古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第951話

 

 メディア嬢に呼ばれて、ニーレンス公爵の屋敷に来ている。レティシア達の御機嫌伺いは済んだが、その時に色々とヤバい情報もメディア嬢に与えてしまった。

 

 レティシア達にとっては、大した事もない内容なのだろう。だが人間にとっては、結構重要な事も多かった。特にフルフの街の地下にある『アスカロン砦』の情報は驚いただろう。

 

 現代に生きる連中にとって古代遺跡の恩恵は計り知れない。既に僕がフルフの街の地下に大空間が有ると報告していたので、余計に信憑性が高い。長寿種のエルフ族の情報なら真実と考えただろう。

 

 

 

 だから、メディア嬢も実家を噛ませろと圧を掛けて来たし、リザネクス殿もニーレンス公爵家所属の土属性魔術師をバーリンゲン王国領に派遣すると明言した。

 

 近くにいるなら、調査を開始した時に参加し易い。それと僕が錬金で色々と仕事をする事が決まっているから、そのまま協力体制を築きやすい。そこまで考えての提案だな。

 

 そもそも錬金関連の仕事ならば、僕の一時的な指揮下に組み込まれる可能性も考えての事だろう。手伝いもするから参加させてくれ。悪い提案でもないし、断り辛くも有る。

 

 

 

 メディア嬢の要求を更に一歩踏み込んで、双方に利が有る様に持ってきている。流石と言うしかなく、拒否は難しい。拒否するつもりもないが、事前に内緒でする事も多いな……主に証拠隠滅。

 

 

 

「そうですね。周辺の諸々の整備に錬金が得意な土属性魔術師は重用されますから、僕も魔術師ギルド本部に声掛けをして派遣させます。連携していきましょう」

 

 

 

 ニーレンス公爵とリザネクス殿が望むであろう、言葉を掛ける。もっとも彼等からすれば、僕が彼等の意を汲んで行動するのも想定の内だろう。

 

 魔術師ギルド本部所属の土属性魔術師も連れて行くのは、予想外かもしれないが特に反応も反対もなかった。どの道、レニコーン殿とリネージュ殿に調査時の同行を許可している。

 

 盗賊ギルド本部は微妙だな。前代表のオバル殿には、それっぽい事も言ったが確約はしていない。現代表殿はイマイチ信用ならないし、水脈調査の依頼だけでも良いかな?

 

 

 

 エレさんというか、ブレイクフリーのメンバーは全員呼ぶかな。一線級の冒険者パーティだし、僕のお抱え冒険者としてでも問題は無いだろう。自分がリーダーなのだから。

 

 ベルベットさんとギルテックさんにも、声を掛けておくか?ティルノーツさんと同じく、エムデン王国からの指名依頼にすれば良いか。盗賊ギルド本部も実績が増えて嬉しいだろう。

 

 直接の恩恵は少ないかもしれないが、彼女達をフォローする名目で他に人員を出す事も許可しよう。メインは彼女達だが、参加するだけで相応の利益にはなる。

 

 

 

 依頼料も弾めば、盗賊ギルド本部としても仲介手数料でそれなりに利益も出る。

 

 

 

「うむ、それが良いのぅ」

 

 

 

「はっはっは、古代の秘密基地か。期待に胸が膨らむな」

 

 

 

 魔術師ギルド本部を噛ませる事も想定内かな?彼等はいずれ僕の立ち上げる魔道師団の中核メンバー、それを育成中というのが公式見解だからね。

 

 僕も公言してるし、彼等もそのつもりで自己研鑽に励んでいる。マーリカ殿という不穏分子もいるが、法に触れる様な悪どい事をしない限りは問題無いし、するつもりもない。

 

 個性と割り切れば良い。獅子身中の虫?いや、特に下剋上や裏切り前提でないので大丈夫だろう。彼女の中の善悪のルールに抵触しない限り、変な行動はしないし調書では最近は大人しい。

 

 

 

 まぁ現状で悪さをする様な連中は少なくなっているが、エムデン王国であっても全く居ない訳でもないのが心配では有る。特に女性絡みの悪事というか、何と言うか……

 

 あと盗賊ギルド本部への参加要請の件は、今は言わないでおくか。もう少し考えを煮詰めてから、急いで話す事でもない。

 

 プロジェクトが正式に立ち上がれば他からも要望が集まるだろうし、その時の候補の中から選んだ事にしてもよい。全てを僕とニーレンス公爵で決めた事にするのも、後々で問題になるかも?

 

 

 

 どちらにしても独断でなく協議はしたって事実は作っておくべきだろう。あと、ザスキア公爵には相談し、ローラン公爵には報告かな。いや、ローラン公爵にはニーレンス公爵が話すかな?

