古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第9話

 父上と母上の思い出の家は中流市民の集まる住宅街に在る石造りの二階建て、庭には井戸と夏蜜柑の木が生えている。

 流石は騎士団の副団長だった父上と冒険者として一流だった母上が新婚時代に住んでいただけあり、駆け出し冒険者の僕等二人には過ぎた家だ。

 人が住まないと建物は傷むと言うが丁寧に固定化の魔法が重ね掛けされていて傷みは殆ど無い。

 但し家具類はテーブルと椅子くらいしか無かったので一から揃える必要があった。流石に固定化の魔法もベッドとかソファーとかの柔らかい物を長期に保たせる事は無理みたいだ。

 あの魔法は固い物を壊れ難くするのだから……

 初日は魔法迷宮に行く事も出来ず引っ越しと買い物で終わってしまった。

 僕の所持金は金貨200枚だったが家具や当座の食料を買い漁ると半分を切ってしまった。一国一城の主として生活するには大変なんだな。父上の苦労がよく分かった。

 前世は一応王族の端くれだったし雑務を引き受ける連中も何人か居たし……

 何とか生活拠点を整備し終わった時にはイルメラが夕食の準備を終えた時間になってしまった。僕等は主人とメイドという雇用関係にあるが、食事は一緒のテーブルで同じ物を食べる事に決めた。

 彼女は『ブレイクフリー』のパーティメンバーでもあるのだから。

 

「すみません、リーンハルト様。時間が無くて簡単な料理になってしまいました」

 

「構わない、十分美味しそうだ。冷めない内に食べよう」

 

 イルメラは料理が上手い、普通のメイドは料理などせず専用のコックが居るのだが彼女は大抵の事がそつなく出来た。

 テーブルの上には季節の野菜のサラダに白身魚のムニエル、具沢山スープにクロワッサンが並んでいて良い匂いが食卓に漂う。

 モア教の神に感謝の祈りを捧げて食事を始める……

 一般的な貴族としてのマナーは家族での食事は殆ど無言で、食後のデザートを食べる時に会話をする。

 僕も生活習慣を急には変えられないので、デザートのフルーツを食べている時に今後の事を相談した。

 

「イルメラ、12日後に冒険者養成学校に入学するが、その前にレベル20まで上げたい。

それと生活費を稼がねばならない、恥ずかしいが今日の買い物で所持金は半分になったからな」

 

「それは構いませんが、無理な迷宮探索は控えて下さい。私のお給金は何時でも構いませんし……」

 

 当然だ、僕等は未だ弱いので無理は出来ない、だが給金については待たせる心算は無い。そしてイルメラと幾つかの取り決めを話し合った。

 先ずはイルメラのメイドとしての報酬だが一ヶ月に金貨30枚とした。

 貴族の屋敷に住み込みで働くメイドは衣食住は必要ないから金貨15枚から25枚が相場だ。だが、彼女は家事の全てを行う事と僕の見栄から決めた値段だ。

 次に『ブレイクフリー』としての報酬だがパーティの収入の50%は共有の貯金として必要経費や装備品等の購入費用とし10%を生活費とする。

 残り40%の内の25%が僕の分で15%をイルメラの報酬とした、報酬の差は僕はリーダーだから均等割りは駄目らしい。

 あくまでも基本分配率であり毎月の総収入の金額により変更する事にする。

 稼ぎが悪く生活費に困る事が無いとは言えないからだ。

 

「明日は早速魔法迷宮バンクに一日籠もってみよう。

ギルドでマップを買って食料やポーション類を買い込み本格的に迷宮探索を行うぞ」

 

「分かりました、お弁当はリーンハルト様の好きなハンバーガーにしますね」

 

 リーダーとして威厳を出したかったがイルメラがお姉さん的に切り返して来た、確かに僕は転生前からハンバーグやハンバーガーが大好きなのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、イルメラの作ってくれた熱々ハンバーガーを僕のギフト(祝福)空間創造の中に入れてからギルドに向かう。

 因みに冒険者ギルドは基本的に24時間対応だが朝は八時から受付が増員される。

 今回はバンクの地図とギルド直売所のポーション類のチェックが目的だ。

 僕の持っている下級ポーションとこの時代のポーションとでは全然品物が違っていたんだ。300年の時間はポーション類を進化させていたんだ。

 今の僕が空間創造から取り出せるポーションは下級の体力回復に魔力回復、それと麻痺と毒を治すポーションだけだ。

 因みに体力回復のポーションは回復量は同じでも色と量が違っていたので他人に見せる訳にはいかない。

 二日ぶりの冒険者ギルドは混み合っていた、朝は依頼を受ける連中が沢山居るのだろう。

 討伐コースや素材採取コースの連中は依頼を受けてから仕事を始めるのだから……

 ポーション販売所も混み合っている。

 ギルド一階の隅に有る販売所には人が群れていた。体力を回復出来る僧侶の数は少ないので基本的に回復はポーション頼りなパーティが多いからだ。

 折角現物を見て比較したかったがアレでは無理だな、壁に貼られた料金表だけ確認するが……

 

