古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第89話

 ベリトリアさんの心の闇を知った、野盗共に何か深い恨みが有りそうだ。

 毎回野盗共の殲滅を提案してくるし前回も遠慮無しに広域殲滅魔法「ビッグバン」を連発して打ち込んでいたし……

 

 その闇に踏み込む程、僕等は親しくは無い。

 

 だがライラックさん達の安全とリラさんの気持ちを考えれば見えない所で処理した方が良い、誰しも夜襲に怯えて眠るのも血生臭い事も嫌だろう。

 だが攻める事は防御も疎かにする事と同じだ、守るべき相手から離れて行動するのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「予定通りに野営地に到着しましたね」

 

 ベリトリアさんと今夜の野営地の草原を見渡す、未だ日没迄に二時間位は有るだろう。テントの設営、夕食の準備、周辺の捜索とやるべき仕事は沢山有る。

 

「そうね、野営に適した平原ね、周囲を見渡せるから攻めようにも発見されて迎撃されるわね。でも夜は暗くて見通しが利かないから注意すれば近付けると思うわ……」

 

 なだらかな平原、障害物は殆ど無い、精々が岩か腰迄の高さの草むら位だ。

 だが今夜は午前中の雨の影響か曇り空で月の明かりは期待出来ない、篝火を焚いても自分達の位置を周りに知らせるだけだろう、侵入者は明かりを頼りに近付いてこれる。

 

「直径50mの範囲で円形の柵を作ります、高さは2m位で良いかな。その内側に見張り台を六ヶ所、見張りに弓を持たせれば良いでしょう。

柵の周囲に焚き火を点在させれば警戒網を広げられる」

 

 それにエレさんのギフト『鷹の目』が半径150m、ウィンディアの風の索敵魔法が半径80mの索敵範囲が有る、交替で休んでも大丈夫だ。

 だけど無警戒だと怪しまれるから普通の索敵行動をして敵を油断させよう。

 

「見張り台以外に柵の周囲を巡回させれば更に索敵効果は高いわね。でも……もっと効果的なのはエレちゃんの索敵能力に私とリーンハルト君の力を使えば良くない?」

 

 そう、彼女にはエレさんとウィンディアの索敵能力と範囲を教えて有る。だが暗闇とはいえ野盗の集団に150mも近付くのは危険だ。

 

「彼女は護衛の要です、襲撃前に迎撃準備をさせる為には欠かせない。

僕等の一番の目的はライラックさん達を守る事ですよね?攻めて来る連中を迎撃するなら最高の布陣ですよ」

 

 パーティメンバーを危険に曝す事は出来ない、どうしてもって必要を迫られてないのに無理をさせるのはリーダーとして失格だ。

 イルメラからも無理はしないでと泣かれてしまったし……

 

「あら?慎重派ね。でもリラさんの門出を血で汚すのは良くないでしょ?

一回騙してるし嘘を吐くなら徹底しないと駄目よ。それに明日の朝は周辺は地獄になっているわよ、主に私の魔法でね」

 

「ぐっ、それは確かにそうですが……」

 

 花嫁の旅路を血で汚さない為にと前回の襲撃を無かった事にしている、一回嘘を吐いたのに二回目以降はしないのかと言われるのは辛い。

 

「別に危険は無いわよ、Bランクの魔術師と今はDランクだけど私と同じ位に強いゴーレム使いのリーンハルト君、それに索敵役のエレちゃんが居るのよ。

発見次第、遠距離から魔法で殲滅出来るわ」

 

「ライラックさんを含めて打合せをしましょう。僕等は依頼の途中ですから決定権は依頼主に有ります」

 

 此処で話していても埒がない、ライラックさんに判断を委ねよう。僕個人としては賛成だ、リラさんの事を考えれば知られずに処理すべきだろう。

 だがイルメラ達に相談も了解も得ずに決める内容じゃない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ベリトリアさんの提案を相談する為に人払いをしたテントに集まって貰った、メンバーはライラックさんとベリトリアさん、それに『ブレイクフリー』のメンバーだ。

 

「野盗共は攻めてくるわよ。守りは十分だと思うけど犠牲も大きいわ。先手必勝、此方から捜し出して殲滅するべきだわ」

 

 最初からイケイケなベリトリアさんに皆は引き気味だ、特にイルメラは不満気味だな。珍しく顔を顰めている……

 

