古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第85話

 コーカサス地方に向かう花嫁行列、しかし商隊が野盗に頻繁に襲われる場所の直前まで到着した時、エレさんのギフト『鷹の目』が障害物の陰に潜む何かを感知した。

 十中八九、野盗に間違い無いだろう……

 

「やはり野盗でしょうか?」

 

 ライラックさんの馬車の周りに主要メンバーが集まる。ライラックさん専属の護衛二人にベリトリアさん、僕等『ブレイクフリー』のメンバーだ。

 

「隠れている数は五十人以上、だけど感知範囲外にも居るかも」

 

 エレさんの説明にベリトリアさんがニヤリと笑う、野盗五十人以上でも勝てると思ってるな。

 

「先手必勝、コッチから打って出よう!全員消し炭にしてあげるわ」

 

 広域殲滅魔法の使い手、白炎のベリトリアさんだけあり遠距離から攻撃魔法を叩き込む作戦かな?

 

「射程距離は?奴等も弓矢位は用意してますよ」

 

「100m迄近付けば外さないわよ」

 

 100mか……弓矢の有効射程距離は精々30m、一方的に攻撃出来るな。だが障害物が多すぎる、右側の林は生木だし炎の塊を打ち込んでも効果は薄くないか?

 

「巨石群の方は問題ないけど林の方は炎の塊を打ち込んでも隠れている連中にはダメージが与え難くないですか?」

 

「あら、どうしてかしら?」

 

 ベリトリアさんが不機嫌に僕を睨んでいる、何故か挑発したみたいに感じられたのかな?

 

「広域殲滅魔法は強力ですが火属性は対象の上空に魔素を集め炎に変換し爆発させ、熱と爆風でダメージを与える筈です。

樹木は枝葉が広がるから爆風を遮り生木は燃えにくいので瞬間的な爆発の効果を薄める事が出来る。逆に巨石群は上からの防御は無いも同然ですから……」

 

 意外と樹木って衝撃とかにも強いから瞬間的な爆風なら揺れて耐えられる場合も有る。

 どちからと言えば火災や煙等の二次災害が怖い、森林火災と一緒だ。

 

「正解、でも連発して打ち込めば平気よ。詠唱中は無防備になるから壁が欲しいわね、君のゴーレムとか?」

 

 余裕綽々だけど連発だけが対応策じゃないな、何か他にも有りそうだ。

 火属性魔法は攻撃特化、下級だとファイアボールみたいに小さな火球をぶつけて爆発させ熱と衝撃でダメージを与える。

 だが中級以上になると火炎を一定時間放出する呪文も有る、瞬間的でなく連続してダメージを与えられるから怖い。

 僕のゴーレムの素材は銅と鉄、融点は銅が1200℃で鉄は1500℃程度。

 瞬間的なら耐えられるが継続的にダメージを与えられたら溶けるな……

 

「何よ、黙り込んで……そんなに私を守るのは嫌なの?」

 

 この年上の魔術師が本気で拗ねてるよ、結構単純なのかな?

 

「ああ、考え込んでしまって、すみません。状況的には野盗だと思いますが、一応確認してから攻撃しないと駄目かなって思いまして……」

 

 問答無用で広域殲滅魔法を打ち込むのは駄目じゃないかな?

 仮に野盗だとしても先行している護衛部隊が捕まっている可能性も有るし、万が一他の商隊とかが休憩してるかも知れない。後々問題になるのは嫌だな……

 

「真面目ね、君は。ならどうする?

普通なら偵察隊を編成して向かわせるけど、相手は待ち伏せしてるのよ。バレたら偵察隊を全滅させてコッチに突撃してくるわね、逃げるのは難しいと思う」

 

 普通は護衛連中に警戒させながら先行させて調べるだろう、この場合は冒険者連中だろうな。

 

「一旦逃げられる距離まで下がってから護衛部隊を編成して警戒しながら進めるとか?」

 

 ライラックさんが安全策を出してきたがどうかな?

 

「このまま下がれば追撃して来ませんか?後からの攻撃は結構キツいですよ。まぁ本隊は逃げて貰い僕等が残って迎撃すれば良いかな」

 

 正面からの戦いなら僕のゴーレムは本領を発揮出来る、集団戦こそ本来の戦い方だから。

 

「それも一理あるけど折角の花嫁行列に後退は無いわね、私は反対よ」

 

「しかし、リラを危険な目に遭わせる訳には……」

 

 僕も安全策で行きたい、だがBランク冒険者ともなれば自分の危険回避よりも依頼主の意向を優先させるのか?

