が無いぞ。

 

「いや、たまに居るんだ。所属していたパーティが全滅したとか人間関係で揉めて離脱とかさ。

まぁ後者の場合は大抵問題有る性格をしているらしいがね、前者の場合は直ぐに勧誘合戦だ。

たまに一人で行動してる魔術師が短期で仲間を募る場合が有る、これは狙い目だ。

一人じゃ無理だが仲間を募っても請けたい依頼な訳だから旨みが有る」

 

 色々と考えているんだな、フリーで短期に仲間を募る連中はベリトリアさんやコレットの事だな。

 少人数の方が報酬も経験値も多く貰えるから、ある程度強い魔術師はフリーが多いって本当なのかも……

 

「君達『ブレイクフリー』には嫉妬が酷いぜ、なんたって魔術師二人に僧侶一人だ、贅沢過ぎるメンバーなんだぞ!だから勧誘だ、『マップス』に入らないか」

 

 この清々しい位の真っ直ぐな勧誘には苦笑いしかないな。

 

「毎回同じで悪いが断るよ」

 

 そうかと笑って肩を叩いてきたので勧誘が本気なのか残念がってるのか分からなくなってしまう。

 何となく『マップス』と共に出口まで一緒に行く事になったがポップモンスターとは遭遇せずに済んだ。

 他にも帰るパーティが居て倒してくれてるみたいだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「エレ、リーンハルト君ってどうなの?」

 

「そうそう、若くて可愛い女の子限定って条件だったじゃない?」

 

 幼馴染みと合流し何となく昔みたいに話ながら出口に向かう事になった、彼女達が私をリーンハルト君に推薦してくれたのは聞いている。

 

「噂は嘘、男女関係については鈍くて奥手、でもパーティの他の二人から想われている」

 

 イルメラさんとウィンディアさんの分かり易いアプローチに気付いてないと思う。

 

「エレはどうなの?アピールしてる?」

 

「若くて有望な冒険者なんだし頑張れば?」

 

 他人の恋話は面白いのだろう、今迄はそんな話題は出なかったのに二人共楽しそう。

 

「仲間としては大切にされてるけど……恋の相手には見られてない」

 

 あの二人に割り込むのは怖い、それに男女間の恋愛について未だ分からない。

 暫くはリーンハルト君についての質問が続いた、答える度に楽しそうに聞いている。

 

「そうだ!エレ、レベル上がったんでしょ?」

 

「うん、さっきレベル18になった、ギルドカードは17のままだけど……」

 

「「はぃ?」」

 

 固まった二人を不思議そうに見る、そんなに驚くとは思わなかった。

 

「「なんでさ?どうやって?」」

 

 どうやって?確か最初は……

 

「最初は二人でビックビーを172匹、パーティでアタックドッグを87匹、今日は二人でビッグボアを20匹……」

 

 指折り数えてみるけど結構な討伐数だ。

 

「まさか半月でレベル6のエレをレベル18まで引き上げるなんて……」

 

「私達だってレベル16なのに抜かされたわ。エレ、リーンハルト君を逃がしちゃ駄目よ!私達も協力するから、何としても口説き落しなさい」

 

 ヘラに両肩を掴まれてガクガクと揺らされる、マーサも怖い顔で頷いているけど……子供の私には無理だと思う。

 

「多分無理、リーンハルト君にとって私は恋愛対象外だと思う。私も恋愛とか良く分からないし……」

 

 何故か盛大にため息をつかれた?

 


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