古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第87話

 コレットの心の闇を知った、綺麗な顔なので女性と間違えられる事が悩みらしい。

 確かにパッと見は美少女だし教えて貰ってなければ間違うだろう。

 だが顔に傷を付けたり髪を剃ったりしてまで良いという程の深い悩みだったとは……この話には触れない方が良いだろうな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「それで、何か用が有ったんじゃないのか?わざわざ僕に会いに来るなんてさ」

 

 宿に着いたらゴーレムポーンは魔力節約の為に魔素に還しても良いと言われてる。

 一応消すと子供達に声を掛けてから魔素に還すが、これも見て楽しそうにはしゃいでいた。

 馬の鎧も魔素に還し首の部分を撫でてご機嫌を伺う、一日中乗って大分馬の事が分かってきた。

 馬ゴーレムの改良と制御に役立つ経験が出来て嬉しい、この指名依頼を請けて良かった……

 

「用事っていうかさ、同じ土属性の魔術師として気になるゴーレムだったからさ。色々と聞きたかったんだ」

 

「ああ、コレットも土属性の魔術師だったな。ゴーレムを扱うのか?」

 

 自分が着ていた鎧兜も魔素に還す、重さと暑さから解放されてホッとする。少し汗をかいたな、後で体を拭こう。

 

「自前の鎧兜まで錬成してたのかい?いや、馬に着せていた鎧もそうだったけど凄いね」

 

 基本的にゴーレム使いは人の使う武器や防具を作らない、核となる魔石や素材を揃えれば恒久的に使える物は作れるがコストが掛かり過ぎるから敢えてソッチの方面を研究するのは稀だ。

 技能が上がり余裕が出来てから取り掛かる分野だから……

 

「ゴーレムは全身鎧と構造は同じだからね、魔力が続く限りは維持出来るし白銀のゴーレムと同じデザインを求められたからさ。

この依頼を請けたのは三日前だったんだ、鍛冶屋で造らせたら間に合わなかったんだよ」

 

「三日前?僕は三ヶ月も前から打診が有ったよ、ライラックさんはゴーレム使いを集めてたから……

もっとも僕のゴーレムでは採用にならなかったんだ。結構名の知れた土属性魔術師達に声を掛けていたよ」

 

 三ヶ月も前からか……ライラックさんはゴーレムに拘りが有ったんだな、ライバルを見返す為に。

 

「集められて断られた連中って円満に解約されたのかな?」

 

 一番気にしていた事を当事者に聞いてみる、有名なゴーレム使いとなるとバルバドス氏絡みが居たかもしれないし……

 

「直前に横から君に依頼を攫われたから?

大丈夫、僕だって僅かだけど違約金を貰ったよ。それに君は噂のラコック村の英雄だからね、皆さん納得したと思う」

 

 僕の言いたい事を理解して答えてくれているのは嬉しい、コレットの気遣いを感じる。

 

「英雄は止めてくれ、恥ずかしいんだよ。ゴーレムについて話し合うのは賛成だが今は忙しいし人目も有る、夕食後でも時間を作ろうよ」

 

 他の連中が忙しく働く中で立ち話も目立つし悪いと思うし……コレットだって護衛として巡回や見張りをするんじゃないのかな?

 

「ん、そうだね。時間が出来たら僕から訪ねるよ、君には用が有る人が後ろで待ってるよ。……僕はベリトリアさんは苦手なんだ」

 

 最後の台詞だけ小声で顔を近付けて教えてくれた。ベリトリアさん、他の冒険者から敬遠されてますよ……

 

「あら、早速可愛い子に粉をかけてたの?イルメラちゃんに告げ口するわよ」

 

 振り返る前に声を掛けられたが酷い誤解だ。

 

「冗談は止めて下さいね、コレットは男ですよ。何か有りましたか?」

 

 振り返ると既に魔術師の服装に着替たベリトリアさんが立っていた。魔力隠蔽のアイテムは外している、凄い威圧感だ……

 魔力総量は転生した僕と同じ位だが纏う魔力の均一さと込めた力は負けている、これが彼女の本気か。

 

「もう魔力隠蔽はしないんですか?」

 

「ん?そうね、侍女姿は戯れよ。正体がバレた後もしてたら恥ずかしいでしょ?