「体力回復のポーションは銅貨6枚でハイポーションは金貨1枚?毒や麻痺を治すポーションは銀貨3枚か。

意外と高いんだな、こりゃ怪我が多いと破産しそうだ」

 

 イルメラの有り難みがよく分かる。

 一番安い体力回復のポーションはサービス価格で買取額と販売額の差は銅貨1枚と良心的だが、ハイポーションは買取額の倍で販売してる。

 まぁ最大体力値の20%回復となれば高レベルな連中が使用してるから買える価格設定なのか?

 ギルドでバンクのマップを銀貨1枚で購入したが、これは三階層までしか載っていない。

 六階層までは金貨1枚、九階層までは金貨5枚、最下層の十階層は金貨10枚と高かった、バンクの迷宮は九階層かと思ったが九階層まで辿り着いた者だけが挑戦できる十階層があったのか!

 でもマップが売られてちゃ隠し階の意味が薄くない?全ては解明されてないから良いのか?まぁ全体の二割程度だし、構わないのかな。

 白図用の方眼紙は銅貨1枚で売っているが自分でマッピングするのは大変だから良いや、マッピング専門のパーティが居るらしいが盗賊職が調査も含めて行っているらしい。

 冒険者ギルド前のターミナルでバンク行きの乗合馬車の列に並ぶ、既に20人以上が並んでいる。 

 皆さん朝から御苦労様だな、僕等は三台目の馬車に乗る事が出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「よう、坊っちゃんと嬢ちゃんの二人だけだとバンクの迷宮は危ないぜ。俺達のパーティに入れよ、な?」

 

 向かいに座る中年は馴れ馴れしく話し掛けてきた。

 

「いえ結構です、必要無いから」

 

「甘い、甘いんだよ考え方がよ!バンクを甘くみるな。死にたくないだろ?俺達のパーティに入れって、な?悪い様にはしないからよ」

 

 乗合馬車の乗客は最悪だった。僕等の他に六人組のパーティが二組同乗していたのだが両方しつこく勧誘してきたのだ。

 どちらも戦士系の男ばかりのパーティだが僕よりも僧侶であるイルメラが欲しいのだろう、善意を装ってはいるが、どう見ても子供だと思って甘く見ている。

 

「子供二人で迷宮探索なんて危ないんだぞ。

モンスターばかりが危険じゃないんだぜ、時には人間のパーティだって悪い奴は居るんだ。俺等と居れば安心ってヤツだ」

 

 嫌らしい笑みを浮かべて迫ってくるが口が臭いんです、近付かないで欲しい切実に。しかし半分脅し文句だよな、僕等は二人だから人数合わせで最後に乗り込んだ。

 だからイルメラの座席は最後尾でウザイ奴等との間に僕が居るので直接彼女に話し掛けたり触ったりはしてこないが時間の問題だ。

 セクハラするなら馬車の中を猛毒の霧で充満するぞ!

 

「僕等は二人でパーティを組んで迷宮を探索する。他のパーティに入るつもりは無いから勧誘は無用だ!」

 

 かなり大きな声でキツ目に言ったので連中も気分を害したみたいだな。

 餓鬼の癖に生意気だとかブツブツ言っているが、よく観察すれば大した連中じゃない事が分かる。装備品の質も手入れも良くなさそうだ。

 冒険者ギルドと言っても所属する連中はピンキリだ。

 魔法迷宮探索コースの難点、その一つに討伐や素材採取も出来ない程度の低い連中が徒党を組んで低層階でモンスターと戦い日銭を稼ぐ奴も居るんだ。

 一概に討伐と言っても条件はマチマチだ。モンスターの習性や行動を読み罠を張り待ち伏せして特定のモンスターの依頼数を倒す。

 そういう頭を使う事が出来ない連中は、ただ現れた敵を倒してドロップアイテムを売る迷宮探索コースに流れてくる。

 特にバンクは初級だからレベル10程度でも六人組なら何とかなる、なってしまうんだ。

 険悪な雰囲気の中、乗合馬車は到着し僕等は一番に飛び出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 管理小屋で受付を済ませてバンクの入口に向かう。

