馬ゴーレムと錬金馬車で王都に帰る事にしたが、特に問題無く順調だった。
途中、最初の襲撃場所で王都の冒険者ギルドと騎士団の連中が調査をしていた。
どうやら行方不明になっていた先発隊を見付けた……全員殺されて身ぐるみ剥がされ隠されていたそうだ。
二回目のクランへの勧誘も有ったが、ベリトリアさんの意見を聞く分には僕等には不要だ。
今はデメリットの方が多そうだ、集団に属すれば数の力は得られる。
だけど力の有る者は弱い者の面倒をみなければ駄目みたいだし、クラン長の意見は絶対みたいだ。
只でさえ貴族の柵(しがらみ)から抜け出す為に四苦八苦してるのに、新たなクラン内の派閥争いとか勘弁して欲しい。
それに拘束力も強そうで自由に冒険者として活動も出来なくなりそうだから却下だな。
ベリトリアさんとはローズ村で別れた、王都での家を教えて貰ったが驚いた事にご近所さんだったよ。
だけど依頼を受けて飛び回ってるから殆ど居ないらしい。
近々遊びに来ると言っていたが、何だかんだでパーティの女性陣とも仲良くなって良かった。
復讐が絡まなければ良き先輩なのだから……別れ際、少し嬉しそうに古い知り合いに会うと言っていたな。
◇◇◇◇◇◇
「久し振りの自宅だ、やはり落ち着くな……」
「そうですね、直ぐにお風呂の準備をしますので部屋で休んでいて下さい。ウィンディアは洗い物をお願いしますね」
「はーい、リーンハルト君汚れ物出して」
テキパキと家事を分担し進めて行く女性陣に邪魔だからと自室に押しやられた、パーティのリーダーといっても家じゃ何も出来る事は無いんだな……
◇◇◇◇◇◇
翌日、冒険者ギルド本部へ指名依頼達成の証明書の手続きの為に向かう。
エレさんとは現地で合流、僕はイルメラとウィンディアとのんびり歩いている……良い天気で気持ちが良いな。
指名依頼は四つ、ライラックさんの件は完了、魔法迷宮バンクでのレアドロップアイテムの納品は一回達成、残りはバルバドス氏とデオドラ男爵のだけど……
前者はゴーレム研究の手伝いだけど、あのエルフと謎の令嬢に会う可能性が高い。
後者はドワーフ工房『ブラックスミス』に同行しマジックアイテムの鑑定だ。
どちらもエルフとドワーフという人外の種族と絡む可能性が高い、エルフは関わりたく無いな。
昔、少しだけ行動を共にしたエルフの少女の事を思い出す……少女といっても外見だけで当時既に年上だった筈だ。
負けん気が強く人間を見下して遠ざけていたのに、何故か良く絡まれたり罵詈雑言を言われたな。
確か名前は……
「リーンハルト君、他の女の事を考えてないかな?」
右側を歩くウィンディアから考えている事を当てられたが、君は『人物鑑定』ギフトを持っているジゼル嬢かと問い詰めたい!
「何を根拠に言っているんだ?次の指名依頼、バルバドス氏とデオドラ男爵のどっちを先に請けるか考えていたんだ」
猫みたいな目で屈みこんで見上げてくる彼女の洞察力に内心ヒヤヒヤする、いや勘が良いのかな?
