古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第945話

 パゥルム女王達の行動、その問題の調査にリゼルのギフトを使用する事への事前説明を聞いた。オルフェイス王女がミーティア達、影の護衛を動かし王宮内にて問題行動を行った。

 

 普通に処罰対象になる大問題、元属国の王族とは言え幽閉先で何を仕出かしたのか理解しているのだろうか?何の根拠も無く、自分達が優先されるから平気とか考えている?

 

 いやいやいや、一応対外的には亡命という形にしているので軟禁に近い幽閉状態にしている。一応、外部との接触は断っているが……完ぺきではなかった。

 

 

 

 影の護衛、有能な諜報部員でもあるのだが使い捨てに近い形で失った。

 

 

 

 オルフェイス王女が病んでいる事は理解していたが、姉妹の安寧が最重要だと思い警戒を怠った事が原因か?いや、狂人の思考を理解しようとした事が間違いか?

 

 彼女はリゼルのギフトの事は知っていた。思考を読まれる事は謀略を企てている連中からしたら、どうにもならない。直ぐにバレて対処される。

 

 そんなギフトでは証拠にはならない?いや、別に公平な裁判で争う訳じゃない。十分な証拠として対応する根拠となる。それを理解しての今回の行動とは?

 

 

 

「もしかして、オルフェイス王女の目的とは国王と王妃達との不和を煽る事でしょうか?彼女達の利益にはなりませんが、嫌がらせとしての意味は大きいでしょう」

 

 

 

 無意味っぽいが、敢えて無駄な事を真面目にやる。斜め上の理由で『自分達を蔑ろにしているから罰を与えた』とか?最悪を嬉々として選択する連中だからな。

 

 まさかという理由が本当だったとか、笑えないが有り得る。自分で言ってまさかと思っているけど、ザスキア公爵とか真面目に考えているし当たらずとも遠からず?

 

 アウレール王とリズリット王妃の不仲を煽って、そこから連中の利益を生み出すにはどうする?ネクタルを手に入れても数個程度じゃ、こちらの有利は覆らないよ。

 

 

 

 既に四桁単位で確保しているし、数個手に入れたとしても一人が十年程度若返って終わり。これじゃ意味が無い。継続して入手出来るからこそ、交渉の意味が生まれる。

 

 

 

「まぁな。大陸一の大国となり軍事力では他国を大きく引き離した。外圧では早々負ける事は無くなった。だが歴史を垣間見て、大国の崩壊の理由の多くは内部崩壊だよな」

 

 

 

 アウレール王とリズリット王妃が争っても、そこに王族の女性陣が加わっても……アウレール王の優位は覆らない。暗殺?不可能ではないが、成功率は限りなくゼロに近い。

 

 毒殺は無理、即死じゃなければエリクサーで完治出来る。そもそも暗殺対策用に魔法障壁の腕輪も渡しているから、不意打ちでも一撃は無効化出来る。

 

 まぁ安全対策を知らなければ、ワンチャン有りか?位に考えている?仮に成功しても、彼女達の待遇は変わらないし普通に悪化するぞ。

 

 

 

 暗殺の疑い有り。この情報を見逃す訳も無い。仮に王位継承権の順番により、グーデリアル殿下が即位してもロンメール殿下が即位しても待遇は変わらない。

 

 自分の息の掛かった者を王位に押し込めば状況は変わるが、そんな者は居ない。

 

 

 

「じゃが、あの者達の希望は自分達の安寧じゃぞ。わざわざ波風立たせる必要があるじゃろうか?」

 

 

 

「愉悦でも感じたいだけとも思うけど、そこまで愚かではない筈よね。私は逆の可能性も有るのかと考えて、リゼルに調べさせたいのよ」

 

 

 

 ザスキア公爵の言葉を聞いて、ある可能性を思い浮かべる。バーリンゲン王国の連中は愚かだという前提を元に思考が凝り固まってないか?

