古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第80話

 女性陣の防御力アップの方向性が決まった。

 レジストはアクセサリーで、物理防御はキュイラスを着る事によって大幅に改善されるだろう。

 魔力付加された鎧はおおっぴらには着れないが修道服とローブの下に着込めば大丈夫だと思う。

 エレさんは僕と同じ革鎧を着て貰う、盗賊系は敏捷と隠密が持ち味だから重たく音が出る金属製の防具は相性が悪い。

 レベルが上がった事により魔力がアイテムに効率良く付加出来る様になったのでレジスト系の確率が三割に近くなったので十分実用に耐えれるな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ライラックさんの依頼は明後日から、だが明日の夕方にはパーティに呼ばれているので今日はフリーだ。

 魔法迷宮バンクに行きパウエルさんからの依頼のビックボアの肝を集める事にする。

 明日は昼間は休みで夕方からパーティー参加、翌日は花嫁行列に同行。

 僕はゴーレムポーンを率いて行列に参加するが、女性陣は花嫁の後ろの馬車に乗って護衛として移動する。

 僧侶に魔術師、索敵用のギフトを持つ彼女達は同行する護衛団の中でも上位に位置するので馬車に乗って移動する事になった。

 

 昨晩の内に女性陣にプレゼントする『回避のアミュレット』は完成した、自信作だ。

 キュイラスの方も大体の目測で作ってあるので、後は微調整と魔力付加を行えば良い。

 エレさんの革鎧は完成だ、コッチは固定金具のアジャストである程度のサイズ調整が出来るので問題無く作る事が出来た。

 決してエレさんが子供体型でメリハリが無いから楽だった訳じゃない、固定化を重ね掛けして衝撃緩和を付加したので斬撃と打撃を受けてもプレートメイル程度の防御力になってるから耐えられる。

 デザインも今風にしてあるから大丈夫だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンクには乗合い馬車で行くのが一般的であり経済的だ。

 イルメラとウィンディアとは一緒に暮らしているけどエレさんは実家暮らしなので停留場に行く前に迎えに行く。

 

「おはようございます。メノウさん、エレさん」

 

 毎回だが母娘が揃って玄関で出迎えてくれるのだが、メノウさんも大分軟化してくれた。

 当初は愛娘が冒険者になる事を反対していたが、エレさんからの説得と……あの噂。

 冒険者ギルドが意図的に流した「ラコック村の英雄」を聞いて駆け出し冒険者ながら強いと認めて『ブレイクフリー』への加入を認めてくれた。

 あの恥ずかしい噂の数少ないメリットだ……

 

「おはようございます、リーンハルトさん」

 

「おはよう、リーンハルト君」

 

 準備万端で迎えてくれるのだが、毎回メノウさんからは無言のプレッシャーを感じてしまうのは気のせいかな?

 四人で並んで停留場まで向かう、早朝から活気の有る街並みを歩く楽しみの一つは露天の冷やかしだ。

 僕には空間創造と言う保管に便利なギフトが有るので美味しそうな食べ物は見付けたら人数分買う事にしている。

 緊張を強いられる探索時の息抜きには美味しい食事は効果的だし折角だから温かい物は温かく、冷たい物は冷たく食べたい。

 最近だが食事の大切さを思う事が多くなったな……

 

「む、羊肉の串焼きか……スパイシーで旨そうだな」

 

 炭火で炙られている羊肉の焦げる匂いに引き寄せられる様に露店へ近付く。

 

「お兄さん、いらっしゃい。買っていってよ!」

 

 売り子は元気な子供だ……十歳位だろうか?

 十歳なら十分に一家の働き手として仕事をする、子供だからと教育に専念出来るのは貴族か裕福層だけだ。

 

「そうだな、二十本貰おうか」

 

「えっと、一本銅貨一枚だから二十本で銀貨二枚になります」

 

 読み書きは出来なくても計算は出来る、損得に関わるから商売人は徹底して算学は学ばせる。

 お釣りの誤魔化しとか悪い奴は何処にでも居るから……

 

「ん、美味しそうだね。ありがとう、はい代金だよ」

 

 空間創造から銀貨を二枚取出し少女の掌に乗せると、驚いた様に僕を見る。

 

「うわぁ、お兄さん奇術師なんですか?」

 