「ふーん、困った様な懐かしむ様な顔だったよ。私としてはデオドラ男爵様を先にして欲しいな」
「確かにデオドラ男爵の依頼は一日で済むが……」
あまりデオドラ男爵を優先し過ぎても不味くないか?いや、パトロンだから優先すべきか?チラリとイルメラを見るが、目が合ってニッコリ微笑まれた。
「うーん、デオドラ男爵の依頼を先に済ませるか。バルバドス氏の方は場合によっては何日か通わなければ駄目かもだし……」
ゴーレム研究の手伝いは三日間だけど延長の可能性も有るから、短期のデオドラ男爵の依頼を請けるか。
「それでは冒険者ギルドの手続きの後で、デオドラ男爵の所へ行くのですか?」
イルメラの質問に少し考える……デオドラ男爵は昼間は不在が多いがバルバドス氏は宮廷魔術師を引退して私塾を開いてるから、これから行っても大丈夫か。
「ウィンディア、デオドラ男爵の所へ行って何時が良いか聞いてくれるか?居なければ言付けを頼んでくれ。僕はバルバドス様の所に行ってくるよ」
依頼書は先方が用意してるから事前に打合せに行かないと駄目なんだよね。
◇◇◇◇◇◇
バルバドス氏の屋敷は王城周辺の貴族街に有る、屋敷の規模は普通だが敷地は広い。
前回呼び出された時は彼のキメラにゴーレムポーン三体は完敗した、僕の知らない300年のゴーレム進化の結果だ。
螳螂と蜘蛛を掛け合わせた異形のゴーレム、キメラ(合成獣)に相応しい強さだった。
尻から粘性の糸を噴き出すとか、そんな機能をゴーレムに組み込んだのを初めて見て驚いたんだ。
バルバドス氏からのゴーレム研究の協力は実は楽しみにしている、エルフとか謎の令嬢の件が無ければ此方からお願いしたい位なのだが……
悩みながら歩く事一時間、目的地に到着した。
「バルバドス様から冒険者ギルド経由で指名依頼を請けた『ブレイクフリー』のリーンハルトです。取り次ぎをお願いします」
門の前の警備兵にギルドカードを見せて取り次ぎをお願いする。無言でギルドカードを確認した警備兵は屋敷へと向かい暫くして執事を伴って戻って来た。
「主がお待ちしています。どうぞ……」
慇懃な態度の執事の後に着いて屋敷の中へ入る。前回は玄関ホールから中庭に直行だったが、今回は応接室に通された。
暫く待つとバルバドス氏が現われたが随分機嫌が悪そうだ、何か有ったのかな?
「よう、リーンハルト!待たせたな。お前一週間くらい前にゴーレム二十四体でパレードしたそうだな、俺との模擬戦は三体だったじゃないか?」
どっかりと向かいのソファーに座り足を投げ出す彼を見て、もしかして手加減されたと気を悪くしてるのかな?
今回は紅茶とお菓子をメイドが運んでくれたので、彼女が部屋を出るまで待ってから返答する。
「ライラック商会からの依頼の件ですね?ただ歩かせる中身スカスカのゴーレムですよ、戦闘用とは違います」
本当は同じだけの魔力を注ぎ込んで作ったが、正直に言う必要も無い。紅茶にレモンスライスを浮かべて一口……うん、かなり高級品だな。
「ライラック商会の娘の嫁入りのか?ゴーレムで花嫁行列の華を添えたいって事だが、俺ん所には話すら来なかったぜ」
もしかして、この人は本気で拗ねてないか?紅茶に砂糖を入れて乱暴に掻き回しているけど……
「元宮廷魔術師のバルバドス様に片道三日間の行軍は失礼と思ったのではないでしょうか?僕はライラック会長と懇意にしているデオドラ男爵の推薦という形で依頼が来ました」
紅茶には手を付けず、また砂糖を足したが甘党なのだろうか?既に四杯目だぞ。
「お前、手が早いな。デオドラ男爵の愛娘の片割れ、ジゼル嬢の婚約者とはよ。
俺に善戦し冒険者ギルドで着実に力を付けている有望株のお前には勧誘が凄くなるとは思ったが、あっさりジゼル嬢をモノにして断れる様にしたんだな。
呆れを通り越して感心したぜ、貴族の柵(しがらみ)って奴を理解して良く時世を読んでるってよ」
苦笑いするしかないな、僕はデオドラ男爵の破格な提案を頑なに拒んだ世間知らずの小僧だったんだし……
「否定もしないのかよ、まぁ良いけどよ。
俺の依頼はゴーレム研究の手伝いだ、新しいゴーレムの模擬戦の相手をして貰いたい。何回か改良するから三日間位だな」
冒険者ギルドでは三日間と聞いたが、三日間位って言ったな……やはり延長の可能性が有るな。