 

 愚か者だから理由なんてない。そう考えて終わりじゃ駄目だと考えれば……

 

 

 

「愚か者共を唆した連中が、エムデン王側に居る?ウチの国に不穏分子が居る?」

 

 

 

 モンテローザ嬢が洗脳し唆した連中は隔離しているが、洗脳を解除する方法は無い。ずっと隔離しておく訳にもいかない。何れは軟禁状態から解放する必要が有るだろう。

 

 ネクタルの恩恵にあぶれた連中は、ザスキア公爵と敵対している。女性の願望が原因だと和解も懐柔も難しい。いやネクタルを渡すだけで簡単に解決だが、渡さない理由が有る。

 

 思った以上に根が深いのかも知れない。単純に敵を倒して終わる問題じゃない。そう考えると、胸の奥がモヤモヤしてきて息苦しくなってきた。

 

 

 

 この状況は思った以上にヤバい。王宮内の不穏分子の炙り出し、官吏関係だけじゃなく王族の女性陣を含めれば……リゼルの負担が大き過ぎないか?

 

 

 

「ザスキアの信者共の結束は盤石かも知れないが、敵対する連中が居ない訳じゃなく立場が明確化してしまった。少なくとも女共は敵か味方か、はっきりと分かる位にな」

 

 

 

「ネクタルという蜜のお零れに預かれる連中と、そうでない連中。永遠の若さという禁断の霊薬、儂位になれば寿命も受け入れるが、中途半端な連中はな。どうにか出来るなら……」

 

 

 

 女性陣に中立は殆ど居ないって事か?ザスキア公爵の軍門には下りたくないけど、ネクタルは欲しい。ならば奪えば良いって短絡的な行動をする連中は、残念ながら多そうだよな。

 

 美に執着する女性は多い。だが彼女達が全て聡い訳じゃなく、我儘に育てられた者達は多い。戦時中で旦那が不在の時に、僕に親書という体の要求を送って来た連中は少なくない。

 

 金と暇が有り、相応の権力を持っている連中が結束する。旦那達が抑えられれば良いが、全てを抑える事は不可能だろうな。

 

 

 

 そういう連中が、パゥルム女王達に接触し、ミッテルト王女は姉達の為に影の護衛を動かしたが失敗した。本当に失敗だったのか?

 

 捕まって自殺する事で何が動く?同情を集める?いやいや、そんな事にはならない。引け目として、話を持ち掛けて来た連中との交渉を有利に動かす?それもイマイチだな。

 

 有能な手駒を失うだけで、見返りが全く無い。僕から見ても、ミーティアは有能だった。彼女を失って迄、達成する目的って何だ?

 

 

 

「願望というか目的がはっきりしているだけに、外見は取り繕う連中も多いのよ。リゼルは大変だと思うけれど、頑張って貰うしかないわ。内部崩壊で国が亡ぶとか笑えないわ」

 

 

 

「リゼルの護衛にゴーレムクィーン五姉妹の末妹のフンフを付けます。あと毒無効と魔法障壁の腕輪の貸与、それとこの子を保険として側に置きます」

 

 

 

 そう言って、二つのマジックアイテムと一羽の小鳥型ゴーレムをテーブルの上に置く。この子は試行錯誤を繰り返した攻撃型護衛ゴーレム、その試作一号機。

 

 セキセイインコを模した外観だが、素早い動きに、小回りの利く機動性。両羽に魔力刃を纏い敵を切り裂く、狭い室内でも十分に攻撃性を発揮出来る性能。

 

 フンフを防衛に回して、この子が敵を殲滅する。携帯性と隠密性に優れた小さな殺戮者がコンセプト、僕にしてはスカラベ・サクレ以上に攻撃的なゴーレム。

 

 

 

「この二つの腕輪型のマジックアイテムは見た事が有りますが、小さな小鳥型のゴーレムは……見た目から諜報用かしら?」

 

 

 

 ザスキア公爵の問いに曖昧に笑って誤魔化し、リゼルに視線を向ける。彼女は僕の意向を汲んで躊躇なく思考を読み始めた。

 

 

 

『この子は超攻撃型の敵対者殲滅用小鳥ゴーレム。セキセイインコの可愛らしい外観を模したけど両翼に魔力刃を纏い自動で飛び回り敵を殲滅する。

 

魔力刃の最大展開幅は50cm、翼を広げれば1mの魔力刃が飛び回るので狭い室内でも小回りが利くので安心。嘴にも魔力刃を展開出来るので切断以外に貫通攻撃も可能だよ』

 

 

 

 物凄くドン引きされたが、これにはちゃんとした理由が有る。

 

 

 

