古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第93話

 リラさんの結婚式の後、翌日は早朝に出発の為にライラックさんにお別れの挨拶をしに一人で部屋を訪ねた。

 大分祝い酒を呑まされたのだろう、真っ赤な顔で酒臭い息をしている。だが意識はハッキリしているみたいだ。

 

「本当に帰りの馬車は要らないのですか?」

 

「ええ、訓練の為に馬ゴーレムと自前で錬金した馬車に乗って帰ります」

 

 明日の早朝、僕等はライラックさんの手配した馬車で王都に帰る事になっていた。

 だが今以上に馬ゴーレム操作のコツを掴みたい僕は、それを辞退する事を彼に伝えた。

 帰りの馬車も報酬に含むと言ってくれたが、十分な追加報酬も貰っているので問題は無い。

 

「私達は暫く街に残らなければならないので、此処でお別れです。この指輪はライラック一族とそれに近しい者が持つ物です。

ライラック商会を利用する場合は見せて下さい、割引や優遇をします。せめてものお礼ですから断わらずに受け取って下さい」

 

 自分の人差し指に嵌めていた指輪を抜くと僕に差し出してきたが、これってライラック商会にコネが出来たって事かな?

 

「有難う御座います。また何か依頼が有りましたら、お願いします」

 

 指輪を受け取り深々と頭を下げる、色々有ったが有意義な仕事だった。

 

「勿論です、来月には私も王都に戻りますが今後とも宜しくお願いします。デオドラ男爵様には感謝しきれませんな、将来有望な若い魔術師と縁を結べたのですから……」

 

 その後、暫く社交辞令を交えた会話をしてから別れた。ライラックさん、白炎のベリトリアさん、それにコレットと出会えた事だけでも十分な報酬だな。

 討伐した野盗達の懸賞金については後日改めて配分する事になった。ベリトリアさんが恨みを込めて念入りに燃やしたから特定が難しいのかもしれない……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝、お世話になった人達に別れの挨拶をして街を出た。

 ライラックさんが料理人に三日分の食事を用意させてくれたので有難く頂いた、空間創造に入れれば出来たてのまま取り出せる。

 

 街から十分ほど街道を歩いて人通りが無くなったのを確認する、錬成する所は余り見られたくない。

 

「先ずは馬車を錬成するか……」

 

 イメージは十分有る、御者台付きの六人乗り馬車を鋼鉄で作り上げる。

 全金属製の馬車は軍用の戦車みたいだな、だが防御力は十分だ、弓矢程度ではビクともしない。

 

「全て金属じゃ長く座ると痛いわね、窓は硝子に格子か……うん、サスペンションは確りしてるわね」

 

 錬成した馬車の扉を開けたり乗り込んで上下に揺らしたりして確認するベリトリアさんを見て苦笑いをする。

 どうやら王都まで同行してくれるそうだ、冒険者ランクBの白炎のベリトリアさんが無料で護衛してくれるなんて感激で涙が出そうだよ……

 

「クッションは別に用意してますから大丈夫ですよ」

 

 次に馬車を引く馬ゴーレムを錬成するが、予想より馬車本体も乗客も重量的に増えたので馬ゴーレムは二体必要かな?

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 此方は青銅製だが表面は黒く目立たない様に加工した、ピカピカの馬と馬車じゃ悪目立ち過ぎるから。

 もっとも馬車を引く馬ゴーレムだけでも十分に異常なのも理解している。

 

「さぁ乗って下さい、出発しますよ」

 

 御者台に空間創造から取り出した毛布を畳んで即席のクッションにする。女性陣が乗り込んだのを確認して馬ゴーレムに動く様に指示を出す……うん、問題無さそうだな。

 思ったよりもスムーズに馬車は走り出した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 長閑な街道をノンビリと進む、途中で擦れ違う人が慌てて見直すけど気にしない。

 今の時代、ゴーレムはバルバドス氏のキメラみたいに異形化して巨大化してるのだから、馬ゴーレムなど普通の範疇だろう。

 

 しかし……馬車の中は賑やかだな、女性が四人も集まれば喧しいのか仕方ないか。

 

 馬ゴーレムの制御は順調だ、こうして人型以外のゴーレムを操る事は普段と違う負荷が掛かるから良い訓練になるな。

 昔の勘というか転生前の技術が蘇るっていうか思い出すというか不思議な感覚だ。

 絶頂期の魔力の半分以下、制御も知識に技術が追い付かない部分が多いもどかしさが有るけど悪くは無い。

 昔みたいに師匠の下で、がむしゃらに修行に明け暮れた時期を思い出す。徐々に強くなる事が実感出来て凄く嬉しかったんだ……

 