「三日間、連続ですか?何日かあけますか?」
模擬戦なら改良する間を待つより数日あけた方が効率的だと思う、改良までは手伝わせないだろう。手の内を明かす事は無いから一人作業の……
「連続だ、根詰めて改良したいんだよ。あの糞野郎に言われっぱなしは我慢ならん!」
ん?元宮廷魔術師のバルバドス氏を怒らせる事を言えるとなると、同等以上の人物だな。
「何を言われたかは知りませんが、ゴーレムを改良して勝負を挑むのですか?」
漸く激甘の紅茶を飲んだが普通だな、やはりバルバドス氏は甘党なのか。
「そうだ!アンドレアルの野郎、土属性魔術師のゴーレムなど今の戦では役に立たない。精々が火属性魔術師の詠唱の時間稼ぎ、使い捨ての盾に過ぎないと馬鹿にしやがった!」
ほぅ?面白い事を言うな……アンドレアルといえば現宮廷魔術師の序列八位だったな。たしかベリトリアさんと違い爆風より熱量に拘るタイプと記憶している。
国家の力の象徴たる騎士団と宮廷魔術師の情報は、ある程度は広まっているが全てではない。他に隠し玉が当然有るだろう。
「確か『魔弾の狙撃』と呼ばれている方ですね。鉄をも溶かす熱線を放つ魔術師と聞いていますが……ふふふ、面白い事を言いますね?」
「戦争じゃ指揮官クラスを狙撃して倒す、敵に回すと厄介な奴だがよ。有効射程距離まで誰が護衛してやってると思ってやがるんだ!」
最終的に敵の指揮官クラスを倒すから勲功は高い、それを達成する為の護衛や索敵部隊を蔑ろにするとは、昔の連中と変わらないな……
手柄は独り占め、他は自分の引き立て役でしかない。
「そのアンドレアル様にどうやって勝つのですか?そもそも条件が分からないのですが……
惰弱な火属性魔術師など多方面からゴーレムで一斉に襲えば楽勝ですよ。まさかアンドレアル様の魔法に耐えるゴーレムを作り出すとかですか?」
それは不利というか前提からして勝ち負けにならないだろう。
「む、お前って本当に変な奴だな。確かに複数のゴーレムで一斉に襲えば楽勝だ、惰弱で連射の効かない魔術師は特にな。
だがそれは高レベルのゴーレムを複数同時制御する事が前提条件だぞ。まぁ二十四体ものゴーレムを操れるお前ならではの考え方だな、普通は無理だ。
俺の弟子達だと高弟で最大八体、奴に辿り着く前に全滅だな」
やはり今の時代の土属性魔術師はゴーレム運用の考え方が違うのか……残念だ、集団運用こそ最も有効な戦略なのに僕の考えが古いのだな。
「バルバドス様ならどうですか?」
キメラという僕とは違う方向に進んだが、基本となる人型の数と制御の修得レベルは高い筈だ。
「俺も自分の分身でもあるキメラを変える事はしたくない、だから改良だ!良く分からんがお前は俺達と何か違う、だから協力を要請したのさ」
「分かります、僕は基本となる人型ゴーレムの大量に効率的に運用する事を極めるつもりですが、自分のスタイルを貫く姿勢には感服しました。微力ですが協力させて頂きます」
極めし方向性は全く違うが、土属性魔術師として協力するべきだ!
ベリトリアさんも火属性魔術師だったが自分が一番でなく連携については良く理解し協力的だったが、アンドレアル氏は違うみたいだな。
「ん、そうか……助かるぜ。早速今からと言いたいが俺も弟子に教えたり色々と忙しい。四日後、朝から来てくれ。
書類等は執事に任せてあるから後で取り交わしてくれ。頼んだぞ」
そう言って僕の肩を軽く叩いて応接室から出て行った。
一人になった事で今迄の話を振り替える、つまり元同僚の魔術師からキメラを馬鹿にされたから見返す為の研究協力だ。
バルバドス塾生との模擬戦は無い、寧ろバルバドス氏のキメラと戦う必要が有るかもしれないな。
「火属性魔術師との対決か、面白いじゃないか」
思わず声に出てしまったが、昔から良く有る出来事だ。派手な火属性魔術師と地味な土属性魔術師は、結構な頻度でぶつかり合っていた。
戦争では派手な広域殲滅魔法は目立つし効果的なのは認めるが、サポートが有ってこその成果だ。
その辺は僕が率いていたルトライン帝国魔導師団では徹底させていた。
でも火属性魔術師って性格もイケイケが多かったし、勝っても負けても面倒臭い事にはなるだろう。
まぁ今回は矢面に立つのはバルバドス氏だから気にしなくても良いかな?