『まさに死角無し。仮に武器で切り掛かっても武器を切断し、魔法攻撃も身に纏う魔力刃が無効化する。有効な攻撃手段は鈍器で叩いて衝撃を与える位だが、数回当てて漸く効果が有るかどうかだ。

 

勿論だが自動修復機能持ちで内包する魔力が尽きるまで自己修復が可能。敵味方の識別に若干の難が有るが、その辺は同行させるフンフが敵味方を判断し指示を与える事で解決。

 

ゴーレムクィーンはスカート内に内蔵した加工済み魔力石からゴーレムポーンを複数体召喚し指揮する能力を与えているので、小鳥ゴーレムの制御も同時に可能。これで安全は保障される』

 

 

 

「何を二人で見詰め合っているのかしら?確かにリゼルさんの安全確保は必要ですが、王宮内でゴーレムクィーンを侍らすのは過剰じゃないかしら?セラス王女が騒ぐわよ」

 

 

 

「うーん、確かにそうだな。セラスはゴーレムクィーンを欲しがっているし、王宮内で同行させるのは仕事の補助として説明出来るが、仕事以外での同行はな」

 

 

 

 腕を組んで考え込んだ、アウレール王を見て思う。まぁセラス王女には別格に甘い父王だから、そうなると考えて小鳥ゴーレムをこの場で貸し出すと言ったんだ。

 

 過剰なとも思える要望を言って意見を聞いて一部を取り下げれば、本来の要求は通る可能性は高い。相手も此方が一部でも要求を呑めば、妥協し要求を受け入れ易い。

 

 問題は、小鳥ゴーレムは超攻撃特化だから襲って来た相手は切断されて死ぬ。見た目が最悪の死に様なので、リゼルの精神が心配なのだが……まぁ大丈夫だろう。

 

 

 

「分かりました。仕事中は補佐兼護衛として同行させて、勤務外は二つの腕輪と小鳥ゴーレムによる警戒にします。小鳥ゴーレムは襲撃が有れば、僕とラインで繋がっているので直ぐに連絡が来ます」

 

 

 

 そう言ってテープルの上で小鳥らしい可愛い仕草をしていた小鳥ゴーレムをリゼルの左腕まで飛ばせて羽根を広げて腕を包み込む様にして腕輪に擬態させる。

 

 銀製の鳥を模した装飾品として擬態させた。鳥を装飾品に変形させる物は幾つか錬金しているので、特に不審には思われないだろう。この子の本性を知れば見た目とのギャップで詐欺と思われるけどね。

 

 アーシャやジゼル嬢にも同型の小鳥ゴーレムをプレゼントしよう。勿論だが、イルメラやウィンディア達にも装備させる。僕の分かり易い弱点は、彼女達だから。

 

 

 

 まぁジト目で睨む、ザスキア公爵には後で説明して同じ小鳥ゴーレムを贈ろう。

 

 

 

「成る程、連絡要員か。それならば問題は無いだろう」

 

 

 

「リゼルは諜報活動の要じゃから、護衛を厚くする事には反対はしないぞ」

 

 

 

「少し過保護とも思えますが、容認しましょう。リゼルさんとは後で話し合いが必要になりますけれどね」

 

 

 

 要求は通ったが、後での話し合いが少し怖い。結果は教えて貰って何か対策はしよう。この後、ニーレンス公爵達も参加する会議にも出席する予定だったが先に帰された。

 

 急な呼び出しだったし、リゼル絡みの打合せが終われば後は急ぎではないので少し屋敷で休めと労わりの言葉も貰えた。

 

 まぁ王命として明確な責任区分の指示も通ったし、リゼルの安全確保も承認して貰えたので最低限の要求は呑んで貰えたと思えば上出来だね。

 

 

 

 王都で少し滞在して英気を養ってから、フルフの街に行く事になる。イルメラ達の匂い成分の補充も必要だし、僅かだが休暇を楽しむ事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 少し酷使し過ぎていると自覚は有るので、リーンハルトには自分の屋敷に帰る様に指示を出す。奴の希望は自分の大切な者達との安寧な生活だから、触れ合いの時間を持たせる事が重要だ。

 

 今後、フルフの街周辺の整備も行わさせるので、ジゼル達を同行させる許可を与えても良いな。戦地ではないので単身赴任ばかりさせる訳にもいかないだろう。

 