 暫く回想していると野盗の襲撃多発ポイントの手前に到着した、此処からは岩場や林の中を通る為に注意が必要だ。

 

「エレさん、そろそろ危険なポイントを通る。鷹の目による警戒をしてくれるかな?」

 

「ん、分かった……」

 

 小窓から顔を出し了承してくれたので警戒用にゴーレムポーンを馬車の前後に四体ずつ錬成する。

 出来れば戦いたくはないので護衛付きの馬車を見て諦めて欲しい、襲って来れば倒すけどね。

 

「野盗狩りね!エレちゃん見付けたら教えてね」

 

 走っている馬車の扉を開けて御者台に乗り移ってきたベリトリアさんが隣に座る、全く無茶苦茶な人だ……

 周りのゴーレムポーンを早足にしていたのだが、一瞬だが驚いて制御が乱れてしまった。

 

「確かに金を持ってそうな馬車ですが、完全武装した護衛が八人居て御者台に魔術師が二人。馬鹿じゃなければ襲って来ませんよ」

 

 昨日も大量の野盗賊を倒したんだ、この周辺には残りはそんなに居ないだろう。ハボック兄弟を含む五人は逃がしたが、直ぐに野盗家業は再開出来ないだろうし……

 

「リーンハルト君、ゴーレム消してくれる?」

 

「警戒を緩めるのは嫌です、パーティを危険に曝すリーダーは失格ですから」

 

 ムッとした顔で僕を睨む、そんなに復讐の為に野盗共を倒したいんですね?

 だけど咄嗟のゴーレムポーンの壁は必要だ、弓矢や投げ槍程度なら鋼鉄の馬車は大丈夫だが魔法だと心許ない。

 

「エレさんの索敵範囲は150m、見付ければ奴等が隠れてやり過ごそうとしても大丈夫ですよ。攻めてくれば返り討ち、隠れているなら逆に襲えば良いだけです」

 

 早い段階で逃げ出されると、障害物の多い場所で馬ゴーレムが追い付くかは微妙なのは言わない。

 

「リーンハルト君は何時も冷静よね、私は駄目だわ……両親と妹の仇だと思うと冷静じゃいられない」

 

 前を向いたまま低い声で言われた、横目で見ても無表情で怖い。

 

「そうでしたか、御家族の仇なんですね……」

 

 重い話が来たが、三百年後のこの時代でも弱肉強食が当たり前なんだな。気持ちは分かる、僕もイルメラに何かされたら冷静じゃいられないだろう。

 僕が冷静なのは、未だ他人事だと考えていてパーティメンバーを優先しているからだ。

 もしベリトリアさんがイルメラと同じ位に大切だったら、率先して野盗狩りをしている。

 

「ハボック兄弟よ、ハボック兄弟が私の村を滅ぼしたのよ。だから私は奴等を根絶やしにするの……」

 

 村ごとの恨みか、根が深いな。

 

「王都に帰るまでは出来る限りは協力します、僕等も奴等の数が減るのは賛成です」

 

「ふふふ、有難う」

 

 それっきり彼女は話をせずに周囲を窺っていた……警戒を怠らなかったが、特に隠れている奴等も居なかった。

 前夜襲撃が有った野営地も通過したが特に変わった事はなく、ライラックさんから報告を受けた冒険者ギルドの連中が現場の捜査をしていた位だ。

 死体とか放置したまま移動したから調査している連中は大変だっただろう。

 半分崩れたロックゴーレムと並べられて毛布を掛けられている死体の数が、襲撃の凄惨さを表している。

 襲ってきた連中は殆ど壊滅、生存者は逃げ出した五人だけだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 馬車のみの移動だと行きよりも全然早く夕方には半分の距離まで来てしまった。明日は早い時間にローズ村に着いて一泊だな。

 野営地は街道沿いに有る泉の近くの開けた場所を選んだ、水場は動物やモンスターも寄ってくるから危険なんだ。

 錬金で直径10m程のドーム型の小屋を作り雨風を防ぎ周囲に幅4m深さ2mの堀で外敵の侵入を阻止する。

 

 近くに先客のパーティが数組、野営の準備をしていたが僕等を窺っている。

 まぁ軍隊みたいな陣地を構築してれば気になるか、馬ゴーレムと馬車は魔力の節約の為に魔素に還した。

 