 

「どちらにしても偵察隊として僕のゴーレムを先行させます、野盗か確認しなければ駄目でしょうし……その後はベリトリアさんにお任せします。

他の護衛部隊は此処でライラックさん達を守るのに専念して貰いましょう、僕はベリトリアさんを守りますから同行します」

 

 この場の上位者は依頼主のライラックさん、次がBランクのベリトリアさんだ。

 彼女は自分が野盗を殲滅する事を曲げないだろう、ならば同じ依頼主に雇われている下位者の僕がサポートに徹するのが役目だ。

 

「リーンハルトさんの契約には護衛は含まれてない、契約変更で護衛依頼の項目の追加と報酬の上乗せをさせて下さい」

 

 む、そう言えば白銀のゴーレムポーン達で花嫁行列を華やかにするのが仕事だった、でも有事の際には戦うのも含まれている。

 名の知れたBランク冒険者と一緒に戦えるのは得難い経験だ。

 

「君って良いね!二人だけで五十人以上の野盗団を倒すつもりなんだ。

私も自分の魔法に絶対の自信が有るけど、君も自分のゴーレムに絶対の自信が有るんだね。良いよ、二人で突撃しよう!」

 

「駄目です、危険過ぎます。私は反対です」

 

「そうだよ、幾ら強いからって二人で突撃は無謀だよ」

 

「もっと慎重にするべき」

 

 女性陣から一斉に反対意見が飛んで来ました、心配されるのは嬉しい。

 

「無謀じゃないよ。僕のゴーレムポーンは遠隔操作が可能だ、この位置からだって大丈夫だ。

ベリトリアさんの射程距離を考えれば80m手前位に近付けば良いだろう、一方的に魔法を打ち込める。

弓矢の有効射程距離なんて精々30m位だ、痺れを切らして隠れている連中が突撃してくれば儲け物。平地の集団戦で負けるつもりは無い」

 

 集団戦こそ本来の僕の戦闘スタイルだ、野盗なら百人でも大丈夫。

 奴等は戦闘職じゃないからガチの物理攻撃戦では本領を発揮出来ない、罠や待ち伏せが基本だ。

 僕の場合は落し穴とかの罠に掛かっても魔素に還し新しく錬成すれば大丈夫だから奴等との相性は悪くない。

 多分だが形勢が悪くなれば逃げ出すだろう、移動中に二度と襲ってこない様に数を減らす必要が有るな。

 

「それでも心配です。リーンハルト様は、もっと私達を頼ってくれても良いと思います」

 

 イルメラが何時になく自分の気持ちを伝えてくれる、胸元で両手を祈る様にして僕を見詰める、目には涙まで……

 彼女の言葉が胸を突く、パーティを組んでいるのにリーダーが一人で勝手に決めて進むのは最悪だ。

 

「うん、ごめんなさい。勝手に話を進めて悪いと思ってるよ。

改めて言わせて貰うと僕等は長距離攻撃を仕掛けるから皆は此処でライラックさん達を守って欲しいんだ。僕は大丈夫、無理はしないよ。

敵とは距離を保つし逃げるなら馬ゴーレムに乗れば走るより早い。

野盗が百人居ようがコッチにだって冒険者二十人にライラックさんの私兵も居るから負けないだろ?だから大丈夫だよ」

 

 イルメラの肩に手を置いて目を見て話す、目線が同じ高さなのが悲しい。だが未だ成長期の筈だ、未来に希望は有る。

 

「なんだ、彼女持ちなのね……良い男の子には必ず居るわよね。君、未だ十四歳でしょ?」

 

「いえ、別に恋人って訳じゃ……」

 

「リーンハルト様は私の大切なご主人様です」

 

 この遣り取りの中で、その台詞は駄目だよ。ライラックさん達もニヤニヤし始めたし、ウィンディアは拗ねてエレさんも不機嫌だ。

 ベリトリアさんは……真面目な顔をしてるな。

 

「色恋沙汰は此処までにしましょう、時間が無いわ。リーンハルト君、始めるわよ」

 

「了解です、ではゴーレムポーンを先行させて調べますが巨石群の方で良いですか?林は視界が遮られて制御が甘くなりそうです」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ゴーレムポーン十六体に隊列を組ませて先行させる事にする、フェイスガードを下ろしてると一見ではゴーレムと分からない。