ライラックさんが私達を夕食に招待してくれたわ、村長宅に部屋も用意してくれたけど当然よね。

最強の護衛を遠ざける意味は無いし、私達は常に近くに置いておくわよ」

 

「そうですか、特別扱いは嬉しいですが責任も重たいですね」

 

 何と無く村長宅に向かい並んで歩く、横目で確認するが装備品にも秘めた力を感じる。

 特に手に持つ杖は多分『蛇骨の杖』だ、絡み合う二匹の蛇が先端に着けた小さな骸骨の目の部分から顔を出している。

 模造品も多い有名な杖で基本性能も高いが特殊な能力が有る、それは……

 

「何かしら?横目でチラチラ観察されるのは嫌なんだけど?」

 

「すみません、でも『蛇骨の杖』を見るのは初めてなので……」

 

 『蛇骨の杖』の特殊能力、それは物理攻撃をすると……杖で殴られると毒を受けるんだ、ランダムで複数の毒を……

 僕の作った水属性を付加したダガーも『蛇骨の杖』を模したんだ、接近戦が弱い魔術師に最適な敵が一撃で戦闘不能になる杖。

 『蛇骨の杖』は殴っただけで毒を与えるが僕のは刃の部分で傷付けないと駄目なんだ、性能差は大きい。

 転生前に一人だけ持ち主を知っていたが敵対してる奴だったんで調べる事は出来なかった、その『蛇骨の杖』が目の前に……

 

「ああ、コレね。師から受け継いだのよ、興味有るの?」

 

「それは……有ります。世界でも何本も無いオリジナルでしょうから凄く気になります」

 

 クルクルと『蛇骨の杖』を回すけど、うっかり自分や他の誰かに当たったら大惨事ですよ!

 

「はい」

 

「はい?って危ない!」

 

 気軽にポイッて投げて渡してきたけど受け取り損ねたら毒状態でしたよ!

 だが両手で抱えた杖からは強い力を感じる、恐る恐る杖を撫で回し鑑定を始める。

 

「これは……凄い……武器で毒付加となると扱いやすい物質、ヒ素・白リン・黄リン・水銀とかになるのにコレは……そうか、生物毒だ!」

 

 自然界の動植物には強い毒性を持つ奴等が居る、毒蜘蛛や毒蛇と毒を冠する連中から蜂や蠍達も獲物を捕まえる為の麻痺毒とかを持っている。

 だが錬成で生物毒はイメージを固めるのが難しい、それに強力だが生物から毒その物を採取しても死に至らしめるには効果が薄いので濃縮する必要が有る。

 基本的に生物毒とは獲物を捕まえ易くする為に麻痺させたり外敵から身を守る為の……

 

「リーンハルト君、私の杖を掴んだまま何をトリップしてるのかしら?」

 

「ああ、すみません。この杖に仕込まれた毒について考えてまして……

一般的な毒や麻痺は安価なポーションでも治せます、既に確立された毒性に対抗する手段は幾つも考えだされてますから。

だから水属性魔術師は毒性学を研究し市販のポーションでは治せない物を作る。

一般的には水銀やヒ素、白リンや黄リンですよね、錬金と相性が良いから……でもこの『蛇骨の杖』は自然界に有る毒素をアレンジして組み込んでいます。

毒蛇か毒蜘蛛でしょうか?急性の神経毒・筋肉毒・出血毒を含んでいて効果はランダムに数種類を……」

 

「ストップ!でも凄いわね、一寸見ただけで『蛇骨の杖』の秘密に辿り付くとはね、しかも毒については持ち主の私ですら知らない内容だったわよ。

リーンハルト君、もしかして水属性も持ってない?」

 

 しまった、この興味の有る事に対しての興奮癖は直さないと駄目だ、周りが見えなくなってしまう。

 僕が水属性持ちで毒特化は切り札として秘密にしているんだ、何とか誤魔化さないと……

 

「僕の実の母親は毒殺された疑いが有りまして、色々と調べたんです」

 

 下を向いて両肩を下げてボソボソと話す、如何にも気落ちした感じで……

 

「そう、ごめんなさいね。さぁ、ライラックさんの所に行きましょう」

 

 申し訳なさそうなベリトリアさんに杖を返し並んでライラックさんの待つ村長宅へと向かった。

 

 因みにだが僕がスカラベ・サクレに仕込んだ毒はキノコ、『ドクササコ』の毒を抽出し高濃度にした物で自分の中では最強だと思っている。

 この毒が体内に入ると目の異物感や強い吐き気を経て、手足の先、鼻、陰茎など、身体の末端部分が赤く火傷を起こしたように腫れ上がり、その部分に焼けた鉄を押し当てられるような激痛が生じ……死に至る。

 転生前では解毒薬は無かった、当然だが濃縮してるので野生の『ドクササコ』用の解毒薬では効果は無い……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ローズ村の村長はバタンさんという腰が90度近く曲がった老人だ、手に持つ杖は形の良い樫の枝を磨いた物で良く出来ている。

 頭髪は無いのに白い髭が胸元まで有る不思議な雰囲気を醸し出している、東洋に伝わる仙人みたいな人だ。

 既にライラックさんとリラさん、イルメラ達はお茶を飲んで寛いでいる。

 