 どうやら乗合馬車に居た連中は僕等がお気に召さないみたいだな。遠巻きに僕等を観察してやがる。

 隙有らば襲うつもりかも知れない、注意が必要だ。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 カッカラを一振りして青銅ゴーレムを四体召喚する。

 周囲の空間から魔素が集まりゴーレムの形を成形し周りの野次馬から騒めきが起こる。彼等には警戒は必要だが無闇に怯える必要も全く無い。

 今回は前回の失敗に備えて前衛のゴーレム二体にはアックスを持たせて攻撃力を高めた。

 残り二体は前回と同様にロングソードを持たせた突破防止用とバックアタック警戒用の盾二枚装備だ。

 僕が奴等に視線を向けた時点で僕等の隙を狙っていた連中は諦めたみたいだ、すごすごと逃げ出してしまった。

 

「行くよ、イルメラ」

 

「はい、リーンハルト様。何処までもお供致します」

 

 僕等『ブレイクフリー』の二回目の迷宮探索が始まった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 二回目の魔法迷宮バンクの探索、前回同様のフォーメーションで進んでいく。

 勿論ライトの魔法で周囲を明るく照らすが、前を歩くパーティは松明を使っているな。ユラユラと炎が揺らめいて見える。

 照明一つで魔術師の便利さが分かるな。金の有るパーティならマジックアイテムとかを使うが普通は松明か精々がランタンだ。

 しかし今回はマップが有るので迷う心配は無いし、流石は冒険者ギルドで売っているだけあり細かい情報も助かる。

 

「流石に一階層には重要な施設は無いのか……危なかった、落し穴があって二階層に直行かよ。

後は階段と固定モンスターの出現する小部屋ね。固定モンスターとは一階層のボスって事か?」

 

「昔私が来た時はウッドゴーレムでした」

 

 ウッドゴーレム?イルメラは先輩冒険者として過去にバンクに潜った事が有るのか。

 

「うん、ウッドゴーレムって書いて有るね。ドロップアイテムは木の盾、レアは木の腕輪か……

盾は分かるが腕輪の効果は木の盾と同じ防御力UPね。同じ性能だけどレアの方が軽いのか。

よしモンスターを倒しつつボスの小部屋に行こう」

 

 目標を決めて歩いていくと前方の床が光りだした!魔素が集まりモンスターを形成していく……

 

「イルメラ、モンスターが出るぞ!ゴーレムよ、僕等にモンスターを近付けずに倒せ」

 

 ポップしたのはゴブリンが二匹だが実体化した瞬間にゴーレムの斧で頭を潰されて直ぐに魔素へと戻る。

 ドロップアイテムは普通のポーションだ。

 

「ふむ、普通のポーションのドロップ率はギルドの統計では30%らしいな。

レアは通常3%だが僕のギフト(祝福)でどれくらいUPするのかは数をこなさないと分からないな」

 

 イルメラからポーションを受け取り空間創造の中に放り込む。

 ボスの小部屋に行く途中でゴブリンを三組で11匹倒したがドロップアイテムはポーション三個にレアのハイポーションも三個だった、これじゃドロップ率が分からない。

 

「リーンハルト様、此処がボスの出現する小部屋です」

 

 何の飾りもない簡素な木の扉が天然洞窟みたいな岩肌の壁に埋め込まれている。

 この魔法迷宮に入って扉っていうか人工物は初めて見たな。把手は鉄製で回して開けるタイプか。

 意を決して扉を開けて中に入ると10m四方の広さが有り中心の魔法陣が輝きだした。どうやら固定タイプのボスは魔法陣で召喚されるみたいだな。

 

「ウッドゴーレム、要は木の魔物だ。アックス装備のゴーレムは攻撃に専念、残りは僕等の防御だ!」

 

 魔素が集まりウッドゴーレムを形成するが……何て言うか造形がイマイチと言うか……其処には丸太に手足が生えたゴーレムが居た。

 但し胴体の丸太は直径が40㎝は有るから丈夫なのは間違いない。

 

「ゴーレムよ、殺れ!」

 

 確かに丈夫なウッドゴーレムだがアックス装備のゴーレム二体には分が悪かったみたいだ。

 手足を折られ胴体に亀裂を入れられた時点で魔素となり果ててしまった。

 

「呆気ないものだな……」

 

「いえ、リーンハルト様のゴーレムの汎用性が素晴らしいのです。アックス装備のゴーレムの前では、ウッドゴーレムなど木材でしかないのです」

 

 淋しそうに床に残されたドロップアイテムはレアアイテムの木の腕輪だった。


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