古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第86話

 ベリトリアさんの広域殲滅魔法『ビッグバン』の連射により隠れていた野盗達は倒された、序でに林も焼失したけど……

 彼女も強大な力を持つ故に周りから腫れ物扱いをされていたんだな。

 でも性格的に爆発大好きだから自重出来ずに魔法を連発するので更に畏怖の対象となってしまう悪循環。

 しかしAランクに最も近いって噂は本当だ、とんでもないお姉様だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「私の事は気にしない、恋人に抱き付かれてるのに他の女の事を考えちゃ駄目でしょ?」

 

 悪戯っぽく笑うけど……って恋人?

 

「ちっ、違いますよ!僕はイルメラの事は大切に思ってますが……恋人とか、違う……」

 

「全く、良い男の子には必ず既に恋人が居るのよね。何処かにフリーな良い男の子が居ないかしら?」

 

 思わず腕に抱き付くイルメラを見て目が合ってしまい、更に気恥ずかしくなる。

 しかも腕に押し付けられている柔らかいアレも意識してしまうから、余計に頬が熱くなって……

 

「イルメラさん、ズルい。私も居るのに!」

 

「ちょ、ウィンディアまで抱き付くな!言っただろ、むやみやたらと異性に抱き付くと誤解されるって……」

 

 反対の腕にウィンディアが抱き付く、この抱き付き癖は直させないと何時か大変な誤解を生むぞ。

 彼女の変な癖について考えていたら、僕等を遠巻きにしていた連中から笑いが零れる……

 そうか!ウィンディアの奴、ベリトリアさんを取り巻く雰囲気を変える為に抱き付いたのか?

 確かラコック村でもオークを倒した後に僕が村人から敬遠された時、彼女が空気を変えてくれたんだった……自分を貶めても周りに気を遣える子なんだな。

 

「ウィンディア、何時もありがとう」

 

 誤解を受けそうな行動だったが、君の隠された思いは確かに受け取ったぞ。

 

「へ?抱き付くのが?えっと、リーンハルト君は私に抱き付かれて……その、嬉しいの?」

 

 彼女が小声で何か言っていたが聞き取れなかったが、多分抱き付いた意味を知られて恥ずかしかったのだろう。我が『ブレイクフリー』は本当に良いメンバーに恵まれたな……

 

「エレさん、何で跪いてるの?」

 

 視界の隅でエレさんが両手を地面に付けて落ち込んでいるけど?

 

「私、空気だから……気にしないで……」

 

 空気だから?何故、エレさんは落ち込むの?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 他の冒険者達と現場の確認に向かう、多分だが凄惨な焼死体が多いだろう。

 もしかしたら生き残りや怪我人が居るかもしれないし、先発の護衛隊が捕まってるかも……

 ベリトリアさんとイルメラ達は細かい説明は未だしないでとお願いし、リラさんの馬車に乗って貰った、少しでも花嫁の気が紛れれば良いのだが……

 

 巨石群の方はゴーレムポーンに切り伏せられた死体が二十二人、生存者は居ない。

 先行した護衛達は残念ながら全滅したのだろう、彼等の装備と思われる品々だけが奥に纏められて積まれていた。

 

「死体を馬車の通り道から見えない所へ移動します、手伝って下さい。急いで痕跡を消して下さい」

 

 ゴーレムポーンで死体を巨石の裏側へ移動し地面に流れた血痕に目立たない様に土をかけて貰う。

 野盗達は全員がショートボゥで武装していた、待ち伏せして全員で弓を射れば先行した護衛達は抵抗すら出来なかっただろう。

 装備品を奪われ何処かに埋められたか隠されたかしたな。探すのは後だ、先に林の方を確認するか。だが振り向いて見渡しただけで分かる、生存者なんて居ない事が……

 

「林の方は大変だ、木々が殆ど薙ぎ倒されている。奴等を捜すのも一苦労だろうな……」

 

 被害は爆発による爆風が主だろう、木々の表面は焦げているが燃え尽きてはいない。

 連続したビッグバンの爆風が燃えていた炎も一緒に吹き飛ばしたのか、又は火力は低かったか……

 プスプスと燻ってはいるが森林火災にはなってないのが救いだ、もし森林火災になってたら周辺にも燃え広がり大変な事になっただろう。

 やはりベリトリアさんに今回の依頼中は自重する様にお願いするべきだろうか?

