古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第866話

 アウレール王からの新しい指示は、バーリンゲン王国内にあるケルトウッドの森のエルフ達との交渉。交渉といっても人族の争いに対して不干渉をお願いする事、本来彼等は人族と距離を置いている。

 種族的に下に見ていると言っても良い位な関係性だな。人族の宮廷魔術師筆頭以上の能力を持つ連中が殆どなのだから、そう思っていても不思議じゃないし理解も出来る。

 言い方は悪いが大抵の連中は僕等を劣等種族とか思っている。当然だが人族も彼等との接触には十分な配慮をしている。卑屈とは言わないが、エルフ族を立てた交渉を心掛けている。

 

 幸いというか、エムデン王国にあるゼロリックスの森のエルフ族は比較的に人族と交流を持っている。ニーレンス公爵は『古の盟約』を結び、自身の領内に定期的にエルフを派遣して貰っている程だ。

 王都にもエルフ族が滞在し、マジックアイテムの販売もしている。これは外貨を稼ぐ意味が大きいのだろう。圧倒的に数が多い人族の生産力は馬鹿にできず、エルフ族でも欲しいものが多々あるから。

 主に嗜好品とかかな。基本的に森を棲みかとしているから、平地や海で採れる物は手に入らないから購入するしかない。なので最低限の礼儀を以って人族と交渉しているエルフ族は多い。

 

 問題は、バーリンゲン王国の連中は平時であってもエルフ族との関わり合いに難が有り嫌われている。それが洗脳されて更に常識や配慮とかが無くなれば、平気で顰蹙を買う行為をするだろう。

 能力も実力も低いのに、何故か上から目線で接してくる。当然の様に自分達の要求が通ると思っているし、通らなければ癇癪を起して騒ぎ出す。うん、考えれば考える程に変な連中だな。

 まさかとは思うが、エムデン王国と事を構える事に対して当然の如く助力を求めるだろう。それも上から目線から、最悪の態度で間違いなく要求する。相手が飲んで当然だと……

 

 うわぁ、確かにケルトウッドの森のエルフは激怒する。劣等種族と思っている相手に上から目線で協力しろと要求されるんだ。

 

「成る程、理解しました。ケルトウッドの森のエルフ族に対して愚か者達の行動は予想出来ます。そして気分を害したエルフ達が、人族の我等を分けて対応するか一括りで対応するか……最悪の事態を想定すべきですね」

 

 大きく溜息を吐く。あの愚か者の国の連中なら有り得るから怖い。エムデン王国憎しで人族全てとエルフ族との争いに発展させて共倒れを狙うなら、憎らしいが良い案では有る。

 確かに僕等も滅ぶ可能性が高い。だが奴等はそれでも自分達だけは生き残って勝つとか本気で信じている。何故そんな思考になるのか?もしかしなくても病気の類かな?

 エムデン王国なら子供だって分かる事を良い大人が本気で信じて行動して失敗して騒ぎ出して後始末や尻拭いを当然の様に他人に押し付けるんだ。確かに徹底的に叩く事は賛成、アウレール王も今回は本気で最後まで推し進めるだろう。

 

 でもエルフ族との交渉かぁ。簡単には行かないだろうな。そもそもケルトウッドの森のエルフ族は既に人間嫌いで普通に接触を拒んでいるらしく、自分達の森に人間が近付くと手荒く追い返すらしい。

 既に関係は最悪の状態、バーリンゲン王国の連中が来たら何も聞かずに問答無用で追い払って欲しい。そして奴等が亡ぶのを静観してて欲しい。だが希望的観測で行動するのは愚か者だ。

 最悪の事態を想定するしかない。だってあいつ等は最悪の行動を嬉々として行う連中だから。本当に今回で殲滅させておかないと未来にまで影響すると思う。

 

 もう一度、大きな溜息を吐いて気持ちを切り替える。さて、この王命を達成する為に必要な事は……

 

「ゼロリックスの森のエルフ族には個人的な伝手はありますが、ケルトウッドの森のエルフ族には伝手が有りません。ニーレンス公爵の助力をお願いしても宜しいでしょうか?」

 

 この言葉に既に腹を括っていただろう、ニーレンス公爵がこれ見よがしに大きな溜息を吐いて小さく頷いた。巻き込んですみませんが、僕がゼロリックスの森のエルフ族の王に会った事は秘密なのです。

 個人的に、レティシアやファティ殿。ディース殿と交流は有るけれど種族単位の交渉に個人の友好関係の伝手では弱い。長年交流の有る、ニーレンス公爵の助力は必要。

 いや何方かと言えば、ニーレンス公爵が交渉を担当し、僕が補佐として助力するのが筋じゃないかな?まぁ王命だし指名だし今更文句を言っても無駄なのは理解しているけどね。

 

「構わない。ニーレンスも頼むぞ」

 

「勿論です。本来ならば、ゼロリックスの森のエルフ族と盟約を交わしている自分が交渉に当たるべき事ですからな。最大限の助力を約束します」

 

 しっかりと自分の立場を主張し、それでも協力者としての立ち位置を明言しましたね。つまり責任者は自分で万が一にでも失敗すれば責任の殆どは僕って事ですか?流石は年長者、汚いですよ!

