古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第934話

 

 エルフ族の長老達の植物ゴーレムだが、見れば直ぐ分かる様に体内に拳大の宝石を複数埋め込んでいる。遠目でも分かる位にキラキラしているんだ。

 

 多分だが宝石に見えるけど魔力石の塊で、錬金で作っていると思う。一見すればエメラルドやルビーみたいだけど、ファティ殿の木樹童(きじゅわらし)にも同じ様な宝石に似た核が有った。

 

 植物ゴーレムの動力源だと思うけど、あからさま過ぎる。絶対に強欲なバーリンゲン王国の連中が考え無しに襲って来る餌として用意しているのだろうな。

 

 

 

 近くで見れば本物の宝石じゃないと分かる。魔力石は確かに貴重だが天然の宝石と比べると価値は低い。まぁ売れば一財産だが、エルフ族と事を構えてまで欲しいかと言えば要らない。

 

 僕でも同じ様な物は錬金出来る。内包する魔力が段違いに低いので、見た目を似せれるだけだが……膨大な魔力を込められるのは流石はエルフ族って事だろうな。

 

 あの魔力を源として大地を好みの植生の森に変えるのだろうが、人が真似出来る事じゃない。それに戦闘力も馬鹿みたいに高いし、殺意もマシマシだよ。

 

 

 

「人がゴミの様に吹き飛ばされて死んでいますね」

 

 

 

 何度目かの襲撃の後の惨状、学習能力が無さ過ぎる。そして物資不足を解消する為に最低限の装備品や持ち物を回収する。

 

 ほぼ蔦で殴られて吹き飛ばされて死んでいるので、持ち物は周囲に散乱している。防具類は凹んだりして使えないが、武器や持ち物類は割と痛まずに残っている。

 

 死体から剥ぎ取りはしないが、落ちている物は回収し再利用する。それは非戦闘員の連中が率先して行っている。あまり良い事ではないが厳しい辺境で生きる者に豊かな者の倫理観は通用しない。

 

 

 

 死んだ者から剥ぎ取ったりしない最低限の尊厳を守っている限りは、僕も黙認している。それでも結構な物資が集まっているのは、襲撃者が多いからだ。

 

 

 

「欲望に忠実なのは未だ理解出来るけど、己との力量差も考えずに無謀に襲えるのは自殺と変わらないよ」

 

 

 

 ルスが憐れみの籠った目で、そこら辺に吹き飛ばされて死んでいるバーリンゲン王国の連中の亡骸を見て呟く。二日か三日前の惨状だが、普通は負け続ければ対策を取らないかな?

 

 考え無しで最初に襲った連中も愚かだが仲間が倒されても何も考えずに、同じように襲って返り討ちに有って死ぬのは無駄死にと変わらない。

 

 幾ら根拠の無い自信を持っている色々と変な連中とはいえ、失敗を学習しないほど愚か者とも思えないのだが……だって自分の命が掛かっているのに、無謀に突撃して返り討ちで死ぬんだよ。

 

 

 

「地味に物資が集まるので助かります。この様子なら私達を襲う連中は居ないでしょうね。だって襲ってくる連中が先に死んでいるのですから……」

 

 

 

「まぁね。欲望に忠実って言えば聞こえは良いけど、実際は自殺と変わらない。生き残りが居れば少しは事情が分かるかもしれないけど、念入りに全滅させているし」

 

 

 

 どう考えてもオーバーキルだよ。人の身体がくの字になってるって事は背骨が砕け散っている訳で生き延びる事は不可能、殆ど即死だろうな。

 

 無駄に苦しみを引き延ばさないって意味では慈悲が有るのかも知れない。だが襲って来る者は蔦で薙ぎ払い、逃げ出す者は蔦で突き刺す。絶対に逃がさない意思を感じるよ。

 

 普通にエルフ族全体がバーリンゲン王国の恥知らずな要求に怒り心頭なのだろう。子種を与えるとか、プライドの高い彼等にとっては絶対に許されない侮辱だったんだろうな。

 

 

 

 歯牙にもかけない格下の人間に、自分達の長年の悩みに欲望の籠った最低最悪な提案をされたのだから。

 

 良く僕が無事に交渉出来たと思うよ。普通なら、こんな事をされたら『性欲魔人の最低な人間達は一緒くたに滅ぼしてやるぜっ!』位は言うだろうし、言われても反論が出来ない。

 

 この異常な国と国民は、これを機会に間引いた方が人間達の為になると確信したよ。本来なら駄目な思考だけど、実際に散々酷い迷惑を掛け続けられれば嫌でも思うよ。

 

 

 

 酷い噂話を流されたり、訳の分からない要求を突き付けられたり、直ぐに謝罪と補償と賠償を寄越せとか被害者ヅラするし、平気で噓を吐く連中だからモア教にも見放されるんだぞ。

 

 

 

「仮に生き残りが居ても助けないで見殺しにすると思います。彼等は命の恩人でも平気で嘘を吐いて騙す恩知らずの恥知らず。与える慈悲は、死のみです」

 