「わざわざ護衛を分けて依頼主を危険に曝す必要が有るのですか?攻めて来るかも分からない野盗を探して本隊の守りを薄くするのは反対です」

 

 うん、正論だ。理屈で彼女の意見を覆す事は無理だろう。ベリトリアさんはライラックさんに対して感情論に訴えるしかない。

 

 暫く沈黙が続く、誰も次の意見を言わない。

 

「リーンハルトさん、申し訳無い。親馬鹿と罵られても構わない、報酬を増やせと言われれば言い値で払います。

リラに、あの子の門出を血生臭い事が無い様にお願いします、この通りです」

 

 親の愛に訴えたか……依頼主に頭を下げさせてしまった、理由も分かるし気持ちは分かる。

 

「ライラックさん、頭を上げて下さい」

 

 ブレイクフリーの仲間を見渡す……イルメラは困った顔をして、ウィンディアは微笑んでいて、エレさんは何時もの無表情だ。

 

「仕事を請けるには幾つか条件が有ります。

野営地の柵は直径50m、中心にウィンディアを配置しても柵から50m位しか敵を感知出来ません。

無闇に野盗共を探して入れ違っては本隊が危ない、なので野盗探しは1㎞圏内迄です。それなら野営地が襲われても駆け付けられる、移動は馬ゴーレムを使うから時間的に十分も掛からない。

一番眠りの深い明け方に襲撃が有ると想定して三時から五時まで周辺を探索、それ迄は休ませて貰います。

本来、僕は明日が本番ですから疲労困憊でゴーレムポーンを維持出来ないでは本末転倒です。それと上級魔力石を追加で下さい、寝不足だと魔力が回復しないですから。

僕からの条件は以上です、イルメラ達も良いよね?」

 

 確かに明け方近くの襲撃は多い、だが闇に紛れてなら深夜の方かも知れない。

 だが両方を警戒して一晩中探し続けるのは嫌だし、僕等が居る時に襲撃を受けた方が安全率は高い。

 ベリトリアさんを納得させる為に、もっともらしい理由を言っただけだ。

 

「二時間で1㎞以内なら……」

 

「うーん、なんか騙されてる感じがするな。私だったら闇に紛れて深夜に襲うよ、奴等が明け方近くまで待つかな?」

 

「一晩中捜し回るのは嫌、ギフトの連続使用も無理」

 

「リラさんの為になら分かるけど無理せずに、リーンハルト君の提案なら賛成かな」

 

 女性陣全員から意見が出た、僕の条件なら賛成が三、不満が一か……

 どうするのかを視線を送る事でライラックさんに求める、一晩中捜し回るなら僕は翌日使い物にならないだろう。

 冒険者として一晩や二晩の徹夜は大丈夫なだけは鍛えている、集中力の低下や疲労蓄積は当然有るが……

 だが魔力枯渇が問題だ、上級魔力石で補給するにも無制限で回復し続ける訳じゃない、何処かで無理が出る。

 魔力の多さを隠しているのだから普通の魔術師としての限界を見せなければ駄目だ。

 

「そうですね……リーンハルトさんの提案でお願いします。

深夜に襲われても皆さん居るので安心ですし明け方近くの二時間程度なら、最悪お二方が居なくても持ち堪えれるでしょう。

当初依頼と内容が大幅に変わってしまいましたね、追加報酬は遠慮せずに言って下さい」

 

 ライラックさんの言葉にベリトリアさんは一瞬だけ顔を顰めた、つまり一晩中捜し回りたいのか。

 彼女の復讐心か執着心かは分からないが、それが周りを巻き込む事にならなければ良いけど……

 

「報酬については適正な金額を其方で決めて下さい。

僕は先に防御陣地を構築してからメンバーと一緒に早めに休みます。護衛の責任者の方と一緒に廻りたいのですが宜しいですか?」

 

 この場合の責任者とはベリトリアさんじゃないライラックさんの子飼いの連中を纏める人の事だ。

 いきなり野営地の周りを柵で囲えば驚くだろうし防御計画にも差し支えるだろう。一緒に廻って不備や要求を聞きながら柵を作るべきだ。

 

「ああ、ではルニーと廻って下さい、お願いします」

 

