古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第84話

 招かれた昼食は旅の途中とは思えない程、豪華だった。 

 流石は王都に本店を構えるライラック商会だけの事は有る、専属コックも同行していた。

 食後には紅茶が出され、高級な茶葉の香りを楽しみながらの歓談となった。

 

「それで、リーンハルト様は来年成人されたらジゼル様と結婚なさるんですか?」

 

 凄い笑顔のリラさんが不思議な質問をしてきた。

 

「は?僕がですか?」

 

 爆弾発言が飛んで来て思考が一旦止まる、何故そんな突拍子も無い事を言いだすんだ?

 ああ、そうだった。デオドラ男爵が僕がジゼル嬢の婚約者だって紹介したんだった。

 イルメラさん達が無表情で僕を見詰めてますが、昨夜はバタバタしてたので皆が帰った後のパーティーでの出来事を説明してなかった。

 ベリトリアさんは真面目な顔で僕を見ている……彼女の性格ならニヤニヤ笑う位するかと思ったけど?

 

「貴族の婚約など口約束でしかないのです。

デオドラ男爵は公式の場でも僕がジゼル様の婚約者と言われますが、数居る中の一人扱い。本当に結婚するかは別問題です」

 

 本当はラコック村の件で目立ち過ぎた為に貴族連中からの結婚の申し込みが多々あり、それを断る為にジゼル嬢の婚約者にして貰っている。

 来年廃嫡される魔術師など結婚後は嫁の方が身分が高くなり、良い様に使われてしまう。

 

 そんな人生は嫌なんだ……

 

「デオドラ男爵の愛娘、ルーテシアとジゼルの二人には複数の婚約者など有り得ないわ。

ルーテシアはデオドラ男爵の後継者に、ジゼルは腹心にそれぞれ嫁がせる。

リーンハルト君はデオドラ男爵に相当気に入られているのは王都では有名な噂。

だから他の貴族連中は君に自分の娘達を押し付けられなくて面白くないそうよ」

 

 ベリトリアさんが正確に僕達の関係を言い当てた……流石にBランクともなればデオドラ男爵の娘達を呼び捨てか。

 

「そうです、僕は来年廃嫡され平民になります。

それ迄にCランクになってみせますが、実家のバーレイ男爵家に迷惑をかけない為にデオドラ男爵にパトロンになって貰いました。

その報酬の一つが仮の婚約者で、これにより父上は他の貴族連中から僕にと紹介される利権絡みの花嫁候補を断れる。

ジゼル様には申し訳無いのですが愛無き政略結婚は嫌だと申してます、だから僕等が結婚する事は無いのです」

 

 変に誤魔化すより正直に話す事にした、ライラックさんは信用出来そうだしベリトリアさんはBランク冒険者だ、下手な貴族連中より力を持っている。

 

「リーンハルト君……でもパーティーでは彼女と良い雰囲気だったじゃない?

ジゼル様はリーンハルト君の事が絶対に好きな筈よ、好きでもない男に、あんな笑顔は浮かべないわ」

 

 リラさん、パーティーの最中に僕達の事を良く見ていたからな。お互い笑顔で話していれば恋人同士に見えたのか……

 

「僕等の関係はジゼル様も承知しています。

確かにお互い笑顔で話していましたが内容はパーティー出席者の品定めでした、甘い会話は一つも有りませんでしたよ。

ジゼル様はデオドラ男爵の腹心、彼女の人物鑑定眼は素晴らしいですから大変参考になります」

 

 リラさんがカップを持ったままで固まった、年下の初々しいカップルとか思ってたのに実際は腹黒い関係で驚いたのかな?

 

「貴方、本当に十四歳?

確かにデオドラ男爵の一族に加わるのは最優じゃないけど良い考えね。

バーレイ男爵とも同じ派閥だしアルノルト子爵の手出しも潰せる、あの脳筋一族は強さが全てだから貴方位強ければ問題は無い。

繰り返すけど、貴方本当に十四歳?」

 

 ベリトリアさん、貴女こそ何者ですか?僕の事情を正確に見抜いていて、でも最優じゃなかったと言う。これがBランク冒険者か……

 

「質問に質問で返す非礼を許して下さい、最優の手段とは何だったんですか?」

 

 目を細めて僕を見るベリトリアさん、対価無しでは教えてくれないか……

 

「いえ、すみません。済んだ事ですから良いです。それと僕は本当に十四歳ですよ」

 

 今更聞いても無駄だ、僕は今の立場も納得している。もっと力を付けて不条理な世の中を見返してやる!