「お待たせして申し訳有りません」

 

「リーンハルト君の周りには村の子供達が集まって大人気だったんですよ。白銀の鎧兜を着込んだ姿は王都の騎士様みたいですもんね」

 

 その紹介は恥ずかしいので止めて欲しい、イルメラが自分の隣の席を教えてくれたので迷わず座る。直ぐにお茶が出されたが、これは……

 

「フレーバーティーですね、薔薇かな?」

 

「はい、ローズ村の周辺の山々では薔薇の原種が茂ってますので特産品となっています」

 

 王都で見る薔薇は品種改良をして花を綺麗に大きくしているが原種は小さくて花は白いそうだ、その無色透明な花弁のエキスを茶葉に染み込ませたのか……

 癖は有るが美味しい紅茶だ。だけど値段は高いだろうな、嗜好品の紅茶に一手間加えているのだから。

 

「ほぅ、流石はライラックさんの側近ですな、皆さん作法も綺麗で素晴らしい」

 

「ええ、冒険者ギルドからの短期雇いの方々なのですが凄く有能で助かっています。

白炎のベリトリアさんと『ブレイクフリー』のリーンハルトさん達は王都でも有名な方々なんですよ……」

 

 ライラックさんが僕等の事を誉め捲るのを恥ずかしく思いながらも紅茶と一緒に出された焼き菓子を一つ摘む、これも薔薇の花弁を砂糖漬けにした物が乗っていて甘い。

 適当な所で話に加わり今夜の予定を確認する。

 

「そうですか、僕等は村長宅に泊まり直接警備には参加しないのですね」

 

 部屋割りの配置確認はした、村長宅は有力者達が泊まる為に客室が全部で五つ有り、ライラックさん、リラさんとイルメラ達、ベリトリアさん、僕と四部屋に分かれる事になった。

 僕は男だしベリトリアさんは凄腕冒険者で一緒だと気後れするのでリラさんも同室は辛いだろう、若いイルメラ達ならば気を遣わずに済む。

 

「ええ、昼間中ゴーレムを出し続けているリーンハルトさんは休養を取って貰わないと駄目ですよ。

リラにはベリトリアさんと『ブレイクフリー』のお嬢さん方が居てくれれば大丈夫です」

 

「お気遣い有り難う御座います」

 

 部屋割りも決まり予定も聞いた、夕食にも招待されたから食べて寝るだけだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ライラックさんとリラさん、村長達と夕食を共にした。

 素朴だが温かい田舎料理が振る舞われて満足だ、部屋に戻れば湯の入った桶とタオルが用意されていたのが体を拭いて清めた。

 部屋は横並びに五部屋、中央にライラックさん達を左右を僕とベリトリアさんで挟む様な部屋割りだ。

 村長宅と村の周りには見張りを立てて警戒している、野盗達は殆ど壊滅している筈だが他にも居るかもしれない、用心は必要だ。

 部屋着に着替えてベッドの上に座る、念の為に護衛として青銅製ゴーレムポーンを二体錬成する。

 暫く待つと漸くコレットが訪ねて来た……

 

「ごめん、遅れた。でも部屋を与えられるって凄い待遇だよね」

 

 そう言われると返す言葉が急には出ない、まさか良いだろう?とか言えないし……

 

「わぁ!もうゴーレムを召喚してたんだ、白銀のもそうだけどコレも凄いね……」

 

 何て答えるか迷っていたのだが護衛のゴーレムポーンに食い付いてくれて良かった、ペタペタとゴーレムポーンに触って確認しているが待機状態にしておいて良かった。

 本来は許可無く部屋に入ってくる奴を拘束するから……

 

「警備を掻い潜って村長宅まで賊が来るとは思えないが念の為の護衛用さ。コレットのゴーレムはどんな奴だ?」

 

「僕のはね……来たれ堅牢なる守護者よ、クリエイトゴーレム!」

 

 ほぅ、詠唱から錬成し完成迄に15秒か、素材は鉄だな、人型のゴーレムの手に指は無くマンゴーシュが手首から付いている、籠状のガードから両刃の短い刀身が突き出しているな。

 ゴーレムの表面をなぞり指で軽く叩く。

 

「悪くないが素材の鉄に含まれる炭素が取り切れてないな、故に強度が少し劣っている。0.5%以下にすれば鋼鉄になるよ」

 

「触っただけで品質が分かるの!それに鋼鉄って高位魔術師が辛うじて練成出来る金属じゃん!」

 

 鉄はね、炭素と色々な微量金属を加える事で色々な合金が生まれるんだ。

 勿論それは秘術として他の魔術師には教えられないが鋼鉄は比較的簡単だし方法も知られている。含有する炭素を減らすだけで良いのだから。

 

 コレットとの話は長くなりそうだな……

 


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