 

「これは王都の騎士団と冒険者ギルドに報告が必要かもしれませんね。流石に野盗共とはいえ五十人近くを野晒しには出来ないでしょう」

 

 ライラックさんの私兵団の隊長と思われる男性が話し掛けて来た、四十代位の鍛えられた肉体を持つ短髪の戦士。

 花嫁行列に同行してた為に鎧は着ていないでお揃いの布の制服だが、今はショートスピアを手に持っている。

 でも確かに彼の言った通りだろう、野盗達とはいえ人殺しには間違いない。

 だがライラック商会とBランク冒険者のベリトリアさんの力が有れば大事にはならない。そういう力の有る人達だから……

 

「そうですね、ライラックさんと相談しましょう。僕等では判断が出来ませんから……」

 

 そう言ってライラックさんの所まで戻って馬車の外に呼び出す。エレさんが『鷹の目』で発見してから一時間程しか経過していないので時間的には間に合うのが救いか……

 

「ライラックさん、野盗共は全滅です。ですが王都の騎士団と冒険者ギルドには話す必要が有るかと思います」

 

「全滅……そうですか、流石はベリトリアさんとリーンハルトさんですね」

 

 深々とため息をついた、花嫁の門出を血で汚してしまった事への悲しみだろうか?

 

「リラさんは、この事を知っているのですか?」

 

 弱々しく首を横に振る……

 

「いや、知らせてない。警戒の為に二人が確かめに行ったとしか……ベリトリアさんにも口止めはしてますから多分知らないでしょう」

 

 不幸中の幸いか、リラさんは野盗の最後の事を知らない。

 

「では内緒にしましょう、ベリトリアさんの魔法に驚いて逃げ出したと……目立つ死体は隠してますから林側の惨状だけ見せなければ誤魔化せます」

 

 あんな威力の魔法だけに音も凄かった。だから野盗共は驚いて逃げ出した事にすれば良い、野盗とは勝てないと思えば逃げ出す連中だ。

 

 わざわざ真実を知らせる必要は無いな……

 

「分かりました、それでお願いします……

おい、お前と他に十人残すから後始末と王都への連絡を頼む。リラへの説明はリーンハルトさんにお願いします」

 

 さて説明をするにも身なりを確認しなければならないな、僕のゴーレムポーンは爆風に巻き込まれてボロボロだ。

 先ずはゴーレムポーンを補修してから整列させる、何も戦いらしい事は無かったんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リラさん、一寸良いですか?」

 

「何でしょう、リーンハルトさん?」

 

 彼女の乗る馬車に声を掛けると窓を開けて顔を出してくれた、少し不安そうだ……

 

「出発します、この先に隠れていた野盗達はベリトリアさんの広域殲滅魔法に驚いて逃げ出しました。

隠れていないか周辺も探しましたが大丈夫です、一時間程の遅れは有りますが出発しましょう」

 

 彼女は少し考え込んでいる、嘘がバレたか?

 

「その、被害は……」

 

「死傷者は見付けられませんでした。僕のゴーレムポーンを先行させて様子を見た時は確かに襲ってきました。

ですがベリトリアさんが威嚇として打ち込んだ広域殲滅魔法に驚いたのでしょう、逃げ出して行きました。

ただ最初のゴーレムポーンとは戦いになったので何人かにはダメージを与えた筈です、地面に血痕が付着してましたし……野盗とはいえ仲間に手を貸して逃がしたのでしょう。

周辺に散らばったので追撃が嫌なので捜索しましたが見付けられませんでした、多分ですが勝てないと思って諦めたのでしょう。

野盗や追い剥ぎ等は弱者からしか奪えません、強い奴等からは逃げ出す連中ですから……」

 

 僕の説明を聞いて考え込んでしまったので、ベリトリアさんにアイコンタクトを送る。

 リラさんの後からニヤニヤ笑って見てないで説得して下さい。

 

「本当よ、リーンハルト君のゴーレムを巻き込まない様に手加減してビッグバンを近くの森に打ち込んだから。

後は逃げ出す奴等を追い立てる様に数発打ち込んだら逃げて行ったわ、野盗共は殲滅させたかったけど花嫁行列を血で汚す訳にはいかないでしょ?」

 

 ベリトリアさんが話を合わせてくれたけど、貴女は問答無用で魔法を打ち込みましたよね?