「リーンハルト君、何で前みたいに塀じゃなくて堀にしたの?」

 

 堀を作る間、僕を楽しそうに見ていたベリトリアさんが聞いてきた。

 

「今回は人数も少ないですからドームの上から見晴らせる様に堀にしました。塀だと隠れて知らない内に接近されそうですし……」

 

 エレさんのギフト鷹の目やウィンディアの探査魔法は有効だが、疲労も考えて皆が普通に見張れる方法にした。堀の外に篝火を焚いて照明を確保すれば完璧だ。

 

「なる程ね、妙に慣れを感じるわ。リーンハルト君、従軍経験なんて無いでしょ?」

 

 疑う様な顔で僕を見るけど、五年以上の従軍経験が有ります。僕の配下の魔導師団は常に最前線で戦う部隊だったから……

 

「ええ、(転生後は)無いですよ。

冒険者養成学校で習いました、正確には土魔術師として野営地の構築について担当教師に個別に質問したんです。丁寧に教えてくれましたよ」

 

 嘘じゃない、午後の実技は全欠席で自習か教師達を質問攻めにしたんだ。彼等は懇切丁寧に教えてくれた。

 

「ふーん、冒険者養成学校も役に立つ事も有るんだ」

 

「一ヶ月もしなくて自主卒業でしたが学ぶ事は多かったです。さぁ食事にしましょう、ライラックさんが用意してくれたので準備の必要は無いですよ」

 

 ドームの中では既にイルメラ達がテーブルや椅子を並べて準備をしているので、後は空間創造から料理を出すだけだ。

 

「私、適当に扱われてない?Bランク冒険者の白炎のベリトリアなんだけど……」

 

「それこそ、まさかですよ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 食事を終えて暗くなる前に魔法の灯りを堀から10m程離して円形に点していく、今夜は月明かりも有るから比較的遠くまて見渡せる。僕に気付いたのか、他のパーティが寄って来た。

 

「今晩は、君達の野営地は防御が凄いね」

 

「今晩は、用心し過ぎる事は無いですよね?」

 

 最後の魔法の灯りを点す、空中に浮いた光の玉は朝まで十分に保つ。

 さり気なく相手を観察すれば十代後半の戦士職の男が四人、盗賊と僧侶の女が二人の平均的なパーティだ。僧侶が居るのは珍しいな。

 

「魔術師三人、僧侶と盗賊って凄い偏った編成パーティだね。僕等はスラッシュ、ランクCのパーティさ」

 

 スラッシュ?知らないが実力は高そうだ。実際Cランクなら全員若いがレベルは20以上だろう。

 

「僕等は合同パーティです、ブレイクフリーと白炎のベリトリアさんのね」

 

 相手が息を飲むのが分かった、ベリトリアさんのネームバリューは半端無いからな。

 

「そうか、只者じゃないと思ったが君がブレイクフリーのリーンハルトか。ラコック村の英雄の名前は伊達じゃないって事か……

本題だ、僕等スラッシュの参加しているクラン、『アイギーナの瞳』に入らないか?」

 

 クランへの勧誘か……前も有ったな、確か『苛烈の若武者』だっけ?違ったかな?

 

「折角のお誘いだけど、誰かの下に付くつもりは無いんだ」

 

「む、そうか。興味が出たら訪ねてくれ。王都では結構有名なんだぜ」

 

 そう言って自分達の用意した焚き火の方に歩いて行ってしまった……

 

「勧誘?」

 

「ええ、所属するクランへの勧誘でしたね、『アイギーナの瞳』だそうです」

 

 心配してくれたのか、ベリトリアさんが来てくれた。

 

「へえ、『アイギーナの瞳』とは老舗クランね」

 

「クランって所属する必要有りますか?」

 

「弱い奴等は必要ね、クランは互助組織的なものだから数の力を得られるわ。でもある程度強いと枷と義務が大変よ、弱い奴等の面倒をみなきゃ駄目だし。

弱くても古株なら配慮とかも必要らしいし力だけで序列は決まらないみたい。あとクランの長の意見は絶対とかね。

私は拘束されるの嫌だわ、それにクラン内の派閥争いとか面倒臭いわよ」

 

 確かに恩恵は有るけど絶対欲しいって程でもないな、特に自由に動きたい連中には足枷でしかないか。

 一人前に独立して余裕が出来てから考えれば良いな、今は冒険者ランクを急いでCランクにする事が重要なんだし……

 


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