 串焼きを受け取り同じ様に空間創造に収納してから少女の頭を撫でる。

 

「モア教の神様から頂いた祝福だよ」

 

 熱々の串焼きは何時食べようか考えているとウィンディアがニコニコして僕を見詰めている、悪いが幼児愛好者じゃないぞ。

 

「リーンハルト君って子供好きなんだね、父親になったら溺愛しそうだわ。イルメラさん、気を付けないと駄目よ」

 

「リーンハルト様は孤児院でも子供達に人気なんですよ、私は孤児だったのでモア教の孤児院に定期的に行くのですが……」

 

 子供達に人気?いやゴーレムが珍しいだけだと思うぞ。

 イルメラは僕の事に関しては善意で受け止めているが、僕は子供達に若干の苦手意識を持っている。

 転生前は実子に恵まれなかったからかな……

 

「落ち着いたら差し入れを持って遊びに行こう。久し振りにニクラス司祭とも話したいし……」

 

「ニクラス司祭?もしかしてリーンハルト君の言ってる孤児院ってニクラス司祭のいらっしゃるモア教の教会の事?良くルーテシアも行くのよ、あの教会には」

 

「そ、そうなのか?会った事は無いが、何故貴族令嬢の彼女が孤児院に行くんだい?」

 

 不味い、動揺してしまった……僕等は彼女がニクラス司祭と談笑してるのを盗み見ているんだ。だからバンクでも無理をして助けた、イルメラの為に……

 

「孤児達が街で絡まれていたのを助けてからかな?

定期的に自分のお金を寄付してるみたいよ。必ず一人で行くから私も詳しくはしらないけどね」

 

 そりゃ貴族令嬢が孤児達と一緒に遊んでる姿は見せられないだろう……ここは黙っておくべきだな。

 

「さて、乗合い馬車の停留場が見えてきたよ。今朝も混んでるね……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今朝は知り合いは……居なかった、大抵は『静寂の鐘』か『野に咲く薔薇』のメンバーと一緒になる事が多いけど。

 いや、『静寂の鐘』は待っていてくれるんだよね。

 待合室には数組の冒険者が既に居て順番待ちをしているが、バンク行きは本数が有るから待つ時間は少ない。

 椅子に座り周りの連中を確認すると……

 

「あれ、シルバーさん?」

 

 『ザルツの銀狐』のメンバーが近くに座っていたが気付かなかった、下を向いて妙に塞ぎ込んでいたから。

 

「ああ、久し振りだな。聞いたよ、ラコック村の件は……

悪いが依頼を請けずに王都に帰って良かったと思ってるよ、何とか全員でEランクになれてな。今日は初めて魔法迷宮に挑戦するんだ」

 

 淡々と聞いてない事まで教えてくれたのだが、『口裂け』の件は触れない方が良いだろう。

 暫くすると乗合い馬車が到着し何人かが乗り込むと待合室には『ザルツの銀狐』と二組だけとなった、気まずい空気が流れる……

 

「何故、バンクの攻略をしようと思ったんです?」

 

 知り合いだけの空間で無言には耐えられず当たり障りの無い質問をしてみる。

 数日とはいえバンク攻略の先輩だし何かアドバイスが出来ると思う。

 

「あの件でな、王都の冒険者ギルドに顔を出し辛くなってな。

とはいえ拠点は王都だから地方に移動も無理、生活の為には稼がないと駄目だ。仕方なく、な……」

 

 振る話題を失敗した、彼等は手柄泥棒って感じになってるんだっけ?バンクは冒険者ギルドの出張所が有るから最低限の接触で攻略が出来る。

 

「そうですか……バンク一階層はゴブリンのみですが最大六匹ポップします。

ドロップアイテムはノーマルがポーション、レアがハイポーションです。

魔法迷宮でポップするモンスターは倒すと魔素に還りますから収入はアイテムの販売だけですね」

 

 気まずさを紛らわす為に知っている事を話してみたが……

 

「そうか……君達は何階層まで攻略してるんだ?」

 

「三階層です」

 

「ふふふ、流石だな……」

 

 気まずい、更に気まずくなった。

 他のメンバーは無言だ、チラリと横目で見れば無表情で下を向いている。向こうのパーティメンバーも気まずそうだ。

 

「いえ、お互い頑張りましょう」

 

