古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第88話

 ライラックさんからの指名依頼を請けて花嫁行列に同行して初日、既に情報が広まっていた為か野盗の群れに襲われた。

 ベリトリアさんの広域殲滅魔法「ビッグバン」の連射により被害無く退ける事が出来たが、花嫁行列を血で穢す事を恐れてリラさんに嘘をついた。

 

 だが世の中には知らない方が幸せなことも有ると思うんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋に招き入れゴーレムポーンを見せて興奮状態のコレットの為に空間創造から紅茶を取り出してテーブルの上に置く、客間とはいえベッドとテーブルと椅子しかない簡素な部屋だ。

 二人が各々錬成したゴーレムが部屋の真ん中に立っているので狭く感じる。

 

「落ち着いて座れよ、紅茶飲むだろ?」

 

 椅子は一つしかないので僕はベッドに腰掛ける、少し落ち着いたのかコレットも椅子に座り紅茶を飲み始めた。

 

「ん、落ち着いた。でも流石はライラックさんからの依頼を勝ち取ったゴーレムだね、凄いや」

 

 大抵の魔術師は知識欲が普通じゃないから同じ様な態度を取ってしまう、僕はその場で考え込んでしまうしリプリーは興奮状態になる。

 ウィンディアは未だ無いな?デオドラ男爵家の関係者は脳筋が多いから知的探求心は低いのか?

 

「僕のゴーレムの素材は悪いの?一応鉄だよ」

 

 ふむ、錬金の基本金属は銅・鉄・銀の順番に難しくなってくる。

 

「確かに銅より鉄は錬成が難しく強度も銅より鉄の方が高い、でもそれは純銅と純鉄の場合で基本金属に微量な他の金属を配合し作る合金で比較するとコレットの鉄と僕の青銅の差は殆ど無いよ」

 

 本来の鉄の強度に達してない不純物の多いゴーレムだ、だが鉄を錬成出来るのは筋が良い。

 

「でも鍛冶師達は銅より鉄の方が……」

 

「原材料の鉄鉱石は銅より安い、融点が高いから加工は難しいけど硬度は高いから鍛冶師は鉄を重視する。

後は単純に鉄を加工出来る熱源を確保出来たからだろうね、高熱の炉が有れば鉄を溶かし不純物を取り除ける。

鉄から含有する炭素を抜けば強度が増す、これが鋼鉄だ。銅をあかがね、鋼をくろがね、銀をしろがねって言うだろ、基本金属だよ鋼は。

鉄を鋼鉄に出来る様に頑張る事をお勧めするよ」

 

 僕も魔素だけで錬成する場合は鋼鉄製が限界だ、後は触媒が必要になってくる。

 オリハルコンやヒヒイロカネとか伝説級の金属を作るには相応の触媒が必要なんだけど、僕の空間創造の中にもストックは有るが取り出すにはレベルが未だ足りない。

 もう少しかな、手応えを感じるからレベル25辺りだと思う……

 

「僕からも質問だ、手首からマンゴーシュが付いてるのは何故?」

 

「ん……苦肉の策なんだけどね、僕は制御力がイマイチなので簡素化してみたの。

指の動きとか大変なんだよね、武器を握ったり持ち替えたり色々するでしょ?だから制御の難しい部分は無くしたんだ、マンゴーシュは趣味かな。

ダガーやショートソードよりしっくりくるんだ、ロングソードは長過ぎて動かし辛いから……」

 

 制御する部分の簡素化か……僕には無かった発想だ、僕は行動をパターン化して半自動制御にしたし制御力を鍛える事が強くなる事だと思った。

 敢えて制御部分を減らす、発想の違いだが何かに応用出来るかもしれないな。

 

「確かに肘でしか角度を調整出来ないね、好みの問題って?」

 

 趣味で装備を選ぶより状況によって替えていく方が効率的だと思うけど……

 

「一応冒険者だから武術も学んでいるんだ、マンゴーシュはその中でも一番しっくり来たから。君はスタンダードにロングソードだよね?」

 

「ああ、動かし方が分かるって事か!マンゴーシュは対人戦を想定してるんだっけ?接近戦で籠手のガードは有効だよね。

僕はロングソード、ランス、槍、両手持ちアックス、メイス等、状況によって替える事にしているよ」

 

「確かにバリエーションが有ると有利だよね。でもそんなに種類が多くて制御出来るの?普通は装備は固定だよ」

 

 装備が固定?それじゃ臨機応変な対応が出来ないじゃないか?