 ルニーさんは一番最初にライラック商会を訪れた時に居た女性だ。

 戦士としては中々の強さだと思うが、得物がショートソード二本を左右の腰に差して手には槍を持っていた。

 迫力の有る美女だが何時も値踏みする様な目で見る、ベリトリアさんと通じるモノが有る困った人だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何故か待ち合わせ場所にはルニーさんの他にコレットも居た、目が合うと苦笑いをされたが……

 

「ルニーさん、お待たせしました。コレットも一緒に廻るのかい?」

 

「うん、錬金で柵を作るって聞いたから参考にね」

 

「確かに守りやすいが逃げる事も出来なくないか?」

 

 ルニーさんの意見はもっともだ。囲いの中に籠もる場合、火矢とか射ち込まれたら防ぎ様が無い。

 しかも弓矢の射程は山なりに射っても30m位は有るから一方的に攻撃出来るから厄介だ、勿論積み荷にも被害が有るので火矢を使うかは分からない。

 

「桶に水は沢山用意して下さい、火矢でも射ち込まれたら防ぎ様が無いですね。先ずは円形に防護柵を錬金します……」

 

 素材は岩と土だ、地面に両手をついて周辺の岩や土に干渉し厚さ50㎝高さ2mの柵を錬金する。

 柵の外側の岩と土を素材に使うので幅1m深さ1m程度の外堀も作れる、堀の底からなら柵の高さは3mになるので飛び越えるのに梯子が必要になるだろう。

 

「コレを外周に全部作れるのか?凄いな……」

 

「えっと、明らかに普通じゃないですよ」

 

 後ろで何か言っているが構わずに見張り台を作る、これは床の高さが3mで籠の広さは2m四方、籠は矢が通らない様に青銅製にし梯子を取り付けた。

 

「柵や見張り台は二日位は保つけど徐々に風化して崩れます」

 

 一ヶ所だけひとが一人通れる位の扉を作る、水汲みや周辺の巡回は此処から出入りする。

 敵が攻めて来たら馬車でも置いて塞げば侵入されないだろう、これは転生前に良く作った防御陣地だ。勿論、全盛時だったから柵や堀はもっと高くて深かったが……

 

「一応完成ですが何か不具合や希望が有りましたら直します。問題が無ければ少し休みたいのですが?」

 

 二人共に黙ってコクコクと頷いてくれたので問題は無さそうだな、実際に僕が居る時に攻められたら見張り台からゴーレムポーンを遠隔操作すれば勝てるだろう。

 見える範囲なら錬成出来るから、敵の後ろに錬成していきなり攻撃とか良くバックアタックをしたな。

 その為に錬成速度を高める努力も訓練もした、自分の真後ろに三秒でゴーレムが錬成されたら大抵は反応すら出来ずに倒された。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ライラックさんの計らいで一人用の小さなテントを与えられた、食事を一緒に食べてからテントでお湯とタオルで身体を拭き清め少し仮眠する事にする。

 基本の巡回警備に僕等は含まれていない、但しイルメラ達はリラさんと一緒だからある意味専属警護だ。 簡易組立式のベッドに空間創造から毛布を取り出して包まる、ベッドと言っても長椅子を二つ並べただけだ。

 だが直接地面に寝ると微妙な凹凸が痛いし体温を持っていかれやすいし、何より毒虫とかが上って来やすいので台は有難い。

 

「しかし……街から街への護衛任務って大変だな。こんなにも襲撃が有るのか?いや今回は引き出物が山盛りだから襲われやすいのか?」

 

 野盗や追い剥ぎ共のレベルは総じて低いとはいえ、主要な街道に頻繁に現われるようでは商人や旅人も安心して移動出来ない。

 勿論定期的に騎士団や自衛団が巡回し各ギルドが定期的に討伐依頼も出している、捕まれば死刑なのに奴等は後を絶たない。

 戦時中は生活が困窮し野盗に墜ちる連中も確かに居るが、今の治世は安定し職が無い訳じゃない。

 野盗になるなら冒険者となり人を襲わずにモンスターを襲えば良いのだが、楽さと実入りの良さで敢えて最初から野盗になる連中も多いそうだ。

 

「ベリトリアさんの野盗共への恨みも多分その辺から来てるのだろうな。

近しい人が襲われたとか……いや、詮索はよそう」

 

今は身体を休める時だ、流石に防御陣地の構築は疲れた。

だが久し振りの大規模建造物の錬金は新しい身体に転生前の経験を思い出させるのに役に立った、魔力総量はまだだが技術練度については追い付いたと思う。

 


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