古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第81話

 笑顔のウィンディアが床に布団を敷いて、その上で靴を脱いで座っている。

 自分の膝をポンと叩いて僕を見詰めている、そう言えば前回イルメラに膝枕して貰った時に順番が何とかって言ってたな……

 

「いや、あの……ウィンディアさん、毎回昼寝をする訳じゃないんだぞ」

 

「はい、リーンハルト君。どうぞ!」

 

 ぐっ、邪気の無い眩しい笑顔だ。チラリとイルメラを見るが頷かれた。ウィンディアに膝枕されても問題無いのか?

 だが、だがしかし……

 

「む、その……十五分ほど頼む……」

 

 誘惑に負けた、美少女の膝枕を断れる男が居るのだろうか?

 有り得ない事だがジゼル嬢なら即断出来る、だが悪い子じゃないと認めてしまった相手なら……

 

「遠慮しなくても良いんだよ。はい、どうぞ」

 

 ウィンディアの膝に負担が掛かり難い様に頭を乗せる、柔らかくて良い匂いだがイルメラとは違う。

 イルメラはミルクの様な甘い香りだが、ウィンディアは柑橘系の様な爽やかさが……

 

「リーンハルト君って睫毛細いよね、母親似なのかしら?」

 

「どちらかと言えば、イェニー様に似ていらっしゃいますね」

 

「意外、リーンハルト君が甘えん坊とは知らなかった。普段は何でも他人に頼らず一人でするタイプなのに……」

 

「そうなのよね、ラコック村の時もオークの群は淡々と一人で倒したのに私が抱き付いた方が動揺するのよ。

オークの群より私の方が対処に困るみたいな感じで……」

 

「ウィンディアさん、無闇にリーンハルト様に抱き付くのは止めて下さい」

 

「何故かしら?イルメラさんだってリーンハルト君に抱き付くじゃない。馬ゴーレムに一緒に乗った時なんて……」

 

「あの時はリーンハルト様の思考の邪魔をしない様にです!」

 

「嘘、目を閉じて幸せそうだった」

 

「エレさん、何を言ってるのですか!」

 

 頭の上でヤバい会話が飛び交っているので早々に眠りの闇に溶け込む事にする。しかし女の子って柔らかくて良い匂いだな。

 不思議と安心する事が出来るんだ、転生前の側室達では無理だったのに……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ん、時間かな?」

 

「おはよう。時間通りだよ、リーンハルト君」

 

 昼寝でおはようも変かと思う、だが体調も良くお腹の張りもなくなった。

 

「有り難う、ウィンディア。体調は良くなったよ」

 

 起き上がり首を左右に回す、コキコキと音がして凝りが解れる。

 ウィンディアは自分の収納袋に布団をしまっていた、あれ持参品だったのか……

 収納袋は便利だが1m角の正方形のスペースしか入らないから、大きな荷物は僕の空間創造に……

 いや下着類も自分で収納してるし布団もそれに準じるのか?

 因みにバルバドス塾三羽烏の名前は忘れたが、最初の奴から奪った収納袋はエレさんに貸してある。

 イルメラもウィンディアも自前の物を持ってるし、別行動の時に最低限の荷物は必要だ。

 ポーションとハイポーションは各十本ずつ各自が収納している。

 彼女達もダミーを兼ねて肩掛け鞄や背負い鞄も持っているが、中身はタオルや飲み水等の頻繁に取り出す物を入れている。

 僕も両手を自由にする為に背負い鞄だ。

 

「支度が出来たら通算八十一回目のボス狩りを始めようか。今日の目標は百回までだ」

 

 パーティメンバーを見回せば全員が臨戦態勢を整えている、扉の前に立つイルメラに目で合図を送ると外を確認しゆっくりと扉を閉めた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「トータル百回達成、成果も十分だ……」

 