 他の参加者にも視線を向けるけれど、皆さん逸らしたり曖昧に笑うとかで絶対に関わり合いになりたくない雰囲気を纏ってますね。酷くないですか?とはいえ魔法特化長命種族との交渉だから最適なのは魔術師か。

 問題はエルフ族の森に必ず有る『聖樹』の力による移動手段は知らないよな。ミルフィナ殿がブルームス領に移動した方法は知らない筈だよな?国境を無断で越えた件は、エルフ族絡みだと思って深く詮索しなかった?

 

 他の参加者達は何も言わず様子見、何か口を挟めば協力を要請されると思ってたりして?バニシード公爵だけは嬉しそうにニヤニヤしている。無理難題を吹っ掛けられて苦労しろってか?

 

「問題は交渉するにしても伝手が無く、手段を確立しても現地に行かねば交渉も出来ません。バーリンゲン王国攻略の軍とは別行動をお許し下さい」

 

 そう言って頭を下げる。諸侯軍と共に動いては間に合わず、『聖樹』の力を借りれる保証も無い。現実的な手段は、ニーレンス公爵の力を頼りケルトウッドの森のエルフ族に僕が交渉に向かう事を認めて貰う。

 そしてクリスと妖狼族を率いた少数精鋭部隊でバーリンゲン王国領に侵入し、ケルトウッドの森を目指す。妖狼族や魔牛族にも伝手を頼むのも良いかもしれないな。

 ミルフィナ殿には貸しがあるし、ウルフェル殿はエルフ族に臣従に近い形で交渉していた筈だ。僕の暗殺の助力も、多分だが頼んで断られたと思う。今更蒸し返す事はしないが、交渉の窓口は残っているだろうし。

 

「少数の精鋭を率いて、ケルトウッドの森を目指します。時間との勝負になりますが、敵地での隠密移動は経験が有りますし妖狼族は地の利も有ります。問題無く潜入は出来るでしょう」

 

 ここで妖狼族を同行する件の許可も頂く。女神ルナの御神託を守る為にも彼等を率いてバーリンゲン王国に行く必要が有り、王命達成の手段として建前でも問題無い。問題は交渉する事自体が出来るかだ。

 ケルトウッドの森のエルフ族は人族が嫌いならば、僕とバーリンゲン王国の連中を分けて認識してくれるかが分からない。だが安易に、レティシアを頼れば、彼女は同行するとか言い出しかねない。

 それはそれで問題だ。レティシアは友好度が高いが、他のエルフ達は人族を見下している。そんな下等な存在に力を貸す彼女を同族がどう見るか?レティシアには、これ以上の迷惑を掛けたくない。

 

 最悪は『制約の指輪』の力だけ借りる事を事前に了承して貰うか?いや、あの指輪の効力って予想出来ないから駄目だな。アレを見て、ミルフィナ殿は暴走した訳だしケルトウッドの森のエルフ族が纏めて暴走とか嫌だ。

 

「リーンハルト様の危険度が増すわよ。私は反対、バーリンゲン王国のお馬鹿さん達は論外ですがエルフ族との直接交渉には危険が伴います。彼等は人族を見下していますし、最悪の場合は排除に動く可能性も……」

 

 あれ?ザスキア公爵が物凄い心配そうな顔をしているけど?僕の力を熟知している彼女にしても敵対的な感情を持つエルフ族との直接交渉は危険と判断し、王命に対しても反対と言ってくれた。

 アウレール王も真剣な顔で考え始めたし、ニーレンス公爵は何とも言えない微妙な表情だな。自分が交渉の伝手探しを一方的に任された事と、交渉の持ち掛け方で僕に危害を加えられた時の責任の所在の事とか?