 

 本妻殿達も含めて幼馴染の関係らしいし、僕の知らない連携もしている可能性も有る。だが、ローラン公爵は武門の家系で所属する魔術師は少ないので正直参加する意味は微妙?

 

 利益供与での参加?先送りにして、もう少し後で考えても間に合うか?まだ急ぐ段階でも無いから良いかな?どの道、調査自体は住民の退去が済んで周辺の整備が完了してからだから……

 

 

 

 隠蔽工作後として、半年後位かな?

 

 

 

「そうですね。クロレス殿が言う通り古代の秘密基地なのは間違いないのですから、遺跡であっても何かしらの成果は有るでしょう。僕も楽しみにしています」

 

 

 

 お互い笑顔で期待していますと言い合って終了。ニーレンス公爵家と協力して調査を進める事になる。多分だが、後でローラン公爵も参加を打診してくるだろう。

 

 ザスキア公爵の参加は微妙だと思うな。あの人は直接的な協力よりも違う方面で協力を打診してくる筈だ。分かり易い三分割な恩着せよりも独り占めな恩着せを仕掛けて来る。

 

 それは多分だが、彼女だけしか出来ない諜報関係の何か。つまり防衛線の穴のフォロー、バニシード公爵に恩を着せるか追い込むか?そういう類の事だと予想出来る。

 

 

 

 口止めと協力関係の約束を終えて、王宮に出仕する。思った以上に時間が掛かってしまい、到着は昼前になりそうだ。まぁ僕は出退勤の時間に制限は無いので大丈夫だけど、気は引ける。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 数日間、王都に滞在し根回しに奔走する。正直、未だ数日はバーリンゲン王国領に向かう事は出来ないだろう。魔牛族は順調に移動し、フルフの街に到着。

 

 移動の疲れを癒す名目で歓待という足止めを行って貰っている。カシンチ族連合も順調に移動しているが、フルフの街に到着するのには未だ数日は掛かる。

 

 妖狼族の護衛達というかサーフィルが異様に頑張っていて、彼等を襲おうとしている連中の殲滅に力を入れているらしく既に五回の襲撃を跳ね除けているらしい。

 

 

 

 バーリンゲン王国の領民達の民度は低く、犯罪行為も自分達の為ならばお構いなし。集落単位で協力し合い、野盗化して他の者達から奪い合いを始めているらしい。

 

 森の浸食よりも無政府状態で、やりたい放題しているのが正解らしい。各地の領主達もクーデターを成功させた連中の指示など聞かず、領地の拡大に励んでいる。

 

 まさに群雄割拠時代に突入、各教義の中に有る世界の終わりという世紀末の様相を呈している。まぁ国が無くなるから間違いでも無い、あとは根こそぎ滅ぼすだけだ。

 

 

 

 ザスキア公爵は刻々と集まって来る膨大な情報を精査し、フルフの街にアウレール王経由で王命と言う指示を出しているので多忙らしく、僕の執務室に遊びに来る回数も減った。

 

 バニシード公爵も王命にザスキア公爵の影を感じ取っていると思うが、反発はしていない。モレロフの街とスメタナの街の住民の強制退去は、彼の手の者によって粛々と行っている。

 

 現地は相当荒れているらしく、バニシード公爵は強権連発で現地民から相当の悪意を向けられている。二回ほど、住民達による反乱が有り武力にて鎮圧している。

 

 

 

 それを嗾けた張本人が、僕の目の前でソファーに横になりイーリンに爪の手入れをさせているのだが……見た目が十代半ばまで若返っているので、違和感が半端ない。

 

 少し背伸びをして大人の淑女の真似をしている風なのだが、異様に大人びているのと色気が滲み出ていて何と言って良いか形容し難い感じですね。

 

 そう考えている自分も十五歳になったが成人の儀もお預け中で、巨大な執務机に報告書やら指示書やらを並べて座っている。端から見れば、僕も年齢不相応な状況だろう。

 

 

 

 王宮内の豪華な執務室に、十代半ばの男女が仕事をしたり寛いだりしているのだから……

 

 

 

「バニシードのお馬鹿さんも、やる時はやるわね。アルドリックさん達と協力して、二つの街の住民の退去を順調に進めているわね」

 

 

「苦労してると聞きましたが、最新の情報では順調なのですね」

 

 

 仕事が一段落したからか、順調だからか分からないが機嫌は良さそうだ。一時期は王宮の自分の執務室に寝泊まりしていたらしく、目の下に隈まで作っていたらしい。

 

 疲労が抜ける迄は恥ずかしいからといって、会う事も控えていたし。僕は気にしないのだが、やはり淑女として目の下に隈が出来たり肌が荒れたりした状態を異性に見られるのは駄目だそうだ。