 

「そうなんだ……コレットはパーティを組んでないのかい?」

 

 これ以上他人との違いを勘ぐられるのも嫌なので、この話題は止めて他の話題を振ってみた。彼は一人で参加してるみたいだし、フリーなのだろうか?

 

「一応フリーかな、ゴーレム使いは魔法迷宮の上層階なら何とか一人で攻略出来る。四体制御出来るから、お金も経験値も独占さ。

依頼によっては、その場限りでパーティを組む時も有るよ。君達は魔術師二人に僧侶と盗賊って豪華過ぎると思うな」

 

「理由は一緒だよ。でも魔法迷宮を下層階まで攻略するには僧侶と盗賊は必要だからね」

 

 お互い一番消耗の激しい前衛の戦士職をゴーレムで代用出来るのは大きなメリットだ、ダメージ無視で身体を張って後衛を守れる。

 

「そろそろ戻るね。有り難う、有意義な時間だったよ」

 

「ん、そうだね。僕も色々参考になったよ」

 

 技術的には僕に及ばない迄も違った発想で魔術を極めようとする者との討論は楽しいものだ。今度はウィンディアも誘ってみるかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日は朝から曇り空だ、山の天気は変わりやすいと言われるが雨になるかもしれない。

 当然、行進自体に影響も出るが周辺の見通しも悪くなる。

 昨夜の内に後方の安全を確保する別動隊と合流出来たが続けて後方安全の確認をして貰い前方は我々が警戒しながら行う事にする。

 前後どちらが警戒し易いかと言えば、やはり前の方だから仕方ない。ローズ村総出で見送りをされて目的地に向かう。

 今夜はコーツ川を越えて先の平原で野営になる、距離的に宿泊出来る街や村が無かったので仕方ないが警戒は必要だろう。

 

 昨日と順番を入れ換えて先に護衛を十人、次に徒歩の同行者五十人、馬に乗る僕とゴーレムポーン二十四体、花嫁の馬車に贈物の馬車が二十台、関係者用の馬車十台に徒歩の同行者五十人、最後尾に護衛が十人だ。

 先頭の護衛達にはコレットが居るので安心だ、彼のゴーレムなら時間稼ぎは十分だろう。

 

 生憎の雨模様だが花嫁行列は予定通りに何の問題や妨害も無く進む、途中雨足が強くなるが適度に休憩を挟み午後には天気も回復した。

 

「漸く休憩か……天気も回復したし着替えたい」

 

 幾ら鎧兜を着込んでも雨風は防げない、そして金属は濡れると冷たくなる。

 つまり身体が冷えきってしまう訳だ、この状態で放置しては風邪をひいてしまう。

 乗っていた馬の鎧を魔素に還しお世話係の人に手入れを任せる。因みに馬の名前はチリ、牝馬だ。

 因みに軍馬は牝馬を好む者が多い、牡より忍耐強く乗り手に尽くす、ジンクスとして人馬一体で行動を共にするから異性の方が良いとか何とか……

 幸い僕の空間創造には着替えは複数有るし同行者達も身綺麗にしなくては駄目なので着替えは用意している、早めに乾いた服に着替えれば体調不良にはならないかな。

 直ぐに複数ヶ所で焚き火が用意されて各々が暖を取っていく、僕もテントに招かれ鎧兜を魔素に還し火鉢の前で両手をかざす……

 うん、暖かい。流石にテントの中で焚き火は無理なので火鉢で炭だ。

 濡れた衣服を脱ぎ乾いたタオルで身体を拭いてから着替える、濡れた服は纏めて空間創造に収納出来るから便利だな。

 靴まで履き替えて漸く人心地がついた、着替えを終えた頃を見計らい外からイルメラが声を掛けてきた……

 着替えを手伝う気満々だったので丁重にテントの外に出て頂いた、流石に全裸になるので恥ずかしい。

 実際に彼女には幼少の頃から面倒を見て貰っている記憶が有るので全部見られているのだが八歳迄だから大丈夫だ……と、思いたい。

 

「お待たせ、イルメラ」

 

「リーンハルト様、髪が刎ねてます。動かないで下さい」

 

 濡れた髪の毛をガシガシ拭いたからか……イルメラがポケットから櫛を取り出して整えてくれる。

 入れ替えで他の人がテントに着替えに入ったが、此処はライラック家の中でも上位の従業員の為に用意されたのか。

 イルメラに案内されてライラックさん達が休んでいる大きなテントに入る、広い室内に四ヶ所火鉢が設置され暖かい……

 