 

「うん、気軽に他人に頼らない事は良いわね。

私達冒険者は全てを自分で切り開く位の心意気が必要よ、確かに仲間は心強いわ。でも最終的に頼れるのは自分自身だからね、精進しなさい。

それと……もっと魔術を極めたかったら魔術師ギルドを頼るのも良いわよ。

完全にギブアンドテイクだけど、だからこそ見えてくる世界が有るわ。貴方のゴーレムは確かに素晴らしい、けどもっと先まで行ける筈よ」

 

 魔術師ギルド、話には聞いていたが彼女くらい高位の魔術師ならば所属している可能性は有るな。

 確かに魅力的な申し入れだが、わざわざ柵(しがらみ)を増やす必要も今は無いだろう……

 

「ベリトリアさん程の高位魔術師に言われると大変嬉しいです。

ですが僕のゴーレム構想はまだまだ全然形にしていません、でも人生の全て費やしても足りないプランが幾つも有りますので大丈夫です」

 

 未だキングもクィーンも作ってないし馬ゴーレムも改良の余地が有る、知識だけなら僕より上の連中が何人いるんだ?全然独学で大丈夫だ。

 

「あのゴーレム達が完成形じゃないと?」

 

「勿論です、まだまだ知識に技術が追い付かないだけで僕の求めるゴーレムはこんな物じゃないです」

 

 馬ゴーレムは今回の花嫁行列の間中馬に乗れるのでコツを掴めそうな気がする、何と言っても現物見本が一番わかりやすい。

 

「うん、君は面白いね。

あれだけの運用精度を極めていて発展途中って言い切れるのが不思議だわ、ゴーレムを極めたと言っても差し支えないレベルよ。謙虚なのか大物なのか分からない子ね」

 

 張り詰めた顔から緊張が抜けて優しい笑みを向けてくれる……

 ですが分からないのはベリトリアさんの方ですよ、魔力も完全に隠蔽してるから強さの判断が全く出来ない。

 

「何よ?恨めしそうな目で私を見て……」

 

「いえ、魔力隠蔽が完璧過ぎて何も分からないのが悔しいんです」

 

「まぁまぁ、どちらも凄い魔術師なんですから言い争わないで下さい。後十五分で出発準備をしますから少しでも休んで下さいね」

 

 しまった、依頼主を無視してベリトリアさんと話し込んでしまった。

 

「私達は言い争ってないわよ、同じ魔術師として色々と研究したいの。

リーンハルト君、この依頼が終わったら一度私の研究室に遊びに来ない?

私は火属性がメインだけど土属性も扱えるのよ、是非ともゴーレム関係をご教授願いたいわ。勿論、対価も払うから……」

 

 個人で研究室を持つとなると、しかも土属性のだと?

 学ぶ物は多いかも知れないが色々と問題が発生しそうな予感がする。だけど白炎のベリトリアと言えば魔術師としても最高峰の……悩む。

 

「ベリトリアさんは二つの属性持ちだったんですね、でも無闇に他人に教えるのは駄目だと思います。研究室の件は少し考えさせて下さい」

 

「あら?そこは慎重なのね……」

 

 これで会話はお終いとテーブルに伏せて寝始めたよ、なんてフリーダムな人なんだ!

 

「リーンハルト様も休息が必要です、早速準備を」

 

 イルメラさん?今は膝枕は駄目ですよ、いそいそと収納袋から敷布を出そうとしないで下さい。

 

「む、大丈夫だ。今はしなくて良いから敷布をしまいなさい」

 

 そんなに残念そうな顔をしないで下さい、罪悪感が半端無いです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 テントを畳む為に外に出された、ライラックさん達は馬車へ乗り込んでいく。

 僕は護衛だから鎧兜を再錬成して着込む、白銀の鎧兜は派手で恥ずかしい。

 僕の乗る馬もライラック商会の人が飼い葉と水を与えてくれていた、満足そうに水を飲んでいる。

 

「よしよし、良い子だな。重いけど鎧を着せるよ」

 

 銜(はみ)は装着したままだが鎧と鞍は外しておいた、僕が首を撫でていると世話役の人が鞍を取り付ける。

 鞍が装着されたのを確認してから鎧を錬成する、この馬は調教が行き届いているのか怯えないし嫌がらない。

 

「君が護衛部隊の隊長さんですか?」

 

 ん?隊長?そんな話は聞いてないし護衛の人達とも顔合わせすらしてない。僕は花嫁行列を賑やかにする為に雇われた筈だが?