 

 巻き添えを食らった、リゼルも疲労困憊で親書で文句を書き連ねて複数送ってきた。分厚い親書を書くなら、少しでも多く休めって言いたいがハイポーションを多めに送っておいた。

 

 

 

 美に拘る女性達だからね。

 

 

 

「限られた兵力ですから、エムデン王国側から彼等を追い立てているのは正解だと思います。スメタナの街と、その周辺の土地をカシンチ族連合に与える事に決まりましたので早めに明け渡して欲しいですね」

 

 

 

「あら?辛辣ね。でも正解、取りこぼしの無いようにジワジワと最終防衛線を押し上げていくのが効果的よ。一斉に追い出したら散り散りに何処に逃げ出すか分からないもの」

 

 

 

 不快害虫みたいな連中よね?って此方を見ずに何て事の無い口調で言った内容には思いやりも慈悲も無い。確かに何処に隠れるか分からないし限られた人数では全域を見張れない。

 

 メリットも多いがデメリットも多い。追い出された連中は逃げた先々で、バニシード公爵というかエムデン王国の非道な行いを騒ぎ立てているだろう。当然だが、フルフの街に押し掛けて有る事無い事言い触らしている。

 

 フルフの街の連中も激しい抵抗をするだろう。既に二回も反乱して鎮圧されたが懲りないだろうな。二つの街から追い立てられた連中が合流して戦力は膨らむ。

 

 

 

 奴等は強気になり、物凄い要求を突き付けて来る。そして三度目の鎮圧となり間引きが進むのだが、エムデン王国の正規兵が反乱とはいえ元領民を害する事の意味は重い。

 

 醜聞を考えてカシンチ族連合に援助してフルフの街の手前まで移動させているが、中々計画通りには進まない。最悪、カシンチ族連合はバニシード公爵の手の者に蹴散らされた連中の追撃で終わるか?

 

 いや、地下に潜った連中との攻防戦の始まりか?この流れはイマイチ良くないのだが……僕も未だ準備と根回し中だから動けない。

 

 

 

「散り散りになった連中が地下に潜って、エムデン王国に不正規戦を仕掛けて来る未来が見えます」

 

 

 

 国家によって整備され訓練の行き届いた制式な軍隊を相手に民兵や義勇軍、反乱を企てた民衆が蜂起する。良く有る図式だが、厄介で長引くし負担も大きい。

 

 

 

「長くは続かないわよ。確かに予想としては有りですけれど、戦闘を継続するには援助が必要だけど孤立しているわ。近隣諸国もエムデン王国を敵に回してまで援助しないわよ」

 

 

 

 そもそもルートは全て潰しているのだから、海路でも陸路でも無理でしょ!って、顔だけ此方に向けて笑顔で言い放った。

 

 確かに隣接しているエムデン王国でさえ、カシンチ族連合への援助に手間取り、僕が空間創造のギフトと単独侵攻という反則気味の荒業で何とかしたんだ。他の国では無理だ。

 

 それに、そもそも国力が低く生産性も乏しい連中が生産活動を止めて不正規戦に力を入れても、直ぐに武器や食料が尽きて動けなくなる。

 

 

 

 最悪は味方同士で少ない食料や物資を奪い合いあって自滅かな?

 

 

 

「モア教への対応さえ間違えなければ、半年位で自滅しそうですね」

 

 

 

 友愛を教義とする、モア教が飢餓が蔓延し領民達が少ない物資を奪い合う地獄絵図みたいな状況を座視するかは……正直分からない。

 

 モア教はバーリンゲン王国を見限って撤退したが、もしかしたら友愛に溢れた者達が動き出す可能性はゼロじゃない。それが信徒に寄り添う、モア教の良い所だから。

 

 情報封鎖、思った以上に強化する必要が有りそうだな……って思っていたら、気が付いたらザスキア公爵から凝視されていた。

 

 

 

 しまった。また思考の海に沈んで、彼女を放置してしまった。

 

 

 

「私を前にして思考の海に沈むのは、食べちゃっても良いって事で宜しいかしら?」

 

 

 

 慌てて頭を下げる。何度目の言葉か忘れる程に同じ過ちというか失敗を繰り返している。しかし多分だが、この癖は治らない。魔術師として色々と考え込むのは職業病だから。

 

 

 

「いえ、申し訳有りませんでした。そのような意味では有りませんので、ご容赦下さい」

 

 

 

 ザスキア公爵が笑って許す迄が一連の流れなのだが、偶に冗談じゃない雰囲気になる時が有る。この癖、本気で治すか対応を考えないと何時か食べられてしまう幻影が……

 


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