 イルメラが拾った肝を渡してくれる、これでドロップアイテムは肝が十個に獣皮が十一個、それと十回毎にドロップするルビーが四個だが売れないので保管。

 肝は金貨五枚、獣皮は金貨一枚銀貨五枚で買い取ってくれるから今日の稼ぎは金貨六十六枚銀貨五枚になるな。

 パーティ人数が増えたので収入の50%がパーティ共有財産、20%がリーダーの僕の取り分で彼女達は10%ずつになっている。

 同居している三人は生活費込みで月末にイルメラが徴収するが、僕の収入からは更に彼女へ専属メイドの給料を払う。

 パーティ共有財産は依頼中の食費等の必要経費の他に武器や防具の購入・維持費用も含むが、僕が作るから素材の購入費位しか使わない。

 僧侶のイルメラが居るから治療費も掛からない、恵まれたパーティ編成だな。

 

「レベル上がった、これで17になった」

 

 エレさんだけレベルアップしたが元が低いから早いのだろう、他のメンバーは上がらない。

 彼女も見た目の変化は無いが短期間でレベルが10以上アップしたので基礎体力等の上昇が凄い、もう荷物が重くて品物を選別する事も無くなった。

 武器もダガーから僕特製のショートソードとショートボゥに持ち替えているので攻撃役としても期待出来る、ゴブリンやコボルドなら急所を狙い一撃で倒しているし……

 武器類も収納袋と同じく貸しているだけで魔法迷宮から出たら返して貰っている、流石に魔力付加した武器や防具は誰かに見られると不味いので持ち帰りは駄目だ。

 索敵スキル『鷹の目』の使い勝手も良く、パーティに加入してくれて本当に良かった……

 因みに盗賊ギルドと冒険者ギルドの裏取り決めでは、僕等が魔法迷宮で見付けたマジックアイテムは盗賊ギルドに渡してオークションに出す事らしい。

 当然僕等に内緒の取り決めは有るが知らない方が良いかもしれないな……

 

 慣れた魔法迷宮の道を出口に向かい歩いて行く、魔法の灯りを前後に浮かべているので薄暗い迷宮でも大丈夫だ。

 三階層から二階層への階段を上り二階層の通路を歩いてもモンスターと遭遇しない、遭遇率ってどれ位なんだろう?

 固定出現モンスターと違い通路にポップするのは完全にランダムだから探すのは大変だろうな。

 二階層で一回だけコボルド四匹に遭遇したが前衛ゴーレムポーンの一撃で倒す事が出来た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ん?向かいから誰か来るな……」

 

「他のパーティでしょうか?ランタンの灯りが見えますが……動いてないみたいですよ」

 

 薄暗い通路の先に揺らめく灯りが見えるのだが移動はしてないみたいだ、同じ場所で揺らめいている。

 

「休憩中でしょうか?迂回しますか?」

 

「いや、挨拶して擦れ違えば良いだろう、警戒はするが別に怪しい行動でもないし……」

 

 魔法迷宮内でのセーフティゾーンは限られる、ボスの様に小部屋の固定モンスターを倒すとかしないと上層階では無い。

 警戒しながら近付くと見慣れた連中だった……

 

「お疲れ様です、良く会いますね」

 

「ん、ああ、そうだな。君達は上がりかい?」

 

 通路の壁に寄りかかり休んでいたのはシルバーさん達『ザルツの銀狐』だった。

 どうやら夕食の途中なのだろう、各々が干し肉や乾パンを齧っている。

 

「ええ、今日はお終いです」

 

「そうか……魔法迷宮とはアレだな。収入は悪いが戦い易い、狭い通路は前衛と後衛との役割がハッキリしてるからな。

ドロップアイテムもハイポーション二個とポーション十六個集めたよ、もっともポーションは半分使ってしまったがな」

 

 ポーション十六個だとドロップ率30%として五十匹前後倒したのか?

 

「そうですか、無理はしないで下さいね。では我々はこれで失礼します」

 

「ああ、無理はしないさ。君達も頑張れよ」

 

 互いに挨拶を交わしながら別れた、気になっていたパーティだから順調な魔法迷宮バンクデビューに安心した……良かった。

 結局別れてから出口までモンスターには遭遇しなかったな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンクの責任者であるパウエルさんは何故かアイテムの買取窓口に座っている厳つい中年男性だ、多分だが彼が責任者だと知る人は少ないだろう。

 受付の女性にエレさんだけギルドカードを提示してレベルアップの書き替えをして貰った。

 

「ドロップアイテムの買取をお願いします」

 

「久し振りですね、『ブレイクフリー』の皆さん。活躍は聞いてますよ」

 