 まぁ他国の森のエルフ族との交渉なんて、本来有り得ない事だからな。アウレール王も安易に王命を下した事に何かしら思う事が有るのかな?僕としては、それほど成功率が低いと思わないけどね。

 

「そうだな。未知の反応をする相手に交渉を持ち掛けるのに確かに助力が少ないな。交渉を持ち掛けるには相手に対して有益な条件を示す必要が有る。只、人族の争いには不干渉で頼むは無理だった」

 

「つまり手土産よ。エルフの欲しそうな物を用意して不干渉とは言え、相手に私達側に立った対応をして貰う対価を払う事が必要なの。一方的な要求は、愚か者さん達と変わらないわよ。

そして国家間の事に不干渉を頼むのですから、相応の手土産を差し出す必要が有るの。でも金銭的な物は駄目、精神が高尚な彼等に俗物的な贈り物は効果が薄いと思うのよ」

 

 この言葉に参加者達も頷いたりして同意した。確かに交渉のカードの他に手土産も必要、此方がお願いする立場だから余計にだろうね。でもエルフ族が欲しがる物?思いつかないな。

 転生前の時の交渉は、単に自軍の通過だけだったから特に何も贈らなかった。勿論だが何かを奪ったり強要もしていない。あの時は大国の王子であり、相手のエルフ族も小規模な集まりだったから大目に見て貰えたのだろう。

 レティシアが監視として同行したが、アレは本人が勝手に纏わりついていただけでエルフの長の考えじゃない。それが300年も経って力関係が天と地程も開いたとはね。

 

 エムデン王国は大陸一の強国には違いないが、エルフ族の一部族にも勝てないだろう。

 

「贈り物といっても、直ぐには思い浮かびませんね。ニーレンス公爵の屋敷に滞在している、ファティ殿にそれと無く聞いてみるのはどうでしょうか?」

 

「む?ファティ殿は任期を終えてゼロリックスの森に帰られたので、今はディース殿を屋敷に迎えている。リーンハルト殿とは面識が有るらしいな。わざわざ立候補して来てくれたらしいのだが?」

 

 え?ディース殿が?彼女はエルフの里の責任者的な立場じゃなかったっけ?人間の国に長居は出来ないとか言ってたけど大丈夫なの?あれ?でも精霊魔法を習いに行った時には、エルフの里に居たけど?

 それと僕と交流が有るって、ニーレンス公爵に教えたのか。ん?まてよ。そうすると僕とエルフ族との交流について、何処まで教えたのか確認しないと不味くないか?『制約の指輪』に『聖樹の指輪』の事も教えたのかな?

 『聖樹の指輪』は今回のエルフ族との交渉について大きな助けになる。なんたって、エルフの王のお墨付きで『他のエルフ族にも見せれば敵意無しの証明と有る程度の助力が得られる』のだから。

 

 この指輪を使えば、エムデン王国の王都に有るエルフの森から、ゼロリックスの森を経由してケルトウッドの森に移動出来る。聖樹の移動を使う事を許された者ならば、例え嫌っている人族でも無下にはしないだろう。

 だがメリット以上のデメリットも有るから気軽に使えないし使いたくないし、そもそも妖狼族の活躍の場が全くない。それは困る、女神ルナがご機嫌斜めになるだろうし……女神の御機嫌とか考えれば凄い事だな。

 他宗教の神とは言え実在する。その者と巫女であるユエ殿を介しても交渉出来るとか有り得ない事、その女神の不興を買う様な事はしたくない。だが考えすぎても仕方ない。直ぐに何か言わないと駄目だし。

 

「ええ、前にエルフの里にマジックアイテムの売買で伺った時に若いエルフ族の方と揉めまして……その執り成しをしてくれたのが、ディース殿です。その縁でマジックアイテム作成について、少し相談させて頂きました。

彼女も僕が錬金するゴーレム、ゴーレムクィーンに興味を持って貰えたみたいでして。人族に教えられる程度の助言を貰っています」

 

「ほう?リーンハルトの異常過ぎる魔法技術の秘密の一端か。だが縁としては最良だが、無暗に使うのも勿体ない気がするな。お前の魔法技術の向上は、そのままエムデン王国の国力の増強になるのだから」

 

「なんで阿呆な国の尻拭いに貴重な伝手を使わなければ駄目なんだ?まったく最後の最後まで面倒事を起こす国は今回で真っ新の更地にしても良い位だぞ」

 

 この言葉に一番食付いたのが、サリアリス様だった。魔術の深淵を知る為に手っ取り早いのが魔法特化種族であるエルフ族に教えを乞う事だけど、排他的で人族に好意的でないエルフ族との伝手を得るのは難しい。

 本当は精霊魔法を教わっていますとか言ったら大騒ぎだろうな。だが僕が精霊魔法を教わっている事には厳重な口止めをお願いしたから大丈夫と思いたい。結構うっかりさんなんだよ、エルフの女性陣ってさ。

 アウレール王は僕の伝手は魔法技術の向上の為にしか使いたくないみたいだ。確かに武器や防具の錬金は兵士の戦闘力の向上には最適、なんたって支給して装備させるだけで効果があるのだから。

 

 さて、どうしよう。正直に伝手を使いますと進言するか、ニーレンス公爵の伝手を願うか?先ずは様子見で良いのかな?

 

 




投稿日、一日間違えました。申し訳ないです。次回は11/18(木)八時投稿に戻ります。

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