 

「そうだったんですか……」

 

 先行した二人に言われたので何と無くだが納得してくれたみたいだ。

 

「周辺の探索に時間が掛かり過ぎて申し訳ありませんでした」

 

 後に整列させたゴーレムポーンも僕の動きに合わせて頭を下げさせる、端から見れば不思議な光景だろうな。

 

「リーンハルトさん、頭をあげて下さい……

でも何故早く教えてくれなかったんですか?誰も傷付いてなければ、もっと早く教えてくれれば安心したんですよ」

 

 少しだけ笑いながら嗜める様に言うが不自然さを感じているのかも。確かに早く報告して安心させるべきだっただろう。

 

「野盗を見付けたら殲滅するつもりでしたから……

旅人にとって危険な野盗や追い剥ぎは騎士団からも生死不問と言われています。降参しなければ……だから逃げ出してくれて少しだけホッとしました」

 

 顔を顰めてしまった、僕の非情な言葉に嫌悪感を抱いたか?それならその方が良い、僕が嫌われれば鬱な現実を知られないで済む。

 

「では出発しましょう」

 

 隊列を整えて足早に惨劇の場所を通過した、林の方は見せない為に馬車から出ない様に注意して隣を歩いていたが大丈夫だった。

 わざわざ火災の跡を見る程の事は無いって事だな。それから三時間程進み宿泊予定のローズ村へと到着した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ローズ村には事前に連絡が行っていたのだろう、入口周辺に村長と村人が集まっていた。

 辺鄙な村では他人の花嫁行列とはいえお祭り騒ぎの娯楽に近い感覚なのだろう、実際に振舞い酒や料理も有るので間違いでは無い。

 村長自らがライラックさんとリラさんを出迎えて祝辞を述べている。主役達は村長宅へ、その他は持参のテントに寝泊まりする段取りだ。

 馬に乗り白銀のゴーレムポーンを率いる僕を村の子供達が遠巻きに見ている、そんなに警戒しなくても良いだろ?

 

「珍しいんだろうね、子供達からすれば王都の騎士団と変わらないんじゃない?」

 

「まぁね、わざと目立つのが仕事だから良いんだけとね。白銀の鎧兜を着てれば嫌でも注目を集めるし。だけど魔素に還し辛いんだ」

 

 コレットさんが話し掛けてきたがフードを被ってないから周りからは美少女だと思われてるぞ、村の男達がチラチラ見てるし……

 

「騎士様の恋人なんですか、お姉ちゃんは?」

 

 五歳位の女の子がニコニコしながら僕等を指差しているが誤解にも酷過ぎるだろう。

 コレットは思い切り困った顔をして僕を見るし、周りの大人達も興味津々で様子を伺ってるし……

 

「違うよ、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんなんだよ」

 

「恋人じゃなくて友達なんだよ僕等は」

 

 子供達は何を言われたか分からない顔をして僕等を見上げているが、本当に分からないのだろう。

 だが周りの大人達には理解出来たのだろう「何だよ、男かよ?」「期待した俺の純情を返せよな」とか言って離れていった。

 丁度、ベリトリアさんとイルメラ達が馬車から出て来たので皆さん其方に向かってしまった……

 

「この顔か、顔の所為なのか?ならば傷を付けるか、いっそ丸刈りにすれば男に見えるだろうか?」

 

 ブツブツと不穏な台詞を言い出したぞ、基本的に女顔だから傷を付けても丸刈りにしても無理だと思う。ただ傷付いた女性か丸刈りの女性としか思われない。

 

「いや、それだと変な女の子に見られるだけだから駄目だよ、女の子って評価は変わらないから。髭でも生えれば変わるかもしれないけどね」

 

 慰めの言葉が見付からないので変な女の子に見える様な事だけは止めさせる事にして軽く肩を叩いて労った、人はそれぞれ悩みと苦労が有るんだな……

 

「髭かぁ……僕は産毛も生えないんだ」

 

 顎の周りを撫でているが確かに産毛すら生えてない綺麗な肌だ。だが、それで髭が生えたら生えたで怖い事になると思うぞ。

 

 




ストックが尽きましたので3月からは毎週木曜日とさせて頂きます。

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