 大使館の他に屋敷も構えろと、エルフ共から言われているので丁度良いだろう。今後、ケルトウッドのエルフ共はバーリンゲン王国の連中と否が応でも事を構える事になる。

 

 

 

 奴等と我々が別の存在だと分からせる為にも、リーンハルトを近くに置いておく事が重要。

 

 

 

「さて、今後の方針を決めるぞ」

 

 

 

 ニーレンスとローランも集まったので、今後の国家の方針を決める内政と軍事と諜報、この三本の柱を各々が担う公爵連中が俺と共に国家を動かすのだ。

 

 リーンハルトは有能だが、国家の闇の部分を担わせるのは未だ早い。奴の小派閥の官吏共が政務を熟しているが、やり易い表の部分だ。王宮に出仕する官吏は上級・下級を含めて六百人以上いる。

 

 それでも十人程度で全体の二割も処理出来る事に理解が及ばないのだが、ニーレンス曰く『ヤル気と効率』らしい。ゴーレムクィーンまで政務を熟す事がヤル気と効率?普通はヤル気が低下しないか?

 

 

 

 ゴーレムに指示されて、それを嬉々として受け入れて仕事をする事に抵抗を感じないのか?俺には理解が及ばない珍事だな。

 

 

 

「バーリンゲン王国、最後の最後まで迷惑以外の何物でも有りませんでしたな」

 

 

 

 兄王から引き継いだ負の遺産、隣国が愚か過ぎる事がエムデン王国最大の悲運。兄王が、もう少し連中の事を理解して対応していれば此処まで拗れる事は無かった筈だ。

 

 ロンメール達が交渉した成果も全て御破算、それどころか王女は無責任に亡命しエルフ共との関係悪化を引き起こして我等をも巻き込んで道連れにしようと企む悪辣さ。

 

 少し考えただけで腸が煮えくり返る。今回の件、一切の妥協をせずバーリンゲン王国とその関係者を一掃する。これは決定事項、必ず実行し未来に遺恨を残さない様にする。

 

 

 

「全くだ。投資とリターンが釣り合ってない。属国化して漸く利益を得られるかと思えば、直ぐにクーデターを起こして独立騒ぎ。上納金も結局は未払い、金貨一枚分の利益も無い」

 

 

 

「今後、難民対策でフルフの街周辺の整備の費用もそうですが、難民対応をさせる兵士達のメンタル面の改善も考えれば大赤字ですわ」

 

 

 

「バニシード公爵が対応していますが、既に我が国に亡命を希望する連中が連日フルフの街に押し掛けて来ているとか。予想よりも動きが早い、対応が間に合うか厳しいですな」

 

 

 

 全員が溜息を吐いた。

 

 

 

 当初の予想では徐々に森が大地を浸食する事に気付いて騒ぎ出すのを数年と予測したが、エルフの古老の送り出した植物ゴーレムを襲い返り討ちに遭い、危機感を覚えて騒ぎ出した。

 

 面の皮が厚過ぎるのか、我等を軽く見ているのか?クーデターを成功させて属国から独立を果たして宗主国たる我等と敵対した筈なのに、何故保護や援助を求めて来る?

 

 しかも宗主国の義務だとか過去の借りを清算しろとか、上から目線で要求するとか異常過ぎるだろ?幾ら温厚な善王たる俺でも激怒する案件だぞ。

 

 

 

 アレは理解出来ない未知のナニかだ。まともに相手をする必要が無く、問答無用で殲滅する必要が有る。

 

 

 

「一人たりとも我が国に入れる事は許さず。バニシードだけに任せるのも不安で危険だ。ローラン、ソレスト平原を第二防衛線とし難民共の流入を断固阻止しろ」

 

 

 

 先ずは二重の防衛線を敷いて物理的に侵入を防止する。国境は相応の広さが有り、全てを監視する事は不可能だが出来る限りの事はする。

 

 少数でも侵入を許せば、声高々に難癖をつけてくる事は間違いない。他国やモア教の関係者にでも聞かれれば、少し厄介な事になるだろう。

 

 何と言っても、俺は俺達は、バーリンゲン王国とその関係者を問答無用で殲滅させる為に動いている。僅かでも非難や反対を受ける訳には行かない。

 

 

 

 極力、隠密に素早く確実に行動する。それが必要なのだ!

 


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