 振り向けば茶色のフードを被った魔術師が立っていた、甲高い声から察するに女性か子供だと思うけど……

 護衛部隊の隊長ならベリトリアさんが適任だが裏護衛だから表立った行動は取らないだろう。

 イルメラもウィンディアも護衛部隊の枠組みには組み込まれていないフリーな立場だ、勿論有事の際には戦うけどね。

 

「護衛部隊の隊長?違うよ、僕は花嫁行列を賑やかにする為に雇われている。有事の際には戦うが護衛部隊には組み込まれていない。

君達がどういう契約で雇われているかは知らないけど命令系統は決まってないの?」

 

 フルフルと首を横に振ったがフードを被っているので分かり辛い。

 

「知らない、僕達は冒険者ギルドから指名依頼を請けたけど花嫁行列に同行して依頼主を守れとしか言われてない。

てっきり昼食にも招待されてたし馬に乗ってゴーレムも指揮してるから隊長かと思った」

 

 冒険者ギルドから指名依頼を請けれるだけの実績と信用が有る連中か……

 ならば任せていても大丈夫だろう、大口顧客のライラック商会に変な連中を寄越す事はしないだろうし。

 

「気になるならライラック商会の人に聞いた方が良いよ」

 

「そうだね、ありがとう。僕はコレット、土属性の魔術師だよ」

 

 フードを取って自己紹介をしてくれたが、綺麗な顔をした男の子?多分だが僕よりも年下だろう、十歳前後だろうか……

 この年で冒険者ギルドランクがDって相当出来る、改めて纏う魔力を確認すればリプリーよりも多い。

 

「僕はリーンハルト、宜しく……えっと、男の子だよね?」

 

 コレット君か……纏う魔力は均一で綺麗だ、量も多いのでかなりの使い手なんだろう。

 

「そうだよ、僕も君みたいな男性的な綺麗な顔なら良かったけど女顔なんだよね。でも良く僕が男って分かったね、ローブじゃ体型も確認出来ないよね?」

 

「喋る時に喉仏が有ったからね」

 

 軽く手を上げてから去って行ったがお互いパーティ名は名乗らなかったな、一人で活動しているんだろうか?

 同じ土属性の魔術師だからか親近感が湧いたし人当たりも悪くなかったな。

 

「リーンハルトさん、そろそろ出発しますから馬に乗って下さい」

 

 もう出発の時間か……最後に馬の首をワシワシと撫でてから鐙に足を掛けて鞍に乗る。馬上だと視線が3m近い高さになるから周りが良く見えるよね。

 列の流れに合わせて手綱を引いて歩き出させる、ゴーレムポーンも整列させて後を歩かせる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれから二時間程歩き続けた、景色も田園風景から草原、そして今は岩がゴロゴロしている荒野みたいな感じだ。

 地形には起伏が有り林が点在し幾つもの巨石が大地に転がっている、襲撃には絶好の場所だ。

 実際に冒険者ギルドには野盗襲撃の情報が多く寄せられている難所でも有る。

 更に歩いていくと右側を林に左側を巨石群に挟まれた場所の前に到着した、迂回路も有るが馬車が通るには荒れていて無理だ。

 

「怪しいな……エレさんの鷹の目では距離的に無理かな、目線から隠れられる障害物は150m以上は離れているから感知はギリギリか?」

 

 警戒しながら列に沿って歩く、商隊を襲うならここら辺りが一番多い。左右に視覚を遮る障害物、その先には高台も有るし襲うなら絶好の場所だ。

 警戒して一旦止まる、さてどうするのかな?

 先導の護衛隊二十人が見えないのが気になる、露払いの為に用意した連中が一番怪しい場所に居ないのは何故だ?

 

「リーンハルトさん、ライラック様が呼んでいます」

 

 馬を彼等の乗る馬車の脇に移動すると幌を持ち上げてライラックさんが顔を出した、その後にはイルメラ達も乗っている。

 

「エレさんが、この先150mギリギリに複数の人間が潜んでると感知したそうです。五十以上の反応が……」

 

 野盗の待ち伏せか?


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