「リーンハルトさん、コッチで火に当たって下さい。一人だけ外で雨に当たり寒かったでしょう。直ぐに温かいお茶も用意させます」

 

 このテントに招かれた中で外に居たのは僕だけだからな、他は全員馬車に乗っていたし……

 

「有り難う御座います。僕は馬に乗ってましたしマントも羽織ってましたから大丈夫ですよ」

 

 所謂サーコートを模した物だが表面に獣脂を塗り込んでいるので撥水効果は有る、一応だが……

 直ぐに温かい紅茶が用意されたので砂糖を入れて飲む、ローズ村で購入したフレーバーティーだな。

 

「昼食込みで一時間半の休憩です、着替えて暖を取り食事をすれば皆さん回復するでしょう」

 

「そうですね、日が暮れる前には野営地に着きたいですね。柵と見張り台付きの陣地を築きたいですから」

 

 防御陣地を構築し安全に配慮しなければ駄目だろう、僕が野盗なら疲れの溜まった二日目の明け方辺りに襲撃するだろう。

 だから簡易的でも錬金で柵を作り囲う予定だ、壕も掘りたいが時間も無いし一泊でそこ迄は出来ない。後は見張り台位かな、先手必勝!近付かれる前に潰す。

 

「リーンハルトさん、柵や見張り台は嬉しいですが魔力は大丈夫ですか?本番で倒れられたら本末転倒ですよ」

 

 万全を期すにはやり過ぎる位が丁度良い、警戒し過ぎて来なければそれで良いのだから……

 

「僕が野盗なら明日の明け方に攻めます。案内人に聞いたのですが、この先は開けているので襲撃に適した場所は無いそうです。

我々を襲うには最後のチャンスです、無ければ儲け物位に思えば良いですよ」

 

 これだけの引出物を運んでいる訳だからな、襲われないと思うのは危険だ。

 数の不利は夜襲や待ち伏せとかでひっくり返せると思ってるだろう、実際は野盗の百人位ならどうにでもなる……接近される前に発見出来ればだが……

 

「じゃリーンハルト君、こっちから攻めようよ。奴等は警戒網を見れば攻めるか迷うと思うわ。

結局奇襲とか卑怯な手を使わないと勝てない連中じゃない、だから私達から攻めるのよ」

 

 今まで黙っていたベリトリアさんから物騒な提案が来たが、彼女は野盗に個人的な恨みが有りそうな気がする。

 向かい側に座る彼女の瞳からは憎悪の感情が読み取れたのだが、それを聞く程親しい訳じゃない……

 

「待ちより攻めですか?確かに効果的ですね、少数精鋭ならば相手からも気付かれずに何とかなるかな?」

 

「そうよ、私と貴方の二人なら見付かる事無く奴等に近付き殲滅させられる。

本体の護衛は冒険者達が十人、ライラックさんの私兵が五十人にイルメラちゃん達も居る。リーンハルト君が防御陣地を構築すれば先ず負けないわよ」

 

「駄目です!リーンハルト様を危険な目に遭わせる訳にはいきません、守りを固めれば敵は攻められませんから大丈夫です」

 

 ベリトリアさんの提案にイルメラが真っ向から反対した。当然だ、普通なら安全策で守りを固めるだろう。

 わざわざ危険を犯してまで野盗を探して攻め込まないだろう……

 

「イルメラ、少し落ち着くんだ。未だ野盗共が居るかも分からないんだから……

ベリトリアさんの提案には賛成です。でも野営地に着いて防御陣地を構築し、それでも危険と判断したら攻めましょうね」

 

 野盗共の襲撃が前提だから本当に来るかも分からない、だが攻め込まれ易い場所ならば此方から攻めて危険を取り除くのも良い。

 その方がリラさん達も安心するだろう、身近に戦いが有るのは普通の女性には辛いしストレスの元だ。

 出来れば知られずに脅威を取り払えれば……

 

「なんか私が諭されてない?野盗共なんて善良な旅人達の為に皆殺しにするべきよ!どうせ捕まれば問答無用で死刑なんだから」

 

 やはり、やはりだ……彼女は夜盗共に根深い恨みが有るな。あの復讐に燃える目で見られて、イルメラ達も黙り込んでしまった。

 それに何故か彼女は野盗共が僕等を攻めて来るのを確信してるんだよな、事前に情報を掴んでいたのかも知れない……


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