 

 

 おぅ?ルスが物凄く嫌な顔をして吐き捨てたぞ。積年の恨みは思った以上に若い世代にも浸透している。実際に相当嫌な思いをしてきたのだろう。

 

 少しだけ教えてくれたが、妹の一人が連中の奴隷狩りに掴まって行方が分からないらしい。奴等は辺境に定期的に奴隷狩りに来ていたそうだが、確かにバーリンゲン王国は奴隷を否定していない。

 

 その供給源が辺境だったのか。僕も奴隷狩りの連中に襲われた事が有るが、国の混乱に乗じて辺境の民どころか貴族令嬢までも捕まっていた。エムデン王国では奴隷関連の連中は捕まれば死罪だ。

 

 

 

 結束の強い連中だから、身内への被害は絶対に忘れないし許さない。だからこそ、バーリンゲン王国の生き残りがエムデン王国に来ない為の防波堤役に選ばれたんだけどね。

 

 

 

「恩知らずで恥知らずは同意するよ」

 

 

 

 与える慈悲は死のみかぁ……そう言えば僕も良く言っていたな。『貴様に与える慈悲は無い』とかさ。アレ?急に恥ずかしくなってきたぞ。

 

 

 

「ところで、クギューは?」

 

 

 

 今朝から見えないし、ルスだけが僕の接待役って初めてのパターンだし?何か緊急に対応しないと駄目な事でも有ったのかな?

 

 

 

「いえ、その……今日は後ろの馬車の方に乗っています。腰を痛めてしまったみたいでして……えへへっ」

 

 

 

 いや、あざとく可愛くえへへって笑われても対応に困るぞ。つまり昨夜は頑張り過ぎて腰を痛めたって解釈で合っているのか?ルスの笑顔からすればアレか?

 

 奥さん達でクギューが足腰立たなくなる位まで搾り取ったって事か?一夫多妻の弊害を感じた。デオドラ男爵みたいに身体を鍛えてないと対応出来ないって事だよな。

 

 うわぁ、僕は今はアーシャだけだけど、今後はジゼル嬢を本妻に迎えてイルメラさん達を側室に迎える。最終的にはクギューの三人を上回る五人だぞ。

 

 

 

 マジか?今からでも身体を鍛えるか?だがそんな時間的な余裕が僕に与えられるとは思えないのだが……いや、何とかするのが旦那としての務めだぞ。頑張るしかない。

 

 

 

「ああ、そう。お大事にして下さいね」

 

 

 

 空間創造からハイポーションと、ニーレンス公爵とローラン公爵が愛用し定期的に融通している精力剤を効能を伝えて渡す。民族大移動の最中でも跡継ぎをこさえないと駄目とか辛過ぎる。

 

 

 

「うわぁ有難う御座います。助かります。干した牡蠣とかニンニクとかスッポンとかアボカドとかショウガとかブルーベリーとかレバーとか色々試しましたが高いし品薄だしで困ってました」

 

 

 

 矢継ぎ早に色々と言われたけど、精力を高める食品って結構あるんだ。僕は成分を抽出して補っているけど、普通に食べ物からでも摂取できるのね。ウナギやスッポンは知っていた。

 

 でもアボカドやブルーベリーもそうだとは知らなかった。迂闊にブルーベリーパイが食べたいとか言ったら、相手に勘違いされてしまう可能性が有るのか?

 

 注意が必要だな。しかし、ルスは清楚系の外見で貞操観念は高いのだが、性に対しては明るいというか開放的というか大らかというか……身分上位者に振る話題か?

 

 

 

「そうです!バーレイ伯爵様も御一人で夜が寂しいのなら、妹達にお相手をさせますけど……」

 

 

 

 反省、ルスが意外と強かだった。自分の妹達を愛人にと勧めて来るのは予想外だよ。まぁバーリンゲン王国の貴族連中なら当然だと思って受けるか、もっと前に自分から催促してるだろう。

 

 僕に部族の女性を近付けないのは気を遣って貰っているか警戒されていると思ってたのに、少しだけ裏切られた気分だぞ。タイミングを伺っていたのかと邪推するぞ。

 

 そんなにキラキラした目で見詰められても困ります。きっと善意の方が多いんだろうな。普通は一族の一人でも愛人枠でも押し込められれば安泰だし、今後の関係性を考えれば悪手でもない。

 

 

 

「新婚だから浮気はしない。それに国に戻れば、ジゼル嬢と結婚するので余計に浮気はしない」

 

 

 

 新婚の期間の定義は人それぞれだけど、エムデン王国での主流は一年間。アーシャを側室に迎えて未だ一年経っていないから新婚です。

 

 諸説あり三年間って話もあれば、自分達が新婚と言えばずっと新婚ってポジティブな意見も有る。まぁ普通に一年が新婚期間だろね。

 

 ジゼル嬢と結婚すれば新婚期間は伸びるし、その後で落ち着いたらイルメラを側室に迎えるから新婚期間は伸びる。その次にウィンディアとニールを迎えるから数年は新婚だな。

 