 差し出されたカウンターにレアドロップアイテムから並べていく、依頼品のビックボアの肝を十個にハイポーションを三個。

 

「おっ?頑張りましたね、依頼達成です」

 

「有り難う御座います。ビックボアの肝は取り敢えず四十個迄は頑張ってみます、後は経験値との調整で……」

 

 ビックボア狩りでもレベルアップが難しくなってきたしエレさんのレベルが20になったら四階層を攻略する。

 獣皮十一枚とポーション三個をトレイに乗せる、今日の成果の全てだ。

 

「盗賊のお嬢さんもパーティに加入したし、そろそろ四階層に下りますか?」 流石だな、パウエルさんはパーティの獲得したドロップアイテムで大体のレベルや行動を把握する事が出来るんだ。

 

「ええ、その通りです。ですが明日から一週間は指名依頼でコーカサス地方に行きますので、次にバンクを攻略するのは少し先になりますね」

 

 カウンターに詰まれた代金を受け取り空間創造に収納する。

 ライラックさんの依頼達成の後はバルバドス氏とデオドラ男爵からの指名依頼も有るから、バンクに来れるのは十日以上先になるだろう。

 

「コーカサス地方ですか……

山岳地帯で冷涼な気候ですから王都と違い朝晩の冷え込みがキツいですよ、防寒対策は忘れずに。

それと山岳地帯にしか生息しないモンスターも多いですから向こうで討伐依頼を請けるのも良いですよ」

 

「向こうで依頼ですか……依頼内容に帰りの乗合い馬車も含まれているので、自由な時間は無いかもです」

 

 片道三日、帰りは用意された馬車に乗るから時間的余裕は無いだろうな。

 仮に帰りの馬車を断ると自費で負担だし滞在費を考えても効率が悪い、お金に余裕は有るが無駄遣いは出来ない。

 

「それは残念、ビックボアの肝十個納品確認しました。指名依頼達成です、向こうで手続きをお願いします」

 

 パウエルさんに依頼書にサインを貰い受付の女性に渡す、全員のギルドカードにギルドポイントが加算された。

 割りの良い指名依頼で本当に助かります。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

乗合い馬車の停留場に向かう、少し早い時間だからか待合室には誰も居なかった。

長椅子に並んで座る、僕の隣にイルメラ、その隣がウィンディア、次がエレさんと並び順は決まっているそうだ……加入順か?

 

「明日のパーティですが、私達はライラックさんに挨拶をしたら直ぐに帰る予定です」

 

「何故だい?折角の招待だし楽しんだら?」

 

 ドレスも新調しアクセサリーも用意するのに、直ぐに帰るのか?

 

「ライラック商会主催のパーティですから商人関係の他に貴族の方々も招かれているでしょう。

私達は平民ですから変に気に入られたりしたら問題になります、実際にパーティで見初めて妾や側室にとは良く有るそうです」

 

「私はデオドラ男爵家の関係者だからある程度は平気だけどイルメラさんやエレちゃんは違うでしょ。

馬鹿でエロい貴族連中って結構多いから気を付けないと駄目なのよ。ほら、私達って全員美少女じゃない?」

 

 ウィンディアがおどけて説明してくれたけど、確かに一理有るな。素材も良いのに着飾れば……

 

「確かに考えられるな。

素材も良いのにドレスアップすれば……僕が張り付いていても所詮は男爵家の長男でしかなく来年は廃嫡予定だ、断る力は弱い」

 

 まさかこんな心配が有ったなんて……招待を受けたのに参加しない訳にはいかない、だがしかし……

 

「あの、リーンハルト君?真剣に考えられると何だか恥ずかしいんだけど……」

 

「私達はライラックさんとリラさんに挨拶をしたら帰りますから大丈夫です。

流石に来賓達も最初から変な事はしないでしょうし、私達もパーティには興味も有ります」

 

「面倒臭いから出たくない、直ぐに帰るけど気にしないで大丈夫」

 

 三者三様だが確かにパーティ開始早々に女性の品定めはしないか?

 エレさん以外はパーティを少しは楽しみにしてるみたいだし、直ぐに帰れば大丈夫か。

 僕等が主役のパーティじゃないし辻馬車を確保しておいて、ライラックさん達に挨拶したら直ぐに帰るか……

 


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