 それっきりバンクに到着するまで無言だった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 『ザルツの銀狐』達と別れてそそくさと魔法迷宮バンクへ入る、三階層まで慣れた道順を歩いて行く。

 

「その……気まずかったな」

 

「冒険者ギルドの思惑の所為で迷惑を掛けたけど、命の恩人の手柄を自分の物にしようとしたから悪いのよ」

 

「そうですね『口裂け』はリーンハルト様が倒して換金の権利は譲ったのに、自分達が倒したと嘘を言ったのはいけないと思います」

 

「自業自得、運が悪かった……」

 

 女性陣がバッサリ切りました、確かに『口裂け』達の討伐証明部位や装備品は譲ったけどね。

 そのまま黙って換金すれば良いのに、途中で立ち寄ったラコック村のゴーンさん達に自慢したのが悪かったとは思うよ。

 勿論、僕等は権利を放棄したけど冒険者ギルドの思惑で表沙汰になってしまった。

 同情するのは失礼だと思うし何も言わないのが双方の為かな……

 

「気を取り直して行くぞ!前方に魔素が集まり始めた、モンスターがポップするよ」

 

 薄暗い通路の先で魔素が集まり渦巻いている、この階層ならゴブリンか……

 

「ゴーレムポーンよ、敵を倒せ!」

 

 召喚したゴーレムポーン四体を突撃させる、二体は防御に回し万全な体制で挑む。

 久し振りのバンクでの戦闘、やはりゴーレム制御の訓練は此方の方が効率的だな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バンク三階層のボス部屋に到着した、毎回思うが宝物庫と違いボス部屋は人気が無いな。誰も居ない……

 

「さて始めるか、通算六十一回目のボス狩りだ」

 

 ゴーレムポーンを魔素に還しゴーレムナイトを攻撃用の両手持ちアックス装備四体と防御用のラウンドシールド装備二体で錬成する。

 扉を開けて先にゴーレムナイトをボス部屋に入れる、中は広いから最初は後手に回る。ポップする場所に辿り着けないんだ。

 

「来るぞ。ゴーレムナイトよ、ビックボアの突撃を止めろ!」

 

 ポップして真っ直ぐ突っ込んでくるビックボアの進路に防御役のゴーレムナイトを配置し、攻撃役を左右に移動させる。

 生身のビックボアと鋼鉄のゴーレムナイトがぶつかり合い、鈍い打撃音が響き渡るが踏張って耐える。

 ビックボアの突撃はポーンでは弾き飛ばされたがナイト二体なら押さえ込める。

 

「ゴーレムナイトよ、殺れ!」

 

 攻撃役のナイトが左右から両手持ちアックスを振り下ろす。嫌な音がした後、ビックボアが魔素に還りドロップアイテムを……

 

「最初はドロップアイテムは何も無しか……気を取り直して次に行くよ。イルメラ、扉の外を確認してくれ」

 

 何となくだが外を確認するのはイルメラの役目みたいになっている、彼女が扉を開けて左右を確認する。

 

「誰も居ません、閉める前に準備を」

 

 ボス部屋は扉を閉めたらモンスターがポップする、つまり閉める前に攻撃の準備を整える。

 

「よし、閉めてくれ」

 

 彼女が扉を閉めたと同時に魔素が集まりモンスター、ビックボアの形を作り始める……

 

「六十二回目のビックボア狩りだ!今日は午前中で二十匹を目標にするよ」

 

 長いボス狩りが始まった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ふぅ、二十回達成、肝も五個集まった。パウエルさんからの依頼は達成出来たな」

 

 指命依頼の一つが達成出来た。だが、この依頼は継続するつもりだ。

 

「今日はローストビーフサンドイッチにアウフラウフよ、肉と野菜を積み重ねてホワイトソースをたっぷり振り掛けてオープンで焼いたの。デザートは焼き栗よ」

 

 ウィンディア、デオドラ男爵家風な料理の量は止めてくれ。十四歳は育ち盛りとはいえ、このボリュームはキツい……

 

 

「ふぅ、食べ過ぎたかな。お腹がキツい」

 

 食べ過ぎたみたいだ、少し休んでからボス狩りを再開するか……

 

「待ってました!はい、リーンハルト君、どうぞ」

 

「む?」

 

 床に布団を敷いて、その上で靴を脱いで座っているウィンディアが自分の膝をポンと叩いた。

 


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