 

 

「一夜妻でも構いませんし、側室や愛人に迎えてくれとは言ってませんが?こんな少数部族の卑しい女に対して、そんなに真剣に考えてくれていたのですか?」

 

 

 

 一夜妻って何だよ?インゴが好きな艶本に出て来そうな単語だぞ。接待用の女性という意味では普通に有り得る話だけど、カシンチ族連合とエムデン王国の今後の関係を考えたら簡単に受け入れられない。

 

 そもそも受け入れないけど万が一にでも受け入れた場合、フルフの街周辺の居住区の整備や農地の灌漑とかが……ん?いや、受け入れなくてもするつもりだぞ。偽善でなく仕事として効率を考えてね。

 

 彼等は愚か者共をエムデン王国に入れない為の防波堤だから、専念して貰う為の環境を整える事は此方の仕事で義務なんだ。報酬もエムデン王国から給金を貰っているから問題は無い。

 

 

 

「普通に考えるよ。貴族って生き物は想像以上に血の繋がりを重視するんだ。この国の連中と違って側室は勿論、愛人だって相応の対応が必要なんだ。

 

気に入ったからとか勧められたからとか簡単に自分のモノにするとかじゃない。特に僕の寵愛を受けるとなれば恩恵以上に義務と危険がセットで来る。故に僕の守れる人数は限られる」

 

 

 

 もう五人でお腹一杯です。これ以上の受け入れは無理、ニールだって最初は母親と共に面倒を見るだけのつもりが何故かジゼル嬢が側室として迎え入れなさいって言ったから受け入れたんだ。

 

 まぁ好ましい娘だし嫌じゃないけどね。嗚呼、これって最低な思考か?本妻の言うままに側室を迎え入れるとか、言葉にしたら主体性が無いって事だよな。イルメラさんに懺悔案件が増えた。

 

 クギューもそうだが、ルスとも話し易いというか色々な事が会話の中で思い知らされる。新鮮な驚き。相手や環境が変わると、こうも違った世界が見えて来るのかな。

 

 

 

「そういう考えって普通なんですか?この国の貴族って呼ばれている連中が聞いたら笑って馬鹿にされる内容ですよ?俺達は選ばれた貴種だから何をしても良いんだ!とか言います」

 

 

 

 選ばれた貴種?珍種でしょう?

 

 

 

「アレは貴族じゃない、似非か何か別の種類だよ。同列視されたくないし、されたくないから今の苦労が有るのさ。悉く滅べば良いんだよ、僕等に金輪際関わって来るなって感じだね」

 

 

 

 これがエムデン王国と言うか普通の貴族様の考え方なのかぁ……新鮮な驚きです!って驚かれたけど、長年バーリンゲン王国の似非貴族しか知らないなら仕方が無いのかな。

 

 愛人の話は有耶無耶じゃなくちゃんと断ったし、移動は順調だし臨時収入もあるし気がかりなのは、クギューの体調位だな。雑談をしながらも予定より順調に移動出来ている。

 

 天候も良いし、もう少し行動を共にしたら先行しても良いかな?忘れていたけど魔牛族の里の防衛機能について、どうするのか聞いてなかった。移設か破棄か返却か?

 

 

 

 まぁ魔牛族の里に残していっても、森に還りエルフ族の影響下に置かれるだけだから問題は無いかもしれないけどね。ミルフィナ殿かクロレス殿に確認が必要だったよ。

 

 先に魔牛族の里に行って状況の確認をして、その後でケルトウッドの森にいってクロレス殿に進捗に報告。一旦、聖樹の力を借りてエムデン王国に戻って妖狼族達の行動を確認。

 

 多分だが、リゼルとジゼル嬢が魔牛族の移動の手伝いの準備と指示を与えている筈なので擦れ違いになる可能性は高い。リゼルの事だから二手三手先を考えて行動しているだろう。

 

 

 

 ザスキア公爵に報告と相談をしてから、アウレール王に報告だな。

 

 

 

 それ以降の行動だがフルフの街に行ってカシンチ族連合受け入れの準備を進めるか、ケルトウッドの森に戻ってカシンチ族連合か魔牛族と合流するか……その辺の判断は情報が足りない。

 

 バーリンゲン王国の連中は殆どが植物ゴーレムを襲って返り討ちで全滅だから動かせる戦力は殆ど無い筈。移動している連中が襲撃させる可能性は低い。

 

 後の問題は森林化の情報が漏れ始めているから、難民対策だろう。クーデターを起こして現政権を倒したのだから、もうエムデン王国の属国でも何でもないのに宗主国の義務とか騒ぎ出す連中が湧き出る。必ず騒ぎだして自分達は悪くない被害者だと都合良く擦りよって来る。僕等を利用する事しか考えてないし、利用されて当然だと信じこんでいる。だからこれを機会に縁切りしてサヨナラだ。

 

 

 

 その対応の為にもカシンチ族連合を早めにフルフの街まで送り届ける事が最優先かな?

 


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