 人間が攻めて来たと思うだろう、連中がバレたと思いどう行動するか?一旦逃げて次のチャンスを伺うか、力押しで攻めてくるか……

 普通なら逃げて次のチャンスを待つだろう、無駄な戦いはしないのが野盗だが移動中ずっと警戒しなくては駄目なのは辛い。

 ベリトリアさんの言う通りに見付け次第に殲滅か大多数を倒して戦意を削ぐのが望ましい。

 

「ベリトリアさんが馬に乗って下さい、僕は徒歩で良いです」

 

「嫌よ、覚えてなさい。馬に乗ってると狙われやすいのよ、だから徒歩の方が良いわ。周りにゴーレム並べてよね」

 

 人間に見せ掛ける為に十六体を不揃いで先行させ、自分達は八体を周囲に配して進む。

 歩みは早い、既に先行は巨石群の前まで到着し巨石の後に周り込もうとした時、周りから十人位が飛び出して来た……

 

「やはり野盗でしたね、攻めて来たのは驚きだ。バレて逃げると思ってた」

 

 オークも一撃で倒す僕のゴーレムポーンに人間が挑んでも無駄だ、直ぐに切り伏せられる。

 

「追撃するよ、逃がすと面倒だわ!フレイザードフレイザード……大地に眠る炎の力よ……」

 

 ベリトリアさんが詠唱に入った、だが飛び出して来た巨石群側の野盗は全員倒してゴーレムポーンは裏側へ回っていった。

 半自動制御だから戦いを挑んだ連中には容赦無く切る様に命令している。

 

「……我等が敵を共に焼き尽くさん事を……ビッグバン!」

 

 え?ビッグバンって?

 

 林の上空10m位の高さに輝く炎の塊が現れて……弾けた!直径20m程の灼熱の炎が林を蹂躙する……

 

「もう一発行くわよ、ビッグバン!」

 

 先程よりも低い位置に新たに現れる火球が、弾けた。林の殆どの樹木を薙ぎ倒して……

 

「更に止めの一撃よ、ビッグバン!」

 

「嗚呼、林が……林が更地みたいに……」

 

 80m以上離れている僕の頬が熱風に晒されている、ベリトリアさんって容赦無いって言うか見境無いな。

 爆風で僕のゴーレムポーンにまで被害が出てるよ、流石に巨石はビクともしなかったみたいだけど……

 

「生存者の確認をしましょう、人手が欲しいので護衛として雇われた冒険者達にも声を掛けましょう」

 

「ああ、快感!やっぱり火属性魔術師は爆発こそ生き甲斐よ。生存者?そうね、彼等にも何かして貰わないと立場が無いかしらね」

 

 ベリトリアさんに愛想笑いを返すが爆発好きとは難儀な性格だな。火属性魔術師は大抵二手に分かれる、爆発力か熱量か……

 転生前に知っていた火属性魔術師は熱量に拘っていた、最高2000℃近い熱線を打てる奴だったな。

 僕のゴーレムナイトでさえ耐えられずに溶けたんだよ、自己再生も間に合わずに……

 

「一旦戻りましょう」

 

 どうみても生存者なんて居ないと思う大惨事だよな、念の為にゴーレムポーンに巨石群周辺を調べさせて生き残りの討伐を命じておく。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ライラックさんの所まで戻ると皆が呆然としていた、天災みたいな魔法を見せられれば仕方ないだろう。

 

「ただいま、イルメラ。大丈夫だったろ?」

 

「はい、でも無茶苦茶ですね……」

 

 彼女が珍しく僕の腕に軽く抱き付く、危ない事をしないでと頼んだのに全く危なくなくて困ったみたいな感じだ。

 

「でもベリトリアさんの魔法って凄いわね、戦争で使う様なレベルの威力と範囲ですね……」

 

「本当、怖い」

 

 ウィンディアとエレさんを見れば理解出来ないモノを恐れる表情をしている、アレは嫌な顔だ……転生前を思い出す。

 

「ベリトリアさんに、そんな顔を見せちゃ駄目だ。

確かに僕も驚いたけど、高位の魔法とは天変地異みたいな事も出来る。だけど制御してる人を訳もなく恐れる必要は……」

 

「リーンハルト君、良いのよ……私は化け物扱いは慣れてるし爆発好きな異常者なのも理解してるから。

でも……そんな事を言ってくれた人は初めてだった。ありがとう、嬉しかったわ」

 

 何時の間にか隣に立っていたベリトリアさんからお礼を言われた、悲しい笑み付きで。

 やはり強大な力を持つ故に周りからは腫れ物扱いをされていたのだろうか?


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